赤いイナゴの大群
第3話 小蘭と秀白を襲った悲劇
「いやーっ、やめてぇっ!」。
悲痛な女の悲鳴。
「たのむやめてくれっ。お金ならいくらでもやる。だから、小蘭にだけは手を出さないでくれ」。
続いてせっぱ詰まった若い男の声が林の中に響く。
ここは京師からさほど離れていない森の中。都から長江沿岸の武昌の町へと続く街道のひとつが、ちょうどこの森の中を通っている。昼なお暗いこの間道、ふだんならほとんどの旅人が敬遠して通らない道なのだが、つい昨日までは、たくさんの避難民達が、ひとかたまりになって、ここを通り過ぎていった。
赤いイナゴの襲来という、夢想だにしなかった災難によって、命あっての物種と、住み慣れた住まいを捨て、持てるだけの荷物となけなしの財産、あとは着の身着のままという姿の何千という群衆が、あわただしくこの道を駆け抜けていったのだ。
彼等の表情には、一様にいい知れない不安と恐れ、それに怒りと悲しみ、さらにはあきらめの表情が浮かんでいた。以前からこの間道には、たちの悪い山賊達が巣くっており、旅人達から金品を奪うとの噂が絶えなかった。
彼等とてそんな噂のある街道などは、出来るだけ通りたくはなかったのだろう。しかし迫り来る赤いイナゴの恐怖の前に、群衆は都を脱出するための最短コースとして、この危険に満ちた道を選び、そして足早に森を抜けていった。
そして、ひとかたまりの集団が駆け抜けていった後に、その集団から少し後れてここを通りかかった、運の悪い若夫婦者がその山賊共のエジキになってしまった。山賊共は前を行く集団に気づかれないように、巧妙にこの二人だけを拉致し、そして森の奥へと連れ込んだのだ。
森の奥に女の悲鳴が鳴り響くが、もはやこの二人を助けてくれる者などどこにもいないのだ。
「金ならいくらでもやるだと?・・・・ふっふっふっ、笑わせるぜ。俺達はもう金なんかにゃ興味はないのさ。この3日間で掃いて捨てるほどに稼がせてもらったからな。おまえのような貧乏商人から巻き上げようなんて・・・。えっ、なんだったら・・・・、金が欲しかったら、ほれっ、おまえ達にだって分けてやるぜ」。
野太い男の声が響く。どうやらここの悪党共の首領らしい。間髪をいれずに若い男のせっぱ詰まったような声が響く。
「金が目的じゃないならば、なぜ僕らを捕まえたんだっ。赤いイナゴの軍団が今にも押し寄せようとしているというのに、早く逃げないと・・・・」。
若い男は女を助けようと必死だ。しかし女、多分この男の女房だろうか、彼女は山賊共の手下によって、次々と着衣をはがされていく。そのたびに女の悲鳴が上がるが、それは男達の欲情をさらにそそる効果でしかない。
「たっ、助けてください!。おねがいいします。きゃっ、いやーーーーーーっ!」。
「へっへっへ、イイ声出すねぇ。へへったまらねえや・・・」。
「おおっ、いいチチしてるぜ、このアマ・・・」。
「ほれっここはどうだぁ」。
「きゃっ、いやっ、たすけてぇーーーっ」。
女の悲鳴が上がるたびに、若い男は身体をふるわせて身もだえする。しかし立木に縛りつけられたままの彼には、もはやどうすることも出来ない。彼にとって最愛の妻なのか、それとも新婚ほやほやなのだろうか、歯を食いしばり涙を流さんばかりの表情で、首領に向かって嘆願を続ける。
「どうか、どうか、お願いだ。小蘭は、小蘭は・・・、お願いだから・・・・」。
「おいおい、こいつ泣き出したぜ・・」。
「へっへっへ、こいつぁ見物だぜ。どうだいお兄さんよ、目の前で自分の女が犯されていくのを眺めるのも悪かぁないだろう・・・」。
山賊共はあきらかに楽しんでいた。女を犯す前の座興として、男が苦しむ姿を見てからかっているのだ。彼が泣き叫ぶのを見ながら輪姦する、そんな倒錯したアソビを彼等は常としていた。
もちろん小蘭は小蘭で、その間も必死の抵抗をしてはいるのだが、かよわい女の力だけでは、とても五人の荒くれ男に敵うはずもない。たちまちのうちに帯を解かれ、着物がはぎ取られ、その初々しいばかりの裸身がさらけ出された。
「ほおーっ・・・」。山賊共から感嘆の声が洩れた。
「これは、上物だぜ」。
生まれたままの姿になった小蘭は、まさに神々しいばかりの美しさを兼ね備えていたのだ。透き通るような白い肌、大きすぎず小さすぎず形のいいバスト、きゅっと引き締まったウェスト、そして腰からつま先にかけての贅肉一つない均整のとれた曲線。まさに匂いたつ魅惑的な女体がそこにあった。
