十二妹絶望物語

第16話

 翌日、勝沼は新しい獲物を求めて、朝早くから兄の姿で再び街に出ようとした。

「おぼっちゃま、少しよろしいでしょうか?」

 玄関のドアに手をかけようとしたところで、古手川が姿を見せた。

「爺、どうかしたか?」

「木戸がようやく回復いたしました」

 古手川の言葉に合わせ、すぅっとその横に木戸が現れた。

「おぼっちゃん、どうもご迷惑をおかけしました。今日からまたお手伝いさせていただきます」

「……ところで、千影はどういたしましょうか?」

 深く頭を下げる木戸の横から古手川が言葉を挟む。勝沼は少しだけ考えると、

「様子はどうだったんだ?」

 と、さっきまでずっと一緒にいた木戸に訊いた。

「はい。もちろんまだ生きてはいますが、触手でいろいろやっても最近はあまり反応しなくなって……」

「なら、そのまま放っておけ。おまえと直人がさんざん触手で嬲った後で今さら俺が犯すつもりはないからな。かといって、普通の鎖に繋いでもしものことがあっても面倒だ。おまえたちもまたあんな目には遭いたくないだろう?」

 木戸がうなずきを返したことで、千影の処遇が決まった。聞いた限りでは憔悴しきっているようだが、回復して万が一また暴れられるのも面白くない。あのまま監禁部屋のさらに奥の隠し部屋で、勝沼たちがこの街を去る時まで枷を兼ねた触手生物に犯され続けてもらう。

 そう決めると、勝沼は用の済んだ古手川たちを下がらせようとした。

「……それと、おぼっちゃま。お願いがあるのですが」

 木戸はすぐに姿を消したが、古手川はまだそこに残って口を開いた。勝沼は古手川が何を言おうとしているのか、だいたいの見当はついていたが、あえて尋ねる。

「何だ?」

「はい。直人に続き木戸も戻ったことで、余裕もできましたので、また狩りに行こうと思うのですが……」

 やはり、勝沼の予想通りの言葉が返ってきた。

「いいだろう。だが、ビデオに撮ってくるのを忘れるなよ」

「フォッフォッ……もちろんでございます。では、早速……」

 許可を受けると、古手川は喜々としながら姿を消した。

「さて……」

 1人になった勝沼も、自分の新しい獲物を見つけるため、街へと出て行った。


 まだ朝も早い時間。いくらなんでも早すぎたかと、外に出てすぐに後悔を始めたが、それはすぐに覆された。

「あれ、あにぃ? こんなところで何やってるの?」

 聞き覚えのある声が聞こえ、タッタッと後方から足音が近づいてくる。振り返ると、思った通り衛が駆け足でこちらに近づいて来ていた。

「ああ……今日はなんか早く目が覚めたからちょっと散歩してたんだ。朝の空気は気持ちいいからね」

 本当のことはもちろん言わず、勝沼は適当に用意した答えを返しただけだった。だが、

「あにぃ、それじゃ明日からボクと一緒にジョギングしない?」

 衛は勝沼の言葉に飛びついてきた。

「え? ジョギング?」

 これから衛をどうやって捕獲しようか考え始めていた勝沼は、思いがけない言葉に思わず訊き返してしまった。

「そう、ジョギングだよ。あにぃもさっき言ったでしょ? 朝の空気が気持ちいいって。その空気の中で身体を動かしたらもっといい気分になれるよ」

「うーん、ジョギングかぁ……」

(……まったく。こっちが何も考えなくても自分から誘ってくれるのだからな。だが、この誘いをどう生かせばいいか)

