キサナの冒険 5
9
「や、やめてっ! そ、そんな・・・・そんなぁああ!!」
「いえいえ、遠慮なさらず」
キサナは、口をめいっぱいにまで広げて絶叫した。
顔は青ざめ、目を見開いて怯えていた。
酷薄な魔物の言うことだ。本気で実行するつもりに違いない。
今までの、レイプとはワケが違った。それは・・・・あるいは、今まで誇り高く生きてきたキサナにとって、死にも勝る恐怖だったかもしれない。
腕を失った自分の姿を想像して、キサナはがくがくと震え出した。
両腕を押さえつけるバディオスのいましめを逃れようと手足をばたつかせ、キサナは必死にその場を逃れようとした。
「いや、いやっ!!」
バタつかせた脚がむらがるオークの腹にあたり、その一匹が悶絶したままうずくまった。
必死だった。
必死に、両手を動かし、バディオスから離れようとする。
「暴れると、もっと痛いですよ。イイ子だから」
「んぐっ!!」
子供をあやすような声を出しながら、バディオスはどん、とキサナの腹部に蹴りを入れた。
息がつまる。
動きがとまった、その隙をついてバディオスはキサナをあお向けに地面に転がした。
素早く肩口を脚で押さえ、動きを封じる。反対側の腕も、オークが組み付いて押さえつけた。
脚だけがばたばたと必死の抵抗を繰り返すが、その動きも、しばらくしておさまった。
・・・・バディオスの手に、鋭利な刃をもった斧が握られていた。
短い柄のわりに鋭く、巨大な研ぎ澄まされた刃をもっている。
その斧の持つ不気味な光に、キサナは驚いて身をすくませた。
「ひ・・・・ひ・・・・!」
本気だ。
本気で、自分の腕を切り落とすつもりだ。
バディオスの脚が、キサナの右の胸に移動した。ぐっと胸郭がおされ、呼吸も苦しくなった。
おっぱいをふみつけにされる屈辱が、瞬時キサナの脳裏に流れたが・・・・今は、それどころではない。
バディオスのもう一つの脚は右の手のひらをふみつけ、押さえていた。まるで材木でも切り出すようにキサナの身体を脚で固定してみせたのだ。
・・・・今にも切断作業にうつろうかという姿勢である。
バディオスは、しばらくその奇怪な武器をもてあそぶようにしながらキサナの顔を観察していた。
恐怖にゆがみ、見開いた目で自分を見上げる視線を楽しむように微笑んだ。
「うん、では、いきますよ・・・・」
右腕の根元、右のおっぱいのすぐ横に、斧がちょんと当てられた。
・・・・すでに、キサナは恐怖で暴れることもできない。
一度、すっと斧が持ち上げられ。
勢いよく、振り下ろされた。
どん。
音はにぶかった。
骨の硬さも、肉の抵抗も感じさせないほどあっさりと、斧は地面を打った。
「・・・・・・・・・・!!」
声がでない。
腕から、喉から、焼け付くような衝撃が走った。
脳髄が衝撃から神経を守るために痛みをカットしたように、何も伝わってこない。
ただ、圧倒的な熱量が右腕から伝わってくる。
(い、い、い・・・・・!)
