「はぁっ……はぁっ……!」
放課後、帰途についた咲耶の口から熱い息が荒く吐き出される。まるで熱でもあるかのようにその顔は赤く火照り、汗が滲んでいた。自宅へ向かって歩くその足取りもまたふらついていて、本当に熱を出した病人のようであった。
だが、事実は違っていた。いや、病気と言えばそう言えたかもしれない。咲耶の身体は、朝から放課後のこの時間まで、スカートの奥、下着の中の陰部から湧き上がる熱と疼きに蝕まれ続けていた。朝の登校時に熱を持って以来、そのうち収まるどころか、時間とともにその熱と疼きは強さを増していっていたのだ。
赤い顔をして教室に入った咲耶に、級友たちが心配して声をかけたり、授業中気づいた教師が具合を尋ねたりしてきたが、咲耶は何でもないと答えるしかなかった。エッチな気分が続いているなどと誰にも言えるはずがない。適当に気分が悪いことにして保健室に行くことも考えたが、ベッドに横になっていたりしたらきっと自分を抑えきれなくなり自慰に耽ってしまうだろうことが予想できた。
咲耶の唯一の救いは、今日の授業に体育も移動教室もなかったということだけだった。授業がすべて終わり、終礼となるまで教室の自分の机でひたすら耐えるだけ。こんな状態で体育などもっての外。歩くときに内ももが擦れるのすら余計な刺激だった。
「…………くぅっ……」
だが、赤い顔で机に向かい、両手をぎゅっと拳の形に握って身体の内側から湧き上がってくるものをこらえていても、その疼きが去るはずはなかった。我慢すればするほど、蛇口を指で塞いだ水道の如くどんどん圧力を増して噴き出そうとしてくる。咲耶の顔はもはや黒板を見ず、うつむいて何も書き写していない開かれたノートの罫線を見ていた。膝の上できつく握り締めた両の拳はぶるぶると小刻みに震える。少しでも気を抜くと、ひとりでに中心に手が伸びて行ってしまいそうだった。
(どうなってるの? 私、どうしちゃったの!?)
教師の授業の声など、全く耳に入らない。咲耶は心の内で悲鳴のように何度も繰り返した。いくら何でもこの状態は異常だった。昨夜の兄相手の処女喪失をきっかけにして自分の身体がどうかなってしまったようだった。
(私、気づいてなかっただけで実はこんなにイヤラシイ女の子だったの? まさか、そんな……)
自らに対して浮かんだ疑問を振り払うように頭を小さく左右に振った。左右に結んだ長い髪がつれて揺れ、頬を撫でる。兄のことを疑おうともしなかったのは、兄が自分をこんな風にする、ましてその兄が実は千影の呼び出した淫魔であるなどということは全く想像もできないことだったからだった。
キンコーン、カンコーン……
授業の内容が全く頭に入らないまま、ようやく午前の授業が終了した。他の生徒たちは弁当を取り出したり、購買に急いだりしていたが、咲耶は全くそんな気にならなかった。感じるのは時とともにどんどん耐えがたくなってくる身体の疼きだけで、空腹感など感じる余裕はどこにもなかった。
ガタッ
教室の生徒たちの動きが一段落すると、咲耶はゆっくりと立ち上がった。机の脇に提げてある鞄の奥から小さな布袋を取り出してスカートのポケットに入れると、足元が少しふらついていたがそのまま歩きだして教室のドアへと向かう。
(もうダメ……ガマンできない…………)
廊下に出ると、教員棟の方へと足早に進んでいく。あそこの疼きはとてもこれから放課後まで耐え続けられるものではなくなっていた。できるなら今すぐにでもスカートの中心に指を伸ばして楽になってしまいたかったが、教室にも廊下にも何人もの生徒がいる。まず誰もいない場所に行く必要があった。校内で自らを慰めることは決しても、さすがに人目を気にする理性は残っていた。
「……ここなら…………」
咲耶が選んだのは、教員棟の3階にある来賓用のトイレだった。学校のトイレは最近の風潮に合わせて生徒が快適に利用できるよう綺麗なものになっているので、来賓用といっても特に違いはない。生徒の利用は禁止されている上、教室からも離れているため、滅多なことでもない限り人が来ることはない。咲耶は入り口のドアを開けると、手近な個室に入ってしっかりと鍵を掛けた。
「…………あっ、やっぱり……」
便座に腰かけた咲耶は、スカートの中を見て顔をさらに赤くした。学校に来るときに穿き替えたばかりの下着は、午前中の授業の間にその下の淡い茂みが透けてそこのかたちまでわかってしまうほど奥から溢れ出した蜜液で濡れてしまっていた。
すっ……
