私は21歳以上です。


エスニック

     女子寮のペットくん

              その2

   
 それから10分の後。私たちは寮の一階にある談話室の中にいた。カーペット敷きで、約20畳ほどの部屋だ。二階から落ちた男は大したけがもなく、地面にのびていた。身長は160センチそこそこ、小柄で童顔の残る、ちょっとジャニーズ系のマスクをしていた。

 きっと近所に住んでいる高校生かなんかなんだろう。紺のジャージにグレーのヨットパーカー。お世辞にもファッションのセンスはいいとはいえないけれど、たぶん見つかったときに、ジョギングの最中でしたとでも言い訳するつもりだったんだろう。

 でも今日という今日は、絶対に言い逃れなんて出来ないはず。だって発見現場も寮の中だったし、彼の右手には動かぬ証拠がしっかりと握られていたから。そうなの。右手には洗ったばかりでまだ湿ったままの香澄ちゃんのショーツ、お気に入りのちょっと大人びたレースのいっぱいついたやつが握りしめられていたから。

 「どうする。まだ目を覚まさないよ、コイツ」。
 「そうねえ、このまま警察に突き出すのも、なんかしゃくに障るわよね」。
 「そうそう、きっと未成年ということで、すぐに釈放されちゃうわよ」。
 「そして、また下着ドロを繰り返すか・・・・」。
 「でもでも、この子こんな美形なのに、どうしてこんなことするのぉ」。
 「うーん難しいなぁ・・・」。
 「男だからよ。男なんてみんなスケベなんだから・・」。
 「そうかなぁ、そうとは限らないと思うよ」。

 談話室には、騒ぎを聞いて集まってきた、約10人ばかりの寮生が集まっていた。みんな興味津々で、部屋の中央に転がしてある下着ドロの容疑者を取り囲んで、おしゃべりに余念がない。男の子はすでに逃げ出すことが出来ないように、両手と両足をロープでしっかりと縛り付けてある。

 気絶したままの彼を、総勢5人がかりでここまで運び込んだのだ。運んでいる最中に目を覚まされたらどうしようとドキドキしたけど、結局無事にここまで運びこむことが出来た。談話室に転がしてみて初めて判ったんだけど、彼の後頭部には大きなこぶが出来ていた。瞳先輩の診察(?)によると、特に心配することはなさそう。こんなとき看護婦としての知識は多いに役に立つ。

 「おしゃべりはそれぐらいにして、そろそろ尋問を開始する?」。
「そうね。誰かそいつ起こしてくれる」。
 遥香先輩の言葉に、みんなはハッとしておしゃべりをやめ顔を見合わせる。バチバチと交わす視線の先で女同士の無言の会話が進行する。

 (ええーっ、わたしやだなぁ。だって・・・・)
 こんな時って、出しゃばりすぎてもダメだし、そうかといって、先輩に指名されたら、断れないし、難しいのよね。女の子の世界って。
 
 みんな考えていることは同じなのかして、だれも牽制して手を出さない。するとそれに業を煮やした瞳先輩が、すっとその子に近づくなり、乱暴に身体を揺すった。

 「おいっ、起きろよっ、いつまでのびてるんだいっ!!」。
 ついでにほっぺをバチバチと二度ほどひっぱたいた。ええっ、乱暴っ・・・、私思わずその子に同情してしまった。同情する必要なんてないんだろうけど。だってこの子は私たちにとっては許せない下着ドロボウなんだから。

 「・・・・うーん・・・・・」。
 あっ、意識が戻ったみたい。ふぅーっと、その子大きく息を吸い込んで、目を覚ました。なんだか寝ぼけたみたいな表情。ちょっとカワイイ。

 「こらっ、起きろっ!。下着ドロボウ!」。瞳先輩はさらにほっぺをつねるようにして引っ張った。
 「えっ・・・あっ・・」。

 今度こそこの子目を覚ました。でも状況が把握できないのか、びっくりしたような表情をして、きょろきょろ辺りを見回している。そりゃそうでしょう。二階の窓から転落して気がついたら、こうこうと照らされた照明の下、スウェットやパジャマ姿の女の子達に囲まれているんだもの。

  この子びっくりして起きあがろうとして、はじめて手と足を縛られていることに気がついたみたい。
「あの・・・ぼく・・あれっ?・・・・」。
 気持ちが動転してまとも言葉にもなっていない。

 「起きたな。この下着ドロボウ!」。
 情け容赦のない瞳先輩の言葉に、男の子はかあーっと真っ赤になっておろおろしだす。 「えっ?、ぼく・・・知りません。きっと何かの間違いですっ。それに、こ、これはいったいどういうことなんです」。

 「ばーか。何を白々しい嘘を言ってんだよ。二階の窓から落っこちといて、手にはしっかりと下着を握りしめておきながら、よく言うよ。ここ1ヶ月間の下着盗んでたのも、全部おまえの仕業だろう」。
 「いえ・・・ぼくはただ・・・・」。声がどんどんと弱々しいものになっていく。

