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沙希(8月25日(金)01時51分57秒)
みなさんこんばんは。沙希です。
>綾乃様
世の中全てが信じられない私にとってはとっても痛いお話でした。
私の頭の上にも、きらららと流れ星が降らないでしょうか。
ピカッと光るものは、きっとICBMです。
私の人生、そんなものです。
今日、20日ぶりに外出をし、足立の花火に連れてってもらいました。
どなたか見た方、おられますでしょうか?
「にこちゃんマーク」のような花火がとってもキュートでした。
綺麗な花火を見て、元気が出たところでがんばって第3話です。                    .

MRF−6:女装者
− 第3話「エール」 − 1st.

・・・雄大なる海・・・
深く潜るほどに濃さを増す青は、
太陽からの光も遮断し、
ボクを外界から切り離す・・・
肺の中の酸素は底をつき、
もう気泡すら出ない。
水圧により押しつぶされる肉体からは離れ、
やがて音も光も届かない聖域へとたどり着く。
何も、まとう物は無い。
肉体すら存在出来ない場所。
そこに、君がいるんだ。
沙希・・・聞こえる?ボクの方から会いに来たよ。
君は、ときどき現れては、ボクの心に触れていく・・・
沙希・・・いつも側にいてほしい。いつも一緒に・・・
沙希を・・・ボクの・・心の中に・・・
「穂香ぁ、新しい指令が・・・
あーーっ!!穂香ってば、ひとりエッチしてるっ!」
「うわぁぁっ!ゆ、優子!」
自室の自動ドアが開かれる音で現実へと引き戻された。
目の前のフィルムディスプレイには
スクリーンセーバーのイルカが泳ぎ回っていたが、
突然の侵入者に慌てて机に膝を打ち付け、無情にも冷たいOS画面に戻る。
「でっ・・出てってよ!入ってこないでっ!!」
「まぁまぁ、いーじゃない。
穂香がオナニストだって事は、村岡の時のミッションで周知の事実なんだから。
おねーさんに見せてご覧なさい!」
「わぁ!やだ!やめてぇっ!」
「なにこれぇぇ!!ちっちゃーーい!しかも皮かむってるーっ!」
「みないで!みないで!」
「しかも、毛も無いじゃない。剃っちゃったの?」
「いーから見ないで!やめてよぉ!」
「これじゃぁまるっきり、小学生じゃない。
あんた、なんで毛なんか剃るの?もしかして、剃毛趣味?」
「・・・どうせビキニライン処理しなくちゃいけないから・・・
カタチ整えるのがめんどくさくて、全部剃っちゃったんだよぉ。」
「キャーーーッハッハッハッハ!!なんて馬鹿な娘なの!
親指サイズで皮かむり。おまけに自分で剃っちゃうなんて!!
これじゃぁあの村岡修造も、ビックリしたことでしょう!
キャーーッハッハッハッハ!!」
「うるさいなぁ!お願いだから早く出てってよぉ。」
「どうせ途中なんでしょ?おねーさんがシテあげるわよ。」
「うわっ!やだっ!やだあっ!」
「ほら。ちゃーんと皮を剥く癖を付けておかないと、女の子とエッチできないぞぉ。
おや、可愛いピンク色!」
「いやっ!だめっ!ひっぱっちゃだめ!!・・・あっ!!」
「うわっ!出た!もう出た!すごいすごい!!ティッシュどこ?」
