バレンタインを妹と:四葉編

 2月14日。聖バレンタインデー。

 兄はこの日をベッドの上で過ごすこととなってしまった。本当なら、昨夜の提案で、例によって放課後から亞里亞の家でバレンタインパーティが開かれることになっていた。だが、昨日の夜から熱を出してしまい、朝になってまだ熱が下がっていなかったためにやむを得ず休むことを学校と妹たちに連絡して、兄はまたベッドで身体を治すためにゆっくり眠った。

「ん……んん…………っ」

 次に目を覚ました時には、もう日が暮れてしまっていた。たっぷり眠ったおかげか、起きたときにはもう熱はほとんど下がっている感じだった。

ぱさっ

「……あれ?」

 念のために体温計で一応熱を測っておこうと身を起こして手を伸ばしかけた兄は、額からずり落ちた濡れタオルに気づいた。こんなものを頭に載せて眠った覚えはなかった。タオルの状態からすると、もう結構な時間載せられていたようではあったが。

「…………あっ」

 どういうことかと思いながら部屋を見ると、テーブルの上にタオルを濡らすのに使ったらしい水を張った洗面器と、綺麗にラッピングされたいくつかの包みが置かれていた。

 身を起こしてベッドから出た兄が手に取ってそれを確かめてみると、妹たちが置いていったバレンタインのチョコレートだった。妹全員というわけではなかったが、可憐や咲耶を始めとする何人かの妹が、兄が眠っている間に見舞いに来て、目を覚ます様子がないのでしばらくしてチョコレートだけ置いて帰ることにしたということを書いたメモも、咲耶が書いて洗面器の下に挟んであった。チョコレートに付けられたメッセージカードにも、みんな兄に早く元気になって欲しいということが書いてあって、兄は嬉しいやら申し訳ないやらで胸がいっぱいになってしまった。

「近いうちにみんなに何かお礼をしないとな……」

 そうしみじみとつぶやいたそのとき、

「チェキッ!?」

 部屋の入り口の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向くと、そこには予想通り、ちょうど今来たばかりらしい四葉の姿があった。

「兄チャマ、起きてて大丈夫なのデスカ?」

 目が合うと、びっくりしたように四葉が駆け寄ってくる。

「ああ。さっき目が覚めたところなんだけど、おかげさまでもう大丈夫だよ。……まだちょっとだけ、身体がだるいけど」

「そうデスか……咲耶ちゃんたちに会ったときに兄チャマはまだ寝てたって言ってたから、心配してたデスよ。デモ、ちょうどよかったデス」

 嬉しそうにそう言うと、四葉はごそごそとカバンの中から小さな包みを取り出す。

「四葉、兄チャマが病気だって聞いたから元気になるチョコレートをチェキしてきたデス。でも兄チャマが眠ったまんまだと食べてもらえないところデシタ」

「ああ、ありがとう」

 差し出されたそれを、兄は受け取って包みを解いた。その中身は、粒状のチョコレートがいくつか入った小さな箱だった。“元気になるチョコレート”というのがどんなものかはわからなかったが、せっかく四葉が探してきてくれた物を拒む理由はなかった。

「じゃあ、さっそくいただくよ」

 そう言って、とりあえず一粒を指に摘まんで口へ運ぶ。なるほど、たしかに普通のチョコレートとは味が違う。はっきり言ってしまえばあまりおいしくはなかったが、まさかそう言うわけにもいかず、

「なんか、変わった味だけど、意外とうまいね」

 などとお愛想を言いながら残りもすぐに食べてしまった。

 食べたそのときはなんともなかったのだが、四葉としゃべりながら数分も経つと、身体の様子がおかしくなってきた。熱は起きたときには下がっていたはずなのに、不自然なほどに身体が熱くなった。そして、下半身のある一部分が何も考えていないのにひとりでに大きく膨れ上がり始めた。

「……な、なあ、四葉。ところで、さっき僕がもらった“元気になるチョコレート”って、なんてチョコレートだい?」

 急な身体の変調をさすがに不審に思った兄は、勝手に勃起してしまった一物がズボンの生地を盛り上がらせているところを四葉の目から隠しながら尋ねてみた。

「それは秘密デス! ……と言いたいところデスが、今日は特別に教えてあげマス。“ガラナチョコ”っていうチョコレートデス」

「ガ…ガラナチョコォ!?」

 得意げに答えた四葉の言葉に、兄は仰天した。兄も以前話に聞いたことがあるだけだったが、聞いた通りだとすればとんでもないものだった。

「そうデス。四葉、ちゃんとチェキしたデス。食べたら身体が熱くなってきて、男の人がすごく元気になれるチョコレートなんです。へへー…すごいでショ」

 あくまで得意満面に笑みを浮かべたままで説明する四葉に、兄は頭が痛くなる思いだった。

「四葉……言ってることはたしかにそうなんだが、意味が全然違う!」

「チェキ!? そうなんデスか?」

 兄の吐いた言葉に、四葉は驚いて訊き返す。こくりとうなずいた後、兄はちゃんと説明するか否か一瞬迷ったが、ちゃんと説明しないとなかなか納得しないだろうことは予想できたために、説明してしまうことにした。

