第十六話「目覚めるアンドロイド」

 

 そこはR・グローリアの死んだ部屋だった。

 薄暗い部屋。僅かなランプの明かりだけがそこにある光。そのひなびた光線に映し出される埃、そして少女の裸身。

 いま、R・グローリアの代わりにそこに吊されているのはR・カノン。

 少女は一糸纏わぬ裸身を晒し、屈辱と恥辱に頬を紅潮させていた。

 目に涙を溜め、俯くカノン。そのカノンの細い顎を持ち上げ、冷然と見下ろす男ゴールドマン。

 ゴールドマンの冷たい表情に、カノンは思わず目を背けた。

 R・グローリアの記憶も新しく、ゴールドマンに対する恐怖心は小さなものではない。唇を戦慄かせ、小さな肩が小刻みに震える。

 そんな少女の様子にゴールドマンは薄い笑みを浮かべ、手にした鞭を引き絞った。

 パチンと言う音と共に、カノンは身をすくませる。

「どうした、私が怖いのか?」

 ゴールドマンの問い掛けに、カノンは答えなかった。

「ふん、アンドロイドが生意気に人間の真似などしおって。恐怖などと言う感情はお前の電子頭脳が生み出した妄想に過ぎない。数列が作り出した電位の変化なのだ」

 少女は無言で震えている。

 そんなR・カノンの様子に、ゴールドマンは無性に腹が立った。R・カノンが往年のオリジナル・カノンに生き写しで、その仕草、所為がそっくりであればあるほど、胸の奥から湧き出す理不尽な怒りは大きかった。

 ゴールドマンは怒りと嗜虐性の赴くまま、カノンの淫裂にその手を伸ばし、谷底に節くれ立った指をあてがった。

 敏感な部分に触れられ、少女の身体がぴくりと反応する。

「どうした?一人前に女の真似か?小さな身体をしているくせに淫乱な娘だ」

 ゴールドマンは言葉で嬲りながら、人差し指を粘膜の間にねじり込み、ぐにぐにと弄んだ。

「や、………んっ!?」

 太股をすりあわせ、少女はもじもじと身悶えする。

「ふふふ、どうした、いやらしい汁が滲み出してきたぞ?」

 尚も指を踊らせるゴールドマン。花蜜は段々と量を増し、ちゅぶちゅぶと猥褻な音を洩らし始める。

 白い太股を愛液がしたたり落ちる。

「どれ、大変な洪水だな?」

 ゴールドマンはやっとの事で指を抜き、愛液を舌で舐め取った。そして、強引にR・カノンの足を持ち上げ、太股の間に身体を割り込ませた。

「いやぁっ!」

 身体を捩って逃れようとするカノン。しかし、ゴールドマンは意に介さず、秘裂に顔を埋めた。

「あんぅっ!やぁ、やめ………」

 鼻の頭で淫核を刺激しながら、唇を這わせ、舌で愛液をすくい出す。

 カノンは太股で男の顔を挟み込み、くねくねと身を捩った。

 ゴールドマンはやがて顔を上げ、粘液まみれの口でカノンの唇を奪う。嫌悪に顔を背ける少女の顔を掴み、無理矢理舌をねじ入れる。

「さあ、偽物の少女には偽物のペニスを咥えさせてやろう」

 そう言って張り型を取り出すゴールドマン。黒光りするそれは鈍い音を発しながら、激しい振動を繰り返している。淫唇を片手で割り広げ、凶暴なそれを沈めていく。

「んんぁあっ!?」

 極太のバイブをねじ込まれ、カノンは苦悶の表情を浮かべる。容赦なくそれをねじ回すゴールドマン。下腹部がひきつれ、カノンは呻き声を洩らす。

 そうした上で、ゴールドマンはカノンのお尻にきつい平手打ちを見舞った。

 ぱしぃっ!と鋭い音がして、カノンは背中を仰け反らせる。

「ああああっ!!」

 二撃、三撃、平手打ちは続き、その度にカノンは仰け反り、悲鳴を上げる。

「このまがい物めっ!!」

 平手打ちを見舞いながら、ゴールドマンは言い放つ。

「アンドロイドのくせに生意気なっ!!」

 段々と赤味を増し、カノンのお尻が腫れてくる。しかし、バイブは低く唸りながら、幼い肉体を容赦なく掻き回す。痛みと快楽に翻弄され、咽び泣くカノン。ゴールドマンの激しい平手打ちは尚も続く。

