私は21歳以上です。



    愛は闇の中に   C 終

                       苦 例自慰

○火と煙に包まれた豪邸(深夜)
   豪邸に向かい、数本放射されている水柱。
   消防車のサイレン、走る音。パトカーのサイレン。
   野次馬のざわめき。
   救急車のサイレン
   「裏に回った車はどうした」「こっちだ!早くもってこい!」
   「危ないからどけてください!」
   消防士、警察官のわめく声。

○豪邸の前の道路の反対側歩道
   隙間なく野次馬が立ち、ざわめきながら火事を見ている。
   その前にパトカーが停まっていて、その前に救急車。
   間おおいてその前にもう一台の救急
   その先頭の救急車の後ろのドアが開き、手帳を片手に山本賢一
   刑事(五十歳前後)が出てくる。
   続いて、エプロンをつけた二十二、三歳の女性二人が抱き合って
   下りる。
賢一「どうもありがとうございました」
   抱き合い、おびえ震え泣いている二人。
賢一「大丈夫ですか? 気をしっかり持って……なんならあなたたちも救急車で……」
二人のうち年上の女性「いいえ……だいじょうぶです」
   と、もう一人の女性の肩を抱きかかええ、野次馬の列の方へ、
   「だいじょうぶ?」「しっかり!」「誰か死んだの?」
   野次馬は二人に声を掛けながらも通路を空けてやる。
   野次馬の後ろのに出るためその通路に入る二人。
   二人がと売ると通路を締めて火事を見つめる野次馬。

   救急車の後ろのドア。
   ノブに手を掛け、車中から身を乗り出してそれを見ていた、
   若井たけし刑事(二十三歳)、賢一に、
たけし「それじゃ」
賢一「……たのむ」
   勢いよくドアを閉めるたけし。
   サイレンを鳴らし走り去る救急車。
   手帳を胸ポケットに入れ、パトカーに戻る賢一。
   パトカーの運転席の開いている窓に手を突っ込み小型の
   無線機を取り出し、いやホーンを耳にねじ込む。

   その後ろの野次馬の列。
   列の頭の後ろを赤いマフラーを頭からかぶっている頭と毛皮の
   コートの襟がよろよろしながら歩いている。
   苦 例自慰である。
   ぎこちない赤いハイヒールの動き。転ばぬように用心しながら、もたもたと歩いている苦 例自慰。

   パトカーの横。
   賢一が立って、片手に持った無線機に向かって、
賢一「……ええ。住み込みのお手伝いで名前は山田悦子……屋敷から出たのになぜあんなところにいたのか……
   近所のお手伝いの話だと、屋敷のお嬢さんを自分の娘のようにしていたそうですから……
   ええ、お嬢さんのことが気になって、寝室の下に……それでガラスの破片を全身に浴びて……」
   野次馬の最後列に苦 例自慰。
苦 例自慰「悦子まで……」
   顔の前で手を合わせ目をつぶる。
賢一「……ええ、火災報知気や防犯の電源はここ二、三ヶ月前からきっていたようです。…………
   野次馬が多くて……そうですか……了解」
   イヤホーンをはずし、無線機を運転席に投げ入れて、
   ハイライトを出し一本抜いて、火をつけながら後ろの野次馬を
   見まわす賢一。
   しかし、そこにはもう苦 例自慰の姿はない。

○警視庁正面玄関
   映像下辺中央にスーパー、
    「三日後」

○ 同 死体安置室へとづづく廊下
   たけしが先に歩き明海続いてその後ろを賢一歩いている。
   明美を気遣い振り返るたけし。
   まだ百恵の死を実感できず、家の焼失のショック、そして
   苦 例自慰のことがばれているのではという不安の中仲にいた。前を行くたけしに、
明海「あ、のー……」
たけし「(振り返り、立ち止まり)なにか?」
明海「見つかったのは三人だけなのでしようか? ほかに誰か?」
たけし「ええ、ほかには誰も……」
賢一「(明美を見つめて)ほかに誰かいらしゃったんですか……」
明海「あッ、いいえ。百恵がよくお友達を泊めるものですから……」
   三人は死体安置室のドアの前に着く。
   ドアをあけようとするたけしを制止して、明美に、
賢一「ほんとにいいんですか? 遺体の状態がひどくて、私たちとしてはできることならご遺族には見せずに、
   歯形や、遺伝子、骨格などで身元をご確認していただきたいと思っているのですが……」
明海「いいえ、私にはあの子が焼け死んだなんて……信じられませんの……あんなに元気だった子が死んだなんて……」
   ハンカチを出し目を覆う明美。
明海「あの子に会いたい……書類や説明なんかイヤですわ。……あの子に……どんな姿でもいい、あの子に、
   あの子にあわせてください!」
   両眼をハンカチでおさえ、頭を垂れる明美。
   頭をわずかに縦に一回上下させ合図を送る賢一。
   安置室のドアをあけるたけし。
   中へ入って行く三人。賢一がドアを閉める。