「媚薬……って知ってる?」

「聞いたことあるデス。……たしか、Hな気分になっちゃう薬のコトデス」

「ガラナチョコで身体が熱くなったり元気になったりするっていうのは、つまり……そういう意味だよ」

 さすがに身体のどこが元気になるのかまでは口にできずに流したのだが、それでも意味は十分に通じたらしく、四葉の顔が真っ赤に染まった。ちら、とその視線がさりげなく隠していたズボンの膨らみへと注がれる。

「ゴ……ゴメンナサイ。四葉のせいデス。兄チャマのあそこがそんな風になっちゃったのは四葉の責任デス」

 そう言うと、何を思ったか真っ赤な顔のまま兄が隠していた場所に手を伸ばしてきた。

「お、おい……何を……!」

「……だから、四葉が自分で責任もって兄チャマのそれを処理するデス」

 驚いて静止しようとした兄にそう答えると、そうは言ってもやはり恥ずかしいのか、赤くなった顔をいうつむかせたまま兄の顔は決して見ようとはしなかった。

ジ――ッ

 兄の手を押し退けると、四葉の手はズボンのファスナーにかかり、それを開く音が妙に大きく部屋に響いた。本当はすぐにでも止めてしまわなければいけないのだが、媚薬のせいで理性が麻痺してしまったのか、そんな気が起こってこない。それどころか、妹に触られることを期待すらしてしまっていた。

「チェ……チェキ…………?」

 ズボンのファスナーは下げたものの、堅く反り返った一物はなかなかその隙間から取り出すことができない。それは何も愛撫ではなく、ただズボンの外へ引き出そうとするための動きだったが、他人からの刺激を受けたことがない上に敏感になっていた兄の一物は、そうした動きにすら新鮮な快感を感じていた。

びくっ

「チェ、チェキッ!?」

 一物が四葉の探る動きに反応して一度跳ねた瞬間、四葉は驚いて思わずズボンの中に入れていた手を引っ込めてしまった。

「ビ、ビックリしたぁ……兄チャマ、今どうしたんデスか?」

「……四葉の手が、アレを取り出そうと動くのが気持ちよかったんで、思わず……」

 答える兄の顔はチョコのせいだけではなく赤くなっていた。もう倫理や常識を語る理性などはほとんど残っていない。今はただ中断してしまった手の動きを再開して四葉に気持ちよくして欲しかった。いや、さっきのような動きではなく、ちゃんとした愛撫を求めていた。

カチャカチャッ

 四葉にちゃんと気持ちよくしてもらわなければおさまりがつかなくなった兄は、自らズボンに手を掛けると、ホックを外して前を大きくくつろげ、トランクスの前開きから勃起しきった一物を引き出した。

「四葉、お願いだから続きをしてくれ……」

「チェキッ!?」

 兄からの懇願と、目の前に見せられたものに、四葉は驚きの声を上げた。

「コ、コレが兄チャマの……デスか」

 四葉は顔をこれ以上ないほどまで赤くして少しの間じっと見つめた。男のその部分をまじまじと見たことはなかったためか、その瞳には羞恥だけではなく好奇も浮いていた。

そっ……

 やがて見ているだけではよくわからないとでも思ったのか、おそるおそるという感じではあったが手がそこへと伸びていった。

「カッカチカチ……デス。それに、とっても熱いデス!」

 てのひらで幹を軽く包むようにして触れた四葉はそんな感想を漏らす。

「よ、四葉……チェキしてるだけじゃなくて、ちゃんと気持ちよくしてくれ……」

 あくまで状態を確かめるだけの動きは、今の兄にはもどかしいばかりで、つい情けないお願いが口から出てしまった。

「あっ。そうだったデス。……たしか、こうしたら男の人は気持ちいいんデス」

 今思い出したという感じで、四葉は感触を確かめていた手の幹を包む力を少し強めると、筒状にしたその手をゆっくりと上下させ始めた。

しゅっ、しゅっ……

「どうデス? 気持ちイイデスか? 兄チャマ」

「うっ……」

 思わず兄の口からうめきが洩れる。四葉の扱く手が驚くほど上手かったというわけではない。どこから仕入れた知識なのか、方法だけは一応知っているようだったが、動き自体はコツも何も無い稚拙なものだった。だが、初めて他人の手から受ける奉仕ということが、兄に精神的な快楽を与えていた。その感動は動きの稚拙さを補って余りあった。

