ロードス島異聞録 5


 

 

 黒の導師は、唸り声をあげた。あげざるを得なかった。

 机上の水晶球に映し出された出来事に驚きつつ、それが終わるや否やまどろむニースの召還に成功した。

 今、ニースは眼下でぐったりと瞳を閉じていた。

 憔悴した少女の精神はたやすく屈服し、黒の導師の魔力を受け入れた。彼女の身体はこのマーモの地まで運ばれたのだ。

 ベッドに横たわるニースの脚はだらしなくひらかれたままだ。

 その脚のつけねからはたらたらと精液が零れ落ち、怪しく光を照り返していた。

 前後の穴を汚され、少女は力を失ったように眠りについているのだった。

(・・・・さて、どうするか)

 さしものバグナードにとっても、昨夜の展開は意外であった。

 いまいましく思っていた聖女の仲間が、よもやあんな凶行に及ぼうとは。

 邪悪な大地にいきる自分でさえ戦慄を覚えるほどの男の行為であった。

 僥倖というべきだろうか。つくづく哀れな運命の元に生まれた少女だと黒の導師は思った。

 ・・・・ともあれ、待望の、扉がようやく自分の手元にやってきたのだ。

(しかし・・・・)

 もっと喜んでもいいはずだった。だが、何か不吉な予感が黒の導師をつつんでいた。

 なにか。

 なにか、自分のたくらみを崩すことが起きている。

 違和感がある。

 バグナードは、首をかしげ、部屋を見まわした。

 あられもない姿をさらす少女の太ももに何気なく手をのせ、しばし考える。

(・・・・まさか、な・・・・)

 イヤな予感が、1つのイメージとなって収束した。

 

 視線。

 見られている?

 ニースは、不吉な悪寒につつまれて、目をさました。

 ・・・・身体がだるい。関節のあちこちに微妙な痛みが残っている。

 かなり長い時間眠ったようなのに、疲れは身体に蓄積されたままだ。

「ん・・・・」

 手足が、きちんと動かない。痺れているのだろうか?

 もう少し眠りたいのに・・・・。

 ・・・・手?

「!?」

 ニースの目が、見開かれた。

 まばたきが繰り返され、急速に意識が戻ってくる。

 目の前の光景の意味を、ようやく理解した。

「黒の導師・・・・?」

 自分は、粗末なベッドの上にいた。見覚えのない質素な貫頭衣を着せられ、脚を縄で縛られている。

 膝を曲げたまま腿と脛を縄できっちりと固定して、ニースの動きを封じている。

 しかも、誰かの手が、自分の脚を広げている。左右の膝に手を置いて、両側に脚を押し倒しているのだ。

 膝を固定され、左右に脚を広げれば、秘部は隠しようがない。

 ニースは、周囲に自分の恥ずかしい部分をさらしているのだ。

「ひ・・・・!」

 思わず悲鳴をあげる。

 押さえつけられた脚を閉じようと反射的に力がこめられる。

 凌辱され、汚された記憶がニースに蘇る。汚されたその部位を見られることが、恥ずかしくて仕方がない。

 ニースは、羞恥心に顔を赤らめた。

 紛れもない「敵」に自分のアソコをさらしていることがつらい。

 それに、自分はレイプされた直後だ。

 ワレメから、今にも精液が逆流してくるのではないか。そんな不安が、ニースをつつんだ。

 そんなところをみられるなんて・・・・!

「聖女よ、脚を閉じてはならぬ」

「いや・・・・!」

 男の声。ニースは、構わず両脚を閉じようと力をこめた。

 それなのに、脚はまるで動かなくなった。

 ニースは狼狽した。

なぜだろう?

