キサナの冒険 1


 

「あっ・・・・あっ・・・・!!」

 奥の部屋から聞こえてくるあえぎ声に、キサナは顔を赤らめた。

 魔物退治にやってきた洞窟の、最深部でのことである。

 通路から奥まった部屋を覗いたキサナの目に飛び込んできたのは、彼女の予想とはまるで異なる光景だった。

 少女が一人と、それにむらがる魔物たち。

 ふもとの村からさらわれてきたのだろうか、少女はすでに全裸に剥かれていた。

 

 少女の年は、まだ10代前半といったところだろうか。

 顔立ちは大人びたところがあるが、身体はまだ「成熟する寸前」といった風体だった。

 胸のふくらみはすでにあるていどのボリュームを感じさせるが、まだまだこれからの発展を期待させるものがある。

 だが、体つきはどちらかといえば健康的なもので、みるものに”少女”を意識させた。

 その少女が、胸も、秘部も、そのすべてをさらし、魔物に犯されていた。

 秘部は魔物の肉棒につらぬかれ、その肉体は魔物の上ではげしく躍っている。

 魔物が腰をゆするたび、少女の胸がぷるんぷるんとゆれた。魔物たちは全員少女の恥態を視姦し、肉棒を勃起させてその様子に見入っている。

 自らの手で肉棒をしごいている魔物も多い。

 すでに肉棒の先から液を噴出し、少女の体にぶちまけた魔物もいくつか見うけられた。

 

「どうした? キサナ君」

「しっ、ウィッド様・・・・!

 キサナは、後ろから続いてきた仲間たちを制した。

 通路の、部屋の中からは確認できないところまでそっと戻る。そして、後ろの仲間に状況を説明しようと考えた。

 ・・・・後ろから現れたウィッドという青年は、若いくせにこの付近の地域を治める領主である。

 それも、世襲の地位として領主になったわけではなく、剣一本で領主の地位を得た人物だった。

 かつては剣士として諸国を旅をしていた人物である。

 その剣の腕前は冒険者稼業を引退し、与えられた領土に隠棲している現在でも国土最強の呼び名が高い。

 キサナは、今回はウィッドの願いを受けて魔物退治行に参加している立場である。

 奥で行われている光景を頭に浮かべて、キサナの頬はぽっと赤くそまった。

「・・・あの、女性が、魔物に・・・・その、ええと」

「?」

「ああ・・・・その」

 通路の奥で行われていた狂態をうまく説明できず、キサナは汗をかいた。

 キサナの年齢は、今年で17歳。

 肉体の面でも、心の面でも、大人の世界に足を踏み入れたばかりである。

 特に、生まれてからこれまで魔物退治の勇者として育てられた彼女は、性的な意味ではオクテのケが強かった。

 秘め事をそれとして認識することはできても、それを口に出して説明しようとすると、顔が赤らみ、舌が回らなくなってしまうのだった。

「・・・・あひぃいい!」

「・・・・あ、なるほど」

 洞窟の奥から一際高い少女の絶叫が響き、ウィッドと、さらに後ろにいた女性がうなずいた。

 彼女はミリア=エスティ。キサナの旅の連れであり、実力派の魔法戦士であった。

 ウィッドもミリアも、キサナの態度と今の声で、容易に事情を察することができた。

 ウィッドが頭をかいた。

 奥で行われていることを想像してしまったのだろう。

 キサナと、ウィッドと、ミリア。今回、魔物退治のために山中の洞窟に挑んだのはこの3名である。

 

「じゃあ、あたしとキサナで奥の敵はやっつけますわ。ウィッド様はここで待ってるってことで」

 ミリアがさばさばと意見を述べた。年は20前後だが、精神的にはキサナに比べだいぶ上にある女性である。

 奥で狂行が行われていると聞いても動揺したそぶりも見せない。

 一方で、ウィッドの方はあまりそちら方面には強くないのか、少し眉をひそめている状態である。

「奥の敵の数は?」

「オークと・・・・ゴブリンだと思います。全部で5匹」

「そうか」

 ウィッドはほっと息をつく。オークも、ゴブリンも、たいした強さをもった魔物ではない。

 むろん、心得のない村人などには強敵になるだろうが、キサナやミリアのような旅慣れた戦士の敵ではないだろう。

 ここまでこの洞窟を踏破する道のりで二人の実力は十分見てきた。

 ウィッドは、安心してうなずいた。

「それぐらいなら、まかせて大丈夫かな?」

「ですね。任せてください」

 ミリアはウィッドを押しのけるようにしてキサナの後ろについた。

「ほれ、行くよ」

「・・・・あ、う、うん」

 キサナは、先ほど目に飛び込んできた光景を反芻して顔を上気させていた。

 その様子を見てミリアが小さく苦笑している。

 キサナは、一度だけ息を深くすいこんで呼吸を整えた。

「・・・・よし」

 キサナは、剣を握り直した。

 態勢を整えて、一気に踏み込める体勢を作る。

 

