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沙希(8月10日(木)18時01分54秒)
みなさんこんにちは。沙希です。
夏バテでぐったりしていました。
ようやく復活しました。
MRF−6:女装者
  − 第2話「記憶の二重鎖」 − 1st.

「プルルルルル・・・プルルルルル・・・」
青い絨毯の引かれた広い部屋。
必要以上に高い天井が、その部屋の広さ、空虚さを強調している。
そして大きく切り開かれた窓には、
西日を遮断するために青のカーテンがひかれ、薄暗い。
その窓際を、背を向けるように一つだけ置かれた大型のデスク。
そこに備え付けられた電話のベルが沈黙を破った。
・・・この部屋の主である背の高い威厳ある男が、
電話をスピーカーフォンに切り替える。
「はい。私だ。」
(司令、ALISS2への予算割り当てが可決しました。
こちら側の要望はおおむね通りました。)
「わかった。それで、機動班の方はどうなっている?」
(現在、第6班まで作成されています。
全班で9名。新しい班は2名。二人とも女装者です。)
「女装者・・・またか。」
(はい。機動班としてはまだ・・・
”未熟”ですので、監視下の元へ置いておいた方がよいかと・・・)
「わかった。それは主任であるキミに任せよう。
それで、彼女は今どこに?」
(ペアの日下部優子と共に、ミッションを遂行中です。)
「絶対に目を離すな。それと、彼女に関する詳細な資料を。」
(かしこまりました。早急に。)
青のカーテンを開けると、強烈な西日が降り注ぐ。
冷房のききすぎた薄暗い部屋で一日を過ごすと、
この強烈な光線は目眩を覚えるほどだ。
眩しさに慣れてくると、目の前には筑波の山並みが大きく広がる。
眼下には学園都市が一望でき、一見のどかな風景にも見えるが・・・
山裾には、巨大な粒子加速器の実験施設がぐるりと取り囲んでいる。
「9人まで見つけた・・・あと一人。ALISS2への移行はもうすぐか。」
 *  *  *  *  *  *
・・・僕は、夢を見ている・・・いつもの、あの夢だ。
学校の教室・・・終業のベルは嫌いだった。
もし、地獄の扉が開く鐘の音があるのなら、こんな音がするのだろう。
放課後は、クラスメイトが寄って集って僕を取り巻く。
その中には男子だけでなく、興味本位の女子までもが含まれる。
抵抗すると容赦なく殴られ蹴られ、両手両足を押さえつけられた。
そのまま教卓の上まで運ばれ、毎日恒例の「解剖ショー」が始まるんだ・・・
「ほら、見ろよ!こいつ本当に姉貴のパンツ履いてやがんだ!」
「変態だぜコイツ。パンツの下、もうおっ立ててんじゃん。」
「やだー!信じらんない!ホントに履いてくるなんて。アハハハハ!!」
「おまえ、そんなに女装するのが好きか。なら、もっとさせてやるよ!」
お願いだ、やめてくれ。
クラスには、僕の好きな娘もいるんだ。
彼女の見ている前で、これ以上の醜態をさらせというのか。
でも、抵抗は出来ない。
男子のうち一人が、人集りの中をかき分けるようにして、
女子の体操服を差し出してきた。
胸のネームには「上澤」と入っている。
そんな・・・あんまりだよ。
「おまえ、生意気に上澤のことが好きなんだろ!知ってんだよ!」
「やだっ!その体操着、私のじゃない!やめてよ!」
「ちょっと借りるだけだよ。コイツ、おまえのことが好きなんだぜ」
「いやーっ!やだぁ!」
クラスメイトみんなが見ている前でパンツ一枚の姿にされ、
上澤さんの体操服を着させられる。
上澤さんの温もりと汗を吸い込んだ体操服。
憧れなかったと言えば嘘になるけど、こんなのは・・・嫌だ・・・
「やったぁ!写真撮ろぉぜ!」
「やだ、やめてよ!私の体操服!」
「早くシゴけよ!
姉貴のパンツと上澤のブルマー履いてオナニーしてみろよ!」
デジカメのフラッシュが光る。
大勢の見ている前で、上澤さんの見ている前で、
自分で自分のモノをシゴかなくてはならない。
大きく隆起した僕のソレは、小さめな姉さんの下着には既に収まりきれず、
上澤さんのブルマー一枚を隔てるだけだ。
「あーっ!濡らしてやがる!!こいつ、先走り出てるぜ!」
「やめてよ!私の体操服、汚さないでよ!」
「ほら、イケ!はやくイケ!!」
クラスメイトにはやし立てられながら、射精するんだ・・・
歓声が上がり、フラッシュがたかれ・・・
上澤さんの悲鳴も聞こえてきた。
その瞬間、僕はの体を真っ二つに切り裂かれた気がした。
「上澤、泣いちゃったぜ。」
「おまえ、謝れよ!」
「ブルマー頭に被って、土下座しろ!」
「土下座!土下座!土下座!・・・・・・!!」
射精して汚してしまったブルマーを頭に被り、
姉の下着に収まりきれないモノを露出したまま・・・
彼女に土下座した。
僕は彼女の体操服を汚してしまった。
泣きながら謝ったが、床に擦り付けている頭の上に、
彼女の蹴りが振り下ろされた。
「・・・サイテー。」
顔が上げられなかった。
立ち去る彼女の姿を見ることもできなかった。
次から次へと降りかかるクラスメイト達の蹴りを浴びながら、僕は思った。
もう、僕のいられる場所は無い。
僕が吸って良い空気は無い。
僕が生きている理由も無い。
死んでしまいたい。
そうだ、もっと早く、死ねば良かった。
そうしていれば、彼女を傷つけることもなかったんだ・・・
そうして僕は、睡眠薬を飲み、手首を切った。
 *  *  *  *  *  *
・・・しかし、目覚めるとそこは・・・病院だった。
無情にも、僕の前に朝がやってきたんだ。
もう二度と見たくなかった朝日なのに。
死を待ち望み、今日で何日目になるだろう・・・
もう嫌だ。学校へは行けない。
クラスメイトの男子も怖い。女子も信じられない。
・・・もう全て、嫌なのに・・・なぜ、朝が来る?
「コンコン・・・おはようございます。検診の時間です。」
いつもの看護婦とは違う声だった。
僕の担当が変わったのだろうか。
いくら担当を変えたって、嫌なものは嫌だ!
看護婦だろうが、看護士だろうが!男も!女も!
「はじめまして!今日から泉水さんの担当になりました、
河合穂香と申します!
まだ見習いの看護婦ですが、一生懸命がんばります!よろしくね。」