 しかし、どうジョギングから監禁部屋に持っていくかその策を考えている勝沼の姿があまり気が乗っていないように映ったのか、

「それじゃ、あにぃ。これから一緒に走ってみようよ。そしたらあにぃも気持ちよさがわかるよ、きっと」

 そう言って、勝沼がついてくるのが当然のように走り出してしまった。

「あ、おい……」

 呼び止めようとすると、20メートルほど先で振り返り、軽くその場で足踏みしながらこちらに手を振る。

「ほら、あにぃ。早く早くぅ!」

 仕方なく、勝沼も衛の方へ走り始めた。ここで別れてしまってはせっかくの機会が無駄になってしまう。勝沼が追いついてくると、衛は横に並ぶように一緒に走る。

 そうして、約30分後、

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 公園で勝沼は、膝を押さえて荒い息をついていた。横では衛も息を整えている。生身の身体で走るのは久しぶりのことで、勝沼は予想以上に疲れてしまった。

「すぅ―――」

 大きく息を吸ったり吐いたりして、衛の方が一足先に息が整ったようだ。

「どう? あにぃ? 気持ちいいでしょ?」

 微笑みながらそう問うてくる衛に、正反対のことを感じながらもうなずきを返した。

「ああ、いいよ。それじゃ、明日から一緒にジョギングしようか?」

「うん! 楽しみだなぁ。あにぃと一緒に走るの」

「ああ、僕も楽しみだよ」

 もっとも、勝沼の楽しみはスポーツの爽やかさとはまるで無縁の淫靡でどろどろとしたものだった。ジョギングの話は、あくまで衛を陥れるため。もうこれ以上付き合って走るつもりはない。

「あ、でも……」

 そのためにも、今気づいたかのようにそう言いかけて言葉を濁した。

「え? どうしたの、あにぃ?」

 案の定、衛は勝沼の言葉にかかって、訊き返してきた。

「いや、衛と一緒にジョギングするのはいいんだけど……朝ちゃんと起きれるかと思って。今日起きたのはたまたまだったから」

「大丈夫。ボクがあにぃのこと迎えに行ってあげるよ」

 こちらの計算通りのことを言う衛に、思わず勝沼の口に笑みが浮かぶ。それが衛に気づかれてしまった。

「どうしたの、あにぃ? 笑ったりして」

「あ、いやこれは……」

 慌てて勝沼は取り繕う。少し照れるような感じも演出して、

「……衛に起こしてもらったら、目覚めも心地いいなぁと思って……」

「あ、あにぃ……」

 そう言うと、衛も顔を少し赤くしてしまった。笑みに浮かんだ邪悪な意図までは悟られていなかったらしく、それで簡単に誤魔化されてしまう。

「……そ、それじゃ、明日何時頃にしようか?」

「あ、え〜っと、じゃあ、7時くらいにあにぃの家に行くよ。あんまり早すぎてもあにぃに悪いし」

 これで準備は完了した。あとは明朝7時になれば、衛の方から勝沼の待つ家にやって来る。そこをいつもの要領で気絶させて監禁部屋に入れてしまえばいい。

 それからさらに10分ほど歓談し、勝沼は衛と別れた。そのまま家の方へと戻る。久々に走ったので少し疲れた、というのが勝沼の思いだった。


 一応、家の周りで他の妹がいないか少し探した後、部屋に戻った勝沼は兄の身体もろとも眠りについた。そのまま寝過ごしてしまい、目を覚ましたときにはすでに日は没そうとしていた。

 この時間からでは別の妹を探しに行ってもあまり時間はない。それに、慌てなくてもどうせ明日の朝になれば衛が自分からやって来る。勝沼は身を起こすと、そのまま監禁部屋の方へと向かった。

「……どうだ、様子は?」

 監禁部屋の前の直人に尋ねる。

「はい。問題はありません。二人ともまだ元気はありますが、部屋の中でおとなしくしています」

 との答えを聞くと、勝沼は満足したようにうなずく。

 ポケットに入れておいた素顔を隠すための全頭を覆う覆面を被り、別に用意してあった皮製の枷を代わりにポケットに入れる。準備完了した勝沼は、監禁部屋の扉を開けた。

ギィィ……

 音を立てて扉が開くと、中にいた二人の妹がすぐにこちらを見る。下着姿のため少し肌寒いのか、それとも恐怖のためか、鎖に繋がれあまり自由に動かせない身体で寄り添いあって座っていた。

