ロードス島異聞録 1


 

 

 あたりは、白い霧でつつまれていた。

 どんなに目をこらしても、彼方を見とおすことはできない、深い霧。

 手を伸ばせば、その指先が見えなくなるのではないか。そう思わせるほどの霧の濃さである。

 足元に目をやれば、その霧で地面が見えないほどだ。

 地面? いや、正確に表現するなら、足元に大地の感触はない。

 宙に浮揚しているような、そんな状況だ。

 気を抜くと落下してしまいそうな、奇妙な感覚。

 自然に発生しうる状況ではない。

 世界の中に、自分という存在があり・・・・他には、樹木の1つさえない状況。

 今の状況の説明として適しているのはそれだ。

 自分以外のなにものも確認できない状況。

 そこに、小柄な少女が一人、じっと立っているのだ。

 

 長い黒髪を背中までたなびかせた少女である。

 髪には癖がなく、まっすぐうなじから垂れている。額には小さな髪飾りがあり、かすかな輝きを放っていた。

 髪飾りはけして豪奢なものではない。

 だが、少女の清楚な美しさをさりげなくアピールする意味で、それが類稀な逸品であることが十分に見て取れた。

 年は12歳。年齢だけ見ればまだ「幼い」という表現を使っても差し支えはないだろう。

 だが、その体つきは年齢を思わせない。特に、胸から腰にかけてのラインは「女性」を強くアピールしていた。

 顔立ちも美しく、特に瞳は落ちついた輝きをはなち、見るものを圧倒する。

 少女の名はニース。

 フレイムの宮廷魔術師スレイン・スターシーカーとマーファの高司祭レイリアの間に生まれた子供だ。

 

 彼女は、聖女と呼ばれていた。

 神に祈り、神の代行者として力を発揮する者として・・・・彼女は若くして司祭級の力を表している。

 力だけではない。

 人当たりがよく、誰にでも分け隔てなく接する彼女は、憧れの視線をもって人々に慕われていた。

 外見はおとなびているものの、動作のはしばしにはまだ子供っぽいところが残る。

 人々の目には、その子供っぽささえ彼女の神秘性や精神の清らかさを表しているように映った。人々は彼女を愛し、彼女もまた人々を愛した。

 まさに、天に一物も二物も与えられて育った少女といえるだろう。

 幼少期こそ戦乱にあけくれるザクソンで育ったが、父が強国フレイムの宮廷魔術師に任じられてからはそこのマーファ神殿で大切に育てられた身であった。

 彼女の祖母に当たる人物は、かつてこのロードスを破滅の危機から救った伝説の英雄である。

 本人がみせる優れた資質とあいまって、彼女にかかる期待も、注目も、自然激しいものであった。

 彼女は、その注目を受けながらも・・・・・ただ、自分は自分とばかり、神への信仰をもって生きていた。

 恵まれた生活におぼれることなく、彼女は、ただ質素に、神に祈りをささげる生活を送ってきたのである。

 

 少女を包む霧は、霧であって霧でなかった。

 もし、白い闇というものがあったら、それが表現として最もふさわしいものだっただろう。

 自分がどこに立っているのかさえ分からない。

 辺りには何もない。

 

 ニースは、全裸だった。

 普段まとっている神官衣は影も見えず、年のわりには発達した肢体を風に投げ出していた。

 裸体をさらしていることになるが、その身体には微塵のふるえもない。

 彼女の視線は、己の身体を振りかえることなく、きっと正面をにらんでいた。

 薄い肩も、まるい乳房も、まるでそれが自然であるように全てをさらしている。

 美しいからだが堂々と、霧の中でその存在を誇っていた。

 

(・・・・来る・・・・!)

