私は21歳以上です。



      屋上   (1) 

                        作:テンちゃん  
     
  はじめに

 初めてお読みになる方は『シネマ』→『777』→『居
酒屋』の順でお読みください。
                         作者


 ガス。結局ニオイに我慢できずモドしただけ。
 クスリ。医者に怪しまれ処方してもらえなかった。
 首吊り。自分の体重で柱が折れた。
 入水。溺れてると勘違いされ助けられる。

 タバコ。最後の一本に火をつける。、、、、飛び降り。
結局コレが一番確実だろう。ミニカー。少なくともココか
らは下の車がそう見える。
 一歩、、、あと一歩だけ足を踏み出せばそれでイイ。全
てが終わる。しかし震える足がソレを拒む。

 東京の夜空。珍しく星が見える。湿った風が心地イイ。
生きている実感。以前勤めていた会社の屋上。アクセクと
働いていた頃はこんな場所があることも知らなかった。
 俺を見放した会社。いや、正確には<オンナ>達に見放さ
れた。見限られた、、、、、なにも思い残すことはない。
子供にもなにも残してやれない。
 ホホを風がなでていく、、、、涙。ふと出たアツイ涙。
生きているアカシ、、、、、、もういい、、、俺は死ぬ。

 「あれ?、、アレレ?、、、カチョウさんだぁ!、、、
こんなとこでナニしてんですぅ?、、もしかして、、」

 いきなり背後から後藤の声。その拍子で落ちそうになる
俺。危うく死にかける俺。見ると屋上のドアからゾロゾロ
と制服のOL、14〜15人。これだけの群れだとまさに
圧巻。
 その中から青木がツカツカとやってくる。腕を組みなが
らツカツカとやってくる。

 「ふぅ〜ん、、、ずいぶん反省したみたいですね、、、
オンナ怒らすとコワイってわかりました?、、課長、会社
辞めたぐらいじゃアタシらユルしませんよ、、、わかって
ます?、、、」

 「ウウッ、、わ、わかっている、、、お、俺がワルかっ
た、、、ウ、、ううゥッ!」

 今まで死を意識してたからか。腰から急にチカラが抜け
る。震える足。腰を抜かすとはこういうことだろう。
 車のクラクション。ホホにあたる風。隣のビルから洩れ
る明かり。そのすべてが俺をようやく現実に引き戻す。
 とめどなくこぼれる涙で思うように喋れない。

 「アンタ一人死んだからってナンナの?、、、甘ったれ
んじゃないワョ、、、、ったく、、、」

 誰の声かはわからない。元部下から叱られる元上司。こ
こにいる全員の目が俺を見ている。
 充分過ぎるほど解っている。イヤというほど理解した。
そして反省している。セクハラした暗い過去、過ちを全て
認める。だから、、、、、だから、、、

 「カチョウさん死んじゃったらさぁ、ワタシ達の楽しみ
なくなっちゃうじゃないですかぁ!、、、」

 くったくのない後藤の声につられるように他のOLのう
す笑い。いつのまにか輪の中心にいる俺。カゴメカゴメ状
態。なかば俺に同情する女。ここぞとばかりに叱責する女
。汚いものを見るような目で隣の女と耳うちする女。早く
脱いでよ!と目で合図してくる女。おんな。オンナ。

 <ほら、このまえ居酒屋でさぁ、、、>
 <フフ、、、腰抜かしてやんの!>
 <ホントに前、上司だったの、、、、、この人?>
 <情けないワネェ、、、>
 <アタシらとめなかったらトビオリてったってこと?>
 <後藤ちゃん?、、どうだった?この人のアソコ?、、>
 <ねぇねぇ、、、なんか可愛そうだよね、、、>

 ヒソヒソ話をするように周囲からつぶやき声。井戸端会
議の中心にヘナるような格好で座っている俺。
 それをさえぎるように青木の声。

 「で、、、、どうしたいワケです?、課長としては?」

 なにも返す言葉がみつからない俺。

 「ねぇねぇ、、カチョウ!課長ってどこでも脱ぐってウ
ワサですよ、、、ここで脱いでもらえますぅ?」

 「キャハハハッ!、、、いいねぇソレ!、、はやく脱い
でくださいよぉ!!」

 会議終了。放心状態の俺。あたまが真っ白になった俺。
知らぬうちに誰かがベルトをはずしている。脱がされるシ
ャツ。

 <ホラ、、どんどん脱がせちゃおうよ!、、ハハ>
 <なにぃ、、このクサいシャツ、、、、、>
  <こっから捨てちゃおうかぁ?、、、ズボンも、、、>
  <プゥハハッ!、、まずいってぇ!、、、>
 <パンツもとっちゃおうヨ!、、、そっち抑えてて!>

 抵抗しようとしたがこの人数。かなうはずがない。大都
会のビル郡の屋上ですっ裸の俺。隣のビルの窓。誰かがコ
チラを見ている。コチラから見えるということはアチラか
らも見えるということ。

 <ハハハ!、、さすがに寒そうネ!、、、>
  <な〜んだ、、聞いてたほど大きくナイじゃん!>
  <ちょっと、、なに隠してんのっ!、、手をあげてっ!>
 <パンツとかホントに落としちゃおうかぁ!、キャハハ>
 <ね?聞いた?、、素直に言うこと聞いたほうイイよ!>
 
 浴びせられる様々な意見。その光景を後方で見ていた青
木と後藤の痛烈な言葉。

 「課長、、、知ってるでしょうけど、ココって他のビル
より少し低いんですよね、、なんか丸見えってカンジで、
、、フフ、、素直にこの子達の言うこと聞いたほうがイイ
と思いますよ、、、私にも止められないみたいなんで」

 「そうですよぉ!、、ウチらは別にもう『あの事』は気
にしてないんですけどぉ!、、、この子たちがねぇ、、」

 二人の考えそうなこと。『過去のことを許してくれる』
ということで今までなんでも応じてきた。しかしソノ目は
まったく過去を許していない。
 映画館から始まりパチンコ屋。居酒屋に逃げ込めば犯さ
れたあげく無銭飲食。
 だから今日ここに来た。もう死んでやろうと腹を決めて
ここに来た。なのに、、、なのに、、、

 わかっていることが一つだけある。それはこのままでは
済ませないワヨ!というこの場の空気。
 強い風がビュウッと通り過ぎる。生きている実感。東京
の夜空。珍しく星が見えた、、、、、、、、

                   つづく


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