「あっ!・・・あっ!・・・あ・・ん!!」
「うわぁ、手が濡れ濡れだぁ!
どう?おねーさんの手の中に出しちゃった気分は!」
「ばかぁ!もぅ、お嫁にいけなくなっちゃったじゃないかぁ!うううぅぅっ!!」
「なによ。もともとお嫁になんか行けないくせに。
いざとなったら私が貰ってあげるわよ。
ほら、手をどけて。ちゃんと拭いてあげるから。」
「うぅぅ・・・犯された。優子に犯された。
ばかぁ・・・前から身の危険を感じてたんだ・・・
いつか犯されるんじゃないかって・・・うぅぅ・・・」
「馬鹿なこと言わないでちょうだい。この私を強姦魔と一緒にしないで。
スカート汚しちゃったから、脱ぎなさい。」
無理矢理スカートを脱がされて、
キャミソールとパンティだけという情けない姿になった。もう、最悪だ。
どうして部屋の鍵をかけ忘れたのだろう。
よりによって、優子に恥ずかしい行為を見られ・・・
そのうえ手で犯されるなんて。
「穂香。おちんちんで快感を得てるようじゃ、女装者として、まだまだ”未熟”よ。
主任もそう言って、嘆いてたわよ。」
「・・・まさか・・・村岡の時の録音、
ちゃんと編集してから、主任に渡してくれたよね?!」
「誰がそんな手間をかけるのよ。そのまま渡したに決まってるじゃない。」
あぁ・・・もう死にたい・・・
あのディスクには、「村岡の醜態」と共に、
「ボクの醜態」だって納められてるんだ・・・
あんなものを未編集で主任に渡したら、また大目玉だよ。
この前だって、溲瓶をまるごと提出したときに、呆れられちゃったんだから。
・・・あぁ・・・死んじゃいたい・・・
「ほら、いつまでもクヨクヨしてても、しょうがないでしょ!
あんな昔の事なんて、みんな(読者も)忘れてるわよ。
泣くのやめて、新しい指令が来てるわよ。」
「・・・新しい司令・・・?」
「今回は穂香の単独みたい。まぁ、楽勝でしょう。」
*  *  *  *  *  *
「コンコン・・・失礼します。」
司令室の分厚いドアがノックされ、書類やディスクを抱えた男が入室する。
全てがネットワーク化され、報告書や調査結果なども
全てデータとしてコンピュータに蓄積される今、
この部屋に人が直接訪れることは少なくなった。
「司令。10人目の候補であった、「泉水雅和」の調査結果が出ました。
彼のタンパク質をスペクトル解析した結果、
ゲノムパターンがSAKIの物とは異なりました。」
「そうか・・・彼が10人目ではなかったか・・・計画が、少し遅れるな。」
「はい。しかし報告によると、もう既に、一人候補に上がっている人物がいます。
そちらの方も、現在捜索中です。」
「分かった。急ぎたまえ。」
用件のみを簡潔に伝え、男は退出する。
MRFに関する事は、全て主任である彼に任せきりだ。
ここC1NELでは、全てがそうだ。
個々がそれぞれの役割を的確に果たすが、
それらの技術の集大成が、一体何をもたらすのか。
それを知る人間は少ない。
・・・我々が始めようとしているプロジェクトは、
まるで「人格を無視した解剖実験」のようなもの。
人はそれを求めているが、
しかし、人の道に反することなのかもしれんな・・・