「お前はカノンなんかじゃないっ!!」

 これまでの中で尤も強烈な一打が加えられる。柔らかな皮膚が裂けるかとも思われたが、ゴールドマンの平手打ちはここで終わった。

 しかし、ゴールドマンの目は尋常ではなくなっていた。カノンの秘部からバイブを抜き取ると、それを菊門に押し込み、自らの肉棒を少女の秘芯に突き立てた。

「んぁあっ!!も、もうやめ、………」

 激しい攻めに翻弄され、喘ぐカノン。ゴールドマンは意に介さず、まるで怨念でもぶつけるかのように激しくカノンを突き上げる。

「やんぅっ!?あん、あん、あんぅっ!!………も、もう、あんぅっ!!壊れちゃうっ!!!」

 がくがくと痙攣し、泣き叫ぶR・カノン。ゴールドマンは兇眼をぎらつかせて、少女の身体を貪る。

 尻たぶに指を食い込ませ、体内深くにまでペニスを突き入れるゴールドマン。

 愛情のない、怨念のこもった性交。

 やがてゴールドマンは熱いマグマを吐き出し、カノンはそれと共に失神した。

 のるりと陰茎が吐き出され、花弁の底部から湯気と共に花蜜が滴り落ちる。

 するとその時、部屋の扉が開きアートマンが姿を現した。

「一体何をしてるんだ!?」

 カノンにしがみつくゴールドマン。それを見つけ、アートマンは二人に駆け寄った。

「莫迦なことを、R・カノンが壊れでもしたらどうする?」

 アートマンはそう言いながら、ぐったりとするカノンの拘束を解き、抱え上げる。

 肩で息をしながら、アートマンを見上げるゴールドマン。

「そうしたら、また作ればいいだろう?こんなまがい物など、いくらでも作れる」

 ゴールドマンの言葉にアートマンは応えず、ただ憮然として見下ろすだけだった。

 無言のまま、部屋を立ち去るアートマン。

 そして後には跪いた男が一人、取り残された。

「そいつは偽物なんだっ!!偽物なんだぞっ!!!」

 叫ぶゴールドマン。

「そいつは、カノンじゃないんだぞ………」

 

 失神したR・カノン。

 そしてカノンを背負うアートマン。

 カノンはやがて意識と取り戻し、朦朧としたままアートマンの背中にしがみついた。

 不思議な時間だった。自分の部屋に戻るまでに僅かな時間。ほんの少しの間だったにも関わらず、カノンにはそれがひどく長く感じられた。

 そしてまた、安らぎを覚える時間だった。

 アートマンの背中に揺られながら、カノンは懐かしさを感じていた。自分の知らない記憶、その中で、カノンは誰かにおぶわれていたような気がする。

 とても大切な事のような気がするのに、それはどうしても思い出せなかった。

 やがて、カノンは自室に戻され、ベッドに寝かされる。

 そして姿を消すアートマン。

 カノンはアートマンを呼び止めたかったが、再び意識が途切れ、もう一度目を覚ました時は夜中だった。

 

 重い瞼を持ち上げ、壁を見つめるR・カノン。次第に目が暗闇に慣れてくると、壁の模様が想像力を刺激し、何かしらのものに見えてくる。

 風が枝を揺する音や、虫の鳴き声、静寂の中に聞こえるあらゆる音を愉しみながら、R・カノンは空想に耽った。

 それはもしかすると現実の事ではなかったのかも知れない。自分はまだベッドの上で眠っており、まだ夢の中にいて、起きているつもりになってあれこれ想像しているのかも知れない。

 くだらない想像かも知れないが、今のR・カノンには自分が現実の中にいるとは確信が持てなかった。身体は疲れ切ってまんじりとも動かず、倦怠感と共にベッドに沈み込んでいる。にも関わらず、頭の中は妙にはっきりしていて、逆にそれが現実味を薄れさせている。

 そんな現実感の伴わない現実の中で、R・カノンは誰かの声を聞いた。

「カノン、起きて………」

 少女の声だった。

 R・カノンはそれが誰の声なのか知っていた。

「エインセルなの?」

 質すR・カノン。部屋の片隅で白い影が動いた。

「カノン、起きて………」

 再び声がした。しかし、それはまた別の影である。同じ声の別の影。

「私は起きてるつもりなんだけど、もしかしてこれはやっぱり夢なのかしら?」

 独りごちるR・カノン。

「違うわ、カノン」

 また別の影が声をかけてきた。

「あなたは誰?エインセルじゃないの?」

 首を傾げるR・カノン。

「私は私よ。エインセルよ…………」

 また別の影。

「もしかしてみんなエインセルなの?」

 多くの白い影が一斉に、しかし声を揃えずに応じる。

「そう、私はエインセル…………」

「私は私………」

「エインセルは私………」

「私はエインセル……」

「私はあなた………」

 R・カノンは頭が混乱した。しかし、影達は好き勝手に話を続ける。

「早く目覚めてカノン…………」

「もう時間がない………」

 R・カノンは頭を抱えて影達に問い掛ける。

「私は起きてるわ。それとも、これは夢なの?」

 影達はR・カノンの言葉には答えず、同じ言葉を繰り返す。

「カノン、起きて。もう時間がないわ」

 