○ 同
   死体安置室というフーレートのかかったドア。
   しばらくの沈黙、静寂。
明海の声「百恵! こんな……こんな……どうして……百恵がこんな……百恵ッ! 百恵ッ! ど、どうして百恵……
   いったい何があったの……なぜあなたが死ななきゃならないの……
   イヤー……いやよこ、こんな……」
   声はだんだん泣きさけふ゛声に変わっていく。
   中年の制服の婦人警官が、小走りにドアの前までやってくる。
    ドアが開き、
    「百恵ッ……ももえっ……」
    泣きさけふ゛明海をたけしと賢一が両側から抱えるようにして
    中へ戻ろうとする明海、外へ出そうとする男二人。
    婦人警官が賢一に代わって明美を抱え、ドアを閉める賢一。
たけし「奥さん落ち着いて、……おくさん……」
明海「違うわ……あんなの百恵じゃない! そうでしょ! そうだといって……わーんンンンン百恵ッ……」
婦人警官「奥さんしっかり! 負けちゃだめ。気をしっかりもっのよ」
    泣き叫ぶ明美。
賢一「奥さん! 奥さん! これは夢なんだ。みんな悪い夢を見ているだけなんだよ」
明海「夢?」
賢一「そう……本物の刑事にこんな悪党面の刑事がいると思うかい。これは夢なんだ」
明海「そ、そうよね。百恵が死んでしまったなんて、そんなの嘘よね」
    賢一、婦人警官に小声で、
賢一「医務室で」
    と言い、自分の腕に注射をするまねをしてみせる。
    婦人警官はうなずき、
婦人警官「さあ、奥さん。百恵さんが来るまであちらの医務室で待っていましようね。」
    そこへもう一人の婦人警官が駆けつけたけしと変わる。
明海「そうね。早く夢から覚めなくちゃ」
    三人医務室へと向かう。
賢一「(たけしに)私が報告するから、きみは、悪いがついていてやってくれないか」
たけし「は、はい」
    たけしが去り、一人になった賢一。
    胸ポケットからハイライトとライターを出し、一本抜いて、
    火をつけ、ドアにもたれかかりゆっくり吸い、吐く。
    そこへ駆けて来る革靴の足音。
    賢一慌ててタバコを落とし、
賢一「あちっ!」
    足元の火のついたタバコを踏みにじりそのまま踏み隠す。
中年の刑事「あ、山本さん。いま、歌舞伎町交番から連絡があって、母親に付き添われた52歳の男が、
    苦例自慰低に火をつけたと自首してきたそうです」

賢一「やはり放火か……」
中年の刑事「それで山本さんたちに確認後、身柄をこちらへ持ってくるようにと……」
賢一「そうか」
    行こうとする。
中年の刑事「たけしはどうしたんですか?」
賢一「奥さんが興奮状態で、それが治まるまでついているように言ったんだが」
中年の刑事「そうですか、じゃ、吉田を連れて行ってください」
賢一「わかった」
    中年刑事戻っていく。
    それを見送り、踏んづけいてる足をあげタバコを拾い、ため息
    を一つして、つぶれたタバコを見つめて、
賢一「これには苦労するる。タバコのみにはいやな時代になったもんだ」
     とつぶやき、タバコをズボンのポケットに入れ、小走りに
     その場を離れる。
     「死体安置室」と書かれた横長の吊り下げ式プレート。
     プレートのついたドア。
     その対面の壁の上部。
     「禁煙」の大文字とマークのポスター
      禁煙の下に黄色で、
     「吸ったら罰金 減点三」
      と書かれている。

