私は21歳以上です。



    愛は闇の中に   B

                       苦 例自慰


○大使館のような豪邸(夜)
    明かりを全部消している豪邸。
    遠くで車のクラクション、犬のなく声。

○ 同 豪邸(午前六時ごろ
    玄関前に赤のクラウンが止まっている。
    豪華な彫り物のある玄関のドア。
    そのドアが開いてまず明海、次に百恵、次に朝子。
    最後にエプロンを付け旅行かばんを持った悦子が出てくる。
明海「(三人を振り返り)それじゃあ、行ってくるわね」
    うなずく百恵と朝子。
    悦子は車のトランクを開けかばんを中に入れる。
    運転席に乗り込む明海。
    窓を明け、近づいてきた百恵と朝子に、
明海「地下室のペットだけど、いじめすぎてだめにしないでね。帰ってきてから楽しめなくなってしまうから」
百恵「大丈夫。お母様の分は取っておくから、ねー朝子先生」
朝子「さあー」
明海「いやねー。頼んだわよ。あなた達だけ楽しんだ後は使い物にならないなんていやぁよ」
百恵「それより、あのペットをかわいがる面白い道具があったら買って来て……」
明海「そうね……?」
   腕時計を見て、
明海「そろそろ行かなくちゃ」
   車のエンジンをかけ、
明海「行ってくるわね」
   車がゆっくり動き出し、
百恵「いってらっしゃい」
   と車に手を振り、
悦子「いってらっしゃいませ」
   と車に一礼。
   走って行く車を見送って、さっさと家の中に入っていく朝子。

○地下室(前シーンと同じ地下室)
   部屋の入り口の対面の壁に直角に置かれた簡易ベッド。
   そのベットの四隅のアームに黒皮の枷で手足をくくられている、
   全裸の苦 例自慰。
   体の鞭の跡は増え、ロウの冷えたものがところどころに……。
   口は全カットと同じ蓋付の猿轡がされいる。
   ぐったりとして、動かず横を向いて目を閉じている。
   ほかには誰も居ない地下室。

○ 同 入り口ドア
   ドアの下からうっすらとした煙が入ってくる。
   
   ベッドに拘束されている苦例自慰。
   「ううー」とうめく、涙があふれ出ている苦例自慰の顔。
   
   入り口ドアの下からの煙。
   はっきりと白い煙となり、どんどん流れ込んでいる。

   ベッドの苦例自慰。
   横を向いている顔。臭いをかぐ鼻の音。
   はっとして正面を向き、頭を起こし、あたりを見回す。
   お玉を起こしたままの正面で停止し、入り口を凝視する。
   どんどん白煙が流れ込んでくる入り口。
   頭を起こしたまま、うめき激しくもがく苦 例自慰。
   どんどん流れ込んでくる白煙。
   バターン
   入り口のドアがいきおいよくあけられ、
悦子「だ、だんな様! ゲホン、ゲホン……」
   咳き込み、よろけながらもベッドの方へ、
   その悦子を見つめ、さらに激しくもがきうめく苦例自慰。
悦子「だんな様! 火が……ゲホ、ゲホ……お嬢様が……」
   ベッドにすがりつき、一心に苦例自慰の手の枷をはずす。
   両手が自由になった苦例自慰は即、猿轡をはずし投げ捨てる。
   悦子は我を失い一心に苦例自慰の足の枷を解く。
   そして、激しく咳き込みながら苦例自慰の片足にうつ伏す。
苦 例自慰「しっかりしろ!」
   悦子の肩に手をかけ起こす。
   苦例自慰に支えられたまま顔を起こした悦子。
悦子「火、火が……お、おじょうさまが……」
   せきこみながらわめく。
苦 例自慰「百恵が? 百恵がどうした。おい」
   悦子のホホを往復ビンタして、
苦 例自慰「おい、しっかりしろ!」
   往復ビンタされてはっと我に帰った悦子。
   咳き込みながらもベットから下り、苦例自慰に土下座して、
悦子「だ、だんな様。どうかお許しください。だんな様。どうかお許しください。…………」
   言う度に深々とお辞儀をし、言う度に涙声になっていく。
   そして、激しく咳き込む悦子。
苦 例自慰「(ベットからおり、立ち上がりながら)もう、何にも言うな」
   と、悦子を抱き起こし、
苦 例自慰「早くここを出るんだ!」
   咳き込み、弱っている悦子を抱え、入口に向かう。
悦子「(咳き込み、体を苦例自慰にあずけ)だ、だんな様」
   涙が流れている悦子の顔。
   咳き込む悦子。
   それを抱える苦 例自慰。
   地下室を出て行く二人。