                            つづく




アニト(8月10日(木)23時44分53秒)
沙希さん、こんばんは。
夏バテによる体力の回復、そして復活おめでとうございます。
『空想デート』が沙希さんにとっての
さらなる元気の元になってくれればいいのですが。
またまた謎めいた始まり方ですね。
はたして、いじめられっこの僕(泉水)と、
今度は見習い看護婦として登場した穂香との、今後の関係やいかに??。
そして「ALISS2」とは??。
今後の展開を多いに期待しています。




沙希(8月11日(金)22時44分24秒)
こんばんは。沙希です。
アニト様おひさしぶりです。
また書き込ませていただきます。
綾乃様>
おひさしぶりです。
とはいえ、書き込むのは久しぶりですが、お話はずっと読んでいました。
カミングアウトは、女装子にとって一大イベントですよね。
私はまだ果たせていませんが。
そのうち、私のお話の中でも取り扱おうと思う難問です。
MRF−6:女装者
  − 第2話「記憶の二重鎖」 − 2nd.
「ねぇ優子、このナースキャップっていうの、未だに付け方が分からないよ。」
「穂香ってば、ほんとに鈍くさいんだから。
演習でちゃんと教わったでしょ! なに聞いてたの?」
「ん・・・あのね、ボク、看護婦さんの制服、大好きなんだ。
柔らかくってスベスベして。大好き!
それでね、着てるだけで、酔っちゃう感じなんだ。」
「あんたって娘は・・・」
「これを着てると、心まで優しくなれるような気がしない?
それにこのナース服、優子が好きなピンクだよ!」
「わかったから!はやく着替えちゃいなさい。
キャップは私が作ってあげるから。
まったく・・・ぺったんこの胸、さらけ出したまんまで・・・」
優子の言うことはもっともだった。
早く着替えておけば良かった。モタモタ着替えをしていたら、
とうとう更衣室を利用する本物のナース達が、
次から次へと入ってきてしまった!
お胸のない私は、人前では着替えられないんだ。
「あわわっ!!どうしよう!!」
「ほら!穂香!早くパッド入れてっ!!」
「うわぁ!落ちた!ボクのお胸が落ちたっ!!」
普通の女の子ならまず使う事は無いほどの大きなサイズのパッドが、
慌てた拍子にコロコロと転がり、
無情にも更衣室へと入ってきた本物のナース達の群衆へ突入していった。
この仕事を始めてから、かつてこれほどの危機があっただろうか!?
・・・ううん無いよ。
「やだ・・・ナニコレ・・・!パッド?」
「これ、穂香ちゃんの?まさか・・・あなた・・・!!」
(バカ穂香!!・・・あ〜あ、もう知らない。)
ああ神様。こんな事なら、優子の言うことを聞いて、
テキパキと着替えるんだった。
ううん、それよりお注射を嫌がらずに、本物のお胸を作っておくべきだった。
でも、お注射だいっ嫌いだったんだよ・・・でももう、遅いよね。・・・?
「うっそー!!穂香ちゃんてば、こんなにサバ読んでたの!?」
「やっだー!!あんたの胸、ぺったんこじゃない!カワイイーッ!!」
「でも、乳首は尖ってるわよ!ちゃんと感じるのかしら?」
「おとこのこみたーい!おちんちんも付いてるんじゃないのぉ?」
「うわぁっ!ちょっと!やめてっ!いやんっ!」
「コラァッ!!何騒いでるのっ!さっさと着替えて仕事行きなさーいっ!!」
・・・鬼のように怖い婦長だけれど、今回ばかりは助かったよ。
「チョット待ちなさい。新人!」
