十二妹絶望物語

第9話

 勝沼は、直人に四葉を任せて先に部屋に戻っていた。

 身体がないために今すぐ犯すとかそういうことはできなかったが、そのために初めてこの家の監禁部屋を利用することになったわけだ。

 少々皮肉な話だったが、何にしろ、古手川が戻らないことには始まらない。

 いつものようにお気に入りの音楽でも聞きながら部屋で時間を潰していると、すぅっと壁を抜けて、直人が姿を見せた。四葉を監禁部屋まで運び終え、亡霊の姿に戻っている。

「ご主人様。少しよろしいでしょうか?」

「どうした? 直人、何か問題でもあったか?」

「いえ。あの少女のことでしたら、何も問題はございません。しっかり繋いでおきました。意識もしばらくすれば戻ると思われます」
「そうか」

 勝沼はそれを聞いて満足げにうなずく。すでに報告は終わったが、直人はまだそこにいた。

「それと、古手川が戻った後に狩りに行きたいのですが。よろしいでしょうか?」

 四葉はすでに監禁部屋にしっかり繋いである。とりあえず問題はなさそうだ。そう判断した勝沼は許可を出すことにした。

「いいだろう。ただし、一部始終をビデオに撮って持ってくるのを忘れるなよ」

「わかっております。では」

 今度こそ用件が終わり、直人はすぅっと勝沼の邪魔にならぬよう部屋から消えた。

 再び一人になった勝沼は、古手川が戻ればすぐにも監禁部屋に行けるよう、音楽を聞きながらその帰りを待った。

 結局、古手川が家に戻ったのは、それから2時間近く過ぎてからだった。

「おぼっちゃま。ただいま戻りました」

 部屋まで来ると、古手川は勝沼に挨拶をしてすぐに身体を勝沼に返し、亡霊の姿に戻った。

「で、どうだった?」

 早速身体にとり憑きながら、勝沼が報告を促す。

「はい。少々時間はかかりましたが、当局はなんとか誤魔化して参りました。ですが、鞠絵の方は……」

「俺たちが考えていたより重症だったのか?」

 言葉を濁す古手川に訊き直すと、うなずきが返ってきた。

「あの後、直人が公園からした通報で病院に運び込まれたときには、さらに危険な状態になっていたそうです。はっきりした意識は今も戻る様子はなく、当面は病院で様子を見るとのこと。その後、落ち着いたと判断したら療養所へ移すそうでございます」

「……となると、当分ここへ連れ戻すのは無理か」

「そうなるでしょうな。意識がないので病院から連れ出すのは簡単ですが、突然姿を消したりすれば大騒ぎになり、こちらにも捜索の手が伸びることになるかと」

 勝沼はちっ、と小さく舌打ちをした。

「仕方ない。爺、今後も時々は鞠絵の様子を見に行くようにしてくれ。変化があれば俺に報告しろ」

 それで話を切り上げてしまうと、古手川は一礼して姿を消す。

 勝沼の思考は、すでに鞠絵から離れて次の獲物である四葉のことへの移っていった。

 なんだかんだ言っても、これでもう5人目になる。しかも、今回はすでに監禁部屋に捕らえてもいる。今すぐ犯しに行ってもいいが、少し趣向を考えてみるのもいいだろう。

 今回、勝沼は兄の姿で誘い出したりはしていないし、捕まえたのも向こうが勝手に来ていたのを家の近くで偶然見つけて直人と一緒に気絶させたのだ。さすがにもう目は覚ましているはずだが、まさか自分が今いる場所が改造された兄の家の一室だとは気づかないだろう。