 ニースの身体に緊張が走った。

 おぞましささえ感じるほどの邪気と、それにもまして強大な魔力。

 この場を支配するその力が、ついに動き出したのだ。

 ニースをこの謎の空間に招いた、圧倒的な力が。その力の持ち主が、近づいている。

「・・・ようこそ、”扉”たる少女」

 ニースの、見惚れるほど美しい体に、ようやくかすかな力が入った。

 女神のように悠然と構えていた顔に、年相応のものが生じる。嫌悪と、若干の怒りを含んだ視線であった。

 だが、少女の純粋な瞳に敵の姿は現れない。

 ・・・・敵の声だけがその場に響いていた。

 壮年の男と思われる声の持ち主は、ニースの視界に姿を見せようとはしなかった。

「・・・・黒の導師・・・・!」

 ニースは、居住まいをただした。

 心をつとめてみださぬように意識を集中させる。現れたのは、この地で有数の魔術師なのだ。

 全力をもってあたらなければ、勝てるものではない。

 

 ”黒の導師”ことバグナードが「夢」を使って攻撃をしかけてきたのはこれが初めてではない。

 マーファの教えに従ってフレイムを旅立って後、幾度となくニースは悪夢にうなされた。

 バグナードは、その魔力でニースの夢に干渉し、その心を攻めつづけていたのである。

 夢は、人の精神と直結したものだ。夢を介して魔力を送り込む手法は高位の魔術師にとってはけして珍しいものではない。

 魔法は無限遠にまで到達するわけではない。遠方の相手を魔力で捕らえるときの媒介として夢を使って魔力を送りこむのは有用な手法なのだ。

 夢から送り込んだ魔力は、現実の世界にも及ぶ。

 夢の中でニースが屈すれば、その身柄もバグナードが手にすることになる。

 ”黒の導師”は、それだけの力をもった魔術師であった。

 だが、その彼をもってしても、”聖女”ニースを屈服させるのは容易ではなかった。

 彼女を手にするため、バグナードは悪夢での攻撃を連夜しかけてきているのである。

 

 ニースのいる白い霧の世界は、夢の世界。バグナードとの戦いの場だ。

 お互いの存在以外、なにものも感じられぬ仮想の空間で・・・・連夜

の、魂のぶつかり合いが今日も始まった。

 ニースは胸の前で両手を組み、神に祈りをささげる。信仰心こそがニースの武器だった。

 神を信じることで精神は集中され、余人の干渉を妨げる。それが、最終的には、たとえ強大な力を持つバグナードの攻撃でさえも跳ね除けることになる。

 ニースの祈りは、目に見えぬ、厚い防壁となって彼女をおおっていた。

 高位の神官にも匹敵するというニースの力によって、「信仰の盾」はしっかりとニースの身体を守っていているのだ。

 バグナードの攻撃もまた、目には見えない。

 その精神は刺となり、針となり、ニースの心に突き刺さっていた。そのたびに痛覚に似た神経が身体を走り、ニースの集中を妨げる。

 ニースの精神をなぶるように痛めつけ、また同時に呼びかける。

 闇におちよ、と。

 痛覚に耐える必要はない、それを受け入れよと呼びかける。受け入れれば、苦痛はなくなると訴えかけてくる。

 心をさんざんに攻撃された後だ。常人なら苦痛から逃れるために心を開きもしよう。

 その思いを、ニースは神への信仰で跳ね除ける。

 互いの精神が激しくぶつかりあった。精神が身体から発現し、辺りの白い霧がうねるように動いた。

 魔力がはじけ、夢の空間を構成するマナに干渉しているようだった。

 

 ただじっと心を集中させつづけることは、もちろん本人に多大な負担となる。

 よく見れば、輝かんばかりのニースの美貌にも、若干のかげりがうかがえるほどだ。

 ニースの消耗は明らかだった。だが、”黒の導師”の消耗はそれ以上だろう。

 彼は、魔法を使うと耐えがたい苦痛に襲われるという呪いに縛られている。この悪夢を送る中でも、激しい痛みにみまわれているに違いなかった。

 お互いに消耗しながら、決着がつかない。

 それが、ここ数日の戦いの様子だった。あるいは、今日も決着はつかないかもしれない、とニースは覚悟していた。

 マーモに渡るまで、この戦いは連夜続くだろう。

 だが、耐えて見せる。耐えぬいて、きっと直接バグナードの前に立って見せると、ニースは己の心に誓っていた。

 ・・・・だが、この日の戦いはいつもの通りには終わらなかった。

 ”黒の導師”は、ニースの身柄を得るため、その精神の障壁を打ち破るため・・・・新たな策を用いてきたのだ。

 

