私は21歳以上です。


エスニック
セックスマシーン
            その2

  
第2章 人体実験の開始

 目の前にはすごい料理が並んでいた。ここ数日間の粗食が嘘のようだ。
まずはドミノのピザ、来来軒のラーメンとギョーザ、ローソン特製幕の内弁当、ケンタッキーフライドチキンに、てりやきバーガーのバリューセット。さらに極めつけは、駅前の屋台のたこ焼き1000円分だ。

 なにがごちそうだってぇ?。判ってないなあ、僕らのような貧乏研究所のスタッフは、研究に没入する余り、普段からろくなモノを食べていない。ここに並んだモノは、いずれも1ヶ月以上お目にかかったことがない、とっても贅沢な食べ物群なのだ。ここら辺の事情は、都会に住んで便利さになれてしまった連中には、きっと理解ができないことなんだろうな。

 午後8時になった。天井のブザーがなる。いよいよ実験が開始されるのだ。
1ヶ月ぶりのごちそうを腹一杯に詰め込んで、ボクは心から満足していた。なにしろ来来軒のギョーザは、いつ食べても美味この上ない。博士が車に乗ってわざわざ買って来てくれたのだ(こんな山の中へは出前なんか来ない)。ここは博士の気持ちを無駄にはできない。しっかりとその期待に応えなければならないと思った。

 実験室にはいると、先生はもうマシーンの前で最終調整を終えていた。
「おお、草薙君。時間通りじゃね。それじゃ早速始めようかの」。
問題のセックスマシーンは部屋の中央にどーんと置かれ、そこから壁際のメインコンピューターまで、コードがのびている。博士はこのメインコンピュータでモニターをしながら、機械が正常に動いているかをチェックするつもりらしい。

 見れば見るほど、コーヒーポットにそっくりの形をしている。それも白塗りのホーロー製のやつだ。ポットのふたのところがぽっかりと空いており、ここから被験者の身体全体をすっぽりと中に入れるらしい。いつの間にか、博士が上るためのはしごまで立てかけていてくれていた。コレなんかは助手の仕事なのに・・・。 

 「さあ草薙君。そこで今着ているものを全部脱いでもらおうか」。
 「ええっ?。裸になるんですかぁ?」。
 「もちろんじゃ。だってのぉ、このポット・・・あっいやいや、マシーンの中にはな、人間の体液と同じ成分、言ってみたら子宮の中で赤ちゃんが浮かんでおる羊水のような液体が満たされておるのじゃ。お風呂にはいるのに服を着て入るモンはおらんじゃろが。それと同じと考えればよいのじゃ」。
 「なるほどお風呂と一緒ね・・・、そういえば、昨日もおとといも、入ってなかったなあ・・。あっそうそう、タオル持ってくるのを忘れたぞ」。ボクは思わず部屋へタオルを取りにいこうとする。

 「何いっとるんじゃ。タオルなんぞはいらん!。そのまま入ったらいいんじゃ。」
「だって博士・・」。
 「誰が風呂だといった?。風呂というのは例えじゃ。こんなところでボケしてどうするというんじゃ、訳のわからん奴じゃな。さっさと服を脱いで入らんかい」。

 決してギャグした訳じゃないんだけど、ここは博士の命令に従おう。ボクはてきぱきと服を脱いで、ポット・・・いやいや、マシーンのはしごを登り始めた。上から見ると中には半透明の液体が入っていて、昔田舎のおばあちゃんの家にあったゴエモン風呂のようだった。ちょっと入るのには勇気がいる。

 「博士、これって人体には害にならないんでしょうね」。
 「あたりまえじゃ。ワシの考えて作ったモノに今まで間違いはなかったんじゃ」。
またいつものせりふが飛び出した。助手の口から言うのも何だけど、博士の発明は本当に危なっかしいのだ。でも博士の頭の構造は、イヤなことや失敗の経験はことごとく消去されていて、記憶の痕跡すら存在していない。本当に幸せな人生を歩んでいるのだ。

 「早く入れと言っておるが。何を迷うとるんじゃ。説明は後。中に入ったらゆっくりと説明をしてやるから、さっさと入らんかい」。博士ちょっとイライラしてきている。これはまずい。博士を怒らせたら、せっかくの実験がダメになってしまう。

 ボクは足首からゆっくりと中に入った。温度はぬるめ。体温よりもちょっと暖かい程度で、決して不快ではない。液体も特に薬品臭くもなく、ねばねばと身体にまとわりつくでもなく、ちょっとした温水プールの感覚だ。

 「よし、入ったか。入ったら首まで浸かって、中のいすに腰を下ろすのじゃ。高さは測ってあるからちょうどよいはずジャ。どうじゃ?。ちようどよいじゃろう。それから次は、両手を肘掛けにかけるんじゃ。両足は足代に乗せたかの?」。

 「博士なんだか緊張しますね」。
 「安心せいとい言うておるじゃろが。今入っておる液体はの、コンピューターの指示に応じて自在に変化をするという特殊なゲノム溶液じゃ、ちょっとした刺激で固くもなり、柔らかくもなり、中に入ってる人間に対して、様々な刺激を与えてくれる訳じゃ。液体にプログラムを実行させるのが、このポッド・・・じゃない、マシーンの内壁に無数にとりつけられたプログラムチップでの・・・・・・」。

