十二妹絶望物語

第13話

 勝沼は部屋に戻ると、休ませていた兄の身体に再びとり憑いていった。

「……うん? 爺はまだか?」

 あの場所を離れたのは古手川の方が先だったが、壁も何も関係なくすり抜けて戻ってきた勝沼の方が部屋に着いたのは早かったようだ。

「ご主人様、ただいま戻りました」

 そのとき、すぅっと直人が勝沼の前にその姿を見せた。

 少女を狩りに行っていたのが、戻ってきたのだ。

「これが、約束のテープです」

 手に持っていたビデオテープを勝沼に差し出す。

 ラベルには『部室で美雪とエッチ』とあった。

「ああ。ひまがあったらそのうち見ることにしよう」

「では、失礼します」

 そう言うと、直人は現れたときと同様、すぅっと姿を消した。

「……さて、爺が戻る前に鈴凛をどんな風にやってやるか考えておくか……」

 直人が去って1人になった部屋で勝沼はそう呟くと、ベッドの端に腰を下ろした。

(今回も四葉のときと同じようにこっちが誰なのかわからないように犯してやりたいところだが、あのときの格好はやはり少しやりにくかったからな。もっと簡単にこっちが誰かをわからないようにするには……)

 答えは簡単なことだ。こっちが向こうに気づかれない格好をするのではなく、向こうをこっちが誰か気づくことができないようにしてやればいい。

ガチャッ

「おぼっちゃま、失礼します」

 そう考え、そのための具体的な方法もすぐに浮かんだそのとき、ドアが開いて古手川が鈴凛の身体を連れて入って来た。

「ああ、爺。ちょうどいいところに戻ってきた」

「は? 何か御用でございますか? おぼっちゃま」

 戻るなりの言葉に、鈴凛にとり憑いたままの古手川が戸惑ったように聞き返した。

「そうだ。その鈴凛の身体をここに置く前に、ちょっと救急箱を持って来てくれ」

「……は? どこかその身体に傷でもございましたか?」

 意外な言葉に、古手川は少し驚いたように言う。まさか亡霊の勝沼が怪我をするはずもなく、兄の身体も今日は1日ずっとこの部屋のベッドの上で死んだように眠っていたはずだ。救急箱が必要な状況など、古手川には思い浮かばなかった。

「いや。別にどこか怪我したとかそんな話じゃない。これから鈴凛を犯すのにちょっと道具に使うだけだ」

「ははぁ……なるほど。わかりました。すぐにお持ちします」

 古手川は全てを理解したわけではなかったが、一応うなずくと一旦部屋から退出した。


 数分後、

「おぼっちゃま、これでよろしいでしょうか?」

 そう言って、古手川はどこの家にでも大抵はある、家庭用の救急箱を手に戻ってきた。

「ああ、それでいい」

 勝沼がうなずきを返すと、古手川はその救急箱を机の上に置いた。

 それからベッドに上がると、そこに横たわった。

 鈴凛の身体をベッドに置いた古手川は、元の亡霊の姿に戻った。

「それでは、失礼します。ごゆっくりお楽しみくださいませ」

 一礼をすると、部屋に入ったときに閉めたドアをすり抜けて出て行った。

 部屋に残ったのは、勝沼と、まだ意識を失ったままの鈴凛のみ。

「さて。それじゃ、鈴凛が目を覚ましてしまう前に、さっさと用意を済ませるか」

 呟いて勝沼は古手川の持ってきた救急箱を開けた。

 中からまず取り出したのは、包帯だった。

 これを巻き出して目隠しにあてようとしかけたが、ふと気づく。

(っと。これだと、目は見えなくても声で兄だとわかってしまうかもしれんな)

 そう考えて、再び救急箱を覗き込んで、使えるものがないか探した。

(……まあ、これでいいか)