                          つづく
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
解説
スペクトル解析:
粒子加速器によって光速近くまで加速された電子からの放射光を、
タンパク質(このお話の場合、泉水くんの精液)に照射することによって、
そのタンパク質に刻まれている固有の識別パターン(ヒトゲノム)を
分光解析する事です。
和○山毒物カ○ー事件で脚光を浴びたS○ring−8が、
世界的に有名な実験施設です。




アニト(8月26日(土)23時06分33秒)
沙希さん、こんばんは。
世の中そうそう捨てたもんじゃありませんよ。
「となりのチ○ポは黒い」とよく言いますが、
黒ければ黒いなりに苦悩があるものです。
ん?、芝でしたっけ?。
ともあれ、頭の上でピカッと華開いた「にこちゃんマーク」が
沙希さんの幸せを暗示する大輪だとわたしは信じています。




沙希(8月27日(日)02時02分59秒)
みさなんこんばんは。沙希です。
オフ会だったのですか。そうですか。名古屋ですか。
一度でも、オフ会というものに参加してみたい。
でも私は足立区民です。
セミがミーンミーン、カラスがアホー!
ニワトリがコケーーッ!!と鳴く声で目が覚めるド田舎でございます。
それでもめげずに第3話2ndです。
MRF−6:女装者
− 第3話「エール」 − 2nd.
絵の具の油と顔料の匂いが入り混じり、小屋いっぱいに充満している。
今にも崩れ落ちそうなホッタテ小屋という感じだが、居心地はとても良い。
それは、小さな窓から入る日の光が優しいためなのか。
それとも、この狭い小屋には似合わない、大きめのスピーカーから流れる、
ノイズ混じりのバッハが心を静めるためなのか。
白い絹のストール1枚しか身に纏わない姿だというのに、
ついウトウトしてしまう。
「穂香さん。少し休憩しましょうか。」
しわがれたお爺さんの声でスッと目が覚める。
少し眠ってしまったのだろうか。
白い大きめのガウンを肩から掛けてもらい、
古い木製の机から身体を降ろすと、
下に敷いていた絹のシーツがスルリと落ちた。
いつのまにかコーヒーメーカーからは、沸々という音が聞こえており、
ここで私とお爺さん二人きりの静かなコーヒーブレイクとなった。
「この曲・・・「エール」は、穂香さんのお気に召さなかったかな?」
「いいえ、私、この曲大好きなんです。よければもう一度聞かせてください。」
今や見かけることの少なくなった昔のCDよりも、
さらに一世代前の、いわゆるレコード盤だ。
黒い円盤が剥き出しで回転し、
その上にダイヤモンド製の針をのせて音を出すらしい。
動く本物を見たのは初めてだった。
「最近話題の、癒し系の音楽ですよね。」
「癒し・・・ですか。
むしろ私にとっては、許しを与えてくれる、とでも言うのでしょうかのぉ。
この曲を聴いていると、私が今まで犯してきたあらゆる失敗を、
浄化してくれるような気がするんです。」
そう言うと、お爺さんはまだ描きかけの絵を見せてくれた。
「な、なんだか・・・照れくさいです。こんなに奇麗な絵が、私ですか?」
「なぁに。実物はもっと奇麗じゃて・・・」
油絵独特の、力強いタッチで描かれた肖像画だ。
青いバックに、白い裸体が浮かび上がっている。
なんという力のある絵だろう。圧力のようなモノさえ感じるほどだ。
しかし、自分の大切な部分はストールで隠されているものの、
ペッタンコの胸はしっかりと露わになっている。
そこはやっぱり、照れくさいよ・・・
「そ、そうだ!お爺さんが今までに描いた絵も、見てみたいです。」
「・・・そうですね・・・穂香さんに、いくつか見ていただきましょうか。」
そう言うとお爺さんは作業小屋を出て、隣の本棟へと入っていった。
・・・とても広い家だ。
こんなに広い家にお爺さんが独りだけで住んでいるのだろうか。
もしそうだとしたら、とても寂しいだろう。
家族は?奥さんや子供は?
コーヒーカップはペアで揃っているのに、
この家にはお爺さん以外の人の気配がしない。
「私は、生涯独身で通したんです。今、後悔していますがね。」
和紙に包まれたキャンバスをたくさん抱え、戻ってきたお爺さんはそう答えた。
