私は21歳以上です。



    私立姫ノ美学園 

                        作:テンちゃん  
    その9

  あれから一週間。暖かさが日を追うごとに暑さに変わっ
ていき嫌でも夏を感じさせる晴天が続いている。『美術室
』での事は意識的になのか、これが普通だからなのか話題
としてはほとんど浮上していなかった。

 家庭科の時間。女子校のせいか必須科目とあって週に4
回もあり時間も多くとられていた。
 この時ばかりは『班行動』で優美、音菜、他3名と一緒
になる。広い流し付きのテーブルの向こう側にいる音菜が
笑顔でチョコンと背伸びをするように手を伸ばしてくる。

 「ねぇ、、ね、、俊彦ぉ!、、ゴメン、、そこのラップ
とって、、、うん、、それそれ、、ハィ、、あんがと」

 いったいなんなんだろうこの学園は。始めはイジメの場
とばかり思っていたがどうやらそうでもないらしい。
 後ろで髪を束ねた音菜のクッキングスタイルはなんとも
可愛いらしく垂れた前髪が『モモタロウ』を連想させた。
 他の女の子も例外ではなく『メイド』みたいなエプロン
がヒラヒラとし、このうえない目の保養になる。

 「どう?、、私の作ったのおいしい?、、、、ねぇ?」

 僕を犯した時に見せた表情はどこにもなく、優美が少し
不安なおももちで尋ねてくる。モグモグと食べている僕を
見つめる瞳は完全に女の子特有のものだった。
 
 「うん、、、、おいしい、、、、ウマイよ、、、」

 なんの考えもなく普通に思ったことを漠然と答えただけ
だったが、優美の顔がパァッと明るくなり、でしょ!、、
でしょ!、、と嬉しそうな笑顔をふりまいている。それを
見た隣の班の女子も料理を手に持ってきた。
 まさに麻薬畑のような魅惑の場所。この『科目』だけは
王様のような優越感にデレデレとする僕。

 「え〜!、、優美の作ったのおいしい訳ナイじゃん!、
俊彦ぉ!、、ね?、こっちのやつの方がおいしいよね!」

 「ちょっと、なによ!、アンタの食べれんの、ソレ?」

 こういう時は非力な年下でも『男』として認められるら
しい。優美のだけ誉めるわけにもいかず、持ってこられた
料理を少しづつツマみ『感想』を言わなければならなかっ
た。、、、もぅ、、一杯、、、ゲップ、、、

 昼休み。ただでさえ騒がしい教室が街の雑踏のような喧
騒に包まれる。やはり観察はしてみるものだ。面白いこと
が次々と解ってくる。
 『女の子』という生き物は必ずいくつかのグループに分
かれて行動しているように見られる。性格や生理的なもの
があったとしてもココまでスッキリ分かれられるとある意
味、見ていて気持ちがイイ。そのまま『修学旅行』の班が
出来てしまうんじゃないか、と思うほどクッキリ線引きが
なされている。
 かと言い、他グループと口をきかない、ということもな
く『細い糸』で繋がっているのがよく解る。
 なかには2〜3人机にふせっている子もいるが、彼女達は
なんでも1人で出来る『無所属』なのだろう。
 そんなことを思っているとチャイムが鳴り、それを計算
したかのように数学教師が入ってきた、、、、、、

 消しゴム、というものを持ち歩かない僕はいつも誰かに
貸してもらう。両隣の留菜と雪代は気持ちも優しく僕のお
守り役ってとこ。買って筆箱に入れておけばそれまでだけ
ど女の子達との『溝』を少しでも埋めようとする僕の作戦
だ。
 消しゴム貸して!、といつものように留菜の机に手を伸
ばす。

 「、、また忘れちゃったの?、、買ったげっよっかぁ、
、イイよ、、、それ、アゲる、、、、クス」

 マ、マズイ、、、る、留菜が発情期に入っている、、、
その微妙に違う声のトーンと含み笑い。チョコンとした童
顔で僕を見る『まなざし』を見ればすぐにわかる。伊達に
1年近く『姫ノ美』に通っていない。
 僕はすぐに前方を向いたが、そう意識してしまうと横顔
あたりにチカチカとした『熱視線』があたっているようで
ならない。
 
