私は21歳以上です。



      A ・ K 

                        作:テンちゃん  
第2部  『検温』
     

 鴨肉のアンチョビ風、野イチゴソースがけにホロホロ鳥
のフォアグラ詰め。その横には子羊の松の実香草焼き。さ
らに伊勢海老と魚介類のカラブリア風トマトソースがけ。
デザートにはオレンジのスフレとピスタチオアイスクーム

 テーブルの中央、真っ赤な花をきれいに添えた銀製の大
皿には、牛ヒレのボローニャ風生ハムチーズ巻きがはみだ
さんばかりに横たわっていた。

 しかしイワブチは満足していないのか、でっぷりとした
体で70年もののシャトーをゆっくり飲みほすと、秘書兼ボ
ディガードを呼びつけ厳しく叱責した。

 「、、、バカモン!!、、、こんなもんが食えるか!、
、、ワシを誰だと思ってる!?、、、こんなもんは豚のエ
サにでもしてやれ!、、、それとココの調理長はクビだ、
クビ!!、、二度と厨房に立てんようにしてやるわ!」

 「、、、、、し、しかしココは病院ですし、、、お言葉
ですが雇ったコックも超一流のはずです、、、、食材もあ
らゆるコネを使い吟味し、、、、、」

 「、、、なにか?、、、、テツ、、、貴様もやめてみる
か?、、、ん??、、、、まあそうだな、、、その時はオ
フクロさんの、、、、、」

 「、、わ、、わかりました!、、即刻コックはクビにし
ます!、、、料理の方もすぐに変えさせますで、、、、、
、、オ、、オイ!すぐに料理を下げさせろ!、、」

 「、、まだわからんのか?、、、これは料理ではない、
、、、エサだ、、エサ!!、、、、ん〜、、、、もう食事
はいい、、、、アレだ、、、テツ、、、ちがう『食事』を
持ってこさせろ、、、、、そうだ『コレ』だよ、、、ん〜
、、、こっちには粒ぞろいだろ〜、、、ん〜?、、、」
 
 と、短い小指を突き出す。
 ここは京都のS大付属病院。世間とマスコミから逃れな
がらもイワブチは勢の限りをつくしていた。
 こちらに来て丸一週間。何ひとつ不自由することなどな
かったが飽きてきたのだろう。まるまると太った指でテレ
ビのリモコンを押す。

 「、、、いや〜、テツ、、、、あれだな、、ビールの雑
菌混入、なんとか病とかいう鳥肉騒ぎ、、、あとは、、、
、、、ほうほう、、大使館に亡命なんてものもある、、、
、、そろそろワシの影も薄れてきた頃か、、、、いやいや
、、、、世の中にはワシの隠れミノになる事件が山ほどあ
るわい、、、、、ウヒョ、、ウヒョヒョ!、、ゲハッ、、
、、グゥワァハッッハッハッハッ!!!」

 その事件を少しでもなくし、国民を平和に健やかに暮ら
せるようにするのがアンタの仕事だろ!
 黄ばんだ歯を出してガマカエルの様な声で笑う彼を、そ
う思いながらもテツは曖昧な笑みを浮かべてみせた。、、
、、、しかし、、、、、

 テツは知っていた。『A.K』なる殺し屋集団がイワブチ
の命を狙ってることを。だが、その心配も今日限りで終わ
りだ。明日の朝には二人とも東京に発つ手筈になっている

 始め10人前後いたイワブチの『お供』も、かえって目立
つということで今は自分一人である。無論マスコミをシャ
ットアウトしたいので警察その他には内密にしてあった。

 「、、、、ただいま『食事』が着きました、、、京美人
でございます、、、、、」

 「、、、、あ〜、、、、テツ、、、今日はもういい、、
、、なんだか疲れた、、、、帰ってもらえ、、、金なら好
きなだけあとで小切手で、、、、ス〜、、、ス〜、、、、
、グ〜ゥ、、、zzz、、、」

 疲れただと!どこをどうやったらそんな言葉が出てくる
んだ!テツはヨダレを垂らし、クソいまいましい顔でキン
グサイズベッドでうたた寝を始めた彼を心の隅で罵倒し廊
下に出た。
 プライドがあるのだろう。着物を着た京美人はふてくさ
れた顔で帰っていく。

 超高級個室となると<病院>とはいえ廊下はガランとして
いる。昔は高級ホテルなどに缶詰したものだが最近では政
治家のスキャンダルなどの時、<緊急入院>を理由にこうい
った豪華な病院を『隠れ家』とする輩も珍しくなかった。
 