和紙は黄色く変色し、だいぶ年代物の油絵のようだったが、
どの絵も、それを感じさせない力強さと新鮮さがボクの胸を突く。
「あれ?この絵は・・・」
「・・・あぁ、そいつは・・・もうだいぶ古い絵です。」
「これ・・・優子にそっくり!」
「優子さん・・・その方は、穂香さんのお友達ですか?」
だいぶ古い感じの肖像画だった。
黒髪のロングヘアーに白い麦藁帽をかぶっている。
色白で細い顎。細く通った眉に、切れ長の目。
美人だ・・・くやしいけれど優子に似ている。そっくりだ・・・
「この絵のモデル・・・私とペアを組んでいる相方に、そっくりなんです。」
「ほぉ・・・穂香さんのパートナーに・・・」
「私と同じ、女装者なんですけど・・・でも、胸はちゃんとあります。」
「それは・・・是非一度、お会いしたいものです。」
「・・・このモデルさんの絵ばかり・・・たくさんある・・・」
「このご婦人は、私の専属だったモデルさんです。
とても美しい方でした。
しかし、お体が悪く、入退院を繰り返したあげくに亡くなられました。」
「亡くなった・・・」
「今から12年前の話です。
この絵は、その方が亡くなる直前に描かせていただいたものです。」
”亡くなった”という言葉が、空っぽの私の身体の中に、長く響いた。
きっとこのペアのコーヒーカップは、
そのモデルさんのために用意されていた物なのだろう。
独身で通したことを後悔しているとお爺さんは言ったが、
その寂しさを、このキャンバスに、一筆一筆、刻み込んできたのだろうか。
優子にそっくりなこのモデルさんの絵を繰り返し描くことが、
お爺さんの全てだったんだ・・・
「絵は、その瞬間を永遠に残せますが、現実というのは無理なんです。
だからこそ、私は絵を描き続けます。
生涯独身で通して、のんびりと好きなことをして生きてきました。
その後悔こそが、私の宝物です。」
・・・後悔したことが宝物だなんて・・・
このお爺さんの言葉は全て、私の身体に滲み入るようだ。
「あの・・・どうして、私なんかをモデルに?」
「殿方でもない。しかし御婦人でもない。
中性的な雰囲気をまとう人物画を描いてみたかった・・・
しかし、そんな機会は無くてのぉ。」
「それで、C1NELに依頼を。」
「こんなお仕事を気持ちよく引き受けてくださって、誠に感謝しております。」
「いいえ。お爺さんに、とても素敵な時間を分けていただきました。
でも、あまりに気持ちよくて、居眠りをしてしまいましたけど。ごめんなさい。」
「構いませんよ。リラックスしてもらった方が、本当の表情が掴めます。」
「本当の表情・・・」
「さて、もう少し頑張りますかのぉ。」
お爺さんは再びキャンバスに向かい、
コーヒーを飲み終えた私は再び机の上に乗り、
ガウンを脱いで、ストールで大切な部分を隠すようにしてポージングをする。
「穂香さんは・・・まるで、アンドロメダのようです。」
「アンドロメダ?」
「アンドロメダを救うペルセウス・・・昔の宗教画です。
両手を鎖に繋がれ、魔物の生け贄にされるアンドロメダ。
しかし、あまりに美しいその容姿のため、
勇者ペルセウスの目に留まり、救出されハッピーエンドです。」
・・・「両手を鎖につながれたアンドロメダ」「本当の表情」「失敗の浄化」。
絵を描く人間は、眼が良いっていうけれど、
このお爺さんには、私のどこまでが見えているのだろう。
少し怖いけれど、いっそのこと、全てを描ききってほしい気もする。
自分の心までをも。
・・・そうだ。私には、自分にすら分からない心があるのだから。
「穂香さん。明日も・・・ここへ来てくれないでしょうか。」
「はい、もちろんです。絵が完成するまで、通いますよ。」
「・・・ありがとう。実は・・・私にとって、明日は特別な日なんです。」
「特別な日?」
「穂香さんにも、御一緒していただければと思いまして・・・
それは明日、お話しいたします。・・・それと・・・もう一つ。」
「はい?」
「・・・そろそろ、そのストールも取ってみませんかのぉ?穂香さん。」
「えっ・・・こ、これは駄目です。ここは・・・自信ないです・・・」
「昔の宗教画でも、男性のシンボルはそのまま描かれているし、
みんなミニサイズ。しかも包茎です。
穂香さんと同じですよ。ホッホッホ!」
「・・・・・・・・・・」
(あぁ・・・見られてた・・・)

