バレンタインを妹と:白雪編

「あっ、にいさま〜! 待ってましたの!」

 夕方、兄が学校から帰ってくると、家の前で何やら荷物を背負った白雪が待っていて、こちらの姿を認めると嬉しそうに手を振っていた。

「白雪じゃないか。家の前で待ってたのか? 特製チョコをくれるって言ってたけど、学校でもらえるんだと思ってたよ」

 白雪がいるのに気づいた兄は、早足で家の前まで行くと、そう言って家を鍵を出して白雪を中に招き入れた。そして、白雪が背負っている荷物を見て、

「……それで、ひょっとしてそれが白雪特製のチョコレートなのかい?」

 と、その大きさに半ば以上そうであって欲しくないという期待をしつつ尋ねてみる。だが、返ってきた答えは、

「はい。そうですの」

 というものだった。

「でも、チョコレートだけじゃありませんのよ。デコレーションのためのトッピングやクリームなんかも入っていますの。姫、今日はにいさまにたっぷり悦んでもらおうと思って、いろいろ工夫を考えてありますのよ」

 中に入った兄は、とりあえず寒空に待たせてしまった白雪に部屋でお茶でも出そうと思ったのだが、白雪はあっさりと首を横に振った。

「姫は大丈夫ですの。それより、すぐに台所をお借りしますの。姫は、にいさまに姫の特製チョコを受け取ってもらうために来たんですのよ。デコレーションが終わったらにいさまを呼びますので、そしたらすぐ来て欲しいんですの」

 そう言うと、兄の部屋に寄ろうともせずに、まっすぐ台所へと向かってしまった。

 それから待たされること約20分。

「にいさま〜! 準備が終わりましたの〜!」

 リビングの方から兄を呼ぶ白雪の声が聞こえてきた。兄は待ってましたと自分の部屋を出ると、声が聞こえたリビングの方へと向かった。リビングのドアを開けると、

「にいさま、これが姫特製のバレンタインチョコですの! さあ、どうぞ召し上がれ

 と、歓迎の言葉が届く。だが、白雪は声だけで出迎えては来なかった。正確には、白雪は立って兄を出迎えることはできなかった。なぜなら、白雪はデコレーションされた特製チョコの器となっていたからだ。俗に言う“女体盛り”というものだった。ただし、今白雪の身体の上に載っているのは海鮮ではなくチョコレートやクリーム、それにフルーツといった甘いものだったが。

「いや、で、でも……」

 隠すべきところはチョコレートとクリームで隠れているのだが、やはり裸の白雪がテーブルの上に寝ているということを考えると、目のやり場に困る。まして、それを食べるということは辛うじて今は隠れている部分まで露わにしてしまうということだ。そんなことは恥ずかしくてできなかった。

「にいさま? どうしたんですの。せっかく姫が身体を張って用意したのに、食べてはくださらないんですの?」

 白雪の身体の上にはチョコが載っているため、それを崩してしまわないよう首だけを微かに動かして目を上へ向けると、悲しそうに兄を見つめてきた。そんな目で見られると、断ることなどできなくなってしまう。

「わ、わかったよ……けど、本当にいいのか?」

 食べることを承知したものの、やはりちゃんと白雪にもう一度確認しておかなければ踏ん切りがつかないために、そんな言葉が兄の口から発せられる。

「にいさま!」

 直後、白雪の口が激しい調子で兄を呼ぶ。その頬は紅潮し、怒っているかのように少し膨らんでいた。

「姫だって、にいさまのために恥ずかしいのをガマンしてるんだから。これ以上言わせないで欲しいですの!」

 怒りからか、羞恥からか、おそらくその双方のために白雪の顔は一層その赤味を増した。その両眼には涙さえ滲んでいた。それでも、せっかくデコレーションしたチョコだけは崩してしまわないように、首から下は全く動いてはいなかった。

 兄は、自分がつならないことを言ったことを痛感した。それと同時に、迷う気持ちもどこかへ行ってしまった。

「じゃあ、ごちそうになるよ、白雪」

 はっきりとそう告げると、兄はテーブルのすぐ傍に立ってチョコとクリームでデコレーションされた白雪の身体を見た。作業できるようにするために首から上と腕の先の方には何も飾られていなかったが、腕の付け根のところからクリームを載せたコインチョコが何枚か左右を繋ぐように並べられ、その下の胸の辺りはイチゴやリンゴなどのフルーツとクリームが、大きめのチョコを中心に胸の膨らみに沿った2つの円状に配置されている。そしてお腹の上にはクリームで“にいさまへ”と書かれた特大のハート型チョコがメインとして置かれ、後は太ももの辺りまでクリームとチョコソースをかけたバナナやリンゴといったフルーツが並べられていた。

 ここで変に遠慮してしまうと、せっかくその気になったのがまた照れ臭くなってしまいかねない。そう思った兄は、テーブルの端に手をついて身を屈めると、思い切っていきなり手前にあった右胸のチョコレートに口を付けた。クリームと一緒に口の中へ運ぶと、口中に甘い味が広がった。

「に、にいさま?」

 白雪が驚いたような声を上げる。いきなりそこから手をつけるとは思っていなかったのかもしれないが、兄はあえて気にせずに2口目を口にした。最初に兄がためらったせいで時間が経ってしまい、白雪の体熱で少し溶け始めていたクリームを舌を伸ばして掬い上げる。

「あっ……!」

 クリームを舌で掬うとき、自然同時に胸も舐めることになってしまうため、白雪の口から悲鳴にも似た声が漏れる。そのまま何回も舐め掬っていけば、次第に白雪の胸が露わになってしまうはずだった。だが、乳首の上辺りに載っていたチョコレートを食べ、その下のクリームを舐め掬ったとき、舌に感じたのは肌の感触ではなく、何か布地のようなものだった。

「に、にいさま!? な、何をなさるんですの?」

 それと同時に胸を何度も舐められる感触に耐えられなくなったのか、白雪はとうとう大きな叫びを上げた。

「えっ!?」

 口の周りをクリームだらけにして、兄はいぶかしんで顔を上げた。女体盛りというのだから、身体を舐められることになるのは初めからわかっていただろうに、どうして白雪が驚くのかわからなかった。

「にいさま。そこにあるスプーンとフォークが見えなかったんですの? 直接舐めるだなんて、お行儀が悪いですの! 第一、姫が恥ずかしくって死んじゃいますわよ!」

 叫ぶ白雪の顔は羞恥でこれ以上ないほどに真っ赤になってしまっていた。見ると、たしかに白雪の顔の横にはフォークとスプーンがちゃんと置かれていた。さらに、女体盛りといっても白雪は全裸ではなく、ちゃんと隠さなければいけないところはビキニの水着で隠していた。

「あっ…………」

 そこでようやく、自分がとんでもなく恥ずかしい勘違いをしていたことに気づいて、兄は固まってしまった。

 

「ゴ、ゴメン! 僕はなんて恥ずかしいことを……!」

 硬直が解けると、兄は自分の恥ずかしさと愚かさに、もうひたすら謝ることしか考えられなかった。

「……にいさま。謝るのは後にして、早く続きを食べてください。せっかく綺麗にデコレーションしたのが溶けてしまいますの」

 何度も頭を下げると、白雪は寛大にもそう言って続きを食べることを促してくれた。

 たしかにこれ以上白雪の思いを無駄にするわけにはいかないので、兄はその言葉に甘えて、妹の身体の上に残ったチョコレートとクリームを食べた。もちろん、今度はちゃんとスプーンを使って。

 そして、それはとてもおいしかった。


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