頭の中が白く、黒く、はげしくフラッシュした。
目の奥がちかちかする。
うつぶせにねころがったまま、キサナの頭部ががくりと地面についた。
「がっ、ああああああああああああああ!!」
空気が抜けるように、息が通った。とたんに、喉の奥から悲鳴とも哀願ともわからぬ叫びが吐き出された。
処女喪失のとき、これほどの痛みが他にあるか、と思ったが・・・・。
そんなものとは、比べ物にならない。
熱い。
腕を、見ることもできない。
体内を流れる奔流に、必死に耐えることしかできない。
涙は流れない。涙は、激しくのたうつキサナの動きにあわせて、飛び散った。
口からは唾液がはかれ、鼻水もだらしなく顔をよごした。
傷口から血が勢いよく噴き出した。
あっという間に血だまりができ、切り落とされたキサナの腕が血に染まる。
「・・・・! ! !!!」
目をとじ、歯を食いしばり、キサナは必死に痛みに耐えた。
噴き出す血が、痛覚を直接刺激しているようだった。
熱い。痛い。熱い。痛い。
脳をゆさぶられるような衝撃が間断なくキサナを襲う。
発狂しそうになる苦痛は、しかし数瞬でおさまった。
噴水のように血が飛び出る傷口に、バディオスがその手をかざしたのだ。すっと血がとまり、痛みもひいていく。魔法で傷口をふさいだらしい。
・・・・失われた腕が復活することはなかったけども。
傷口は少しふくらみをもった、ピンク色の肌で覆われた。
「できあがり」
バディオスは落ちた腕を見て、にこりと笑った。
「どうです、なかなかいいものだったでしょう?」
「・・・・・・う、う・・・・!」
「ほら、血も拭いてあげましょう」
キサナは羅刹のような瞳でバディオスをにらみつけた。
それは、絶望の底までおしこめられたキサナの、精一杯の抵抗であったのかもしれない。
眼光するどく見上げるキサナの、肩から先には、何もない。
そして、地面の上に、血だまりの上に、凄惨な一本の肉のかたまりが落ちていた。
「・・・・・・はあ、はあ・・・・!」
息があらい。
身体が重い。
ひどく、あちこちにだるさがある。
それでも。
それでも、バディオスが左側に移動して斧を振り上げたときには、恐怖で再びキサナは覚醒させられた。
最後の力を振り絞る。
足をばたつかせ、必死に戒めをとこうとする。
残った腕で必死に暴れ、身体全体で拒絶する。
「大人しくしなさいな」
「う・・・・・う・・・・」
すでに枯れたと思っていた涙がまた流れ落ちた。
痛みは、すでにおさまっている。だが、キサナの目の前の光景はあまりにショッキングだった。
「あばれちゃだめですよ・・・・そうだ」
バディオスが、何か思い出したかかのようにつぶやくと、キサナの太ももに自分の手の平をあてた。
「左腕を切る前に・・・・」
「イヤ・・・・!」
「よっ・・・・と」
バディオスが呪文を唱える。キサナの身体に電撃が走った。
太ももから、衝撃がそのまま奥まで走り、そのまま貫通する。
全身を衝撃がはしり、身体中が激しく痙攣した。雷に打たれたような激しい痛みがキサナをに襲う。
「あ・・・・脚が・・・・!?」
「動かないだけですよ。三日もすれば動けるようになります・・・・さて」
血に汚れた、斧を。
バディオスはもう一度振りかざした。
暴れて逃れようとしても、手足が痺れてもはや逃げることもできない。
キサナの左腕が・・・・右腕の時より、もっとあっさりと。地面に落ちた。
「あ、あああああああああ!!」
キサナの両腕は、もはやない。
さきほど、ミリアをだきしめた、あの腕は、もはやキサナのものではないのだ・・・・!
狂乱状態のキサナは、泣きじゃくり、激しく嗚咽した。
すでに両腕はなく、脚も動かせない。
自分が流した血の池の上に横たわって、キサナは泣いた。
「ふむ・・・・」
バディオスがあごに手をあて、感心したようにうなずいた。
「いやあ、美しい。ある宗教の神の像は、腕の部分が失われていてなお世界一の美を誇るとききますが・・・・・まさにそれですね。
キサナちゃん、きれいですよお」
「うう・・・・」
バディオスは、笑い、舌なめずりした。
「そうだ、オナニーの途中だったっけ?」
笑顔のまま、バディオスはキサナの肩・・・・・それは、もはや腕を動かす力をもたない・・・・をつかみ、キサナの身体をひっくり返した。
うつぶせのまま、地面に放り出されるかたちになって・・・・。
(あ・・・・!)
キサナの、薄いくさむらが。
激しく突き出された乳首が。
地面の、土にこすられた。
四肢切断の痛みは、魔法によっておさえられている。
それゆえ、蛇毒による、淫らな熱が・・・・再び全身をなでていた。精神を狂わせるまでの激しい欲求が身体を襲う。
「い、いやあ・・・・!」
乳首がうずく。
刺激を求めてしこりたっている。
あそこが、秘裂が燃えている。
触りたい。
刺激を、何か刺激を・・・・!
「ンン・・・・っ!!」
思わず、地面に乳首をこすりつけた。
激しく勃起した乳首が、土の愛撫を受け、キサナの身体を振るわせる。
「あっ・・・・! あっ・・・・!」
腕を失った衝撃を、ショックを忘れようとするかのように、キサナは上半身を動かしつづけた。
腹筋と背筋を駆使して乳首をいじめる。
乳首から伝わる快感に、キサナは顔を紅潮させ、はげしく身もだえしていた。
それは、あまりにあさましいオナニーショーだった。
(夢・・・・・これは、もう・・・・絶対、夢よ・・・・!)