「は、はい、婦長!」
「河合さんだったわね。
はい、これを持って、担当の患者の所へ行きなさい。」
「・・・こ、これは・・・!!」
 *  *  *  *  *  *
「・・・河合穂香さん・・か・・・綺麗な人だったな。」
昨日、研修に来たばかりの、看護婦の卵なんだそうだ。
僕、クラスメイトの女子の前で、あんな醜態をさらして。
もう女の人は(もちろん男も)好きになれないと思っていたのに。
穂香さんは、他の女の人とは違う感じがする。何故だろう。
・・・歳はいくつなのかな?女性に歳を聞くのは失礼かな?
「コンコン!失礼します。泉水さん。具合はどうですか?」
「あっ・・・ほ、穂香・・さん・・・」
「あれ?顔が赤いですね。昨日はお熱なかったのに。」
今朝は、あの悪夢にうなされることなく目覚めたんだ。どうしてだろう。
ここに入院してからというもの、ずっとあの悪夢に苦しめられてきたのに。
「はい。ちょっとこれ、くわえてね。すぐ終わるから。」
夜、眠るのが怖かった。
悪夢を見るのが怖かったから。
朝、起きるのが怖かった。
死ぬ事ができず、また新しい一日が始まるのが怖かったから。
「・・・36度8分・・・あれ?平熱ですねぇ。でも、顔は赤い・・・」
でも・・・自分の中で、何かが変わったのだろうか。
どうしてこんなに、落ち着いた気持ちになれるのだろう。
落ち着いてる?いや、待て!あそこは・・・!!
「傷口は2週間経っているからほとんど塞がってるけど、
薬のアレルギー性発熱が安定するまでもう少しの辛抱だからね。
うん、もう少しらしい。たぶん。・・・それで・・・ね・・・」
穂香さんがやたらと恥ずかしそうにしているので、嫌な予感はしたんだ。
もう、慣れっこの筈だけど、でも、穂香さんには・・・!
「はいこれ、溲瓶です。オシッコを採ります、検査のために。大丈夫かなぁ。」
布団をめくられ、パジャマのズボンを下ろされる。
あぁ、嫌だ、思い出す・・・
クラスメイトの前での解剖ショーが、脳裏をかすめる・・・恥ずかしい。
穂香さんの前で、僕は自分のモノを、大きくしてる・・・
「下げます、下着。検査の為です。
あれ?倒置法になってますね、セリフが。」
「ごめんなさい・・・僕・・・」
「おっきくなってますね、あそこが。大丈夫です。たぶん・・・」
恥ずかしいのか、穂香さんは窓の外の風景を見ながら
手探りで僕のモノを触る。
恐る恐る触るので、よけいに敏感になってくる。
あぁ、また僕は、醜態を・・・
「うわっ!!」
「ご・・ごめん・・なさ・い・・・うっ!・・・っ!」
「わっ!・・・わっ!・・・こんなにたくさん!どうしよう?
私、そんなつもりじゃ・・・」
「ごめんなさい・・・穂香さん・・・ごめんなさい・・・」
「いえ、あの・・・私の方こそごめんなさい。ちゃんと綺麗にします!」
僕を慰めるかのように、優しく処置してくれた。
穂香さんて、優しいんだ。
「あの、溲瓶の中にも、入っちゃったから・・・取り替えてくるね。」
・・・こんなにも恥ずかしい思いをしたのに、
穂香さんになら、心の内を明かせそうな気がする・・・
溲瓶を持って、いそいそと部屋を出る彼女の背中を見ながら、
僕はそう感じた。
 *  *  *  *  *  *
「・・・仕方なかったんだよ・・・中で出されちゃったんだから・・・」
「キャーッハッハッハッハッハ!!
やっぱりあんた、本物のバカだったんだ!
オシッコ採ってくるはずが精子なんて採ってきて!本物のバカよ!!」