           つづく
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
補足
「エール」:バッハ作曲の「G線上のアリア(Air)」を指しています。




アニト(8月27日(日)23時52分45秒)
沙希さん、こんばんは。
一口にオフ会といってもいろいろな形態がありますから
沙希さんの嗜好に合う集まりを選ぶことをお奨めします。
ただ、オフ会に参加すれば何か得るものがあると考えてしまうと
ちょっと危険な気もしますけどね。
今は沙希さんのためのペルセウス、
『空想デート』がそんな存在になればと願っています。




沙希(8月28日(月)22時26分23秒)
みなさんこんばんは。沙希です。
私の頭の上にも幸福な光は届くのでしょうか。
アニト様や綾乃様の光が、少しずつ私の頭上に集まりつつあります。
「みんな!オラにチカラを分けてくれっっ!!」(野沢調で)
MRF−6:女装者
− 第3話「エール」 − 3rd.
「優子の奴があんな事するから、顔を合わせるのが気まずくなるんだよ。」
いつまでも立ちつくしているわけにはいかない。
”YU−KO”と描かれた表札を前にして、
大きなため息を付いた後、自動ドアのボタンを押す。
カギは掛かっていなかったのだが、ドアが開いた瞬間に、
部屋の中からピンクのクッションがすっ飛んできた。
「ノックしてから開けなさいよぉっ!!」
「ひとの事言えないでしょっ・・・て・・・なぁにこれぇ!?」
優子の部屋を見て驚いた!
洋服の数、数、数!!
何十着ものワンピースやドレスが、部屋一面に敷き詰められていた。
足の踏み場もないとはこのことだ。
そして部屋の片隅で、これまた何十着もの洋服にくるまるようにして、
鏡の前でしゃがみ込んだ優子がいた。
もう、ピンクのクッションをお腹に抱えたまま、
部屋の入り口で呆然とするしかない。
「優子・・・何やってんの?洋服ばかり、こんなに散らかして・・・」
「踏まないでよ。大切な洋服なんだから。」
「あれ?・・・優子・・・泣いてるの?」
まるで「座敷わらし」かと思うような出で立ちの優子だが、
鏡に映った優子の顔は、確かに泣いていたようだ。
部屋に敷き広げてある洋服を踏まないよう注意しながら、
優子の元へ歩み寄った。
この、あまりにも異常な状況を前に、
先日からの気まずさは吹き飛んでしまった。
「どうしたの、優子。そんなに洋服かかえ込んで・・・」
「何でもないわ。片づけるから、ちょっと退いて。」
我に返ったように、くるまっていた洋服を丁寧にたたみはじめる優子は、
いつもと何ら変わりのない様子だが、
鏡越しに見る優子は、どこか切なげだった。
「驚いたでしょ。ひどい散らかりようね。」
鏡を見つめていた優子の足下に、一枚の写真が置かれていた。
手にとって確認してみると、一人の美しい女性が写っていた。
・・・黒髪のロングヘアーに白い麦藁帽をかぶっている。
色白で細い顎。細く通った眉に、切れ長の目・・・美人だ。
「この女の人・・・優子に似ている・・・・」
「・・・私の、お母さんの写真よ。」
「この人が優子のお母さん・・・」
その写真を見た瞬間、優子に似ていると思った。
しかしそれだけではない。どこかで、見たことがある・・・
「・・・私が7歳の時に、死んじゃったけどね。体が弱かったんだ。」
「・・・亡くなった・・・ごめん、優子。知らなかった・・・」
「この洋服もね、ぜーんぶお母さんの物なんだ。今着ている服もそう。
私が持っている女の子用の服は、ほとんどがお母さんの服。」
「これ、全部・・・優子のお母さんの、形見なんだ。」
「お母さんの形見の服に囲まれて、写真を見ながら泣くなんて、
やっぱりマザコンかな。」
「ううん。男の子は、みんなそうだよね。」
優子の意外な一面を見た気がした。
いくらお胸が立派だろうと、顔立ちが奇麗だろうと、
やっぱり内面は男の子なんだね。優子の気持ち、わかるよ。
「もう、ノックぐらいしてよ。おかげで格好悪いところ見られちゃったじゃない!」
「おあいこだよ。ボクだって、
優子にめちゃくちゃ恥ずかしいところを見られたんだから。」
「ところで・・・いったい何の用なの?任務はまだ継続中のはずよ。」
「うん。1日じゃ描き終わらなかったから、
また明日もモデルになりに行くんだけれど・・・優子も、一緒に来ない?」
ハッキリと思い出した。
優子のお母さんの写真を見たときに、
何処かで見たことのある人だと感じた。
それは、優子に似ていたから・・・それだけじゃなかった。
そうなんだ。今日、絵描きのお爺さんのところで見せてもらった、
あの肖像画の女性にそっくりだったんだ!
「例の絵描きのお爺さんが、昔に描いた肖像画のモデルがね、
優子のお母さんにそっくりなんだよ。」
「・・・お母さんに?」
「本当だよ。服装も、あの写真とそっくりだったよ。
お爺さんにその絵を見せてもらったときに、
最初は優子に似てるなって思ったんだ。
でも本当は、優子のお母さんにそっくりだったんだ。」
「・・・でも・・・お母さんは、私が7歳の時に死んだのよ。」
「あのお爺さんが言うには、
そのモデルの女性も12年前に亡くなったって言ってたんだ。
優子は今19歳だから・・・ちょうど同じ年になるよ!もしかすると!!」
「・・・・・・・・・・明日は、駄目よ。行くところがあるの。」
「用事があるの?・・・モデル、結構おもしろいのに。」
「お断りよ。それにヌードモデルでしょ?
私、お爺さんなんて、ぜーんぜん射程範囲外なんだから。
カッコイイ男の人の画家なら、脱いじゃうケド。」
「あ・・会うだけでも良いから、駄目?」
「イヤよ。それに・・・今回の任務は穂香の単独よ。
せっかくの休日なのに、どうして私が依頼人に会わなくちゃいけないのよ。」
「・・・優子、つめたいな・・・用事があるのなら、仕方ないけれど。」
・・・生前のお母さんを詳しく知っているかもしれない相手なのに・・・
明日、優子は何処へ行くつもりなんだろう・・・