ついに、現実逃避まで始まった。
バディオスの嘲弄の笑いも、もはや聞こえない。
淫靡という表現がこれほどふさわしいものがあるだろうか。
両手を失い、胴体をくねらせ、地面に自らの乳首をこすりつける。見るものの目をうばい、決してはなさせない美しさがそこにはあった。
キサナは、一心不乱にオナニーにいそしんだ。
快楽だけが自分をみたしてくれる。自分は快楽を得るためだけにいる・・・・。
キサナの頭の中はいやらしい欲求で満たされていた。
(ああ・・・・おっぱいが、おっぱいが・・・・気持ちいいよオ・・・・)
胸から伝わる甘美な感触にのみこまれ、他の感覚は磨耗して消えた。
だから、秘部に、あれほど嫌っていたオークの肉棒が差し込まれたことにも気がつかなかった。
ただ、ようやくそこが満たされた感覚と、あまりの快楽のあまり・・・・。
「あ、あああああっ!! あああああああああん!!」
ほえるように声をあげ、絶頂を迎え・・・・そして、キサナは、気を失った。
バディオスは、ほくそえんだ。
これで、計画通りだ。
ミリアとの約束通り、キサナはここにおいていってやろう・・・・。
血まみれの、両腕を失ったまま。
(さぞ、通りすがったものは驚くだろうよ・・・・・)
勇者キサナが、魔物にレイプされ、両腕を失っているのだ。
しかも、未だ快楽に苦しみ、自慰にふけっているかもしれない彼女を見ては・・・・。
(もはや、勇者として魔物退治をしようなどという者は現われまいよ)
10
・・・・キサナは、夢を見ていた。
食事をしていた。
皿に盛られた食事を、犬のように・・・・手をつかわず、がっつくようにして・・・・食べていた。
手は・・・・使わないのではない。
夢の中でも、キサナの腕は肩口から切り取られ、失われていた。
地面に直接置かれた皿に、うつぶせに地面に体をつけたまま口をつけているのだった。
(・・・・嘘・・・・嘘・・・・)
それだけではない。
キサナは、全裸だった。
犬のような首輪が一つ光っているだけで、あとは身に布一枚帯びていない。
周りにはたくさんの人影がある。
全裸で、土の上に置かれた皿で食事をとるキサナを見下ろす・・・・男たちの影だ。
衆人環視のもと、キサナはその素肌を風にさらしているのだった。
地面におかれた皿に口をつけるため、キサナは膝をたて、お尻を後ろへつきだすポーズをとっている。
その、ぐっと持ち上げられた尻を男たちが覗きこんでいるのだ。
「いい尻ですな」
「そうでしょう。まったく、いい買い物をしたものです」
(・・・・か、買い物!?)
あごに手をあて、古物商の鑑定士きどりでつぶやいた男がいた。
笑顔のまま、それにうなずいた男がいた。
「胸は小さいですがね。その分、尻は絶品です。それになにより、身にまとった気品がいい」
「なるほど。たしかに逸品ですすな・・・・。どれ、触っても、よろしいかな?」
「どうぞどうぞ」
(い、嫌よ・・・・!)
声がでない。
拒否したい。拒絶したい。
それなのに・・・・声はでなかった。
男の、脂ぎった手がキサナの尻をなでる。
2度、3度と手が往復した。
さわさわ、さわさわ。
(きゃ、いやあああ!)
絶叫は、口から外へはでない。
イヤなのに。悲鳴をあげるほどイヤなのに・・・・。
それなのに。キサナの尻は、男の愛撫に喜ぶようにぷるぷると振られた。
もっとなでてと男を誘うように・・・・。
「ううむ、いい尻だ。張りがあり、弾力も強い・・・・それでいて、穴は小さめのようですな」
「その通り。さすが、いい目をしていらっしゃる」
(く・・・・!)
男の手が、尻肉をつかんで割り広げた。
小さな、キサナのすぼまりがさらされる。
「それ、キサナ。おねだりしなさい」
「ふぁい・・・・」
(・・・・!)