○高級高層マンション(夜)
   マンションの玄関。
   クリスマスツリーが飾れている。
   画面中央にスーパー
    「三ヵ月後」
   ジングルベルのメロディが遠くから聞こえている。
   ツリーに隠れているマンションのネームプレート、
   ハイツというところだけが見えている。
   「メリークリスマス……」
   遠くで男が言っている。
   ピポ、ピポ、ピポ車のクラクションの音がはしゃいでいる。
   
○ 同  4771の部屋ナンバーのプレートのついたドア

○ 同  室内
   楕円の硝子の大きなテーブル。
   その上にビールの空き缶が4、5本乱雑に置かれ、空のウイスキー
   のビン二本、半分ほど入ったブランデー一本がのっている。
明海の声「百恵ッ……ごめんね……」
   テーブルのそばの横長のソファ椅子にピンクのナイトガウンの浅く腰掛け
   ブランデーグラスを両手で包むようにもち、両肘を硝子のテーブルについて、クラスを見つめている明海。
明海「百恵! どうして死んじゃったの……お母さんより先に、なぜ死ななくちゃならなかったの……」
   両手で持ったままグラスを口につけ一気に飲み干す明海。
明海「ゴホ、ゴホ……百恵ちゃん……悪いお母さんだったわ。許してね……」
   涙でアイラインが流れて汚れている目元。髪の毛は乱れ顔に
   かかっている。
   クラスにブランデーを注ぎ立ち上がる明美。
   ふらつきながらベランダに出る大きなドア窓の前まで来る。
   窓の外は闇が周りの景色を消している。
   しかし下方の街は色鮮やかなネオンサインがキラ星のように
   随所に輝き、クリスマス・イブの華やかさを見せている。
   グラスを片手に窓越しにそれを見ている明海。
明海「(後姿)あなた……生きてるんでしょう。わかっているのよ。この街のどこかにかくれて、
   じっと私に復讐するチャンスを狙ってるんだわ……どこよ……どこにいるの……」
   グラスを口に運ぶが口をつけずにそのままグラスを持った手を
   だらんとさせてる(後姿)。
   アイラインで汚れた目元、その目は大きく見開かれ街をにらんで
明海「殺したいんでしょう……私たちを絶対殺してやるとわめいていたじゃない……早く殺しに来なさいよ。
   何をぐずぐずしてるのよ。バカ……」
   グラスを持ち上げ半分ほどを一気に飲み、
明海「それとも姿を見せないことで私をじわじわと苦しめいじめて楽しんでいるの……なによ……それでも男!
   男だったら早く殺しに来なさいよ……いいわよ、あなたの思いのままに殺されてあげるわよ……
   待っているのに……なによ、いくじなし……」
   窓にグラスを投げつける明海(後姿)。
   
   部屋の玄関。
   玄関のドア。
   鍵を回す音。ドアが開き、ふくらんでいるコンビニの袋を片手にお手伝いの女性(40歳前後)が入ってくる。
   女性は玄関ドアを閉め、鍵をかけるとコンビニの袋の中から一通の封筒を取り出す。

   再び長いソファに浅く座り、少しひびの入ったクラスにブランデをついでいる明海。
   コンビ二袋と封筒を持ったお手伝いがはいってきて、
お手伝い「奥様。郵便受けにこんなものが(封筒を示し)こちらの住所が書いてないので誰かが直接ここに来て
   入れていったものらしいですわ。後ろにはこれを書いた人の住所も書いてなくて、ただ、あなたたちのペットとしか書いてないんです」
   こたえず、ただ頭をたれグラスを見つめている明海。
お手伝い「ペットだなんて、きっといやらしい変態のいたずらですわ……燃やしてしまいましょうか、それとも警察に?」
明海「えっ……」
   今起きたというように頭をあげ聞き返す。
お手伝い「郵便受けにこんなものが」
   封筒を明美に手渡す。
明海「なんなの?」
   渡された封筒の表を見て、裏返し裏を見る。
   封筒の裏。
    左隅の下のところに縦書きで「あななたちのペット」
    と書かれている。
お手伝い「……ペットだなんて変態の悪質ないたずらですわ。きっと……」
明海「(かかれてある文字を見ながら)イヤーね。あなななたのぺっ」
    そこまで言うと、初と目を見開き、封筒の文字の部分を、顔に近づけ、うらがえしてさらにうらがえし文字を見つめる。
お手伝い「(明美の態度に驚き)ど、どうかなすったんですか奥様?」
   封筒を両手でテーブルの上に置きながら、
明海「な、なんでもないの……」
   テーブルに置いた封筒を両手で隠すようにする。
お手伝い「…………」
   コンビ二袋を持ってキッチンへ入っていく。
   封筒の封を破り取り、中の便箋を取り出した明海。
   便箋を片手にもう一度封筒の裏の文字を確認し、キッチンの方を見つめる。
   キッチンからかすかに食器を洗う音。
   封筒の表を上にしてテーブルに置き、便箋をもって立ち上がり、ベランダに出る。
   大きなドア窓の前に立つ明海。その後姿が便箋を開く。
   便箋とそれを持つ明海の指。