濡れそぼった下着をそのまま穿き続けることもできないし、これからする行為には邪魔になるため、腰のゴムの両脇に手をかけて引き下ろしていく。
ぬちゃっ……
下着の股布の部分が離れる瞬間、何本もの透明な糸が引いて下着と秘部を繋ぐ。その糸はすぐに切れて見えなくなり、下着はそのまま団子状になって足首から引き抜かれた。
下着を脱いだことで、捲り上げたスカートの下には何も着けていない秘部が露わになっていた。淡い茂みは下着をぐしょぐしょにするほどの雫で皮膚に張り付いていて、雫の源泉はまだ色素沈着していないピンク色の粘膜を見せながらその口を開いていた。咲耶は頬を紅潮させて右手の指をその濡れ光る秘部へと伸ばす。
「んんっ!!」
少し指が触れただけで電流が走り、咲耶は快感のうめきを漏らす。反対の手で制服のシャツのボタンを外すと、ブラジャーをずらしてトイレの中で秘部だけでなく胸までも露わにした。
「んむっ……」
胸を露わにすると、咲耶は自らスカートの裾の端を口に咥えた。人が来ないところを選んではいるが、あまり大きな声を出すのはやはりまずい。さっきの声はなんとか殺すことができたが、これからもうまくいくかはわからない。あらかじめ声が出ないようにしておく必要があった。
「んっ……」
準備が終わると、右手を秘部、左手を胸にあてがって自慰を再開した。
いきなり敏感すぎるクリを刺激することはさけて、右手は奥から溢れ出す愛液を潤滑液に陰唇を中心として愛撫していく。シャツの間から差し入れた左手は胸の膨らみを柔らかく揉んで頂点の突起をさらに尖らせていく。
「んむっ……!」
やはり朝と同様、いやそれ以上に咲耶の身体は敏感になっていた。すぐに咲耶の眉は快感に歪み、スカートの端を咥える口に力が入る。右手の指は秘部から溢れる愛液ですぐにぬるぬるになっていた。
自慰を始めると指がどうすれば気持ちよくなれるかを知っているように、まるで1個の別の生き物の如くひとりでに動き、咲耶に際限ない快感をもたらし続ける。それを証明するかのようにさらに溢れ出す量を増す愛液は、指先を伝って咲耶が座っている洋式便器の中にまで滴り落ちていく。
ピチャ、ピチャンッ……
「んんっ……んんんんっ……!」
触る前から大きくなっていた乳首もさらに張り詰め、あそこからだけでなく上半身からも快楽の電流を流し、午前中我慢している間ずっとくすぶっていた熱が、大きなうねりと変わっていった。
(お兄様、お兄様っ……!)
快感のうねりにここが学校のトイレであったことを忘れてしまいそうになりながら、咲耶が頭の中に思い浮かべているのはやはり兄の姿だった。兄にその身体を愛撫されることを思い描きながら、秘部で濡れ光る淫核を擦り上げると、そのうねりが爆発的に高まっていく。
(お兄様、お兄様のペニスを私のここにちょうだい……!)
膨らみを柔らかく揉んでいた左手が尖りきった乳首を強く挟み込む。クリトリスを愛撫していた右手は親指はそのまま突起を刺激しつつ人差し指と中指を揃えると、自らの愛液に塗れたそれを兄の一物に見立てて、ぬかるみきった入り口に一気に根元まで突き入れる。
「んあああああああああ!!」
その瞬間、高まりきった快感のうねりが爆発し、咲耶は咥えていたスカートの端も離して叫びながら激しい絶頂に達した。
ビュ、ビュビュッ
絶頂と同時に、2本の指を突き入れた秘部から、まるで男の射精のように大量の愛液が潮を吹いた。その勢いは便座を軽く越えて、トイレの床、果ては個室のドアにまで飛び散っていた。
ビクッ、ビクッと数度、痙攣のように便座の上で咲耶の身体が跳ね、それが治まると今度はそのままの状態で動かなくなった。
「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」
絶頂の瞬間の態勢のまま、咲耶は激しく乱れた呼吸を徐々に落ち着けていった。これまでの自慰では考えられなかったほどの高まりで、その放出の瞬間に個室の中の気温が2度くらい上がったように感じられたほどだった。
「……っはぁ…………ふぅ」
ぬちゅっ……
ようやく呼吸を整えると、咲耶は自らの秘部に突き入れたままの指を引き抜く。愛液に塗れていたそれは、絶頂時の潮吹きでさらに濡れて、揃えた指先から床に雫が滴り落ちた。
カラカラ……
愛液に濡れていない左手で備えつきのトイレットペーパーを巻き出すと、右手の愛液をそれで拭い落とした。そして綺麗になった右手で再びトイレットペーパーを1メートルくらい引き出すと、やはり愛液でぐしょぐしょになっている秘部を拭い始めた。
「…………んっ……」