                            つづく




アニト(8月12日(土)23時17分01秒)
沙希さん、こんばんは。
いろいろな手法で楽しませてくれますねー。
穂香と優子の人間くさいやりとりによって
人物はもちろんのこと、物語に奥行きが感じられます。
カミングアウトは、リアルな世界では
やはりさまざまな葛藤と障害があるでしょう。
人によっては「しない」のも正しい選択です。
そこのところを描けると、またおもしろい物語になると思います。




沙希(8月13日(日)21時30分27秒)
みなさんこんばんは。沙希です。
>瑞樹様
こんばんは。
MRFとは、Maneuver Riot Forceの略です。
(今のところ)あまり深い意味はないんです。
今回から、意味不明の言葉には解説を付けてみます。
綾乃様>
こんばんは。
200話というのは、すごいです。1000話目指してください!
じつはですね、穂香というキャラクタを創り出すときに、
参考にしたのが綾乃さん(綾人君)だったんですよ。
まだ、完全に女の子になりきっていない男の子。
とっても危うげで、「誰かに守ってもらわないと、壊れちゃう」という感じ。
で、私のお話では、優子が穂香のお守り役です。
MRF−6:女装者
  − 第2話「記憶の二重鎖」 − 3rd.
(これが9人目、河合穂香に関する資料です。)
司令室の大型デスク上に展開されたフィルムディスプレイに、
主任からの調査報告書が映し出される。
名前、顔写真、生年月日・・・そして過去の経歴。
「ご苦労。・・・ふん、河合穂香17歳。本名:河合広海。
・・・河合穂香とSAKI、二つの人格を有する。
記憶障害もあり、過去に飛び降り自殺!?
これはいったい、どういうことだ?」
(3年前、C1NEL管轄内のメディカルセンターの屋上から、
飛び降りています。ちょうど今、任務遂行に出向いている病院です。
当時、危篤状態でしたが、
GRAND BLEUにより一命を取り留めています。
記憶障害は、GRAND BLEUの副作用かと思われますが・・・)
「二つ目の人格がSAKIというのは・・・例の、SAKIか?」
(はい。ALISS2の基礎理論となる仮想人格、SAKIが干渉しています。)
「やはり要注意だな・・・
それにしても、ALISS2の基礎理論となるその心・・・
彼女の心を、一度覗いてみたいもんだな。計画を急ぎたまえ。」
 *  *  *  *  *  *
「ハックシュッ!!・・・ううぅ・・・」
「なぁに穂香、カゼ?病院に潜り込んでカゼひいてちゃ、世話無いわね。」
「・・・ちがうよ。誰かがボクのウワサしてるんだよ。やだな、もう。」
「ウワサねぇ・・・」
はぁ・・・確かにそうだわ。
ナース達の憩いの場、ここナースステーションでは、穂香はウワサの的よ。
怖い怖い。ナース達を見ていると、
まるで公園デビューした主婦達のようだわ・・・
「ねぇねぇ聞いた?あの新人の娘!」
「聞いた聞いた!206号室のクランケ担当している娘でしょ!」
「尿採取の筈が、精子採取してきちゃったって話よ!」
「なんか、カワイイわよねぇ。天然っ!て感じで!!」
「胸にパッド入れてるらしいわよ。本当はペッタンコだって!」
「あの娘、ナースステーションの歴史に残る新人だわ!」
・・・ああ、まったく穂香の奴。
私たち、任務でこの病院へ潜入してるって、解ってるのかな。
あれほど目立っちゃいけないって言われてるのに、
「歴史に残る新人」とまで言われて・・・
「ところで優子、ボクたち、いつまでこんな事してるの?任務は?」
そうなのよ。主任からの連絡がないのは、何故?
ここに潜入してすでに3日経つというのに、
未だに任務の内容が知らされない・・・
「とにかく、穂香は206のクランケに張り付いてなさい。
それがミッション始動段階での命令なんだから。」
「ん・・・でもね、あんまり気が乗らないんだ・・・ボク。」
 *  *  *  *  *  *
重い灰色の空から、せきを切ったように雨が落ち始めた。
リクライニングされたベッドに横たわる少年は、
閉め切られた窓に打ち付ける雨粒を眺める。
その右腕にはアレルギーを押さえるための薬と、
栄養剤を含んだ点滴のチューブが取り付けられており、
そして左手首に巻かれた包帯が白く眩しい。
・・・206号室。