 アートマンは廊下の向こうに、R・カノンの姿を見つけた。今回は偶然ではない。昼間、ゴールドマンに酷い仕打ちを受け、また脱走を企てるのではないかと懸念してのことであった。そして案の定、R・カノンを見つけたのだ。

 ふらふらと、R・カノンの足取りはまるで夢遊病者の様であった。怪訝な顔をしながらも、アートマンはR・カノンの後を追った。

 そしてはたと、R・カノンが向かっている方にオリジナルの眠る部屋があると気が付いた。青ざめてR・カノンの後を追うアートマン。

 こんな時間にオリジナルのカノンが起動されている筈はない。ましてや、管理している自分がここにいるのだ。しかし、万が一と言うこともある。もし、コピーのカノンがオリジナルと出くわしたら、双方共に自我の崩壊を起こす危険性がある。そしてまた、そんなことにならなくても、オリジナルのカノンにコピーの存在を知られるわけにはいかない。

 しかし、R・カノンは何故かオリジナルの部屋に一直線に向かっている。オリジナルの存在を知る筈もないのにである。

 そしてついに、ドアのノブに手をかけるR・カノン。

「待つんだ、カノンッ!!」

 アートマンはR・カノンを制止しようと一気に駆け寄ったが、R・カノンは吸い込まれるようにして部屋の中に消えた。

「きゃぁぁぁああっ!!!」

 部屋の中から悲鳴が聞こえる。

 まさかと思いつつ、部屋に飛び込むアートマン。しかし、彼を待っていたのは不気味な静寂と、そして横たわる少女の姿であった。

 慌てて駆け寄り、少女を助け起こすアートマン。

「大丈夫か、カノン?」

 アートマンの腕の中で、少女はゆっくりと目を開ける。

「………?、………あなた、アートマン?……私が目を覚ますと、いつもあなたの顔が目の前にあるのね」

 少女の言葉に、アートマンは喘いだ。

「まさか、カノンなのか?」

 