「・・・・やあっ!!」

 威勢良く声をあげ、キサナとミリアは部屋に踏み込んでいった。

 部屋の中では、未だ魔物が凌辱を続けていた。

 今度は少女を下にし、その秘部に肉棒をがしがしと打ち込んでいた。その・・・凌辱の光景が、しっかりとキサナの目に写し出される。

 見ないように、見ないように・・・・と心に言い聞かせていたのに、つい少女のあそこに目がいってしまう。

 結局、オークの・・・・真っ黒な肉棒が少女の秘部に突き刺さっている光景を、キサナははっきり記憶してしまった。

 ・・・・。

 ・・・・。

 ゴブリンも、オークも、キサナの剣にかなう相手ではない。

 この、最新部での戦いも、たいした時間もかからずに終結した。

 キサナの剣は舞うように洞窟内を駆け回った。淫事に気を取られていた魔物たちは、ほとんどなすすべもなく一方的に殺戮を受けた。

 洞窟内に潜み、近隣の人々を不安に陥れていた魔物は一掃され、領主ウィッド、旅の勇者キサナの名はさらに高名なものとなり・・・・事件は解決したかに見えた。

 ・・・・だが。

 この事件の直後から、勇者キサナの運命は急変した。

 名声を世に謡われ、これからの活躍を期待されていた女勇者の身に、凄惨な物語がふりかかる、その幕開けがこの魔物退治だったのだ。

 

 ・・・・もちろん、彼女はその事実を知る由もない。

 

 

 キサナは街で暮らしていたころから、将来を嘱望された少女だった。

 剣の腕は共に練習をした男たちを圧倒し、教えている立場の大人さえ凌駕するさえを見せた。

 さほど体格がよいわけでもない、むしろ華奢で細身な彼女が剣で大の男を打ち負かす様は傍目にも壮快だった。

 練習でも、実戦でも。

 キサナの剣は郡を抜く輝きを見せた。

 身体能力のするどさは、天賦の才であったというより他にない。

 相手の動きを正確に読むこと。自分の考えたとおりの軌道で剣を動かすこと。

 この2点において、キサナが誤ったことはない。

 そのため力やスピードで明らかに勝る相手に対してもキサナはしばしば勝利した。

 戦いの組み立てと、正確無比な剣さばきとが、力の劣勢を補うのだ。

 そのうち、町の中でキサナに敵うものはいなくなった。

 大の大人が剣をもってかかっても、10代の少女に敵わないのである。

 自然、街の人々は彼女に勇者としての活躍を期待した。

 この当時、魔王の手のものである魔物たちがしばしば村の近隣に現れるようになり、人と魔物の住処が次第に重なるようになっていた。

 村人と魔物との遭遇は数を増し、人々は不安な日々を送っていたのである。

 世間には、その魔物を倒す「勇者」を自称する者たちが数多く現れた。そういう時代である。

 

 そして、キサナが、勇者としての活躍を期待されたのはその剣の腕前だけによるものではない。

 彼女は、自然と人を惹きつける魅力を持ち、また、誰に対してもおごらず、謙虚に接していた。

 剣の腕から将来を嘱望されるエリートであるにもかかわらず、純粋に、素朴に人々と接していた。

 偉ぶらず、常に人々の視線にたって行動する彼女は、街の人々から愛された。

 キサナは平凡な家庭に生まれた少女だったが、いつも人々の中心にいたのである。

 そして、キサナは15歳のとき、人々の期待にこたえるべく魔物退治の旅に出た。

 キサナ自身は荒事を好む性格ではなかったが、町の人々がこんなに期待してくれるなら・・・・と、決意して、旅立った。

 ・・・・それから2年。

 2度の誕生日を迎え、そろそろ旅にも慣れ、キサナの魔物退治の勇者としての名声は世に広がり始めた。

 そんな時期の出来事である。

 