「穂香さん・・・僕が入院している理由は、知ってるよね。」
「・・・うん。学校で、虐められていたって、聞いたよ。」
「・・・最初はね、クラスメイトの男子に虐められていたんだ。
殴ったり、蹴られたり・・・
でもそのうちに、教室で服を脱がされるようになったんだ。
そうしたら、クラスの女子までが一緒になって・・・
みんな、ただの興味本位だったんじゃないかな。
まるで、僕の人格を無視した「生身の解剖実験」だったよ・・・」
「泉水・・くん・・・もう、いいよ。また辛くなるよ。」
本当は、「自分」が辛いんだ。
この少年は、イヤになるくらいにボクにそっくりだった。
ボクには泉水くんの痛みが解る。だからこそ、こんな話は聞きたくない。
ボクはもう忘れたんだ。忘れたばかりなんだ。
こんな話を聞いてしまうと、せっかく塞いだ傷口が、開いてしまう!
ボクには、泉水くんの話を受け止められるほどの許容がない!
「ひどい虐めを受けて・・・男子はもちろん、女子も怖くて・・・
もう、誰も信用できない、誰も好きになんてなれないと思ってたんだ。
だけどね・・・」
白い包帯を巻かれた手がボクの手を取り、少しずつ力が入る。
「穂香さんには、感じないんだ。男子の乱暴さや、女子の陰湿さが。
どうしてかな?」
「ど、どうしてって・・・言われても・・・わ、私は・・・っ!!」
握られた手に、思わず汗をかいた。
バレたのかな?ボクが女装者だということが。
完全な男でも、女でもない、えらく中途半端なボクの心は、
泉水くんにとっては、
とても心地の良いぬるま湯のように感じられたのだろうか。
「本当は・・・僕・・・ちゃんと解ってるんだ。
穂香さんになら、心の内を話せる、その理由が。
・・・それは、穂香さんが、看護婦さんだから。」
「・・・え?」
「看護婦さんて、本当に天使みたいだ。僕、救われたんだ。
人間不信になって、死のうとまでした自分が、
今ではこうして、普通に会話もしているなんて。」
「・・・それは・・・違う・・・私は・・・違う・・・」
「・・・どうしたの?穂香さん・・・?」
看護婦だから?
看護婦だから手当をして、やさしくするのは当然?
キミの口から、そんな悲しいこと言わないで・・・
ボクと泉水くんは、同じなんだよ。
だからこそボクは、泉水くんの心の痛みが解る・・・
ボクは立ち直れなかったけど、
泉水くんには、ボクと同じ失敗を繰り返して欲しくないんだ。
・・・違うよ、違うんだ。ボクは看護婦なんかじゃないんだよ。
自分の心すら治せない人間が、どうして他人の治療なんてできる?
「・・・私は・・・違うの。」
「・・・穂香さん?・・・手が、震えてるよ?」
今回の任務では、自分の素性を明かしてはならない。
それは解っているんだよ。
でも・・・それじゃあんまりにも・・・
「私はね・・・本当は・・・看護婦なんかじゃないの・・・」
雨が打ち付ける窓の外に、一瞬の閃光が走る。
梅雨の終わりを告げる雷だった。

            つづく
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
解説
ALISS:
ヒトのDNAの塩基配列パターンを高速自動解析するために
開発されたスーパーコンピュータ。
このALISSの導入により、
ヒトゲノムの完全解析が10年早まったといわれる。
ヒトゲノムの解析が完了した現在では、
臨床現場にて患者それぞれの心身状態に対し
適切な医療プランを自動決定し、
総合的管理を行うコンピュータとして導入されている。
ALISS2とはALISSの後続機に当たるが、
C1NEL研究施設内で現在も調整中。




アニト(8月13日(日)23時43分57秒)
沙希さん、こんばんは。
陽気さの裏にそのような過去があるとは・・・。
哀しい体験を持つから人はすこしずつ強くなれる(なろうとする)のですね。
(でも穂香のモデルが綾乃であるならば、天然かも!)
はたして穂香はどう対応するのでしょう?。ワクワク。
SAKIとはどんな人格なのでしょう?。ドキドキ。
それと、ビジュアル的にたいへん読みやすい文面なのですが、
『別棟』への転記の際、作業が少し多くなってしまいます。
行頭は空白を入れることなく、詰めていただくと助かるのですが。

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