 「おまえ、名前をいってみな」。
 「・・・・・・・・」。
 「そうかよ。黙ってるんだったら、それでもいいぞ。こっちにはちゃんと証拠もあることだし、このまま警察に突きだしてもいいんだぜ」。

 警察という言葉が出たとたんに、男の子の表情がさっと変わった。
 「あの・・・警察だけは・・・」。
 「何いってんだい。下着ドロボウは立派な犯罪だぞ。110番に電話するとすぐにパトカーがかけつけてくるし、警察で調べればおまえの名前なんかすぐにわかるんだから。そうするとおまえの家族や学校にも連絡が行くだろうし・・・、まっ、場合によっては刑務所に入らなければならないかもね」。

 瞳先輩って、すごく意地が悪い。だって今はこの男の子って、圧倒的に弱い立場なわけだし、縛ってあるから逃げられる心配もないし、それをいいことに、猫がネズミをいたぶるかのように、ネチネチといじめているんだもん。

 「あの・・・たのむから警察だけは・・・・・」。
 「へえーっ、警察呼んじゃあいけないの?。それって私たちの下着を盗ったってことを認めるということかな?」。
 「・・・・・・・・」。
 「そう、黙ってたんじゃわからないわ。いいわよ、黙ってるんならそれでも・・・・。それじゃあしかたない。ねえ、遥香ちょっと110番してきてくれる」。
 「あっ、ま、まってよ。それだけは・・・・」。
 「あっらー、どうして?。きみは濡れ衣だって言うんだし、私たちに名前すら言わないんだから、あとはお巡りさんに来てもらうしかないじゃない」。

 「・・・・わかりした・・・白状します。ごめんなさい・・・・」。
 男の子の声は今にも消え入りそうなぐらい、おびえていた。よっぽど親や学校に知られたくないんだろうな。そうよね。女子寮に忍び込んで下着を盗んだなんて、そんな噂が広まったら、ちょっとはずかしくって近所や学校歩けないもんね。

 「じゃ、きみが下着盗ったってこと認めるのね」。
 「はい・・・・」。
 「今日だけじゃなくって、今までの分も全部君の仕業って訳ね?」。
 「・・・はい、そうです・・」。
 「そう・・・。ところで全部で今までに何枚ぐらい盗ったの?」。
 「ええっと・・・だいたい・・・10枚ぐらいです」。
 
 ざわざわざわ・・・、寮生の間からは予想外に多い被害に、驚きの声があがる。私たちが確認しているのは、せいぜい5枚程度だったから、あとの5枚ほどの持ち主は、盗られたことすら気づかなかったことになる。わたしなんかだと、いつも洗濯したあとはちゃんと枚数をかぞえてるけど、けっこういい加減な人が多いってことなのかしら。

 「そう・・・。そんなに・・・。で、君はその盗った下着で、何していたのかな。きっとエッチなことしてたんじゃないの?」。
 「・・・・・・・」。
 「ま、いいわ。答えたくなければそれはそれで。ところで名前もまだ聞いてなかったわね。これも素直に白状してもらいましょうか。」

 「あの・・・どうしても言わないと、ダメですか」。
 「当たり前だろうが。言わなければ警察だぞ、警察っ!」。
 「い、いいますって、だから警察だけは!お願いします」。
 「そ、正直にね。嘘なんか言ったら絶対に許さないよ」。
 「はい・・・・。名前は遠藤です。遠藤和馬・・・・」。
 「へえーっ、和馬君って言うのか。で、何年生?」。
 「あ、あの高校を出て、今は、浪人してます・・・・」。
 「あ、そうなんだ、大学受験生なんだ。ふーん・・・」。

 「ところで住んでるのはこの近く?」。
 尋問の輪に、新たに遥香先輩が加わった。受験生と言うことで興味を引いたみたい。彼女は、この看護学校の中でも一二を争うほどの秀才で、本来ならば国立の大学を目指していてもおかしくないほどの人なんだけど、家庭の事情かなんかでここに入っている。いずれは看護婦をしながら、大学を目指すんだろうとみんなが噂をしている。

 「・・・あの・・・駅前のみずほマンションです・・・」。
 「ええーっ・・・あんなところから来たの。結構離れてるよ」。
 「はい・・・自転車だと15分ぐらいですけど」。
 「そうかぁ・・・。あそこからわざわざねぇ。で、きみ、下着をぬすんで、悪かったと思ってるわけ?」。

 「・・・・・・・・」。
 この子また黙ってしまった。名前も住んでるところも、盗った枚数まで白状したんだから、そのままただ、ゴメンナサイと言えばいいのに、なんで言わないんだろう。強情なのか馬鹿なのか、そのへんがかよくわからない。でも、その沈黙は取り囲んでいる私たち寮生達、つまりこの「事件」の「被害者」達の心証をどんどん悪くしているってことに、彼自身全く気づいていない。そのへんが救いがたい。