 ニースの両脚は、彼女の意思に反して大きく開かれたままであった。

 

 スパーク達のいる地から、遠く離れたマーモ。

 ニースたちから見れば旅の目的地であり、敵地である。敵の本拠地にあたる邪悪な大地だ。

 舞台は、そのマーモの、邪神の神殿の地下室に移動する。

 ニースは、ギャラックにレイプされた一夜、ほとんど抵抗もなくバグナードとの精神戦に敗れ、マーモの地へとその身柄を運ばれていた。

 

 顔を赤らめる少女を見つめるのは、黒の導師だけではなかった。

 肌の黒い妖精。線の細い女性がそれにつきしたがっていた。彼女は、拘束され動けないニースの腹部を手でさすり、不気味な笑みを浮かべている。

 邪悪な妖精、邪神の使徒であるダークエルフである。

 彼女はなにかを確かめるようにニースを診察しているようだった。

「目覚めたか、”扉”たる少女よ」

 黒の導師の言葉に、ニースはきっと目線を返すことで応じた。

 恥ずかしさをどうにか押さえ込み、怒りを持って相手をにらみつける。

 バグナードは、そんなニースのせめてもの抵抗を笑い捨てた。

 ダークエルフの女性が身を翻した。ニースの身体から離れ、バグナードの後ろまで下がる。

 二言三言、小さな声で報告がなされたようだった。

 やがてバグナードがゆっくりうなずいた。

「・・・・ふむ」

「・・・・・」

 いよいよ、邪神復活の儀式をはじめるというのだろうか。

 その場に満ちる邪悪な雰囲気に、ニースは手のひらに汗を感じた。

「”扉”たる少女・・・・いや、あえて聖女ニースと呼ぼう。

 ニースよ、そなたにとっても、私にとっても、残念な結果だ」

 はぐらかすような黒の導師の言葉だった。

 どこか嘲弄する響きをもった、いやらしい言葉が彼の口からつむがれていく。

「・・・・なんのことです」

「聖女ニース。君は、信じていた仲間から裏切られた」

「・・・・・っ」

「奴が狂ったのか、それとも君の言動に原因があったのかは知らぬが、私はあの夜のことも逐一見させてもらった。

 まったく、私も予想していいなかったことだよ、あんな事態は。

 どうだね、信じていた仲間にあんなことをされた気分は」

「・・・・・」

 答えるつもりはない、とばかりにニースは横を向いた。

「・・・・ふむ」

「まあ、それはよかろう。

 では、本題に入ろうか。

 聖女ニース。君が、邪神復活の”扉”となった理由は、君の中に宿る一つの魂による。

 かつて、マーモと、そしてカノンで君臨した亡者の女王ナニール。

 死してなお転生する力を持つ女神官だ。

 その魂をはじめに宿したのは君の母親、レイリアだ」

 もちろん、ニースはその事実を知っている。

 母から伝えられた、呪われた出生である。

 バグナードは、たんたんと語りつづけた。

「つまり、もともと扉たる運命は君の母親に与えられたものだったわけだ。

 だが、彼女が子供を宿したことで事態は変わる。

 純潔を失った彼女からその子供・・・・不幸なる子供へと、ナニールの魂は移ったわけだ。

 その不幸なる娘こそが、君というわけだ。聖女ニース」

「私は、自分が不幸などとは思っていません」

「仲間からレイプされてもかね?」

「・・・・・・」

「そんなに怖い顔をするな。

 さて、聖女ニース」

 黒の導師は、そこでいったん口を止めた。ニースの恐怖をあおるように、沈黙をはさむ。

「君は、”扉”たる資格を、すでに失っている」

「・・・・?」

 場違いなほど、ニースの顔がきょとんとなった。

 黒の導師の言葉を理解するのに、数秒かかる。

 導師の言葉はゆっくりだったが、それでも、次の言葉が発せられるまでにニースが意味を理解することはできなかった。

 あまりに衝撃的な言葉が、ニースを捉える。

「君の腹の中には、次なる”扉”の運命をもった赤子がいるのだ。

 よかったら、未婚の母になった感想でも聞かせてもらおうか?」

「・・・・っ」

 

 思わず、お腹に手をあてた。

 もちろん、妊娠初期の身体には、まだなんの変化もない。

 ニースの顔は愕然を通り越し、青ざめていた。黒の導師の言葉をかみしめるほど、衝撃的な事実に頭が混乱していった。

 守るように両手でお腹を抱き、かすかに震えながら、黒の導師の言葉に聞き入る。

(赤ちゃん、が・・・・?)