                   つづく




アニト(8月28日(月)23時48分15秒)
沙希さん、こんばんは。
いえ、わたしの方こそ
沙希さんに幸福を分けていただいているのです。
縁あって知り合い、沙希さんの物語を読むことができる、
こんなにうれしいことはありません。
沙希さんのおチカラを必要としている人はわたしだけではないはすですよ。




沙希(8月29日(火)21時54分53秒)
みなさんこんばんは。沙希です。
アニト様をはじめたくさんの人に励まされ
そしてお話を読んで頂けて嬉しい限りでございます。
これからもがんばります。
MRF−6:女装者
− 第3話「エール」 −
4th.
男への恨み・・・さしあたっては、父親への恨みかな。
身体の弱かったお母さんを捨て、あの人は姿を消した。
許せない・・・そんな父への当て付けのように、私は女装し、
お母さんの面影を追っていたのかもしれない。
これじゃぁ、穂香と変わらないわね。
(例の絵描きのお爺さんが、昔に描いた肖像画のモデルがね、
優子のお母さんにそっくりなんだよ。)
・・・それはたぶん、本当の事なのだろう。
お母さんをモデルに絵を描くために、
家へ通い詰めていた画家がいた事は、私の記憶にも残っている。
父親が去った後に、母の入院先の病室にも、何度か来ていたのだから。
もしかすると、その絵描きのお爺さんという人は、
今日、ここに来るかもしれない。
お母さんの最期を看取った人だから・・・
父親さえ知らない、お母さんの一面を見続けていた人だから・・・
もしかすると、私さえ知らない母親の顔を知っている人なかもしれない・・・
「・・・私、あなたの面影を、ずっと追い続けてきたの。
私が7歳までの、ほんのわずかな、あなたとの時間。
その記憶を頼りに、今の自分を作り出したの・・・
・・・私、間違ってるかなぁ?・・・お母さん。」
お盆にはまだ少し早いので、私以外に人の気配は全くない。
遠くに見える森林の中からはアブラゼミの鳴き声が。
なんの遮へい物も無い広大な敷地に、
真夏の太陽光線は芝生を焼くように降り注ぐ。
お母さんの命日は、毎年暑かった・・・12回目の夏だ。
「Midori Kusakabe 1964−1993」
そう刻まれた墓石の前に、12本の菊を手向けた。
・・・ふと身体起こすと、軽い立ちくらみのような感覚を覚えた。
遊歩道の彼方に、一本の日傘が見える。
アスファルトからの熱気で、ゆらゆらと陽炎う白い日傘の下には、
男女のカップルが見え、こちらに近づいてくる。
「お母さん・・・私、やっぱり、コレを期待していたのかもしれない。」
・・・急に、笑いがこみ上げてきた。
あの娘は、なんて言うだろう?
「やっぱり、そうだったんだ!」と、得意げに言うだろうか。
それとも、あの娘の性格上、「ボク、知らなかったんだ・・・ごめん。」と、
意味不明な謝罪をするのだろうか。
・・・あちらさんも、私の存在に気付いたようだ。
私を指さして、何やら話をしている。
あの二人、なかなか良い雰囲気じゃないか。
とても男二人のカップルには見えないよ。
あの、よそ行きのサマードレス・・・見たこと無いな。
穂香の奴め、きっとモデルのお礼にプレゼントされたんだな。
絵描きのお爺さんとやらも、なかなかの紳士ぶりじゃないか。
「あれれ?やっぱり優子だ・・・どうしてここに?」
「今日はね、命日なのよ、お母さんの。」
「ということは・・・やっぱり、お爺さんの絵のモデルって、
優子のお母さんだったんだ!!やっぱり、そうだったんだ!!」
予想通りの反応ね、穂香。
・・・お母さん。生前のお母さんをモデルにした画家が、
お母さんの最後を看取ってくれた人が、今ここに来てるんだよ。
わかる?お母さん!今の私の、この安堵感が!
「優子・・・今日、行くところがあるって・・・
お母さんのお墓参りだったんだね。毎年来てるの?」
「・・・バカねぇ。今年は12年目で、ちょうど一回りじゃない?
だから今年は、たまたま来てみたのよ。」
「はて・・・そうですかな?・・・私は毎年来ておるのですが、
そのたびに、菊の花が、年を重ねた数だけ供えられていましたが。」
老紳士風の画家が、そう言ってニコリと笑った。
そして老紳士は、私と同じように12本の赤い曼珠沙華の花を、