 救急箱の中を漁った結果、取り出したのは、ガーゼの束と医療用のテープだった。

 ガーゼを何枚か重ねると、それを左右の耳に被せるように当てて、外れないようテープで貼り付ける。そうした上で、改めて包帯で鈴凛の眼を覆うためにグルグルと包帯を巻いていった。

 二重、三重と巻いて完全に見えなくなるまで巻いてしまうと、勝沼は包帯をそこで一度切って止めた。

「よし。あとは……」

 十分な長さがまだ残るその包帯を、今度は鈴凛の両手首に巻き付けていく。

 目が覚めても目の上を覆う包帯を自分で外せないよう、後ろ手に手を縛ると、仕上げにぎゅっと包帯をきつく締め上げた。

「……っ、痛っ……!」

 その手首の痛みで、鈴凛が意識を取り戻す。

「な、何? 今の……」

 意識が戻ったばかりでまだ自分の状況がわかっていない鈴凛は、そう言って手首の様子を確かめようとして、すぐに自分の手が自由に動かせないことに気づいた。

「え、え? 何で? 手が、手が動かせない……それに、真っ暗だし! ど、どうなってるの!?」

 パニック状態に陥った鈴凛は、きょろきょろと包帯で目隠しされた顔を左右に動かし、後ろ手に縛られた手もなんとか自由にしようともがいた。

 だがそんな動きも、かえって手首をきつく締め上げ、自分自身を苦しくするばかりだった。

 勝沼はその無駄な足掻きが滑稽なものに思えて、ベッドを離れて机の椅子に腰掛けると、しばらくそれを眺めることにした。

 ベッドのスプリングを揺らして結構暴れていたが、目隠しも手首もしっかりと縛ってある。それらが外れてしまう心配はなかった。

 数分もすると、はぁはぁと息を荒くした鈴凛はベッドの上に突っ伏していた。

 動きを拘束したのは手首だけで、起き上がろうと思えば起き上がることもできるはずだったが、冷静さを失っていた上、柔らかいクッションでバランスがとりにくくなっていたのが原因で今の鈴凛にはそれができずにいた。

「はぁっ……はぁっ……」

 疲れてしまったのか、あきらめてしまったのか、横にした頬を半ばベッドに埋めるようにしたまま鈴凛は動きを止めた。

 息を整えるのと同時に、頭の方も少しだけ落ち着いてきた鈴凛は、自分に何が起きたのか、記憶と現在の状況から把握しようとした。

(えっと……たしか今日は河原で『メッセンジャーくんスーパー』の起動実験をしてて……)

 なんとか記憶を辿っていこうとする鈴凛。

(……それで……そうそう、ひととおり終わったからラボに戻ってまた調整しようと思ったら、『メッセンジャーくんスーパー』が暴走して、アタシはそれを追っかけて……そしたらアニキの家の近くの小さな路地に入って行って、そこで……)

「ああああっ!」

(塀の向こうからいきなり目の前にお化けみたいな気味悪いのが出てきて、びっくりして倒れちゃったんだ、アタシ!)