 

 心の動揺は精神を揺るがし、集中をかきみだすものだ。

 この異空間で心身を動揺させれば、精神のコントロールはたちまち失われ、相手の力に屈することになる。

 それだけに、ニースは心を集中させ、意識の中に余のものをおかぬようにしていた。

 だから、直接の・・・・肉体に対するその攻撃は、彼女の不意をつく形になった。

 

「・・・・ひくっ!?」

 胸を、つかまれた。

 胸の柔らかい肉が、ぎゅっとおしつぶされる感覚。

 予想もしていなかった衝撃に、ニースはあわてて自分の身体を振りかえった。

 両方の脇の下から腕がのび、それがニースの胸に伸びていた。

 赤黒い、ごつごつとした腕。少女に不潔感さえおぼえさせる男の腕だった。

 ぐっと広げられた手のひらが柔肉をもてあそび、揉みこねはじめている。

 弾力に富んだ乳房が指の間からはみでて、ぶるぶると波打っていた。

「・・・あ、えっ!?」

 それまで身じろぎひとつせずに精神を整えていたニースも、さすがに動揺した。

 組んだ腕をとき、胸をもみ続ける手をひきはがそうと身をよじり、その指をつかむ。

 だが、手はまるで胸と一体化したかのようにべっとりとはりつき、まるで離れようとしない。

 はげしく身動きするが、結果は同じだ。いい形に成熟しかかった乳房がぷりんぷりんとゆれるが、男の手は離れない。

 むしろ暴れる彼女に喜んだように男の手はニースの胸をもてあそんでいた。

 柔らかい胸は、男の指におされてぷにゅんとへこみ、いやらしく、いびつにくびりだされている。

(・・・・い、いけない!)

 揺れ動いた心の隙をついて、黒の導師の攻撃がとどく。

 心に、”精神の針”がちくちくと突き刺さる。頭の一部がぼうっと何かにとらわれたように働かなくなった。

 胸をいじられたショックで集中がとぎれたせいだ。あわてて、ニースは腕をくみ、集中を再開する。

 ・・・・黒の導師の攻撃に違いなかった。

 精神の戦いの場に、現実の男かどうかはわからぬが・・・男を送りこみ、ニースの身体を刺激する。

 その隙をついて彼女を篭絡しようという魂胆だろう。

 精神面の、普通の攻撃では彼女を落とせぬと見たバグナードが、卑怯な手を用いてきているのだ。

(汚い・・・・!)

 ニースは歯噛みした。

 相手の用いてきた卑劣で下劣な手法に、心の中に怒りが湧きあがっていた。

 こんな卑怯な手をつかう敵に負けて成るものかといっそう精神を集中させる。

 制止するニースの腕がなくなり、男の腕はさらに勇躍して胸をもみしだき始めた。

 ぐにゅぐにゅ、ぐにゅぐにゅ。

 およそ遠慮というものを知らない大胆な揉みかただ。柔らかいニースの胸が指に押されてへこみ、形を変える。

 精神を集中し始めたはずのニースに、すぐに異変が走った。

(え・・・・?)

 胸が揉まれる。それだけで、それまで黒の導師の攻撃に鉄壁の防御をしいていたニースの心が、もろくもくずれはじめる。

 ニースは幼い。まだ12歳の咲き始めた肉体だ。

 身体はどうしても敏感に反応してしまう。すぐに慣れぬ快感が乳房から広がっていった。

(な、なに、これ・・・・うそ・・・・!)