 当然、病院の理事には<寄付>という名目であまりあるほ
どのブツを握らせてある。政治献金の使い方にも色々ある
が、全ては『国民』がセッセとおさめてくれる。
 
 テツはよく聞かされたものだ。『一人から多くもらおう
とするな、、、全員から少しづつもらえ』と。
 この国というのはトップが決めたら大体それに従うし、
税率や保険料引き上げなども、半年もすれば感覚がマヒし
てしまう。
 要はいかに国民から『ピンハネ』するかだ。
 万一、国民から批判されたらトップをクビ、あるいは交
代させればケリがつく。あとは国会という<劇>で面白おか
しくやってるうちに『次』の話題が勝手に浮上してくるの
だ。

 まだまだ『内閣プロ』という会社には『タレント』の素
材はたくさんいた。だが、裏ではイワブチのような男が牛
耳っているのが<この世界>の現状だった。
 
 廊下のパイプイスに腰掛けたテツは腹立たしく思ったが
結局、自分も長いものに巻かれているではないか。
 特にオフクロのことを言われれば立つ瀬がない。難病の
高額治療費を払ってくれてるのは他でもないイワブチなの
だから、、、、おそらく自分は一生彼の『犬』で終わるだ
ろう、、、、結局のところ世の中<カネ>で動いている。

 寒い質感のリノリウムが続く廊下は、薄暗い照明がテラ
テラと反射し、大病院らしく遥か奥まで続いていた。
 しかしパイプイスの小さいこと!いや、自分が大きいの
だ。大学時代アメフト部だった彼はスーツも特注で、引き
締まった体格は今なお保っている。
 
 チ〜ン!

 不意にエレベーターが開き看護婦が三人、先頭の一人は
手にカルテを持ってこちらに向かい歩いてくる。
 後ろの二人はなにか、下部に滑車がついた細かい医療器
具などを乗せたものだろう。をガラガラと押してくる。

 「、、、看護婦さん、ちょっと失礼!、、、、こちらで
休んでいるのは<健康>な議員の方だが、、、」

 「、、、ええ、、、存じております、、、ただ、、、、
、、一応決まりなものですから、、、、」

 カルテを胸に抱くように持った看護婦が丁寧な口調で返
してくる。近くで見るとおどろくほどの美形だ。
 しかし、テツは仕事柄うしろの荷台に整然と並んだ医療
器具に目を移す。

 「、、、、疑うようで申し訳ないんだがソノ荷台、ちょ
っとチェックさせてもらえるかな?、、、、」

 「、、、、ええ、、、結構ですわよ、、、刃物のような
危険物は、当院長の方からもこの階に持ち込むなとかで、
、、、、、、、あの、、、、中にいる方は有名な方なんで
しょうか?、、、、、、簡単な検温と、、、、、、、」

 「、、、、いや、結構だ、、、、仕事の邪魔をしてすま
なかった、、、、ただ、先生はお休み中だ、、、、、、、
、、簡単に済ましてくれ、、、、」

 見たところ彼女達はなにも知らないらしい。それにまさ
か彼女達が『殺し屋』のハズがない。胸にはIDカードが付
けられどう見てもただの看護婦だ。
 ステンレス製の荷台にもありふれた器具しかなく怪しい
ところは全くない。
 テツは静かに病室のドアを開けてやると三人を伴い中に
入ろうとした。
 と、後ろにいた看護婦が恥ずかしそうに口を開く。

 「、、、、実は、、、さきほど院長の方から『お相手』
して差し上げろと、、、」

 なるほど、、、、そうゆうことか。どうりで三人ともそ
ろって綺麗なはずだ。おそらくこの病院でダントツなのだ
ろう、、、、、それに、イワブチは時折こうゆうことをす
る時がある。自分には何も知らせずに、、、
 急に眠ったのも不自然だ、、、、、テツはコクコクとう
なずくと三人も会釈を返してくる。
 完全に外で待たなければならないと悟ったテツは冗談混
じりに言った。

 「、、、、看護婦さん方、『声』の方は気にしないでく
れ、、、、、こうゆうのには慣れっこだ、、、、、、、、
、、ああ、、、私は廊下のほうに居るんで何かあったら呼
んでくれ、、、、」

 「、、、、クスッ、、、いやだわボディガードさんたら
、、、、ずいぶん筋肉マンなのね、、、、、あとでお相手
させて頂こうかしら?、、、、、、、、、フフッ、、、、
それでは失礼、、、、」

 カルテを持った看護婦が色っぽい笑みをつくり言った。
テツはドアを閉めるといつものことだ、と自分に言い聞か
せたのだが、あれほどの粒ぞろいの女、そうはいない。
 これからドア一枚隔ててナニが行われると思うと、激し
い嫉妬にも似たムラムラとした感情が腹に込み上げてくる
のを覚えた。