○マンションの4771号明海の部屋
   横書きの便箋。
   一行目、左のー上に前略と書かれていて二行目一文字あけて
   本文が始まっている。
明海の声「前略、生きていて良かった。外見、気は強いが百恵を愛し、百恵のために生きてきて、
   生きている弱さを持ったお前のこと……
   (ここから苦 例自慰の声に変わる)その百恵の死で生きがいを無くしお前まで死んでしまわないかと心配だった」
   悦子が苦 例自慰を助けてからのシーン
    ソフトフォーカスで無声映像。
苦 例自慰の声「私の事がばれないかと心配だったろう。そして私が生きていると知って……」
   場面は明海、悦子、百恵三人で苦 例自慰をなぶりいたぶって
   笑いものにしているシーン(音声がかすかに聞こえる)
苦 例自慰の声「いつか仕返しに来るのではないかと恐れ……いや本当は心の暖かなお前のこと私に早く殺されたい。
そしてはやく百恵のところに行きたいと思っていなかせらおびえているのかも知れないが、もういいんだ」
   百恵が苦 例自慰に許しを求めたシーン、
   百恵の声がかすかに聞こえている。
苦 例自慰の声「もう終わったんだ。あれはみんな悪い夢。そう、四人して同じ悪い夢を見ていたのさ。それでいいんだ。
   悦子が言っていた通り、苦例自慰は死んだんだ。大金持ちの道楽者、女性の気持ちを少しも汲んでやれなかった
   苦例自慰という男は、あの時火葬されこの世から消えたんだ。それでいいのさ。なあ、明海。もう私のことは忘れ、
   百恵や悦子、朝子先生の分まで、これから一生しやわせに生きてくれ」
   便箋とそれを持つ明海。
   目に涙があふれ、便箋をもつ手が小刻みに震えている。
苦 例自慰の声「いつまでも百恵の幻に取り付かれ泣き暮らしていては、天国にいる本当の百恵に笑われるぞ、
   あの子はそうやって他人を励ましたり甘えたりする子だった、そうだろ明海。金も屋敷もそれを生かしてこそ、
   多くの人をしやわせにしてくれるものだ。君はそれのできる人だ。君の夫の苦 例自慰はあの時死んだんだ。
   いいんだ。それでいいんだ。いつまでもしやわせに、やがて歳を老い天国に召されるまでずーとしやわせに……」
   便箋の最後の行に
   「結婚してからあのときまでの楽しい思い出ありがとう」
   その下右隅に「敬具」その下に「さようなら」と書かれている。
明海「(後姿)あ、あなた……」
   後姿の明海が便箋ををその胸に抱きしめる。
   闇に包まれた窓の外。
   街はまだ色とりどりのネオンサインが灯つている。
   ジングルベルのメロディが低く流れている。
   ジングルベルのメロディが高い音量で流れ次シーンへ。

