私は21歳以上です。



     裏・山岳救女隊 

                        作:テンちゃん  
     
 この作品は前作『山岳救女隊』の横顔、もう一つの物語
である、、、、、、


その1

           
 誰もいない図書館。厚めのカーテンからは夏のギラギラ
した太陽が夕日に変わるのを拒むように差し込み、残され
た命をまっとうすべくセミが鳴いていたが、新聞を持った
本田の<震え>がとまることはなかった。
 そ、、、、そんな、、、、バカな、、、こと、、、、、
 

 (半年前  1月22日 鶴ヶ岳 7合目付近  16:52)

 猛烈な吹雪が顔を刺すなか三上は思った。とにかく早く
下山しなければ、、、、、
 それを察知したのか本田が突風に負けないぐらいの大声
で言う。

 「なあぁ!!、、、井上のやつ大丈夫かなぁ!?」

 自分達がどこを歩いているのかコンパスを使い100メ
ートルごとに確認する。三上はコンパスと周りのようすを
交互に目くばせしているが、辺りは白一色で目印になるも
のはおろか、この吹雪で方向感覚が定まらない。

 「あぁ!!、、、佐々木が付いてんだ!、大丈夫だろ!
それよりも早く下山しないと俺達もヤバイぜ!!」

 「なに!!?、、、なんだって!!?」 

 相手の口先の動きと表情を見ないと、ナニを喋っている
のかわからないほどの吹雪は一向におさまる気配がない。
 山頂付近で足を打撲、最悪折っている井上に佐々木がつ
きそい自分達は『救助要請』をしに下山に向かっているの
だが『二人』とは、なんとも心もとない。
 
 このような冬の鶴ヶ岳での少人数行動はほとんど<自殺
行為>に等しかった。おまけに装備のほとんどは残った二
人のために置いてきており、一刻もはやく下山しないと生
命に関わりかねない。

 反面、ここで気をつけなければいけないのは『二次遭難
』だった。二人で行動している以上、一人がケガをしたら
持っている装備からしてもまず『アウト』になる。
 後ろの本田にあらぬ恐怖心を抱かせぬよう言葉を選んで
いた三上だったが、あまり軽率な行動を取られても困る。

 再び歩きだした二人だが、慎重にならざるおえず、互い
の距離と位置を確認し、さらに方向修正しながらの下山は
ちちとして進まなかった。
 
 「なぁ!!、、、三上ぃ!!、いまどの辺いるんだ!」

 登山経験が浅い本田は、不安を振り払おうと前方の三上
に絶えず話しかけてくる。一寸先も見えない地吹雪のなか
それ自体は『存在』の証しになるのだが無事、下山できる
保証はどこにもなく、本田の放つ一言一言が、精神を蝕む
ように三上のなかにストレスとして蓄積させていく。
 
 正直、南に向かっているのは事実だが登山ルートから外
れてしまったせいもあり現在地がハッキリしない。
 悪いことに日も落ちかけ、このまま雪中行軍を続ければ
最悪の事態にもなりかねない。
 しかし、上に残してきた二人のことを思うと、なんとし
ても今日中に救助を求めたかった。
 
 「だいぶ降りてきた!、、、、あと少しだ!」

 「少しってどのぐらいだ!?、、、、、なぁ!!?」

 「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

 無駄な話はしたくない。前方に全神経を使うことが今は
大事だ。かと言い、怒鳴り散らしてもあまりイイ結果にな
るとは思えず、三上は『聞こえないフリ』をしながらも彼
をなだめながら進む。

 「なぁ!!、、、、まだまだあんのかぁ!?、、三上ぃ
、、、聞こえるかぁ!?、、、もう入山所見えてきてもい
いんじゃ、、」

 考えていた以上に困難な下山に、後ろからアオられ、今
どの辺にいるかわからない事実。あらゆる障害が二重三重
と彼の心にススのように体積し飽和される。
 ここで遂に三上は、今まで内に内に秘めていた思いが土
石流のように一気に爆発した。

 「うるせぇんだよ!!、、、、いいから黙ってついてく
ればいいじゃねぇか!!、、、このままダラダラ歩いてた
らなぁ!、、俺もオマエも、、、」

 普段、温和な三上の形相が一変する。ソコに今、自分達
が置かれた状況を悟った本田は固まるしかなかった。
 最悪の展開、、、、道に迷ったあげく仲間割れ。経験豊
富な三上も『素人』を連れての冬山では限界があった。
 が、ココで事を起こしても何も始まらない。互いに子供
ではないのでそれは解っていた。とにかく、今は二人で無
事下山することがなによりも優先された。

 「な、、なぁ、、俺たち、、迷ってるんじゃ、、、?」
 
 「、、、、、、、悪かった、、本田、、よく聞いてくれ
、、正直、正規のルートから外れてしまったらしい、、ど
うやら、、この辺一帯で<表層雪崩>がおきたようなんだ、
、、来る途中つけたマーカーも、、、、、なにもない、、
、グッ、、、、グ」

 自分が涙目になっているのに本田はまだ気付いてない。
気付かせてはならない。崩壊しかける心を、太い縄で縛る
ようにしてはいるが、目からは『死』への恐怖と、上にい
る二人、そして本田への責任感が玉のように溢れ出した。
 あきらめてはいけない、、、、一度、つよく歯を食いし
ばる三上。

 と、前方、横なぐりの白いカーテンから『赤い』色がチ
ラッと見えた。
 なんだ??、、、、人だ、、、まさか、、、
それも一人ではなく6〜7人のパーティを形成している。
この時期、自分達以外の登山者だろうか。にしてもココは
登山ルートにはなく、登ってくるのなら正規のルートで入
山するはずだ。
 第一、この先も雪崩で埋まってたハズ、、、どこから、
、、、、

 「あ!!、、、、オ〜ぃ!!、、、オぉ〜いぃ!!」

 本田も気付いたのか後ろを見ると大声で手を降っている
。そうだ、、、そんなことはどうでもイイ、、、とにかく
、、とにかく助かったんじゃないか、、、、
 
 「こっちだ!!、、、オゥ〜い!!、、、おぉぉい!」

 本田の声に触発され、あらん限りで呼びかける三上は、
こんな境地での『人』との再会に安堵した。
 やがて、クッキリと『赤い隊列』が見えると、二人は足
をとられながらも駆け出していた、、、、、、、、、、

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