「私としても、大切な娘をレイプされた気分だよ、聖女ニース。

 純潔を失った程度ならどうにでもなったのだろうが、さすがに子供まで作られてはね。

 まったく」

「・・・・・・」

 涙がこぼれそうになった。ニースは目をつぶり、それをじっとこらえる。

 敵の前で泣きたくない、涙を見せたくないという意地のような感情で必死に耐えていた。

 黒の導師の言葉は温和をよそおいながらしっかりとニースの心に鋭利な傷を残していく。

「今、彼女に確認してもらったところでは」

 黒の導師がダークエルフを振りかえりながら、語りを続けた。

「君の妊娠は間違いない。順調に行けば十月十日後には、出産することになるだろう。

 だが、それでは遅すぎるのだ。

 マーモと諸国の争いは、それまでに終焉してしまう。

 あの男は、実に慧眼というべきだな。

 一晩で、それだけの時間を稼ぎ出したわけだ」

 ニースはうめいた。

 高位の精霊使いでれば、人間の生命の精霊力を敏感に感じ取れると聞く。

 おそらく、ダークエルフはそれを利用してニースの体内に宿る生命を知ったのだろう。

(・・・・・10ヶ月)

 悪魔の期間だった。

(・・・・わたしの、子供・・・・・)

 12歳の少女には、酷すぎる事態というべきだろう。

 ニースは、レイプされて妊娠した女性を何度も見たことがある。

 マーファ神殿では、身よりのない子供などを引き取って育てる役割を果たすことがある。それゆえ、父親のいない子供を妊娠してしまった女性が神殿を頼って訪れることがままあるのだ。

 堕胎技術の発展していない今日では、貴重な役割といえる。マーファ神殿は、子供を引き取り、傷ついた女性の心を癒すのだ。

 戦乱に明け暮れる世の中だ。傷つく女性はいくらでも目にすることができた・・・・・。

 そして、ニースの脳裏に浮かぶのは、彼女らの悲痛な叫びと、悲しみに満ちた顔だ。

 自分も、その中の一人になってしまったのだ、と思うと、その運命の悲しさにまた涙が出そうになった。

「生まれてくる子供のために、頑張りなさい」

 マーファ神殿でよく聞かれる言葉だ。

 それが、こんなにも心に痛く響くとは。

 ニースは、そういう言葉のつらさを、思い知った。

 妊娠。

 出産。

 ひとことひとことがニースの心につらくのしかかっていた。

 

10

 

 生命の杖、魂の水晶球、支配の王杓、知識の額冠、真実の鏡。

 ロードス島に伝わる、「太守の秘宝」と呼ばれる五種の宝である。

 このうち、支配の王杓はフレイム王カシューとマーモの黒騎士アシュラムとの戦いの中で失われ、すでにこの世にない。

 真実の鏡は灰色の魔女・カーラが所有している。

 残りの三つ、生命の杖、魂の水晶球、知識の額冠は全て黒の導師の手にあった。

 生命の杖と魂の水晶球は邪神降臨に必要な「2つの鍵」である。

 だが、もちろん効果はそれにとどまらない。生命の杖は人の傷を癒し、人間に生命力を与える。魂の水晶球は人の体に失われた魂を宿す。それぞれが、普通では考えられない強大な魔力を秘めている。