 どうやらまた博士の長解説が始まったようだ。コレが始まると最低で20分、専門用語と数式が入ったかなり専門的な話が延々と続き、途中からは助手のボクにもちんぷんかんぷんでよく分からなくなる。ただしてつものように判ったようなフリをして、適当に相づちを打つことだけは忘れない。コレこそが助手という職業の、最も大切な役目でもあるんだから。
 
 「さて、それじゃいよいよ入力プログラムのセッティングに入ろうかの」。
 「博士、それって、バーチャルリアリティー部分の設定ということですよね」。
 生ぬるい溶液に浸かったままで、すかさずボクが質問をする。ここが肝心な部分なのだ。せっかくの人体実験を買って出たわけは、ここでのプログラム如何にかかっている。プログラムが博士好みになってしまったんでは、何のための実験か。せっかくのセックスマシーンの実験台なんだし、やっぱりここは自分好みのシュチエーションを設定したい。

 「そうじゃ。設定は自由自在、どんな希望でも叶えてあげることができるぞ。古代エジプトでクレオパトラといたすことも、平安時代の紫式部とやることも、なんなら女には限ったことではない、ニューヨークでゲイのお兄ちゃんというのでも設定できるのじゃ」。
 「えっ、いえいえ、そんな突飛なやつでなくって、もっと普通でいいですから・・」。
 なんでまた、クレオパトラなんてのが出て来るんだよ。ましてや、いくらなんでもホモなんて・・・。全く博士の考えていることは理解できない。これは何が何でも、自分で希望を言っておく必要がありそうだ。

 「博士、僕の希望を言ってもいいですか」。
 「なに、希望があるなら言ってみたらよい。今のところは、社会民衆党党首の土井タガ子女史に設定しておるがの」。
 「博士!。止めて下さいよ。それはないでしょう!。それはあんのまりひどい・・」。
 「おや?。ダメかのぉ。ちょっとばかしイカツイところがあるが、彼女はまだ独身だし、あれでいてワシ的には、可愛いと思ってたんジャがのぉ・・・。」。
 
 全く信じらけれない。いったいどんな感性してるんだ、この博士は・・・。
 「あの希望言います。個人的には、土井先生も結構なんですが(全然結構なんかじゃない。絶対にイヤ)、できたらもう少し若くって、せめて20代ということにしてもらいたいんです。一応ぼくも若いんで、同世代ということで・・・」。
 「おおそうかそうか・・、実験台はキミだったんじゃな。それじゃ土井ちゃんはワシがやるときまで保存しておいて・・・と。それでどんな設定がいいんじゃ?」。

 結局、僕が希望を入れたのは、いかにも月並みな、よくピンクサロンやイメクラなどで人気のあるパターンばかりになってしまった。
 
 パターン1 病院のベツドの上で広末涼子タイプの美人看護婦さんと。
 パターン2 放課後の教室で、女子高校生と。
 パターン3 オフィスで江角風のOLと。
 パターン4 満員電車の中での痴漢体験。

 ボクのイマジネーションの貧困さを、博士はしきりに嘆いていたが、被験者としての立場を尊重して、ほとんどボク希望通りの設定に同意してくれた。
 
 設定が終わると、いよいよ実験が開始される。4つのパターンは、アトランダムに選択され、どれが最初になるかは判らない。被験者がよりリアリティーを感じるように、あらかじめプログラムが組まれているとのことだ。

 頭にヘルメットのような帽子がかぶせられる。これは脳波測定と、バーチャル情報を直接脳に送り込むための装置だそうだ。眼まですっぽりと覆われてしまったが、ヘルメット内のディスプレイを通して、デジタル化された画像として、さっきまでの室内の様子が、肉眼以上に鮮明に目の前に広がっている。

 「よっしゃ。これで準備は完了じゃ。草薙君、覚悟はよいかな」。
 「か・・覚悟って・・、博士、念を押すようですけど、本当に大丈夫ですよね」。
 この博士の不用意なヒトコトが、またまた心配の種を作る。いまさら後戻りなんてできないことは判っているに、やっぱり・・・ちょっと心配。セックスへの期待感と共に、何かしら身の危険の予感を感じていた。結果的にはこの予感は、見事に的中してしまうのだが・・・・。

 ウイーン、ウィーン、ジーパチパチ・・・・。
いよいよマシーンが起動を始めた。溶液を通してボク自身の身体にも、かすかな震度が伝わってくる。溶液の温度が心持ち上昇し、ボクの身体全体がぽかぽかと暖かくなっていく。
目の前から実験室内の画像が消え去り、視界には灰色の霧の中にいるようなような景色が広がっている。

 「それじゃ、草薙君いってらっしゃい。ワシはここからモニターしているからの。何かあればそこで大声を上げたらよい。なに心配はいらん。バーチャルリアリティーの世界は、何でも現実と寸部も変わらない世界をキミに見せてくれるはずじゃ。射精したくなったら出してもよい。我慢なんてする必要はないんじゃ。まあ、せいぜい現実と同様に楽しんできたらよいぞ」。
 博士の声が次第にこだまのようになって、遠い耳鳴りのように聞こえてきた。耳の中に重低音のような音が聞こえたらと思ったら、一瞬にして目の前が変化した。そう。とうとうマシーン内部のバーチャル空間にトリップをしたのだった。


第2話おしまい  つづきは第3話へ

 この物語はフィクションです(あたりまえですよね)。
ストーリー中に登場する、地名、人名、団体名は、全て架空のものであり、現実に存在する類似の名称をもつ土地、人、団体とは一切何の関係もありません。あしからずご了承下さい。


つづく


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