 翌朝、ゴールドマンは何者かが下半身に触れる感触がして目が覚めた。

 シーツの中で誰かがもこもこ動いている。

 ゴールドマンは薄く笑った。シーツの中にいるのが誰かは分かっている。

 細い指で陰茎が引っぱり出され、熱い舌が触れる。

「………朝食ですか?お嬢様」

 苦笑混じりに溜め息をつくゴールドマン。

 シーツの中にいるのはゼルダ。ゼルダは逞しい陰茎に舌を這わせ、絡め、舐め回す。

 涎でべたべたになる陰茎を、ゼルダは嬉々として飲み込んだ。亀頭を転がし、舐め回し、ちゅうちゅうと吸い付く。

 やがて、朝一番の濃厚なミルクが絞り出され、ゼルダは喉を鳴らしてそれを飲み込んだ。

「ふうぅっ」

 陰茎から顔を放し、ゼルダは大きく息をつく。口元に垂れる精液を拭うと、ゼルダは再び陰茎に口を寄せた。

 小さくなった陰茎をぱっくりと飲み込み、口の中でもごもごと刺激する。

 再び活力を取り戻す剛直。

 ゼルダはそれが十分な堅さを取り戻したことを確認すると、ゴールドマンの身体を跨ぎ、その小さな花心にそれをあてがった。

 その感触を愉しむように、徐々に腰を下ろすゼルダ。

 少女の体内は温かく、柔らかで、陰茎を優しく包み込んでくれる。

「ふふ、お腹の中がいっぱい………」

 体内にたっぷりとした充足感を覚えながら、ゼルダは小さく笑った。

 ゼルダの身体を引き寄せ、ゴールドマンは優しく愛撫したやった。柔らかなお尻の感触を楽しみ、背中や腰を優しく撫で回してやる。

 それに応えるかのように、ゼルダは両手を精一杯伸ばしてゴールドマンの身体に回し、愛おしむように頬をこすりつける。

 軽くはあるが、確かな量感を持ったゼルダの身体。その存在感を心で感じながら、ゴールドマンは満ち足りた気分になっていた。

 それはゼルダの精神が幼児のそれに退行してしまったからなのかも知れない。ゼルダはゴールドマンにとって、まるで害のない存在なのだから。

 そして、それだけが、唯一ゴールドマンの救いの場所でもあった。ゼルダの奔放な行動は、それ自体ゴールドマンにとっての癒しなのかも知れない。

 甘えるように、ゼルダはゴールドマンの身体に舌を這わす。悪戯っぽく笑うと、乳首に軽く触れてみる。

 やがてもぞもぞと腰を動かし始めるゼルダ。

 激しさはなかった。

 小さく、ゆっくりと、優しく小刻みに腰を動かす。

 それでも、やがて快楽の波は押し寄せ、ゴールドマンは精を少女の体内に吐き出した。

 ぴくぴくと小さく身体を痙攣させ、絶頂を迎えるゼルダ。

 しかし、ゼルダはゴールドマンの身体から離れようとはしなかった。

 ゴールドマンも動かない。

 今、この瞬間を、いつまでも感じていたいと願った。

 風がカーテンを揺らし、心地よく頬を撫でる。

 

 数刻後、二人の静寂を破ったのは通信用のアラームであった。

「朝っぱらから何の用だ。………コンピューター、繋げ」

 ゴールドマンは館内コンピューターに命じて通信を繋いだ。

『ゴールドマン様、本社の方に面会の方がお見えです』

 その声に、ゴールドマンは苛立ちをぶつける。

「面会だと?私は聞いていないぞっ!!追い返せっ!!」

 ゴールドマンの怒声に、コンピューターの向こうから狼狽混じりの声が返ってきた。

『そ、それが、………警察の方とかで』

 警察と聞き、僅かに興味を引かれるゴールドマン。

「警察?もしかして、この間から私の周りを嗅ぎ回っている東火のサイボーグか?」

『いえ、また別のようですが。何でもゴールドマン様がエモーション・プログラムに関わっていると、そう通報があったので、形だけでも事情を伺いたいとのことです』

 部下の報告に、ゴールドマンは僅かに考え込んだ。今更警察など怖れるものではないが、警察に通報した人間が気にかかる。警察が動くと言うことはある程度の情報を提供したに違いない。

「………殺せ」

 ゴールドマンは呟いた。

『………はぁ?』

「首を刎ねて警察に送り返してやれ」

 冷然と言い放つゴールドマン。

 しかし通信の声は、今度はゴールドマンの言葉にいささかの狼狽も見せずに応じた。

『………仰せのままに』

 ゴールドマンはその返事を聞くと面白くもなさそうに通信を切断した。

 憮然とするゴールドマン。そのゴールドマンの顔を、怪訝な表情で覗き込むゼルダ。

 ゴールドマンはそのままゼルダの唇を奪うと、シーツの中に引きずり込んだ。

 嬌声を上げるゼルダ。

 しかし、その時。興を殺ぐように扉の向こうから声が掛かった。

 うんざりして応じるゴールドマン。しかし、扉の向こうの声は頓着する様子も見せなかった。

「ゴールドマン様、お話ししたいことがあります」

 声の主はR・ヒルダである。

「またにしろ」

 ぞんざいにあしらうゴールドマン。しかし、R・ヒルダは立ち去らなかった。

「ゴールドマン様、お話ししたいことがあります」

 同じ言葉を繰り返すR・ヒルダ。一瞬、ゴールドマンは融通の利かないアンドロイドだと心の中で罵ったが、ふとある事に気が付き、訝った。

 ゴールドマン配下のアンドロイドは、組織の性格上、三原則は刷り込まれていない。三原則は基本的に人間の不利益に繋がる行動を制限したものだからだ。そこで代わりに組み込まれた物がイエッサーと呼ばれる服従回路である。この服従回路は、ある特定の人間に対してのみ、危害を加えられないようプログラムされている。

 つまり、R・ヒルダはゴールドマンの意に反することは、例えどんな事情があっても出来ないのである。

 もちろん、個々のアンドロイドによって程度の差は存在する。しかし、命令には絶対服従、それが服従回路なのである。

 不審に思いながらも、入室を許可するゴールドマン。

 部屋に入ってきたR・ヒルダを見て、ゴールドマンは僅かに驚きの表情を見せた。

 R・ヒルダは手に銃を持ち、ゴールドマンに銃口を向けている。服従回路が働いているのなら,例え冗談でもこういった真似は出来ない筈だ。そして背後には、神官補のマーキングをつけたアンドロイドが数名、やはり手に銃を持っている。