 生命の杖も、魂の水晶球も、ダークエルフを派遣して諸国の宝物庫から奪ったのものだ。

 ・・・・ようやくニースは気がついた。

 長話を語りながら、黒の導師が手の中でもてあそんでいる杖こそが、生命の杖だ。

「・・・・いかにも、これが生命の杖だ」

 バグナードは、ニースの視線を受けて答えた。

 ニースが扉たる資格を失ったことに彼も衝撃を受けているのか、今日の黒の導師はやけに饒舌であった。

「私は、知識の額冠によって、古代王国の知識を手に入れた。その中に、この杖の使い方もあった。

 この杖は、人の傷をいやす。

 だが、それだけではない。もうひとつ、別の使い方があるのだよ」

「・・・・・」

「生命の精霊、というのを見たことがあるかね」

 あるはずがない。ニースは、神に仕える神官であり、精霊使いではないのだ。

 それに、生命の精霊は普通微弱にしか現れない。物質界とは特につながりが薄く、姿をあらわすことさえ稀だと聞いている。

「私も見たことはない。だが、一角獣の姿をもって現れる、かの精霊には、人の成長をつかさどる力があるそうだ。

 そばにいた人間を若返らせる・・・・あるいは、年をとらす力が、な。

 生命の力とは、すなわち人間を成長を司る力なのだ」

 バグナードは、手の中でくるくると生命の杖を回している。

 語りつづける黒の同士の顔は、だんだんと邪悪なものが満ちてきていた。

 恐ろしい陰謀を語るとき、悪の魔術師の顔は陶酔にも似た狂気で支配される。

 バグナードは、冷笑するような氷の目でニースを見つめていた。

「さて、ここに生命の杖がある。

 古代王国の秘宝と呼ばれる、生命力を操る杖だ。

 そして、精霊力を操るダークエルフがいる。

 賢明なる聖女は、もう私が何をしたいか分かっているのではないかな?」

「・・・・・・」

「拒否することは許さぬ。

 目覚める前に、君には魔法をかけさせてもらっている。

 聖女よ、おまえは私の命令にそむくことはできぬ。

 ”制約”の魔法だ」

 ニースは青ざめた顔でうつむいていた。

 いったい、どこに驚けばよいのだろう?

 人体の神秘さえ我が手で管理しようという黒の導師に驚けばいいのか。

 魔法により、自分の心を捉えたという、その事実を嘆けばいいのか。

 それとも、ムリヤリに子供を生まされることになった、自分の運命を嘆けばいいのか。

 

 黒の導師は、生命の杖を使い・・・・ニースの体を、ムリヤリに成長させようというのだ。

 ニースと、その中に宿る生命を。

 

 ニースは、唇の色さえ失っていた。

 レイプされている最中、ニースは、自分の体がまるで別のものに変えられてしまう恐怖を味わった。

 だが、黒の導師は、古代王国の知識と魔法技術をもって、自分の体をまさに作り変えようとしているのだ・・・・!

(・・・・こ、怖い・・・・!)

 自然であれ、という教えを旨とするマーファ教団に属するニースにとって、生命の神秘さえおびやかす黒の導師の言葉はおそれおののかんばかりの呪いの連続だった。

 バグナードは、細かに震えるニースに向き直って、厳かに宣言した。

「命令だ。聖女よ、さらに脚を開け」

 ギアス・・・・制約の魔法が、本当にかかっていたのかどうか。

 そもそも、ニースはすでに黒の導師に呑まれていた。

 その余りにも異質すぎるたくらみと、それを実行してしまうであろう魔力とに恐怖し、その言葉にあがらうことなどできなくなっていたかのようだった。

 両脚が、180度に達するほど開かれた。

 柔らかい肢体の中心の、可憐な秘部が両側から引っ張られ広がる。

 下着は剥ぎ取られたままだ。服の裾が広がり、隠すものはもう存在しない。

(あ、あ、あ・・・・!)

 生命の杖は、豪奢な飾りのついた杖だ。あちこちに突起もあればじゃらじゃらとなる鎖などの装飾もある。

 それが、ニースの秘部にあてられた。

(い、いや・・・・っ!!)

 ずぶっ。

 凌辱の残滓に汚れたニースのワレメを、冷たい、金属の感触が貫いた。

「ひ、いいいいいい!」

 まだ狭い入口を、

ギザギザの突起が次々に突破し、ニースの身体を内側から痛めつける。

 鎖が体内で暴れ始めた。黒の導師が力を入れるたび、深く、危険な部分から衝撃が広がっていく。

 ひんやりとする不気味な感触が胎内に広がった。

 股から棒をはやした奇怪な少女の像が出来あがりだ。

 ニースは目を剥き、口をあけ広げてその奇怪な感触に耐えなければならなかった。

 ダークエルフの女性が前に出て、ニースの腹部に手をあてた。

「ふふ、まだ子供がいるとは思えない大きさね」

「あ、ああ・・・!」

 ダークエルフの手はやさしくお腹をなでさすっていたが、その動きがかえって不気味だった。自分が妊婦であるということを自覚させる、恐怖の攻撃だった。

 ニースは、あそこから広がる冷たい感覚に震え出す。

(お、おしっこが・・・でちゃう・・・・)

 膀胱が冷やされ、しかも膣が圧迫された状態だった。男の前で両脚を開き、秘部に棒を突っ込まれ・・・・全身が緊張していた。

 尿意をもよおしたとしても無理はない。

 お腹をなでる手の感触がつらかった。まるで、おしっこを押し出そうとするように手がお腹を押さえ、なでている。

 きゅっと尿道がしまるのが感じられた。

(あ、ああ・・・・!)