「・・・・キサナ、どったの?」

 夕刻を過ぎ、時刻は夜を迎えていた。

 つい先日、領主ウィッドと共に魔物退治を成功させたばかりの彼女は、彼の治めるノーゼリア領を離れ、近隣を統べる王都ジャスフィニアを目指していた。

 ノーゼリア領とジャスフィニアを結ぶ王都街道は、交易商人の通行量も多いある程度整備された道である。

「・・・・うん」

 ミリアの問いに、キサナは曖昧にうなずいた。

 王都街道の途中で夜をむかえ、二人で交代で眠ろうというさなかであった。今は、ミリアが見張りにつくはずの時間である。

「眠れない?」

「そうみたい・・・・困ったなあ」

 昼間、ノーゼリアからずっと歩いてきたわけである。

 疲れていないわけではないが、それでもキサナは眠れずに困っていた。

「さては、男のことでも考えてるんでしょ」

「・・・・ええ?」

「ウィッド卿の男っぷりが忘れられないとか?」

「・・・・そんなことは・・・・」

 確かに、ウィッドの振る舞いは強烈に印象づけられている。

 共に魔物と戦ったわけだが、そのときの戦いを見て、キサナは初めて自分より強い人物を知ったのである。

 実際に剣をあわせれば、たぶん、勝てない。

 キサナにそう思わせるだけの迫力と、強さをウィッドは持っていた。

 領主を務めているとはいえ、それは魔物退治の功績を認めれてのことであり、ウィッドはまだ若い。外観も秀でているので貴族たちの間でも評判らしい。

「違うの?」

「・・・・わからないけど」

 ウィッドに好感を抱いたのは確かだ。少なくとも、今まで会った男性の中では一番魅力的に思えた。

 でも、剣の修行と、人々の期待に応えようという努力だけを続けてきたキサナには、その思いをきちんと表すことはできなかった。

「ふうん。・・・・じゃあ、あのオークのチ○ポでも思い出してたとか?」

「・・・・!」

 キサナの顔が真っ赤に染まる。

 傍目で見ていておかしいほどの赤面症だった。

 ミリアに抗議しようとして口を開いても、あわあわと動くばかりで声がでてこない。

「・・・・冗談だって。なに、あせってンの?」

「だ、だって!」

「ああ、いいからいいから。まったく、成長しないねえ」

 ふふふふ、とミリアが笑う。つられてキサナも笑おうとしたが、その笑顔は少しひきつったような形になってしまった。

 ミリアの言葉で、あの夜見せ付けられたセックス・シーンがフラッシュバックのようによみがえってしまったのである。

 ・・・・小麦色の肌の中で、そこだけが真っ白な女性の丘が。

 ・・・・真っ黒で、太い肉棒がワレメを押し広げ、蹂躙しているさまが。

 ・・・・少女の、悦楽に打ち震える顔つきが。

 次々と頭に浮かんでくる。

 そして、キサナの頭の中で、凌辱される女性がキサナ自身へと変化していく。

(私は・・・・あんなことされたら、どうなっちゃうんだろう?)

 あの人は・・・・あの少女は。

 魔物の肉棒に貫かれながら、感じていた。

 洞窟の中に響いた少女の声は、あえぎ声だ。

 快楽にふるえる女性の声だ。

 肉体経験のないキサナにもはっきりそうとわかるほど、あの少女は我を失っていた。

(不潔・・・・…)

(不潔だよ・・・・)

(・・・・でも・・・・)

 人を見下さないキサナにしては珍しく、蔑みの感情が先にたった。だが、その次の続いたのは奇妙な感情だ。

 不潔な、不浄な、自分には関係ないものとして打ち捨ててしまいたいのに。

 その感情が、キサナの思考をある方向へと進めていく。

 あの立場にあったのが、自分だったら。

 ・・・・私のあそこは、あの少女よりきれいだろうか?

 ・・・・私のあそこに肉棒が入ったら、どうなるんだろう?

 やっぱり、感じてしまうんだろうか。

 不安のような、期待のような・・・・。

 魔物に犯されるシーンなのに、ぞっとする奴らに犯されるシーンなのに、キサナはそんなことを想像してしまった。

(嫌・・・・)

 吐き気がした。

 魔物になんて、犯されたくない。

 ぶるぶると身震いをして、嫌な想像を断ち切る。

(・・・・なら、誰になら犯されてもいいの?)

 キサナの、自分の中から生じた問いに。ふいに、ウィッドの顔が頭の中に浮かんできて。

 彼女は慌てて頭を振って、イメージを消し飛ばした。

「・・・・! キサナ!?」

「・・・・えっ!?」

 ミリアが、愛用のメイスを構えたのはこのときである。

 辺りに、煙のような、霧のような、不思議なものが充満しているのだ。

 息をのむ。

 キサナも、ミリアも、気がついたときには霧をだいぶ吸い込んでしまっていた。

(魔法の霧・・・・! ま、魔物の、襲撃・・・・!?)

 意識が朦朧とする。

 身体に力が入らない。

 キサナは、立ち上がろうとして失敗した。

 

 傍らにおいてあった剣を必死に手繰り寄せる。

 ぼうっとする頭を必死に叱咤し、もう一度腕に力をこめ、上体を起こそうとする。

 ・・・・そこまでだった。

 キサナの身体は力を失い、地面に横たわった。

 しばらくして、規則正しい寝息が聞こえ始めた。

 <眠りの雲>の魔法であった。

 


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