「……あっ。先っぽから何か出てきたデス」

 本格的な奉仕を開始してはいたものの、チェキすることも止めていなかったらしい四葉は、先端の小さな穴から滲み始めた先走りの雫を目聡く見つけていた。扱く手を一時休めると、指先でそれを掬い取ってねちゃにちゃと指で擦り合わせて感触を確かめてみる。

「んっ……」

 今度はそれを自分の口に運び、味までも確かめているようだった。

「……よくわからないデス」

 頭の上に疑問符を浮かべて、四葉は首を傾げた。指先に掬えたのは少量だったためによくわからないらしかった。四葉は一物を掴んだ手を止めたままちょっとの間考えていたが、先端から新たな液が滲み続けていることに気づくと、

「しょうがないから、直接舐めてみるデス」

 と言うなり、頭を下げてぺろっと亀頭に滲んでいた先走りを舌で舐め拭った。

「うあっ……!」

 一瞬だが触れた舌の感触に、再び兄は声を上げる。

「んー……よくわからないケド、変な味デス」

 四葉はやはりまだ納得しきれないようにつぶやく。だが、兄の声で自分がなんでこんなことをしているのかということを再び思い出す。同時に、なぜ兄がそんな声を上げたのかということにも気づいた。

「兄チャマ、四葉にぺろってされたの気持ちヨカッタんデスか?」

 確認するように思ったままを訊いてきたが、兄としてはそういう直接的な質問は答えにくい。だが、答えればしてもらえるのだろうという期待に負けて、自らを恥じながらも首を縦に振った。

「それじゃあ、もっとシテあげるデス」

ぺろっ、ぺろっ……

 そう言うと、四葉は一物を掴んでいた手をしっかりと握り直して固定すると、キャンディーでも舐めるように何度も一物の先端を舌で舐め上げていった。

「うぅっ……いいよ、四葉……! 一緒に手も動かして……」

 兄は快感に顔を歪めながらも、さらなるお願いを告げる。そして、そのとおりに四葉が舌で舐め先端を舐め上げるのと同時に、幹を手で扱きだすと、一物の根元の方から射精衝動が湧き上がってきた。

ぺろっ、ぺろっ……しゅっ、しゅっ……

「よ、四葉……! も、もう出る……!」

 真っ赤な顔で兄は射精を告げた。

「チェキ?」

 だが、“出る”とだけ言われても、四葉は一瞬何のことだがわからなかった。そして、それが射精のことだと気づいたときにはもう遅かった。

びゅっ、びゅるびゅくっ……

 一物の先端から白濁液が噴出し、すぐ前にあった四葉の顔を直撃した。

「チェ、チェキィィッ!」

 四葉は慌てたが、気づくのが遅れたせいでどうしようもなく、顔といわず髪といわず白い粘液でべっとりと汚れてしまった。

「チェキィ……どろどろになっちゃいマシタ……」

 さすがに精液を正面から浴びた状態でそれをチェキしようという気にはならず、四葉は顔に付いたものを拭ってしまおうとハンカチをポケットに探った。

がばっ

 だが、突然兄が抱きついてきて、ハンカチを出そうとしていた手が封じられてしまった。熱に浮かされたように兄の全身は熱く火照っており、たった今射精したばかりだというのに股間の一物は全く衰える様子もなく雄々しく天を仰いでいた。

「四葉、僕は、僕は……!」

 媚薬の効果がまだ消えないのか、欲望に突き動かされるまま兄は四葉の身体をカーペットの上に押し倒した。そして、強引に唇を重ねようとして…………崩れ落ちた。

「チェキッ!? 兄チャマ、兄チャマ!?」

 下敷きになった格好の四葉は、慌てて兄を呼ぶ。が、起き上がる様子はない。なんとか兄の下から這い出した四葉が体温を測ると、9度近い高熱を出していた。一物を剥き出して四葉に奉仕してもらっている間に熱がぶり返してしまったのだ。

 慌てて兄の身体をベッドに運ぶと、四葉はこれも自分のせいだと、深夜近くまで必死に兄の看病をした。だが、その日のうちには熱は下がらず、それから2日間四葉は兄につきっきりの看病をすることになった。


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