 こんな、何もかもさらけだしたままの格好でおしっこなんて出来るはずがない。

 それも、敵である黒の導師の前でなんか・・・・!

「では、はじめよう・・・・」

 ニースの苦悩に構わず、黒の導師とダークエルフの呪文の詠唱が始まった。

 ニースは、体内にさしこまれた杖の先端がふくらんでいくのを感じた。膣壁が内側から押し広げられる。

 まるで、ヴァギナを子供をうみやすいよう拡張されているようだった。

 感じているわけでもないのに、よだれのように愛液がこぼれる。

「い、イヤ・・・・怖い・・・・」

 自分の体が変質していく感覚にニースは震え、今までの気丈な様子さえ失って哀願の叫びをあげた。

 実際には、体内にさしこまれた生命の杖の大きさに変化はない。変化しているのは、その先、膣の奥の部分だ。

 膣をムリヤリに広げられる間隔に、ニースはまたも昨夜のレイプを思い出してしまう。

 太すぎるペニスを受け入れているようだった。

 ヴァギナが信じられないほど拡張されていく。

 どん、どんと体内から棒で叩かれているような衝撃だった。

「あ、う、う・・・・!?」

 呪文が続く。それにつれ、乳房がぴんと張ってきた。

 むずがゆいような感覚が乳房の外側にはしり、皮膚がつっぱる。

 お腹には、まだ変化がない。

「どうだ?」

「大丈夫です」

 バグナードたちの呪文がとうとう佳境に入った。

 ニースの体に、異常な発汗があった。額や首筋を脂汗が流れ出す。

 体がだんだん重苦しくなっていく。

 食べすぎた時のようにお腹がつっぱる。そして、ヴァギナが際限なく広がっていく感覚。

「あ、あ、あ・・・・!」

 お腹が、かすかに膨らみ始めたようだった。

 ニースは、それをおしとどめようとするかのようにお腹に手をあてた。

 ・・・・どくん。

 ・・・・・どくん。

「!?」

 腹部の大きさから言えば、まだ妊娠3ヶ月といったところだろうか。服の上からではとうてい変化がわからぬ、妊娠初期だ。

 だというのに・・・今、指先に感じたのは・・・・。

(ま、まさか・・・・)

 あわてたように腹部をなでさする。鼓動は、たしかに感じられた。

 ぞくぞくするような感覚が背中を走る。

 生命の杖で無理な成長をとげられているためか。

 体内の胎児の脈拍が、ニースの手を震わせていた。。

「う、うそ・・・・・!」

 黒の導師の言葉を疑うわけではなかった。だが、どこかで「虚言であってほしい」という思いはあった。

 それだけに、決定的といえるその証拠は・・・・ニースにとって、ショックだった。

「ひ、や、や・・・・・」

 「やめて」と声をあげることもできない。激しい動揺と混乱がニースを襲った。

 バグナードは、ニースの腹に手をあて、満足そうにつぶやいた。

「ふむ・・・・」

「そうだな、今日はこれぐらいにしておこう。胎児は、無事に出産してもらわねばならぬからな。

 ゆっくり、育てるとしよう。

 そうだな・・・・半月か、一月か。そのあたりをメドに、生んでもらうとしよう」

「あ、あ、あ・・・・」

 ニースには、声は聞こえていなかった。

 腹部に手をあて、ただ涙を流す。

 目の焦点は定まらず、放心状態からまるで抜け出せない。

「メイ、それまで、こやつの世話を頼むぞ」

「かしこまりました」

 ダークエルフの女性が答えた。・・・・むろん、それもニースには聞こえない。

 ニースは、小刻みな震えを感じながら、ただ咽びなくばかりだった。

 自分が放尿していることにすら気づいていなかったのかもしれない。

 床には、少女の小便で泉が作られていた。


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