 ニースの信仰するマーファ教団は、一面で男女の祝いをつかさどっている。

 婚姻、契り、出産にいたるまで、民間伝承の知識や方式を伝え、それを農村を中心に人々に教与しているのだ。

 だが、その中に自慰という項目はない。

 男女の結びつきを奨励するため、一方で、自慰についてはむしろ否定的な見方をする教団である。禁止したりするわけではないが、むしろ男女間の関係の育成と自制心を育てる方を重視する。

 ニースは、子供のころからマーファ神殿にいた。神殿でずっと育てられた。

 まわりのものは、神殿では自慰の話などしない。そういった話題を持ち出しただけで禁忌に触れるように言葉を失う。

 自然、ニースはそういったことから遠ざかった発育をした。

 だから、ニースは、年齢以上に成熟しかけた肉体を持ちながら・・・・まだ、自分の秘部をいじったことさえなかった。

 戯れにふくらみはじめた乳房をもてあそんだことぐらいはある。だが、それさえ、乳首に指がふれたときに身体を走った感覚に、奇妙なとまどいを覚え、そこでやめてしまった・・・・その程度の経験にすぎない。

 ニースは、成熟した肢体を持ちながら、これまであえて性から離れた暮らしをいとなんでいたのだ。

 もし性欲が体内に蓄積されるなら、ニースの身体にはあふれんばかりの性欲が蓄えられていたことだろう。

 それでなくても、彼女の身体は目覚めの瞬間をじっと待っていたのだ・・・・。

 外側から、「女」として己を開花させる刺激を、じっと、じっと・・・・。

 

 身体の中に溜め込まれた欲望が発散されるように、乳房から熱が広がる。

 おっぱいがもまれるたび、まるでそれがポンプになって体中になにかを送りこんでいるように、体内をいかづちが走り抜けた。

(・・・・うぅん・・・!)

 いつのまにか、ニースのポーズはひどくエロティックなものになっていた。

 後ろから抱きすくめられ胸をまさぐられているせいで、ヒップがきゅっと後ろに突き出され、膝がのび、かすかに脚をひろげ・・・・その中で、胸だけが男の愛撫から逃れようと前に突き出されている。

 男の腕さえなければ、前に胸、後ろに尻をつきだし、おのれの見事なプロポーションを見せ付けているようにも映っただろう。

 ニースの表情からは毅然とした、聖女としての影はすでに失われかかっている。

 頬を中心に、真っ白な肌が赤く染まり、まるでこの状況を喜ぶように肌につやが出始める。

(・・・・う・・・うあ・・・・)

 頭にノイズが入る。

 集中しなればならない意識において、その中心が幾度も幾度もぼけ、心がかき乱される。

 ”黒の導師”の攻撃にからくも耐えつつ・・・・ニースは快楽のあえぎを押し殺していた。

 喘ぎ声を押さえるべきか。

 それとも、精神攻撃に耐えるべきか。

 冷静に判断すれば自明の理であるこの問いがニースの頭の中ではじけていた。

 口をつぐみ、バグナードの心を受け入れるべきだ・・・・。ささやく何者かの声に、力をふりそそいで、必死に耐える。

 なれぬ快楽は、魔の手となってニースを襲い、その身体を蹂躙していた。

 

 男の手が、乳首に伸びた。ニースの乳首は、すでに、かすかに勃起していた。

 身体の興奮を満たすすべを知らず、とまどうように・・・・白い肌にポツンと浮き出たピンク色が膨らみ、円を描いて震えている。

 その乳首を、左右同時に、根元から先までこするように男の指が動いた。

「・・・・・!!」

 ニースの背中がそりかえった。つま先から頭までその肢体がぴんと伸びる。

 脳裏を言いようのない奇妙な色が染めあげる。

 心臓がどきどきしていた。

 胸をまさぐる男の手に不快感を覚えながら、それが時折どうしようもなくいとおしく思えてしまい、身体を振るわせる。

 男の腕を拒否することが、どうしてもできない。

 ニースの身体は、愛撫で性の衝動に目覚めたようにうちふるえた。

 純粋培養された敏感な身体が、一度に蹂躙されようとしていたのだ。

 ニースの身体は快楽をどう処理すればいいのかわからず、とまどっていた。

 

