私は21歳以上です。



      A ・ K 

                        作:テンちゃん  
第5部  『雪景色』
     
 
 「、、え〜、、つつしまやかに、、、たいへんつつしま
やかに行われております、、、亡くなられたイワブチ議員
をのせた霊朽車が午後6時、、、こちら平安寺に到着する
予定になっており、、、、各界を代表する参拝者は、いち
ように悲しみの喪にふせ、、、、」

 フンッ、と鼻をならしたクロイはチャンネルを変える。

 しかし、どうしてこう日本人は死んだ人間に優しいのだ
ろう。つい、こないだまでイキリまくっていた女子レポー
ターは、今では涙声さえだしている。
 たいしたモンだよ、、、、、、、

 この番組はワイドショー仕立てで右下に文字スーパーが
出ている。<サヨウナラ日本のドン!京都で逝く!!>
 画面の前では新人らしい男性リポーターが、メモを手に
早口で話していた。
 シワクチャのジャケットを着込み、イヤフォンからの音
声が聞きとりにくいのか、難しい顔にユトリがない。

 「、、、え〜、ハイ?、、ええ、、直接の死因は急性心
不全ということです、、、尚ですね、、当日付き添ってい
たSPの方の証言ですと、、、え〜、、ちょっと待ってく
ださい、、、え〜、、『病室で苦しい声がしたのでドアを
壊して入ったと、、、その時には息を引きとられたあとだ
った』と、まぁ、、こう証言してるんですね、、、また、
一部の情報によりますと、、イワブチさんは以前から心臓
になんらかの持病をかかえていたと、、、、まぁ、こうい
った声も聞かれます、、、、ハイ?、、、」

 「スタジオからちょっと聞きたいんですが、、リポータ
ーの清水さん!、、、、イワブチ議員は何者かに命を狙わ
ていたとみるフシもあるようなんですが、、、このへんは
どうなんでしょうね?、、」

 「、、ハイッ、、え〜、捜査担当の者によりますと、室
内に争った形跡もなく、、おそらく突然死ではないかとす
る見方がつよいようです、、ただ、精液が大量に失われた
痕跡がありまして、、、A・Kなる殺し屋集団による殺害
説も目下のところ否定できないようで、、、え〜、今後の
司法解剖に注目が、、、、」

 物的証拠はなにもあるまい。A・Kの仕業だということ
をホノめかし、なおかつ証拠は残さない。
 見事だ。見事な仕事ぶりだ。

 どこのチャンネルも似たようなものだった。<特集>を組
み、イワブチの今まで歩んできた課程を大々的に報じてる
ところもある。

 今夜は酒なしでゆっくり眠れそうだ、、、、クロイは心
のスミでそう思い、携帯のボタンをプッシュした。


 「、、、電話はつながんでくれ、、、、、、、」

 ハヤサカは秘書に静かに言うと社長室に歩を進め、木彫
りのされた重厚な机に座る。
 両手を握り合わせながら、ひたすら、時が過ぎさるのを
待つ。永遠の苦行のような待ち時間がいつまでも続くのは
耐え難かったが、反面、なぜかその時が来るのが恐ろしく
てたまらなかった。
 今晩、家に帰った時には全てが終わってるはずだ。大丈
夫、絶対にうまくいく。そのはずだ。
 そうでなければ今後の自分の人生に暗い影をおとすこと
になる。
 
 ン〜〜〜〜〜、、、、ン〜〜〜〜〜〜、、、、、

 不意に、ポケットに入れてあった衛生電話が振動しギク
リとする。
 明らかにクロイからなのだが、自分を落ち着かせるため
数秒間をおいてボタンを押す。
 以前と同じ無機質な声が耳にはいる。

 「、、、、作戦の終了を確認した、、、、繰り返す、、
、全ての任務は終了した、、、、アンタと話すことはこの
先ないだろう、、、、、それでは、、、、」

 ハヤサカはなにか言おうとしたが、一方的に電話は切ら
れた、、、、携帯を見つめると手が震えているのがわかる

 ホッとして気が緩んだとたん、自分でも意外だったが目
から涙がこぼれ落ちた、、、、、

 親父、、、、、仇は取ったぞ、、、、、


 2002,12,24       **19:07**
 
  ーーー−−アメリカ・ノースカロライナ州−−−−−
                (オルイード空軍基地) 

 また負けか、、、やはりツイてないな、、、、
天気予報が珍しく当たり、午後からチラついた雪は次第に
勢いを増していた。
 窓の外は白一色だ。ダーバー将軍は空港を照らしたハロ
ゲンランプに目をやると、まるで綿菓子のようにフワフワ
と降り続ける雪に見とれていた。
 しかしこの雪も、風が吹けば視界はないに等しいだろう
。吹雪にならなければいいが、、、

 「ハッ、、、こいつぁカミさんにドヤされる前に帰んね
えと!、、、なんてったって今日はイヴですからね!、、
、、将軍!わたしはこれで失礼します!、、あ、そうそう
、、賭けで負けた20ドル、きっちり払ってもらいやすから
ね!、、、そいじゃお先に!、、、」
 
 軽口を叩いて早々と帰路につこうとする部下を見やり、
注意をしようとしたが、ダーバー将軍は開きかけた口を閉
じた。
 部下に言われるまで気づかなかったが、、、そうか、、
、、今日はイヴか、、、、、、、 

 この軍服についた勲章を増やすために手を汚したことも
ある。同僚を足蹴にし、時には軍の規律さえ犯しここまで
登りつめた、、、、、、
 だが、、、、失ったものも大きかった、、、   

 娘の顔が今でも浮かぶ、、、妻のキャシーは当時のまま
、、、そう、、、あの時の笑顔のままだ、、、
 
 ダーバー将軍はもう一度窓を見ると、雪を見る目を細め
、思いを振り払うように葉巻に火をつけた、、、、、


 「これってちょっとムリない?、、、いくらなんでもサ
ンタクロースってさぁ!、、今日イヴだよ!イヴッ!、、
、モゥ〜!!、、、、わぁ!すご〜い!カバガバ〜!、、
、こんなんでヤレるかなぁ、、」

 「、、クロイの命令よ、、仕方ないわ、、、、もう一度
ターゲット確認します、、、ショーン・K・ガーター将軍
、、、52歳、、オルイード空軍基地勤務、、、9年前、妻
キャシーと別れ現在単身。一人娘カーラはシカゴの、、」
  
 イワブチの件から約半年。ナースの白衣からサンタに粉
した彼女達A・Kは、クロイが用意してくれた白色の大型
ヴァンの中でリーダーの説明に耳を傾けた、、、、

 やはり運がないようだ。今夜はここに泊まっていこう。
イヴの夜に軍の宿舎で一人身とは、、、今の自分にはふさ
わしい。
 フワフワとした雪はやがて表情を変え、よこなぐりの打
ちつけるような吹雪に変わっている。数人いた空港警備員
も今は姿が見えない。
 
 ブランデーを注いだグラスをゆっくりまわしていると、
昔の風景が走馬灯のように浮かんでは消えていく。
 家族を守る為に入隊したつもりだったが、結果、家族を
失ってしまった、、、、皮肉なものだ。 
 しかし、、、歳をとった、、、、、白髪が混ざったヒゲ
に手をやる。そして思う、、、、
 

 メリークリスマス、、、、、と。
                
                  つづく  


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