男なら誰もが震いついてしまいたくなるほどの、まさに彼女の身体は、男の官能を狂わせてしまうほどの魔性を秘めていた。ほんの一瞬だけの沈黙の後、山賊共の欲情に火がついた。小蘭自身が望むと望まぬとに関わらず、彼女の裸身は山賊共の欲情をさらに引きよせてしまったのだ。
「おっ俺が一番だっ」。
「うるせいっ、俺だっ」。
「なにぃ」。
「おっ、やるかっ」。
男達に殺気が走る。それほどに小蘭の身体は魅力的だった。
(ああっ・・・わたし・・・犯される・・・しかもこんな男臭い男達に・・・)
彼女はもちろん生娘ではない。都でも名のある商家の娘として、何不自由なく育てられた末娘だった。ある日のこと都に巡業にきていた芝居小屋に出入りするうち、そこの若い役者に惚れ込んでしまい、駆け落ち同然に家を飛び出し、二人で所帯を持ったところだった。
苦労知らずのお嬢さん育ちの彼女と金も力もない優男のカップル。毎日が貧しくとも幸せいっぱいの日々だった。しかし幸せの日々は長く続かなかった。突然襲いかかってきた赤いイナゴの襲来という災難が、二人の運命を狂わせてしまった。
都を逃げ出そうとする避難民の混乱の中で、二人離ればなれとなり、必死の思いで二人が再び巡り会ったときには、都には人影もまばらとなっていた。そしてわずかばかりの財産かきあつめ、避難民達の後を追って危険な間道にさしかかったとたんに、運悪くこの山賊共に捕まってしまったのだ。
彼女が命を懸けて愛した男、秀白は荒縄で立木に縛りつけられ、彼女を救うことのできない悔しさに、まるで子供のように泣き始めていた。
(なんて・・・・なんてふがいない・・・)
全く理不尽な怒りが自分の中からわき起こるのを、彼女は阻止できなかった。お嬢さん育ちの彼女にとって、愛する男とは命をかけてでも自分を守るべき存在だった。いくら相手の山賊が五人だからと言って、ほとんど抵抗することもなく、立木に縛り付けられて涙を流しているのが、果たして男と言えるのだろうか。
舞台の上で大立ち回りをみせていた、あの凛々しい姿はどこへ行ったというのだろうか。それが芝居の上での演出であることは、彼女にも判っていた。しかしワタシが愛したのはそんな虚実入り交じった、秀白ではなかったのか。
「うっ・・・・・」。
彼女の自問自答は、下半身を襲った異物感に、突如として中断された。
「いっ・・・いやあーーーーっ」。
山賊達はようやく彼等の醜い争いに終止符をうち、そのうちの一人が彼女に覆いかぶさってきたのだ。あわただしく下腹の布を押しのけ、彼女の柔らかい秘肉の襞に、その黒々とした醜くく野太い肉棒を押し入れてきた。
「いったーい・・・た、たすけてっ・・・いやぁーーーっ」。
小蘭は下半身を襲う激痛から、必死で逃れようとして抵抗をしたが、手足を残る四人の荒くれ共に押さえつけられていては、どうにもしようがない。声を限りに助けをこい、涙を流すのが哀れでしかない。
「ぐひひっ。よく締まるぜ。こいつは上ものだぜ」。
男共は情け容赦のない陵辱を開始した。無抵抗の女をなぶり者にすることでしか、彼等は感じなくなっている。女が涙を流して苦痛にゆがむ表情を見せることによってのみエロティシズムを感じるという輩。こんな連中に捕まってしまった運命をただ呪うしかない。
「ううっ・・・いやっ、いやっ、やめて・・・・」。
「へへっ。ほれっ、ほれっ、どうだ、オレのモノの味は・・・」。
「いやっ、助けて・・・秀白・・たすけて・・・」。
「えっ、なんだって。そうか、おまえのいとしい人かい。あいつはよっ、ほれっ、おまえが犯されているところをちゃんと見ててくれてるぜ。おとなしくな」。
女の悲痛な叫び声と、男達のからかいの声を耳にしながら、立木に縛られた男は、悔しさのあまりに、まるで子供のようにしゃくり上げながら涙を流している。
「くそうっ、くそうっ・・・・うう・・・・しょ、小蘭・・・」。
そんな哀れな男の姿を面白そうに眺めながら、山賊達はいよいよ本格的に女を犯すことに専念をした。最初のひとりが彼女の肉壺の奥で果てると、すぐさま次の男に交代し、残酷な陵辱劇が続けられる。
「・・・・い・・・や・・・もう・・・たすけて・・・」。
女の悲鳴と抵抗は次第に弱々しく、そしてか細いものになっていった。しかし人の心の痛みなど考えたこともない、鬼畜の集団による無慈悲なレイプの宴は、いつ果てるともなく、繰り返し繰り返し続けられた。
誰知ることもない深い森の中。
密かに忍び寄る影が、その凄惨な光景を見つめているともしれず。
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