 せっかくだから、このまま“兄チャマ”の匂いを感じさせないまま犯すというのはなかなか面白い。

チリーン

 勝沼は呼び鈴を鳴らして、下がったばかりの古手川を再び部屋に呼び戻した。

「お呼びでしょうか、おぼっちゃま」

 すぐに古手川は姿を見せる。

「直人はもう狩りに行ったのか?」

 そう訊くと、久々の狩りに勇んでいったとの答えが返ってきた。そのため勝沼は自分の思いつきを古手川に話し、それを実行するのに必要な物を集めるよう指示を出す。

「はい。かしこまりました」

 古手川もそれを面白いと思ったのか、どことなく愉快そうに部屋を出て行った。

 そんなに難しいことを頼んだわけではない。30分もすれば充分古手川は戻るだろう。

「くっくっく……」

 あとで監禁部屋に行ったときの四葉の反応を想像すると、勝沼は笑いをこらえることができなかった。



ギイイィィ……

 30分後、監禁部屋の扉が音を立ててゆっくりと開かれた。

 とっくに意識を取り戻していた四葉は、そのさまを期待と不安の入り混じった瞳で見ていた。

 勝沼たちの姿に驚き、意識を失ってしまった後、次に気づいたときにはすでにこの場所にいた。

 ここから抜け出そうにも、同じく意識を失っている間に嵌められていた首輪の鎖が、それを許さなかった。

 光が遮断されているため暗い部屋の中で聞こえる音は、自分が身じろぎしたときに鳴るジャラリという鎖が揺れる音のみ。やがて目が慣れてきたが、見ることができたものといえば、分厚そうな壁と、扉。それと四葉自身が繋がれているのと同じ首輪の鎖が、他にも約10ほど。しかし、他には誰の姿もなかった。

 そんな部屋に閉じ込められてから、すでに2時間以上。四葉にはさらにその倍以上の時間に感じられていた。

 まるで何もわからないまま閉じ込められた多感な時期の少女には、これはかなり厳しいものだった。誰かの登場は、吉と出るか凶と出るかはわからなかったが、四葉が待ち望んでいたことだった。

「チェキッ!?」

 だが、扉の向こうから姿を見せた者は、四葉の想像を越える格好をしていた。

 最初、扉の外からの光を背にしていたために影となってわからなかったが、その人物の姿は奇妙であった。

 全頭を覆い隠すマスクに、体形を隠すためのゆったりとした服。さらにはマントを身につけ、覆面の上から色の薄いサングラスまで掛けている。

「お目覚めかい? お嬢ちゃん」

 覆面の奥から発せられる声は、くぐもっていて聞き取りづらかった。

 無論、これは古手川が用意してきた衣装を身に纏った勝沼の変装だった。正体を隠すためには少しやり過ぎと言うか、何かおかしい気は勝沼もしていたが。

「な、何者デスか!?」

 しかしまあ、四葉はこれが“兄チャマ”の身体だとは気づいていないようなので、これでよしとしよう。

「わからないのか? 俺は気を失っていたおまえをさらって、ここに閉じ込めた張本人さ」

 そう言って、腰の後ろに仕込んでいた大きなナイフを出してきて、皮製の鞘を外した。

 暗い監禁部屋の中でも刃の輝きを宿すそれを、勝沼は構えながら一歩一歩、四葉の恐怖を煽るようにゆっくり近づいていく。

「チェ……チェキッ……」

 刃物を持って自分目指して近づいてくる男に、こぼれ出た声は震え、血の気が引いて顔色が蒼白になっていく。

ジャラッ……

 四葉は後ずさって男から逃れようとしたが、すぐに鎖の長さが限界に達し、それ以上の後退を許さない。ほんの数秒、追い詰められるのが遅くなっただけだった。

「さて、どうするかなぁ?」

 追い詰められた四葉の眼前で、勝沼は楽しそうにナイフを弄ぶ。

 ピタピタとナイフの腹で四葉の柔らかい頬を軽く打つ。

「ひっ……」

 かなり無造作にやっているようにしか見えないので、四葉はいつ手元が狂わないか、恐怖に震えた。

「……そうだな」

 勝沼はひとり納得したように呟くと、一度ナイフを引いた。

「チェキぃ……」

 四葉がほっとしかけたそのとき、勝沼はナイフを持ち替え、四葉めがけて一閃した。

ザクッ!