○煙が立ち込め、火の粉がホッッり待っている豪邸の中央廊下。
   自分も少し咳き込みながら、悦子を抱えて歩いてくる。
   二階への階段の上がり口にきた二人。
悦子「おじようさまが……おじようさまが……」
   二階を見上げる悦子。
苦 例自慰「百恵はまだ部屋にいるのか!……」
   うなずく悦子。
   悦子を静かに置き、二階に駆け上がる苦 例自慰。
   あとを追おうとする悦子。
苦 例自慰「(立ちどまり、振り返り)だめだ。お前は来るな。そして、なんとしても早くここから出るんだ。
   いいな……大丈夫。百恵は俺が必ず助け出す」
   二階へと駆け上がっていく苦 例自慰。

○二階、百恵の寝室前
   白煙が立ち込め、火の粉もまばらに飛んでいる。
   苦 例自慰ドアをあけようとノブをまわすが鍵が掛っている。
苦 例自慰「(ドアを両手で叩きながら)百恵! 百恵!」
   返事が無い。
   ドアに耳を押し当てる苦 例自慰。
   ドアから離れ体当たりする苦 例自慰。一回、二回。
   三回目にドアが壊れ、中へ倒れる。
   とたんに白煙が噴出す。
   中へ入る苦 例自慰。

○百恵の寝室
   白煙であまり見えない内部。
   咳き込む苦 例自慰。
   入口横に掛っている赤い大きく長いマフラー。
   それを取っ口と鼻をおおい、手探りでベッドへ行こうとする。
   何かにつまづきベッドに倒れこむ苦 例自慰。
   立ち上がり、つまずいたものを見ようとする。
   ベッドの横に、ピンクのナイトガウンの百恵が倒れている

   マフラーで口をおおい咳き込み顔を近づける苦 例自慰。
   目を閉じ仰向けで横たわり微動だにしない百恵。
   マフラーを横に置き、百恵の両肩に手をかける苦 例自慰。
苦 例自慰「百恵ッ! 百恵ッ!起きろ百恵!」
   百恵の肩を激しくゆすりながらわめく。
   それでも目を閉じたまま動かない百恵。
   百恵の肩から手を離し、ガウンの前を開く苦 例自慰。
   なかは黒いブラジャーに黒いパンティの百恵。
   その胸のあたりに耳を押し当てる苦 例自慰・
   白煙が濃くなり二人を隠す。
   バシッ バシッ(往復ビンタの音)
苦 例自慰の声「起きろ! 百恵、目を覚ますんだ!百恵!」
   往復ビンタの音が数回続く。
百恵の声「あ、お父さま! ゴホ、ゴホ……きゃー火事? 家が燃えてるの、なぁぜ、ゴホゴホ……」
苦 例自慰の声「しゃべるなっ。ガスをこれ以上吸わないようにこれで口と鼻をふさげ! ゴホゴホゴホ……」
百恵の声「お父様。ゴホゴホ私を助けに、ゴホどうしてー私たちにあんなにゴホゴホゴ……」
苦 例自慰の声「いいんだ、もう何にも言うな! ゴボンゴボ。しっかりつかまれ、行くぞっ」
 

○百恵の寝室の前
   壊れたドアかもうもうと白煙が出ている。
   横になった百恵を両手で前に持ち、煙の中から出てくる二人。
   苦 例自慰首に両手を回してしがみついている百恵。
   赤いマフラーで口、鼻を巻いている。
   ドアを出たところで足もつれ、ドアの横の壁に倒れこむ。
   次の瞬間。ドドドドガ―ン!
   百恵の寝室が、温められた煙で凝縮された酸素に引火し爆発。
   ものすごい爆発音とともに、
   二人のすぐ横の入口ドアから炎が吹き出す。
   
   寝室内。
   その爆風が大きい窓を外へと吹き飛ばす。
   外へ飛び散るガラス片。

   寝室前。
   百恵をかばって、瞬間的に覆い被さった苦 例自慰。
   鞭のあとでいっぱいの背中に火の粉がかかる。
苦 例自慰「う、ううっ」
   苦 例自慰を見つめる百恵の顔。
百恵「お父様! だ、大丈夫? ゴホゴホゴホ」
   ふたたび百恵を抱えようとする苦 例自慰。
百恵「大丈夫。わたし立つわ。ゴホゴホ」
   よろけながらも壁に両手をついて、たちあがる百恵。
苦 例自慰「だ、大丈夫か?」
   百恵の片腕を取り肩にかけ手首をつかみ、持ち上げるようにし、
   もう一方の手を百恵の腰に回して体をささえるようにし、
   階段へ。
    