 「なにを黙ってんだい。悪いと思ってないのかよっ」。
 「むかつくなぁ。反省してないってわけぇ」。
「どうやら、そのようだわ。女の下着なんて、オナニーの道具ぐらいにしか思ってないんだあ・・・」。
 「ひっどーいっ・・・・」。

 みんなが口々に、彼に向かって非難の声を上げ始めたことによって、やっと彼は、この沈黙が彼女たちを怒らせ始めたことに気がついたようだ。
 「あのぉ・・・は、反省はしてます・・・で、でも、ちょっとした出来心で・・・」。

 やっと開いた彼の口から出た言葉は、なんとも見苦しい弁解じみた言葉だけ。こんなの反省なんかじゃないよ。ふだんは温厚で通っている私ですら、だんだんと腹が立ってきた。何いってんのかしら、この子。まともに謝ることすらできないって訳?。人の大切な下着を10枚も盗っておいて、そんな言い方ってないじゃないの。

「ねえ、みんなどうする?。わたしはさぁ、この子がきちんと反省をして、盗った下着の相当額を現金で弁償してくれたら、許してあげようとも思ってたんだけどさ、こいつったら、全然反省しているようにはみえないんだよ」。とうとう遥香先輩がキレはじめてしまった。

 「おいっ、おまえっ、何が出来心だってぇ?」。瞳先輩が男の子に向かって、顔を近づけて怒鳴るようにして言った。男の子は瞳先輩のドスの利いた声に震え上がる。
 「あ・・・、す、すいませんでした。わ、悪いとは知りながら、受験勉強に悶々としていて、でも、本当に盗ろうとして盗ったんじゃなくて、つい、その・・・・」。
 「なにをごちゃごちゃいってんだいっ。ええっ?。それがちゃんと謝っている態度なのかよっ。しかも寝っ転がったままでよっ!!」。

 瞳先輩ったら・・・。そんなこといったって、彼って両手と両端を縛られたままなんだし、ここにこうして転がしたのは、まぎれもなく私たちなんだから。でも、その一言で、彼はあわてたようにして起きあがろうとして、また床にごろんと転がってしまう。
 「あのぉ・・・、これほどいてもらえますか・・・・」。

 「ばーか。なにいってんだよ。おまえが心底から反省もしてないってのに、なにがほどいてくれってんだよっ。ばかじゃねえのこいつ」。
 「これはさあ、やっぱ、おしおきしないとだめなんじゃない?」
 「うん。そうだと思う。こういう変態には、変態に対する制裁の方法があると思うな。」
 「そうだよ。心の底からもう二度と下着を盗ろうなんて思わなくなるぐらい、ヒドイ目に遭わせてやらないと、こんな奴にはわからないと思うよ。」

 あれ?。なんかおかしな風になってきた。みんな、特に先輩達の雰囲気がへん。口から出る言葉は怒りをそのまま表現しているってのに、表情が微妙に変化ををしはじめている感じ。そうそう、瞳先輩のいたぶるようなトーンが、全体に広がったような。口元にはこれから面白いことを始めようとでもするような、笑みすら浮かんでいる。

 一方、その表情の変化に気がつかないのか、彼の方はと言うと、先輩達のから飛び出す過激な発言に、ようやく自分の失言の重大さに気がついたみたい。あわてて、取り繕うとするんだけど、全ては後の祭りなのよね。

 「あっ、あの・・すいません。盗んだ下着は、全て返します。それから・・・、今度のことは深く反省をして、もう二度としません。だからその・・・」。
 「うるせんだよっ。今になって何を弁解しても遅いんだよっ。てめえの腐った根性を、お姉さま達がたたきなおしてやるって、いってんだよ」。
 「ありがたいと思いな。おまえが今まで味わったことがないような、すばらしい体験をさせてやるよ」。

 先輩達はどんどんとエキサイトし始めている。これって、ひょっとして先輩達の間では、最初から筋書きがひかれていたんだろうか。そう思ってしまうぐらいに、何か手順が良すぎるようなる気がする。私たち下級生は、ちょっととまどいながらも、この場から離れることができなくなっていた。

 「ごめんなさいっ。いえ、申し訳ありませんでした。だから・・・痛いことしないでください。こんなのって、まともじゃないですよ。みなさん、どうか冷静になって下さいよ」。 彼って、身体をぶるぶると震わせながら、必死に自分の身を守ろうとしている。でも、それってあまりに自己チュウよね。この子の言う言葉って、私たちにとってこれっぽっちも誠意なんて感じないもの。ただ、リンチをさけたいがために、適当に言いつくろっているだけ。少なくとも私たちには、そうとしか思えなかった。

 「痛いことされると思ってるの?。失礼よね。私たちって別にSMみたいな趣味はないわよ。そうじゃなくって、君がまともな人間になるためのお手伝いをしてあげようっての」。
 「痛いことはしないんですね?」。
 「そう、痛いことはしないわ。ただ、すごぉく恥ずかしい思いはするかもね。ふふっ」。
「えっ?????」。

 「さあて、じゃあそろそろ始めましょうか。」遥香先輩の主導権の下に、何かとんでもないことが始まろうとしていた。


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