口が、勝手に動いた。
・・・・ついで、身体も。
ごろんと身体をあおむけの形に直し、脚をめいっぱいまで広げる。
手もなしに、よくここまで広げられるものだと・・・・
そう、思わず誉めたくなるほど柔らかく、両足が開いた。
もちろん、キサナの秘部は丸見えだ。
そして、キサナの口が動き始める。
「入れて・・・下さい。ご主人様ぁ・・・・キサナのここは、もう・・・・ズブ濡れですう・・・・」
「ほう。もう、こんなに濡れている。たいしたものですね」
「うむ。今日は、いつにもましてぐしゃぐしゃだな。お客様を歓迎しているのだろう」
(そんな、そんな・・・・!)
キサナの口が勝手にしゃべった言葉は、事実だった。すでに愛液は、たっぷりと分泌され、キサナの秘部を満たしている。
ワレメからあふれだし、脚の間にこぼれおちるほど、たっぷりとした愛液が・・・・。
男の指が、そこに伸びた。
ワレメの中を指が攪拌し、ぐちょぐちょと卑猥な音をたてる。
「あ、あ・・・・!」
(いやぁ、やめてえ・・・・!)
顔が紅潮しているのがわかった。
全身が、興奮しているのもわかった。
つまるところ自分は・・・・自分の身体は。
犯されることを期待して、ふるえているのだ。
でも。
それでも。
男が肉棒を取り出したときは、キサナの肢体は恐怖に震えた。
「おや・・・・・?」
「ああ、いつものですな。
すぐほしがるくせに、いざ取り出すとこうやって怖がるんです。
わからん奴ですよ」
「嫌がる・・・・か。まあ、それもいいじゃありませんか?」
「いや、まあ、そうですね。
結構、いい刺激ではありますよ。嫌がる相手を犯すのもオツなもんですしね。
入れた後の反応もいいし」
(う、う・・・・!)
嫌がっているのに。
肉棒から、逃げたくて仕方がないのに。
身体はちっとも動かない。脚をとじることもできない。キサナには、男が入ってくるのを防ぐすべはなかった。
「ああんっ!!」
「いい声でなく」
肉棒をずっとつきこんだ男が、また感心したような声を上げた。
「・・・・で、いったいこんな上物を、商人はどこで見つけてきたんです?」
「それがね。
道端で拾ったっていうんですから、驚きです。
魔物にでもやられたか、腕を切り落とされていたそうで・・・・」
「おやおや、可愛そうに」
「それで、その商人もどうしようもなくって、娼婦にしこんだってワケですか」
「そんなところです・・・・・もっとも、淫乱な娘だったようで、すぐ”こんな”風になったらしいですが」
肉棒が、ずんずんとリズムをとってうちこまれていた。
キサナの秘部からあふれる愛液はじゅるじゅるとかきまわされ、あふれ出た。
秘部は適度に男の肉棒をしめつけ、歓迎していた。
柔らかく、男のものを受け入れ・・・・絶頂に導く・・・・。
キサナの脚は肉棒をうちこむ男の腰にまわされ、しっかりと押さえつけている。
男が、自分に・・・・より深く打ちこめるように・・・・ぎゅっと、腰を脚で捕まえているのだ。
顔は快楽の、歓喜の笑みにおおわれ、打ちこむたびに感きわまったように鼻をならす。
あん、あんというあえぎ声がすぐに漏れ始めた・・・・。
(そんな、そんあぁ・・・・!!)
悪夢だった。
夢である。
キサナにも、それがわかるほど・・・・男たちの影には、現実感がなかった。
だが、キサナをよりいっそう絶望させたことが二つあった。
一つは、ありうる「現実的な」未来像であること。
両腕を失った・・・・女性の身だ。
身体を売る以外に、出来る職などあるだろうか?
そして、こんな身体の自分は、見世物半分の性の玩具として売られるのが運命に違いない。
夢で見たこれは、現実になりうる・・・・将来の自分なのだ。
そして、もう一つ。
よりいっそう屈辱的なことに。
(自分は、こうなることを望んでいないか?)
この問いを、キサナは否定できなかった。
自分の未来像へつながる道は下り坂だ。転げ落ちていくほかない。
それを・・・・自分の意思でねじまげる気力が、どうしてもわいてこない。
こうなってはいけない。
なんとかしなければ・・・・。
そう考え、実行する気がわいてこない。
このまま、なるようになれという意思に身体をゆだねてしまいたい・・・・。
そう、考えてしまったこと。
自分はもう、立ち直れないのではないか、と自覚してしまったこと。
そのことにキサナは・・・・・自分自身に絶望を感じた。