 あの薄い白衣のすぐ下には、みずみずしく透き通るよう
な肌があるのだろう。ソレは薄ピンクに色を変え、甘い匂
いを放つのだろう。
 やがて、あのイワブチのナマコのような舌でベロベロと
なめられ、そのたびに歓喜の声をあげるのだろう。
 
 腕を組み、キツめのパイプイスに腰掛け、賢明に冷静さ
を取り戻そうとするテツだったがシャララ〜という病院の
ベッドに付いているカーテンだろう。閉める音が耳に聞こ
えると嫌がうえにも妄想は肥大していった、、、、

 だが、ちょうどその頃、病室内では全く違う<作業>が行
われていた。
 彼女達はアイコンタクトを送り合い、寝ているイワブチ
の両手を素早くベッドのパイプに包帯で結わえると同時に
、一人が掃いていた茶色のストッキングを<猿ぐつわ>に使
う。
 異変に気づいたイワブチは声をあげようとするが、ウ〜
、ウ〜と唸り声しか出ない。
 さらに彼の両足を揃えさせると『骨折用の板』をヒザ裏
から当て、包帯でグルグル巻きにする。
 これにより、イワブチは両足を動かすどころか曲げるこ
とさえできないでいた。
 ここまでようした時間は数秒。と、一人がなかばムリヤ
リ彼のパンツを下ろすとリストウォッチに目をやる。

 「、、、、、大丈夫よ、、、、時間は大丈夫、、、、、
久しぶりの仕事だわ、、、、たっぷり楽しみましょう、、
、、ねぇ?議員さん、、、、料理はダメだったけどお酒は
飲んでくれたようね、、、睡眠薬入りの、、、」

 何を勘違いしたのだろう。このごに及んでイワブチはテ
ツが用意してくれた『余興』かと思いヘラヘラしている。
 見るとどれを取っても美しいナースが三人いる。

 「、、、、、なにぃコイツ〜!、、、なんかチョ〜キモ
イんだけど!、、、」

 自分の足もとにいる一番幼い顔をした女が言う。
 と、カルテを持ち、さきほど『楽しみましょう』といっ
た美形の女が真横に立つと、そのパッチリとした瞳でまっ
すぐコチラを見つめる。
 イワブチは急に恥ずかしさを感じ目をそらす。
が、その美形の女は無言のままグイっとアゴをつかまえて
自分の方を向かせると、鼻先数センチまで顔を近付け見つ
めてくる。
 すると突然、その『ナース』はポケットから<洗濯バサ
ミ>を取りだしイワブチの鼻を根元からはさんだ。
 ただでさえ猿ぐつわにより呼吸がままならない彼は、頭
を振り苦しさを訴える。

 「、、、、、!!!  ん!、、っんぐ!!」

 柔らかな微笑を含んだナースは再びイワブチのあごに手
をやるとグッと強引にこちらを向かせ、自らの薄い紅を塗
った唇を彼の口にあてがった。

 一本の太いヒモのようになったストッキングの間を、ソ
ノ生き物と化したナースの舌が、時にやさしく、時に強引
に彼の口内に進入してくる。
 呼吸ができず苦しむ彼は、『テツのやつ、ワシの好み解
っていやがる』と、そのプレイに陶酔した。

 「、、、、、んプッ!、、、  、、プフっ、、びンュ
、、、、ぷムん!、、プっンプ!!、」

 自らの唇とナースの唇の奏でるヒワイな音を聞いてると
、苦しさよりも下半身が熱くなるのを感じる彼。
 だが、いつまで経っても彼女のヒルのような舌は口内か
ら出ていく気配がない。
 イワブチは半ば焦り気味に両手をバタつかせ<相手>に気
付かせようとするが、彼女は余裕の表情でゆったりとイワ
ブチの唇を封鎖している。
 やがて目には涙が溜まり、必死の形相の彼。

 「、、、!!!!  んプ゜プッッ!、、っ、、、、、
プか゜っクァぁっ!!、、、ンピプぅ!ッッんぷっ!!」

  、、、、zzz、、、zzz、、、!!!
 
 一体どれぐらい眠ってしまっただろう。テツは重いマブ
タをこすると一度大きくアクビをした。
 病室からイワブチの低い呻き声が聞こえてくる、、、、
、お楽しみの最中か、、、、、やれやれ、、、、、

 テツは足を組み直すと再び心地よい眠気に包まれた、、
 
                     つづく

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