 留菜が着ているのはオーソドックスなセーラー服で外国
の水兵さんが着ているのによく似ている。でも、ドコで特
注したのか『キラキラ純白』と普通の白、クリーム色など
で微妙なアクセントが施されているデザイン。
 簡単に言えば『まっ白セーラー服』だが、シルクみたい
なミニスカは<チアガール>を連想させ新鮮な感じがした。
 
 「ね、、ね?、、そこの写し違ってるょ、、、ンフ、、
ハィ、、留菜の見せてアゲる、、、」

 決定的。彼女のホホに出現した『えくぼ』がその現れ。
そ、それになんで解るのか?、、ノートに書いた写しまで
解るということは僕の行動すべてが『監視下』に収まって
ることをさす。いわばロックオン状態。

 焦れば焦るほど黒板を見ている『クロメ』がウロウロと
し動揺を隠せなくなる。ダ、、ダメだ、、、完全にコッチ
を見ているのが気配でわかる。特にこの『期間』に入ると
向こうから頻繁に話しかけてきたり、うっとしいほどの優
しさを受けるので注意して見ればスグわかる。

 彼女は授業そっちのけで僕に対する話題の糸口を考えて
いるのか、すぐにでも話かけられそうなオーラがあった。
 こうゆう時の対処法はすでに攻略済みだ。コッチにその
気がないのを明確に示せばイイのである。逃げれば女は追
ってくる。コチラから攻めればいい。

 「あ、、消しゴム、あんがと。、、そうそう、、この前
ホラ、、優美からヤられて、、ハハ、、あれ以来ぜんぜん
起たないんだよね、、、ははは、、もうダメかも僕」

 伝わったハズ、、、絶対、伝わっただろう。え?、、、
何かマズイことでも言ったか?、、いや、起たないこと、
スル気がないことをちゃんとアピールできたはずだ。
 な、、なのに、、留菜の瞳は凄まじいまでの熱を帯び、
少女マンガのようにキラキラと星が散っている。
 な、、なんか逆効果のような、、、どう解釈したのか知
らないが、闘争心のようなものを上に乗せてきてしまった
気がしてならない。
 今まで甘ったるい視線で見ていた僕から目を反らすと、
その童顔がキッ!と引き締まった気がした。

 「、、、そんな、、、よかったんだ、、、、あの子」

 ポツリと言う留菜。僕に対してではない。目は黒板を向
いているだけに凄味がある独り言。あ、、あの子、、?、
な、なんだか敵対視した言い方が気になる。
 とにかく『話題の軸』をズラさなければ、、、、!

 「こ、、ここの方程式なんだけどさぁ、、、どうやっ」

 「、、、自分で考えれば?、、、、、、、、、、、」

 急転直下。なにを怒っているのだろう。白く柔らかそう
な耳がほんのり赤くなっている。入校以来、彼女のこんな
顔は見たことない。解析不能。こんなにもガラリと変われ
るものだろうか。ツンとした童顔は怖くはなかったがスネ
たようになり、最後の方、聞こえないほどの小さい声で、
もぅ知らない、、とつけ加えていた。
 僕にとって女の子はどんな『科目』より難しい。負けて
はダメだ。もう一度行け!と自分に言う。

 「る、留菜さん、あの、、、こ、、ここの円周率の」

 「、、、、、、、、、、、優美に聞けば?、、、、」

 撃沈。無視モード全開。せめて顔ぐらいコッチを向いて
ほしい。留菜や雪代に嫌われると隣席だけあって今後の学
園生活に大きな支障をもたらす。ましてこの2人はクラス
で一番『優しい』部類に属する、、そうか、、、そうだ!
、、、夏美や優美とは『真逆のグループ』だった!!
 せめて『系統』が近い音菜にしておくんだった、、、、
イケない地雷を踏み、今は何を言っても無駄だとようやく
悟った。授業に集中してしばらく放っておこうっと。

 (ちょっとカワイソウだったかナ、、、、、ゴメンね、
、怒ってなんかないからね、、、としひこ、、)
 
 それ以降一言も発っしなくなった彼に急に話しかけたく
なる自分がいる。チラチラと彼の横顔を見ていると思い出
される美術室での1コマ。優美に対する憎しみにも似た感
情が、体の中心に熱いシコリのようなものと共に鬱積しは
じめる。
 隣に座る俊彦を自分だけのものにしたいという衝動と欲
求が、彼女の中でマグマのようにふつふつと燃えたぎって
いった、、、、、、

                    つづく

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