 バグナードの攻撃はいつのまにか散発的なものになっていた。

 精神への針は断続的に、今までより弱く襲ってくるだけになった。

 ニースの意識は自然と胸にまわされた腕の方に向けられる。

 腕から、逃れられないか。

 神に祈り、その力をかりれば、あるいはその腕を男ごと引き剥がすことは簡単だったかもしれない。

 それでも、どうしてもニースにはその決断ができなかった。

 

 男の腕から逃れたとき、この身体に残った快楽がどうなるのか。

 そのことに想像がつかなかった。

 

 初めての快感にとまどい、自分が狂ってしまうのではないかと恐れ、それで・・・・男の腕を引き剥がせない。

 敏感すぎる身体のめざめは、ニースから決断力を奪っていた。

 どうすることもできずにいるうち、腕のうごきはますますニースの快楽の中心へ中心へと移動して行ってしまう。

「・・・・ん、ん・・・・」

 どんどん乳首の感覚がするどくなっていた。胸から流れだす、快感の波もどんどん大きくなっている。

 ニースはしびれるような快感に苦しんだ。

 意識がぼんやりとしてくる。欲望が頭の中を大きく占め、思考がどんどんはたらかなくなってくる。

 かろうじて、「このままではいけない」という意識だけが頭の中に残った。

(・・・・だめ、だめ・・・・!)

 頭の中で、欲望を押さえようとする意識と、欲望に負けた意識が戦い始める。

(このままじゃ・・・・だめ・・・・)

(なんでだめなの?)

(なにか、いけないの?)

 まるで意識が分裂したように、ニースの頭の中で対立が起こっていた。

 その喧騒がぼんやりとしたニースの頭にさらに靄をかけていく。

(なんで、だめなの?)

(本当に受け入れてはいけないの?)

 波は、甘美な誘惑をもってニースの身体を溶かしにかかっていた。

 

 ”欲望を無理におさえることは自然にあらず”

 

 ニースの頭に、ひとつの言葉が浮かんだ。マーファの教えの一節だ。

 バグナードの誘惑ではない。れっきとした、マーファの教えだ。それが、ニースの心に安堵を与えた。

 実際には”されど欲望にとらわれては人にあらず”と続く、戒めの文だ。

 しかし、その文の・・・一部だけが、ニースの心に宿り、支配した。

 「受け入れても、いいんじゃないだろうか?」と意識が塗りかえられる。

 ニースの心はもう、陥落寸前だった。

 乳首ははげしくそり立っていた。

 胸以外の性感帯が発達していないだけに、愛撫を受ける胸にばかり興奮があつまる。

 胸だけをひらすら刺激されつづけている・・・・それだけなのに、もうこらえようもないほど身体が高まっている。

 ・・・・あるいは、さっさと胸へ伸びる腕を振り払ってしまえばこんな快楽とのせめぎあいになることもなかったのかもしれない。

 だが、時折やってくる黒の導師の攻撃の中では、とてもそうすることなどできなかった。

 快感が長く続く。胸が揉まれるたび、ニースの身体は爆発するような性感に支配された。

 まったく開発されていなかった身体に、その刺激は強すぎた。

 ニースの心が、瞬く間にとろけ、くずれていく。

 