「――――っ!」

 四葉の悲鳴は声にならなかった。

 勝沼の振るった刃は、四葉の胸元から大きく縦に切り裂いていた。

 がくりと脱力して四葉はその場にへたり込んだ。

チョロチョロ……

 スカートの中で水が漏れる音がして、生暖かい液体が下着に広がっていく。

 勝沼はその細い首に手を伸ばしていった。


ガチャンッ

 首輪が鎖とともに床に落ちる。

 だが、四葉は放心しているのか、首に手を伸ばしたときも、その手で首輪を外したときも呆けたようにへたり込んだままだった。

 勝沼は脱力している四葉の腕を掴むと、ぐいっと無理矢理身体を引き上げる。

 下着の中に溜まっていた雫がその動きで溢れ、脚の内側を伝い靴下に染みを作っていく。

 四葉の身体があった床には小さな水溜りが残り、かすかに匂いまでもが漂っていた。

「いい年をして。おもらしか?」

 勝沼が嘲るように言うと、ようやくびくりと四葉の身体が反応した。

「今度は本当に斬られたいのか?」

 再度ナイフをちらつかせると、四葉はぶるぶると首を左右に振る。

 さっきナイフが切り裂いていたのは四葉の服だけで、裂け目から下着や柔肌が覗いてはいたが、小さな傷1つなかった。

 “次は本当に斬る”というのは当然ただの脅しだったが、四葉にそれはわからない。脅しかもしれないとは思っても、さっきまでの勝沼の言動と、自分の命がかかっていることを考えれば、迂闊な判断はできるはずもない。

「さあ、ついて来い」

 勝沼にそう言われてしまうと、立ち上がらせられたときに掴んだ腕を引かれるままについて行くしかなかった。

 監禁部屋の扉を開けて外に出ると、勝沼はすぐ右の部屋に向かう。

 腕を振り切ることができれば、今が逃げ出すチャンスだったが、廊下の反対側は黒い布で隠されていて、何があるかまるでわからない。それにさっきの脅しの言葉がまだ効いていた。

ギイィ……

 勝沼は、四葉の腕を掴んでいるのとは逆の手で隣の部屋の扉を開ける。そして、四葉をその部屋の中へ押し込んだ。

「チェキッ……!」

 だが、四葉はその部屋の中を見た途端、勝沼の脅しも忘れて反射的に逃げようとした。

 中の様子は、さっきの監禁部屋とさほど変わるところはない。防音の効果も兼ねた分厚い壁に囲まれた小さな部屋。装飾も壁紙も何もない。ただ、違うことはこっちの部屋はちゃんと電灯が部屋全体を照らしていることと、首輪の代わりにやけに大きなベッドがその存在を強く主張していることだった。

 勝沼の目的が何なのか、それをこの部屋のベッドを見た瞬間に察したが故の行動だった。

「……今さら逃がすはずないだろう」

 だが、勝沼の手は四葉の腕をしっかり掴んだまま振り払われることがなく、もう片方の腕も逃げようとする四葉の腰の辺りを受け止めたため、その行動は全く実を結ばなかった。

「チェキ……」

 我に返ってそれを悟った四葉に、再び恐怖が襲ってくる。

 勝沼の感情を刺激してしまったことで、今度こそナイフで傷をつけられたり酷い目に遭わされるのではないかという想像だ。

 脅えながら相手の顔を窺うが、覆面の下の勝沼の表情は、四葉に知ることはかなわなかった。

 だが、言葉もないまま四葉の身体を掴む腕により一層の力が入ったのが感じられた。

ブンッ

 勝沼の手が四葉の腕を力強く引く。

 それは、四葉を部屋の中に引き戻すというより、身体ごと振り回すかのような動きだった。

 事実、四葉は強すぎる勢いに振り回され、その瞬間に勝沼が手を離したために、慣性の法則で部屋の中へとバランスを崩して倒れこんでいった。

ボスンッ

 スカートが捲れ、一瞬おしっこで変色したショーツを覗かせながら、四葉は背中からベッドの上に倒れこんだ。

「あぅっ!」

 クッションが衝撃の大部分を吸収するとはいえ、一瞬、身体中の息が声と一緒に吐き出される。

 そこへ、勝沼はすかさずのしかかっていった。



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