私は21歳以上です。



      シネマ 

                        作:テンちゃん  
     (1)

 もう何度来ただろう。いつもと同じ席に座る。パラパラ
といる客。若い学生のカップル。どう見ても不倫だろう男
女。老人。そして自分。
 
 職場から追放されて二年。新たな職は見つかるはずもな
く、こうして今日もここにいる。自然と向かう足。毎日の
習慣。
 妻とも別れた。子供も引き取られた。どうってことはな
い。よくある話だ。自分に言い聞かせる。
 
 映画はいい。考えなくていい。つらい事、悲しい事、将
来の事、、、、、、、この時だけは考えなくていい。だか
ら今日もここにいる。 
 平日の午後、パラパラといる客。空調の効いた映画館。
やがて照明が暗くなる。いつもと同じ席。ここが自分の居
場所。

 後ろから足音。二人の足音。なぜか俺の両隣に座る。こ
んなに席が空いているのに。なぜか俺の両隣に座る。
 見るとOLらしい美しい女が二人。どこかで見た制服。
見覚えのある制服。だが顔は初めて見る顔。少し気になる
美女二人。

 キュルキュルとしたフィルムの音。映画が始まる。題名
は覚えていない。気が紛れればなんでもいい。考えなくて
済めばなんでもいい。どうやらアクションものらしい。前
にも見た気がする。どうでもいい。
 今後の自分の生き方。考えると気が重くなる。

 上映中、ふと思いだした隣の制服。忘れたくても忘れな
い。それは以前、勤めていた会社だったから。

 「清水課長でしょ、、ゴメンナサイ、、、もと、だった
わね、、、フフ、、あれ、私達のこと忘れちゃった?」

 フラッシュバック。思いだす。完全に思いだす。大学出
の美女二人。自分に学はない。だからそのぶんイジメてや
った。お茶くみ、掃除、パシリにコピー。
 あの当時は許されたセクハラも。
 
 「や、やぁ、、こんな所で会うなんて、、、げ、元気に
やってるか?、、、後藤に青木、、、、だったよな?」

 精神的ダメージ。声が震える。さげすんだ後藤の目が俺
を見る。哀れな者を見る目つき。
 
 「課長は元気なさそうですね、、、あ、『元』課長かぁ
、、ヤだ、わたしったら、、、それに呼び捨てにしないで
もらえますぅ?、、もう部下でもないんだし」

 そう言ったときの後藤の目。顔に似合わぬ鋭い目。思わ
ず目をそらす。スクリーンに目をそらす。隣の青木が追い
うちかける。

 「まさか、私達にしたことお忘れじゃないでしょうね?
、、そういえば奥さんとも別れたんですってね、、、子供
もとられたとか、、??、、仕事ないのになんでスーツな
んです?、、、、フフ、、、なに映画見てるふりしてるん
ですか?」

 「い、いや、、、私はただ、、、、」

 敬語だけにさらにショック。今度は後藤。

 「課長居なくなったかと思えば今度はあのハゲ部長です
もん。、、ほッんと、ストレス溜まるんですよね〜、、、
あの『セクハラ』ってやつ!、、あ、大きい声出しちゃマ
ズイでした〜?」

 俺の太股に二人の手。???、ゆっくりとナデられる。

 「フフフ、、、わかりますよねぇ、これの意味、、私達
もされっばなしじゃアタマくるんで、、『お返し』です」

 「き、きみっ、、、やめたまえ!、、、」

 突然の出来事。だが後藤は言葉を浴びせる。
 
 「あ、シィ〜ですよ、、課長、、他のお客さんにも迷惑
かけるんで、、、それに抵抗したら大声だしますからね、
、、これ以上路頭に迷いたくないですよね〜?、、、、、
、、、ンフフフフ」

 腕に柔らかいもの。隣の青木が胸を押し付ける。俺を見
る挑発的な目。考えがまとまらないままスクリーンに目を
そらす。聞こえぬほどの小さな声。甘い声。

 「、、ンフフ、、『目』泳いでますよ、課長、、、私、
今日ノーブラなんです、、、わかります?、、クフフ、、
、、おっきくなってきましたね、課長の、、???、、、
、プククッ!顔まっかですよ、、、、」

 元会社の元部下二人。美女が二人。悪女が二人。そこま
でを整理する。なにも言葉が出てこない。
 映画は中盤いいところ。ヒーローらしい俳優が、ヘリに
飛びつき敵倒す。内容なんか解りはしない。どうしていい
かも分かりはしない。ただ、ひたすら耐えるのみ。

 後藤の小さな手。ジッパーを下ろす小さな手。ゆっくり
ゆっくり中に入る後藤の手。抵抗できぬこのツラさ。誰も
気づかぬ映画館。だが自分の居場所はここだけだ。
 
 「課長、ビンビンですね、、あ、声大きかったですか?
、、でも昔似てたようなことしてたんですよ、私達に、、
、、ほら、こんな大きくなって、、ズボンから出しちゃい
ますよ〜、、、大丈夫、こんな薄暗いんですから、、」

 「ちょ、、い、いや、私が悪かった、、だからもう勘弁
してくれ、、、君達には悪いことをしたと思ってる、、」

 出てきたのは謝罪の言葉。おかまいなしに後藤の手。ベ
ルトはずしに懸命だ。
 青木は桃色吐息。夏ものの制服からでる匂い。青木の素
晴らしく、成熟したこの匂い。乳首が起っているのがよく
わかる。腕をとおして感じてくる。青木の自慰行為。クチ
ュクチュと聞こえる映画館。 
 
 とろけそうな青木の目。ガクガク震える青木の体。細く
高い青木の声。声が聞こえないか心配だ。それより自分の
身も心配だ。
 後藤の手のひらに俺のサオ。手首を返ししごかれる。限
界付近の正念場。その時パッと離す後藤。男ひとりに女が
ふたり。それも弱みを握られて。誰も気づかぬ映画館。

              字余りでつづく

投稿の目次へ        その2へ続く

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