「・・・・ああっ!」

 こねるように胸をもんでいた男の指の動きが、突如として変わった。

 おっぱいのふもとに小指をあて、そのまま乳をしぼるように胸を押さえつける。小指から人差し指までが、乳房のふもとから頂きにむかって並んだ。

 そのままぎゅっと押しつぶされる。牛の乳をしぼるようにニースのおっぱいは押しつぶされ、形をゆがませた。

 そそり立った乳首から何か噴出されそうな感覚に、ニースは痛みよりもむしろ快感を覚えてしまう。

「・・・・・ひっ!?」

 男の肉棒が、脚の間から現れた。後ろから、男が肉棒を突き出したのだ。

 ニースの身体は後ろから男に抱きすくめられ、閉じた脚がちょうど素股の形になって男の肉棒を挟みこんでいた。

 ワレメの下部分に、熱いかたまりがある。

 どくんどくんと波打つそれからじわじわと熱気が伝わってきた。胸ばかり刺激され、それまで触られることもなく苦しんでいたニースの秘部が、一気に開花した。

「あ、あ・・・・!」

 はじめ、腕だけで愛撫していた男は、いつのまにか全身をニースに密着させていた。

 背中に男の胸があたる。尻は男の陰毛に触れている。脇の下に男の腕がある。

 特に、肉棒はニースの体の一部であるようにぴったりと彼女の身体にはりついていた。

 ぎゅっと押しつけられた肉棒から、熱さがじわじわと伝わってくる。

 押し当てられた部分から身体がとけてしまいそうな感覚に、ニースの身体がびくびくと震えた。

 瞳がとろんとしてくる。その顔から聖女の表情もとまどいの色も消え失せ、”女”の顔が強く現れる・・・・。

 まるで、インモラルな事柄を熟知した悪女のような色気づいた表情がニースの顔を支配した。

「ぅん・・・・!」

 ニースは鼻をならした。

 脚の間にはさまれた肉棒がすっ・・・・と動き始める。

 

 胸がもまれるたび、素股に肉棒がこすりつけられるたび、身体がどんどん浮き上がっていくような感触が広がる。

 太ももに挟まれた肉棒は、潤滑液がないこともものともせずに激しく暴れまわっていた。

 ・・・・すぐに、そこはぬらぬらとひかる、怪しい光沢に包まれた。

 ニースの愛液か、それとも別のなにかかはわからないが、ともかく肉棒は激しく、だが滑らかに前後した。

 ニースの秘裂を刺激し、ときに割り広げ、ときに尻穴と秘裂のあいだの敏感な部分を攻めたて・・・・ニースを苦しめた。

 じゅく、じゅく、じゅく。

 肉棒にあわせてニースの身体は躍った。鼻声が聞こえ始め、純白の肌は徐々にピンク色に火照り始める・・・・。

 

「ああん、だめっ!!」

 ニースの手が股間の肉棒に伸びた。

 ・・・・ニース自身、とどめようとしたのか、それともさらなる快楽をもとめたのかはわからない。

 ニースの手がふれた瞬間、肉棒は爆ぜた。

 根元からカリ首までがぐんっと動き、手のひらに大量の精液が吐き出された。

 どぷっ、どぷっ。

 凄まじい量だった。肉棒が激しく前後し、ニースの手のひらに向けて放出を繰り返す。

 奔流は4回にわたって続き、白い塊が、差し出されたニースの手を埋め尽くそうとしていた。

(あ、な、なに・・・・?)

 どこかこの世にあらざるものを見たような気がして、ニースはぼうっと手の平にまかれた精液を見つめていた。

 やがて、あふれる精液がニースの手からたれ落ちそうになる。

(あ・・・・っ)

 あわてて手のひらを横にしてこぼれるのを防ぐ。

 なぜ、そんなことをしたのか・・・・ニースは、自分の行動に困惑した。

 そしてそのとき・・・・バグナードの攻撃が、再び襲いかかってきた。まるで、ニースの呆然自失を見はからっていたかのように。

「あ、きゃ・・・・っ!!」

 全身に、しびれるような衝撃が走る。

 

 ニースの放心をつくようにバグナードの攻撃が送り込まれてきたのだ。

 夢の中で、ニースは「自分」が薄れていく感覚を覚えた。

 かろうじて祈りと集中を取り戻し、それ以上の侵攻を阻止する。

 祈るとき両手がくまれ、その手の間で精液がねっとりと広がったが・・・・そんなことに構っている余裕はない。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・!」

 息が乱れていた。

 精神攻撃の影響が身体にもおよんだのだろう。体力が失われ、汗がどっと吹き出ていた。

 ニースは、なんとか体勢を立て直そうとみじろぎした。


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