「……今度は何をしに来たデス!?」

 四葉がそう言ってこちらを睨みつけてくる。ここに監禁され今日でもう3日は経つというのに、元気なものだった。もっとも、多分に虚勢が混じっているのが容易に理解できたが。

「今日はそっちの予想通りだ」

 勝沼はそう答えると、二人の方へゆっくり近づいていく。

「チェ、チェキッ!?」

ジャラッ……

 鎖を鳴らせて後ずさろうとする。

「こ、来ないでっ! いやっ、いやっ!」

 鈴凛の口からも悲鳴に近い拒絶が漏れる。しかし、勝沼の足は止まらなかった。

ガギッ

 その前に、首に付けられた鎖が一杯に伸びて、四葉たちはそれ以上逃げられなくなってしまう。このまま押し倒されてしまうかと思ったが、少し手を伸ばせばすぐ届く位置で勝沼は何故か一旦足を止めた。

「どうだった? 女になった感想は?」

 二人の脅える顔を見ながら、勝沼は覆面の内で邪悪な笑みを浮かべて尋ねる。

「えっ?」

 一瞬何を言われたかわからず、鈴凛は驚いたような声を上げた。

「破瓜の感想だよ。俺の一物でアソコを貫かれた気分はどうだった?」

「チェ、チェ……」

 あまりに酷い言葉に、四葉は顔を真っ赤にして、まともな言葉が返せなかった。

「傷の具合はどうだ? 痛みはなくなったか?」

 さらに勝沼は無神経な質問を重ねる。

 そんな質問、答えたくないし、答えられなかった。二人ともうつむいたままぎゅっと唇を固く結ぶ。

「……答えないならそれでいい。直接確かめてやる!」

 そう言うと、勝沼は突然手を伸ばして二人の妹に襲いかかっていった。

「チェキ――ッ!」

 四葉の細い手首が掴まれ、勝沼の方へと無理矢理引き寄せられる。

「四葉ちゃん!」

 とっさに助けようとする鈴凛も、反対側の手に掴まれ、同じように引き寄せられてしまった。

「さて、どうしてやろうか……」

 手元に引き寄せた二人の妹を、飢えた獣の眼で見下ろす。その視線と恐怖に耐えられなくなって、鈴凛は勝沼の腕で暴れ始めた。

「だ、だめ! 許して! まだ痛いの! 傷が開いちゃう!」

 必死に許しを請うが、勝沼は悲痛な声にもまるで心を動かさない。いや、まるで動かさないわけではなかったが、その動く方向は鈴凛の願うのとは正反対の方向だった。

「なら、俺が傷口を舐めてやろう」

 言って、鈴凛の手首を胸の前で揃えると、手枷を取り出して両手の自由を奪う。そのまま引き倒して下着に覆われた部分を顔の前に持ってくると、小さな赤黒い染みをそこに発見した。

「なるほど。確かに血が出てるな」

「いやっ! いやあぁっ!」

「り、鈴凛ちゃんにヒドイことしないで!」

 顔を下着に寄せようとする勝沼に、反対側の手に抱えられた四葉からも抗議の声が上がる。見るには耐えない状況に、声を上げずにはいられなかったのだ。

「なら、身代わりになるか?」

「えっ……」

 予想だにしなかった発案に、四葉は口ごもる。

「よ、四葉ちゃん……」

 鈴凛もどう反応すればいいか、一瞬答えが出せなかった。どんなことをしてでも許してもらいたいのは事実だった。が、四葉を身代わりの犠牲にして自分だけが助かる、というのは彼女にとっても想像の範疇外だった。

「そ、それはダメ……!」

 次の瞬間にはその結論を拒絶はしたが、鈴凛は気づいてしまった。ほんの一瞬、かすかにだがそれでも助かりたいと思った自分の気持ちに。

 勝沼はこの2人の反応を見比べ、覆面の奥でにやりと邪悪に笑んだ。



前章←|       *       |→次章


なか書き
小説一覧
メインページ
動画 アダルト動画 ライブチャット