丁寧に墓前へ手向ける。
・・・馬鹿ね。穂香の前で何を言うのよ。照れくさいじゃない。
それに、この時期に曼珠沙華なんて、手に入れるのも大変だったでしょうに。
ずいぶんと洒落たマネをしてくれるじゃない?
もう、私の負けだわ。
「穂香・・・私ね・・・」
「なに?優子。」
「私ね、7歳の時に母が死んで、それがきっかけで女装するようになったの。
毎日毎日、鏡の前で女装して、それで寂しさを・・・紛らわせていたのね。」
「・・・優子・・・」
赤い曼珠沙華が、目の前でゆらゆらと揺れて見える。
アスファルトの熱気のせい?それとも、立ちくらみ?
まさか。しゃがんでいるのに!
「私・・・少しずつ、母親の面影に・・・近づくように・・・
少しでも・・・奇麗になりたいと・・・」
「優子さん・・・今の優子さんは、お母様に生き写しですよ。
本当に、綺麗になられたました・・・」
大粒の涙が曼珠沙華を濡らした。
母親の墓前で涙を流すなんて。
また穂香に、格好悪いところ見られちゃったわ。
「・・・優子さん。もしよろしければ・・・
優子さんの絵を描かせていただけないでしょうか?
穂香さん同様、正式に依頼したい。」
「そうね・・・12年ぶりに、描いてもらおうかしら。あの頃のように・・・」
白い麦藁帽をかぶり、精一杯気取って、そう答えた。
もしかすると、お母さんがそう言わせたのかもしれない。
・・・穂香から老紳士と日傘を奪い取り、相合い傘で遊歩道を歩いてみた。
穂香も、墓前へ丁寧に手を合わせた後、
一定の距離を保ったままテクテクと着いてくる。可愛い奴め。
お母さんのフリをしているせいか、妙に母性本能をくすぐられる。
でもね、穂香。今は、私の隣にいるこの老紳士がお気に入りなの。
だからもう少し待ってね。
いつか、そのうち・・・自分の中できちんと準備が出来たら、
ちゃんと穂香をモノにしてみせるから、覚悟しておきなさいね。
*  *  *  *  *  *
・・・青く、雄大な海・・・
水底から上を見上げると、太陽の光がゆらゆらと揺れている。
水面が近いのか。
少しずつ上昇するにしたがい、身体の感覚が戻ってくる感じだ。
目の前のフィルムスクリーンには、イルカが無邪気に泳ぎ回っている。
「・・・沙希。ありがとう。」
・・・ボクは、衝動的な感情にまかせて過去を切り捨ててしまった。
だけど優子はどうだろう?
・・・優子は、母親への思いが募るあまりに女装を始めたんだ・・・
まるで過去の思い出を大切に保存するかのように。
そんな優子に、エールを贈りたい。
過去の記憶を捨て、そして未来も見えないボクは、
あのお爺さんのような年の重ね方ができるのだろうか。
そして年老いたとき、今のボクの失敗を振り返りながら、
バッハの「エール」を聴いて浄化する・・・
もしそうなれたら、素敵だね・・・
「穂香ぁ、新しい指令が・・・・・
あーーーっ!!穂香ってば、またひとりエッチしてるっ!!」
「うわぁぁっ!ゆ、優子!」
自室の自動ドアが開かれる音で、現実へと引き戻される。
またしても部屋のカギを閉めるのを忘れていたんだ。
「隠さなくても良いじゃない!どうせ私と穂香は恥ずかしい仲なんだから!」
「やだっ!やめてっ!スカートめくらないでっ!!」
「あら、何?このティッシュ・・・」
「あっ!!駄目っ!!」
「なぁんだ、もう終わっちゃったんだ・・・それじゃぁ2回戦いってみよー!」
優子・・・過去に色々あるみたいだけど、今はただのヘンタイだよ・・・!!

                              おわり




アニト(8月29日(火)23時37分26秒)
沙希さん、こんばんは。
今、沙希さんの周りには多くのお友達がいます。
物語に対する感想はうれしいでしょうし、
物語の前の挨拶文から感じ取れる沙希さんの心の在りように
励ましの言葉をかけてくれることも心強く感じているでしょう。
では今度は逆に沙希さんからみんなに
多くの言葉をかけていただけませんか?。
沙希さんからの「エール」で勇気づけられる人も多くいるはずから。

MRF−6:女装者−第4話『白色の少女たち』

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