 だが、それがどうして目が覚めたらこんな状態になっているのだろう。

 やはりそこまではわからなかった。

「くっく……おまえは俺にここへ連れ込まれたんだよ」

 鈴凛の困惑を眺めているのもそれなりに面白かったが、やはりそろそろ本格的に楽しみたくなってきた勝沼は、そう教えてやった。

 その声を聞いて、鈴凛はばっと顔を上げる。

「ア、アニキ? そこにいるの?」

 一瞬、勝沼はぎくりとしたが、すぐ何でもないように言葉を返す。

「アニキ? それはいったい誰のことだ?」

「えっ!? ……アニキじゃ……ないの?」

 勝沼の言葉に、一気に声は不安なものになる。

 兄の声のようにも感じたが、眼が見えないだけじゃなく、耳の方も何か膜でもかかったかのようにはっきりとは聞こえない。

 違う、と言われればそうなのかと思ってしまう。

「だ、誰なの……っ!」

 そうなると、鈴凛は大きな不安に襲われた。

 ようやく今の危険な状態を認識したのだ。

 視界を奪われ、両手の自由もきかない状態で、近くにいるのはどこの誰とも知れない男。

 最悪の想像が鈴凛の頭に浮かんだ。不幸なことに、その想像はほとんど当たっていたが。

 眼と耳の周りが包帯で覆われているために、勝沼の方も鈴凛の表情は少し捉えにくくなってはいたが、それでも十分に脅えが見て取れる。

 勝沼は無言のまま、鈴凛の身体に手を伸ばした。

「キャァッ!」

 肩の辺りを両手で押さえようと手が触れた瞬間、鈴凛は悲鳴を上げて身体を震わせ、その手を振り払った。

 視界を奪われたため、何が起こっているのか、何をされるのかがまるでわからず、鈴凛は恐怖していた。

 少なくとも、勝沼が自分に好意的な行動をとらないだろうというのだけはわかっていたが。

「くっくっく……」

 その鈴凛の考えを証明するように、勝沼が鈴凛の脅えように笑いを漏らした。

 もう一度、今度は振り払われないよう手を鈴凛の身体に廻すようにして自分の方に引き寄せた。

「きっ…………んむっ!」

 再び悲鳴を上げようとした鈴凛の声を遮るように、勝沼はいきなり唇を重ねた。

「ん……ん――っ、ん――っ!」

 突然のことに一瞬鈴凛は何かわからなかったが、勝沼に唇を奪われたことに気づくと、慌てて引き剥がそうとした。

 しかし、勝沼は両手で鈴凛の身体を顔をしっかり固定して、それを許そうとしない。

 それどころか、重ねられた唇の間から舌を差し出し、鈴凛の唇を割ろうとする。

 鈴凛は口の中を固く閉じてそれに抵抗した。

 勝沼の舌はその閉じられた歯と歯茎を綺麗になぞるように舌を這わせたが、鈴凛が断固として開こうとしないことを悟って撤退した。

 唇が離れると、鈴凛は包帯の下で涙を流した。

「ヒ、ヒドイ……初めてだったのに……」

「それはそれは……心に決めた相手でもいたか? さっき言ってた“アニキ”とか?」

 “アニキ”の言葉に、鈴凛はびくりと反応する。

 予想通りとも言える反応に、勝沼は思わずほくそ笑む。

「兄妹なんてどうせ結ばれないんだ。唇といわず、全部俺が奪ってやるよ」

「イヤァッ!」

 勝沼の恐ろしい言葉に、鈴凛は逃げようとした。

 目も見えず、両手の自由もきかないまま起き上がろうとしたが、ベッドの柔らかさに足をとられてバランスを崩す。

「あっ」

 這いずるようにベッドの端まで来ていたために、鈴凛は頭から床の上に落ちようとしていた。

 落下感に鈴凛は恐怖したが、頭を打つ前に、勝沼の手によって支えられていた。

「危ない危ない。俺が嬲る前に怪我されたんじゃつまらないからな」

 落下を免れた安堵も一瞬で、勝沼の手に捕らえられたことを知った鈴凛は、助けを求めた。

「だ、誰かっ! 助けてっ! アニキ――ッ!」

 叫び続ける鈴凛を、勝沼は止めようともせず、好きなだけ呼ばせた。

 勝沼の手を逃れようともがく足だけは少し邪魔な様子は見せていたが、鈴凛の気がすむまで好きにさせているようだった。


 数分も過ぎた頃には声の出しすぎで、鈴凛はぜぇぜぇと荒い息を吐いていた。

 その息も少し落ち着いてきた頃、ようやく勝沼は口を開く。

「くっくっく……わかったか? どれだけ呼んでも、誰も助けてはくれないんだ。勿論、お前の“アニキ”もな」

(……なにしろ、ここに初めからいるんだからな)

 後半は口には出さず、代わりにそろそろ本格的にこの少女を嬲るために手を伸ばした。




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