「これは何の真似だ?R・ヒルダ」

 銃口を突きつけられ、ゴールドマンは低く怒声を洩らす。

「いえ、私はR・ヒルダではありません」

 銃口をゴールドマンに向けたまま、R・ヒルダは無機質な声で応じる。

「なら、何だというのだ?」

 ベッドから立ち上がり、ゴールドマンは鋭く質した。しかし、R・ヒルダは動じない。

「私こそが神の子、ゼルダです」

 ゴールドマンはR・ヒルダの言葉を聞き、嘲りの笑いを浴びせた。

「は、ははっ、何を言い出すのかと思えば、よりにもよって自分がゼルダだと?何を莫迦なことを。いよいよもって気でも狂ったか?」

「………では」R・ヒルダは無遠慮にゴールドマンの言葉を遮った「では、私の何がゼルダと違うと仰有るのです?」

 R・ヒルダの反抗的な態度に、ゴールドマンは笑うことをやめた。

「何が違う?何もかもだっ!………お前はアンドロイドで、ゼルダは人間。これが違いでなくて何だと言うのだっ!!」

 R・ヒルダは、ゴールドマンの言葉にかぶりを振った。

「その概念はあまりにも曖昧です。私のボディーはゼルダと寸分の違いもありません。色、形、性能、どれをとっても違いは無い筈です。私とゼルダ、それを分ける物は存在しません」

 冷然と告げるR・ヒルダ。しかし、ゴールドマンはR・ヒルダの言葉を聞き、思わず口元を歪めた。

「頭脳以外はな………」

 これは最大の相違点だ。ゴールドマンはそう確信していた。しかし、意外にもR・ヒルダはこの事を素直に認めた。

「勿論です。しかし、それを証明するものは何です?」

「そ、そんなもの、調べれば分かることだっ!」

 思わず口ごもるゴールドマン。R・ヒルダは鷹揚に頷いた。

「頭を開いて見せて回りますか?一体、誰がその事を信じるというのです?ゼルダと同じボディーを持つ私がコピーで、そこの気の触れた女が本当の教皇だと言うことを………。気が違ったのはあなただと思われますよ」

 ゴールドマンはR・ヒルダの鉄仮面が嘲笑したように思え、怒りに顔を染めた。そして何より、ゼルダを侮辱したことが許せなかった。

「ふざけるなっ!!私は科学者だ、お前の薄汚い頭をかち割らずとも、お前がアンドロイドであると言うことはいくらでも証明してやるっ!!」

 怒声をぶつけるゴールドマン。しかし、R・ヒルダは冷然と告げた。

「勿論そうでしょうとも。しかし、あなたがそうする事は不可能です。なぜなら、あなたは此処で機能を停止するからです。此処はブレインの干渉から隔絶した場所。理由はいくらでも付けられます。あなたは機械教を内部から食い物にする獅子身中の虫、エモーション・プログラムをばらまく犯罪者でもあるのですから………」

 R・ヒルダのこの言葉に、ゴールドマンは思わず鼻白んだ。

「成る程、警察に密告したのはお前か………」

 しかし、R・ヒルダはこれには応えない。

「それをあなたが知る必要もないでしょう………」

 言葉と共に引き金が引かれ、ぱしゅっと言う乾いた音と共に、ゴールドマンは目を開いた。

 ゼルダが両者の間に割って入ったのだ。

 ゴールドマンにしがみつき、ずるずると倒れ込むゼルダ。背中には黒く焦げた銃創が一つ。

 ゴールドマンは目眩がした。視界が暗くなり、耳の奥で耳鳴りがする。胸の奥から怒りが溢れ、ゴールドマンの口から嗚咽が洩れる。

「…………お前、もしかして」

 涙が頬を伝い、ゼルダの顔を濡らすが、ゼルダはまんじりとも動かなかった。

「ゼルダァァァアアアッ!!!」

 慟哭が響き渡る。

「哀しむことはありません。ゼルダは神の身元に召されたのです。ゴールドマン、あなたにも神の祝福を」

 そう言うと、狂ったアンドロイドは再び銃口をゴールドマンに向けた。

 あわやトリガーが引かれようとしたその時、突然閃光が部屋を包み、誰かがゴールドマンを呼ぶ声がした。

「磁性フィールドを張った、早く部屋から飛びだせっ!」 

 

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