   煙の立ち込めるなか、階段を下りていく二人。
   中ほどにきたとき、
百恵「先生……朝子ゴホゴホ先生はゴホ……」
   二階の自分の寝室の方を見上げる。
   百恵の寝室のドアの周りを炎が燃やし始めている。
   その隣の部屋のドア。隙間からはまだ煙が出ていない。
苦 例自慰「ゴホ……上にいるのか?」
百恵「ええ、私の寝室の隣ゴホ…ゴホ…」
   二階を見上げる苦 例自慰。
   まだ煙の出ていないドア。
百恵「お願い……ゴホゴホ……」
   苦 例自慰から腕をはずし、階段の手すりをつかみ寄りかかる。
苦 例自慰「大丈夫か?」
百恵「お願い……」
苦 例自慰「わかった」
    咳込みながらの会話。
    百恵から離れ、階段を上っていく苦 例自慰。
    咳込みながら手すりを頼りに一歩、一歩下りていく百恵。

○二階
   百恵の寝室を過ぎ、隣の部屋のドアの前に立つ苦 例自慰。
   ドアに耳を押し当てる。
   はっと目を見開く苦 例自慰の顔。
   ぱっと体を反転させ壁に背をつける苦例自慰。
   二階を見上げる百恵。
   次の瞬間!
   ドドバービュー!
   激しい爆発でドアが吹き飛ばされる。
   「キャーッ!」
   百恵の悲鳴。
   ドアから一瞬、炎が噴き出す。
   瞬間的に背を向け炎を避ける苦例自慰。次に、
   下を覗き込む。
   階段にうずくまっている百恵。ドアは中央廊下まで飛んでいた。
   炎に包まれている室内がのがドアの外から見える。
   二階を見上げるも百恵。
   ドアの前に上半身乗り出し中の様子をみる苦例自慰。
   次の瞬間。
   苦例自慰ははじかれたように二階の手すりから身を乗り出し
   百恵に向かって、
苦 例自慰「見るなー! 百恵ッ見るんじゃない……」
   大声でわめく。
   炎の充満した部屋のドア。
   中から、炎に包まれた黒い人間の形をしたものが現れる。
   「キャー! イヤーイヤ!キャー!」
   百恵の悲鳴。
苦 例自慰「見るなー! 見るんじゃない!」
   百恵に大声で叫び続ける。
   廊下に出た炎に包まれたものは、そこで、踊るように一回、
   二回と旋回し、そのまま倒れ、てすりを壊して真下へ落ちる。
   「キャー! 先生が! 朝子さんが! キャー!」
   悲鳴をあげる百恵。そのまま失神してしまう。
   駆け戻り、百恵を抱きかかえる苦 例自慰。
   しかし、ぐったりとして動かない百恵。
   その百恵を階段の下から二段目まで運び、静かにおくと、
   階段脇のキッチンへ飛び込み、ホースを探す。
   しかし、短いものしかなく、水道をひねりバケツに水を満たす。
   そのバケツで何度も、まだ燃えている朝子の炎に水をかけ消して
   キッチンからシーツをもってきてその上にかけ、さらに
   水をかけて、キッチンに戻り洗濯物のかごの中をあさり、
   まだ汚れのついている白い女性用パンツ(パンティではない)
   を取り出しいはき、百恵のところへ戻る苦 例自慰。
   まだぐったりしている百恵を抱き起こし再び頬を打とうとする。
   その時、百恵は目を開き、頭を持ち上げ、口に巻いた赤い
   マフラーを取って投げ捨てる。。
百恵「あらイヤーね。さわらないで」
   身をよじり苦 例自慰の手から逃げようとする。
百恵「だーれ、お父様の手足を自由にしたのはゴホ……」
苦 例自慰「も、百恵?」
百恵「あら、イヤーね。お父様は一生私たちのペットなのよ。そのペットが―゜が私を呼び捨てにするなんて……
   もう一度はじめから調教師直しね。ねー朝子先生」
   百恵の顔が今シーツをかけた朝子の死体に向けられ、
   苦 例自慰はすべてを悟った。
   目から涙が零れ落ちる苦 例自慰の顔。
苦 例自慰「も、百恵」
   手を差し伸べようとする。
   と、百恵はよろよろと立ち上がり、
百恵「お母様?」
   ふらふらと歩き、
百恵「お母様はどこ?」
   階段脇(キッチンの対面)の書斎のドアの前に行く。
苦 例自慰「…………」
   無意識に赤いマフラーを取り手に巻く。
百恵「悦子さんはどこ? ロープを持ってきて、お父様を縛って調教しなおすんだから、みんなどこに行ったのかしら?
   朝子先生はあんなところで眠ってしようがないわねーゴボ……」
   狂った百恵はシーツをにらみ、書斎のドアを背に座り込む。
苦 例自慰「も、百恵……」
   百恵を見つめる。
   涙が次から次へと流れている苦 例自慰の顔。
百恵「水―のどが乾いたわ。ペットちゃん。水を持ってくるのよ。でないとお仕置きよ」
   どうすることもできないくやしさに震える苦 例自慰。
百恵「何してるの。だめなお父様。ククククッ。ゴホゴホ……」
苦 例自慰「(独白)ああ、そうだよ。だめな……」
   それ以上言えずすすり泣く。
苦 例自慰「ハイ、水です。いますぐおもちします」
百恵「あら、悦子さん。どこに居たの。みんなどこに行ったのかしら」
   キッチンへ駆け込む苦 例自慰。
   一杯に水の入ったコップを片手にキッチンを出る苦 例自慰。
   涙が止まらない苦 例自慰の顔。
   苦 例自慰、百恵に近づき、
苦 例自慰「はい、お水ですよ」
   コップを差し出す。
   その瞬間!
   ドドトハーン!
   書斎で爆発が起こり百恵もろともドアが爆風で吹っ飛ぶ。
   「キャー!」
    百恵の悲鳴。
    ドアから炎が噴き出す。
    反射反応で身を伏せた苦 例自慰だが、すぐ立ち上がる。
    炎に包まれたドア、そしてその影にいる百恵。
苦 例自慰「百恵ッ」
    助け出そうと里謡手を伸ばす。
    しかし、噴き出す炎にさえぎられ近づけもしない。
苦 例自慰「百恵! 百恵!……」
    泣き叫ぶ苦 例自慰。
    炎に包まるた書斎のといめんの壁。
    炎は階段を燃やしていく。
苦 例自慰「百恵! 百恵! 百恵!……」
    炎の中に飛び込もうとあせる苦 例自慰。
    しかし、それを許さない炎の勢い。
苦 例自慰「なぜだ!なぜ百恵を殺す。百恵がどんな悪いことをした。悪いやつならほかにもたくさんいるだろう。
   なぜ百恵を殺す……」
   その場にに土下座し泣き叫ぶ苦 例自慰。
   大きくなる炎。