○クリスマス一色になりにぎわう夜の街
   ジングルベルがうるさく流れ、他方からは「清しこの夜」
   アイドル歌手の歌うクリスマスソングの新曲が流れている。
   ネオンきらめく繁華街
男の声「メリークリスマス!」
   女性の笑い声
   女性のグループ。会社の同僚 アベック、若い男性のグループ
   一人出歩いている男、そして女。派手な衣装を着た若者達
   良いご機嫌の紳士を呼び止めるピンサロの呼び込みボーイ。
   そんななかの一軒の居酒屋から出てくる賢一、たけし
   中年の刑事。
中年の刑事「(二人に向かって)それじゃ……うぃっ」
   片手を挙げて挨拶し二人とは逆方向へ千鳥足で歩いて行く。
賢一「もう一軒いくか?」
たけし「お、良いですね……」
   たけし店と店の隙間に立ちションをしながら、
たけし「だいたい田中さんは堅い話ばかりで……」
   中年の刑事の去って行った方を振り向く。
賢一「そう言うな、あいつもあれでなかなか苦労しているんだから」
   賢一の横に並びズボンのチャックを上げて、
たけし「わかりますよ……でも、独り者の私にはどーも……」
   二人並んで歩く。
賢一「……どうだ。夜咲く花を見ながら飲むのもいいが、久しぶりに家の雑草を見ながら飲むというのは?」
たけし「いいですねー。その雑草のお母さんの手作りの味噌汁がまた家のお袋の味噌加減と同じ味がして……」
賢一「おい、まさか家の女房の方に興味があるんじゃなかろうな」
たけし「まっ、さかー。あんな……」
賢一「……ん。何か言ったか?」
たけし「いいやー、奥さんは良い人で美人ですが、やはり人並みに同年か、ちょい歳上の女性の方が……」
賢一「そうか、年上の女がいいか」
たけし「ええ」
   横を向き、ためいさを一つするたけし。
   と、向こうから薄汚れ黒くなったマフラーを頭からかぶり
   ところどころ穴の空いたジャンバーに薄汚れたジーンズ
   汚れて所々黒ずんでいるスニーカーをはいた五十年配の
   ホームレスが歩いてくる。
   賢一たちと並んだとき、
賢一「あ、きみ」
   ホームレスを呼び止める。
   立ち止まり二人を見るホームレス。
   マフラーで顔を隠している。
   財布を取り出す賢一。
   たけしも真似るように財布を取り出す。
   財布の中から千円を取り出す賢一。
   財布の中を探しているたけし。
賢一「これで何か暖かいものでも……」
   千円を手渡そうとする賢一。
   「ちっ」と舌打ちをして五千円を賢一に渡すたけし。
   二枚を一緒にして、ホームレスの手を取り、
賢一「気を悪くしないでくれ。今日はクリスマスイブ。酔っ払いのバカな二人の男がお金を落としていったと思って、
   黙って受け取ってくれないか……」
   マフラー男、コクリとうなずき、手に乗せらた札を握り締める。
賢一「そうか、受け取ってくれるか、ありがとうありがとう」
   黙って二人に一礼し、歩いて行くホームレス。
たけし「(去っていくホームレスを見つめ)あの人には、どんな家族があったんでしょうね」
賢一「(同じように去っていくホームレスを見つめ)さぁあ、しかし世の中には、まだまだわれわれの知らない
   色々の重荷を背負って生きている人間がたくさんいるということだ」
   札を片手に握り締めたまま、脇目せずに歩いて行くホームレス
   (後姿)。
賢一「さぁて、雑草にお土産でも買っていくか」
たけし「お嬢さんは何が好きでしたっけ」
   ホームレスとは逆方向へ並んで歩き始める二人。
賢一「お嬢さん?。お嬢さんねぇ」
    並んで歩いて行く二人(後姿)。
    
    立ち止まり振り替えるホームレス。
    ジャンバーのチャックを下ろし、手にした札を胸ポケットに
    入れようとする。
    その時、首にまかれたマフラー残りが見えた。
    それは、きれいな赤い色だった。

    ネオン華やかな通りの向こうは外灯ひとつで、あとは闇に包まれた暗い通りになっている。
    その通りへとホームレスが歩いて行く(後姿)。
    FO(フェイドアウト/画面を暗くして行きブラックスクリー  逆はFI)
    ブラックスクリーン中央に横書きで、

      いいのさ、これで
        あとは
       闇が全てを
    やさしく包んでくれるだろう

   画面右下隅に赤い「完」の文字が浮き出てくる。

                   終わり

   その3へもどる        投稿の目次      

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