まだそこはジンジンと少し熱を持っていたが、ここに来る前よりははるかにましになっていた。
一旦は切った1メートルほどのトイレットペーパーではまだ足りず、咲耶は濡れたそれを便器に落とすともう一度同じくらいの量を引き出して残りを拭う。
ジャ――ッ
秘部が綺麗になると、これまで使ったトイレットペーパーを全部便器に落として水洗を流してしまった。そして、教室を出るときにスカートのポケットに入れておいた布袋を取り出すと、巾着状の口を開いて中から新しい下着を取り出す。下着といっても、急に始まってしまったとき用の生理用ショーツだったが、午後の授業をノーパンで過ごすよりはずっといい。それに、これなら万一また濡れてきてしまっても、さっきよりは表に染み出しにくいはずだった。
「…………ん、しょっと」
キンコーン……
生理用ショーツに穿き替え、個室を出ようとした瞬間、ちょうど予鈴のチャイムが聞こえてきた。そんなに長い時間だったつもりはなかったのだが、思ったより時間がたっていたらしい。咲耶は自分の教室へと急いだ。すっきりしたことで、午後の授業はちゃんと聞けるはずだった。
しかし、咲耶はすぐに自分の予想が甘かったことに気づかされた。
午後の最初の授業こそまだ普通に聞くことができたが、その次の授業の半ばが過ぎた頃から、再び咲耶のスカートの奥は大きな熱を持ち始めた。さっき一度屈してしまった咲耶の意志は、新たな衝動を抑えることにより努力を必要とした。また午前中の授業のときのように授業をまるで頭に入れることもできず、自分の体奥からこみ上げてくる欲求との戦いとなった。
「……っ、ふぅっ……」
咲耶は授業の間中、机の上を見つめながら赤い顔で耐えようとした。だが、耐え切れず授業の最中に熱い吐息を漏らしてしまう。それが聞こえたのか不審がる周囲の生徒に微苦笑を浮かべながら何でもないというジェスチャーを返す。それで全員が納得したわけではなかったが、授業中に無理に突っ込んだことを聞こうとするものもなく、その場は誤魔化すことができた。
「……おい、大丈夫か?」
声にふと気がつくと、いつの間にか授業は終わっていて、教室がざわついていた。今日の授業はこれでようやく終了。あとは担任が終礼にやって来るのを待つだけだった。咲耶に声をかけたのは隣席の男子で、今日一日の咲耶の様子がどう考えてもおかしかったために心配げに見ていた。
ドクンッ
その男子の顔を見た途端、咲耶はスカートの奥が一際強く疼いた。それがその男子に異性を求めたためのものだということが、わかりたくもないのに直感してしまう。その瞬間、
ドンッ
「いやあぁっ!」
咲耶は男子を無意識のうちに思い切り突き飛ばしてしまっていた。座ったまま椅子を傾けて咲耶に声をかけてきた男子は当然のようにバランスを崩し、後ろに倒れて後頭部を机にぶつけてしまう。
「……ってぇっ。おまえ、何すんだよ、いきなり!」
男子は突然のことに一瞬ビックリしたような顔をしたが、すぐにぶつけた頭をさすりながら、咲耶を睨みつける。男子が悪いのではなく、咲耶が自分の中に湧いた衝動を否定するために反射的にとってしまった行動だけに、咲耶は慌てて謝った。
「ご、ごめんなさい! ちょっと……ビックリしちゃって」
だが、謝るときも、もう二度と男子と目を合わせられなかった。そんな謝り方に誠意が感じられなかったのか、男子は何か言いかけたが、
「はい、みんな席に着いて――」
ちょうど担任が教室に入って来たために中断された。何事かと咲耶たちの方を見ていた他の生徒たちも、担任の出現で自分の席に戻って前を向いた。
「…………本当に、ごめんなさい……」
そんな中、やはり顔は見れないままだったが、咲耶は再び隣席の男子に謝った。見れないためにそれで納得してもらえたのかはわからなかったが、終礼が終わっても男子はそれ以上何も言ってくることはなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
とにかく、一刻も早く自分の家に帰りたかった。自室のベッドで自慰に耽り、この身体の疼きを何とかしなければ、何にも考えられなくなってしまいそうだった。
肌は上気し、瞳も潤んで熱い息を吐き出す。こんな状態であまり人通りの多いところは通りにくい。熱を出していると思ってくれればいいが、咲耶が恥ずかしい状態だと気づく者がいないとも限らなかった。人目をさけるのと近道とを兼ねて、咲耶は公園の中を通って自宅へと向かっていた。
「あれ? 咲耶じゃないか」
そんなとき、咲耶のすぐ後ろから聞こえてきたのは兄の声だった。