   書斎のドア。
   中は白煙で何も見えない。
   対面の炎。
   飛ばされたドアが燃えている。
   その下の百恵の死体も燃えている。
   立ち上がる苦 例自慰。
   その炎に両手を合わせ、
苦 例自慰「百恵……助けられずに……ゆるしてくれっ」
   目を閉じ合掌する。
   次に朝子の死体に向かい。両手を合わせ合掌し、
苦 例自慰「百恵を……百恵を頼みます……」
   炎は各部屋を燃やし始め、階段を燃やし始めている。
   白煙が周りの様子を消し去ろうとしている。
   咳き込み、よろけるようにキッチンへ入っていく苦 例自慰。

○キッチン内部
   いたるところの隙間から煙が入り込んでいる。
   流しの蛇口を最後まで回す苦 例自慰の手。
   勢いよく流れる水、すくう両手。
   顔を一回、二回と洗う苦 例自慰。
   腕に巻いている赤いマフラーを解き、顔をぬぐい、
   そのままマスクにする。
   薄い白煙がキッチンに充満する。
   アコーデオンカーテンを思い切り開けて、隣の空間に入って
   行く苦 例自慰。
   正面のクローゼットを勢いよく開ける。
   中にはクリーニング店のビニール袋のかかった毛皮のコート、
   その他同じくビニール袋のかかった女性の服が三着掛っいて、
   黒いロングの女性毛皮ののコートを取り、咳込みながら
   あわただしくビニールをやぶる苦 例自慰。
   服の下には赤いハイヒール、黒皮のロングブーツ
   赤い干物スニーカー課へ置かれている。
   コートを着込みながらそれを見つめる苦 例自慰。
   コートを着終わると、赤いハイヒールを取り、ぞぞれコートの
   左右のポケットに入れる。
   白煙の白さが増していくキッチン、苦 例自慰の姿をぼかす。
   外との出入り口のドアのノブに手を掛ける苦 例自慰。
   手を離し振り返り、階段あたりに向き合掌する。
   再び手を掛け外にでようとする。
   シュールル
   振り向く苦 例自慰の顔。
   ノブを回しドアをあけると同時に地面に飛び込みをするように、
   前に倒れる。
   と同時にキッチン内が爆発。
   ドアから炎が噴き出す。
   が、間一髪、地面に飛び込むと同時に体を横回転させ、炎から
   逃れた苦 例自慰。
   すぐに立ち上がり、時々咳き込みながらも、屋敷から一秒でも
   早く離れるために走る。
   走る苦 例自慰。
   そのうしろのキッチンは内部が火に包まれ、膨張し外へ
   砕け散る窓ガラス。単発の小さな爆発音が間を置いて聞こえる。
   走る苦 例自慰の顔、振り向きまた正面を向く。


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