8月某日、歳の離れた仲のいい兄妹の間でこんな会話が交わされていた。
「そう言えば、雛子が今一番叶えたい夢って、どんなこと?」
「えっ? んとね、んとねー……ヒナ、おっきくなって大人になりたい!」
「へえ……どうして?」
「だって、ヒナまだ小さいからおにいたまと一緒の学校に行けないし、おにいたまとお泊りしてもすぐ眠くなっちゃって一緒によふかしできないから……」
「それって、僕ともっと一緒にいたいからってこと……?」
「うん! だって、ヒナ、おにいたまのこと大好きだから!」
「…………早く大人になりたい、かぁ…………それが僕のためっていうのは嬉しいけど、それはなぁ」
8月14日、兄は妹との会話を思い出して苦笑していた。
誕生日のプレゼントを選ぼうと思ってそんなことを思い出していたのだが、そんな願いを叶えるというのはちょっと難しい。ついでに、夏休みの間はいろいろと遊びに行ったりしてしまったせいで、かわいい妹のためといっても、金はあまりない。限られた予算でどうやって雛子に喜んでもらえるか。
悩みながら商店街を適当に歩いていると、足がたまたま百円ショップに向いた。
(いくら金がないって言っても、さすがにこんなところでプレゼント用意するっていうのは……)
そう思ったが、それはそれとして、ちょっとしたお祝いのための小道具なんかはここで見つけようと兄は店の中に入る。
適当に見て回ろうとしているときに、ふとあるコーナーが目に止まる。
(そう言えば、最近は小学生とかでも化粧品つけたりするって聞いたなぁ。大人になりたいって言うんなら、化粧品なんかを買ってあげるのもいいかも)
そう考えて化粧品コーナーで何かいいものがないかを探しかけたが、すぐに兄は
(でも、化粧なんかしなくても、雛子は充分にかわいいからなぁ。化粧品なんか使わなくても、素のままの、今のままの雛子が一番いいよ)
と思い直してその動きを止める。
動きが止まったのには他にも原因があった。
雛子のことを思い浮かべた瞬間、胸の鼓動が速さを増し、身体の中で何かが騒ぐ自分に気づいたからだった。
自分の妹。それも、歳の離れたまだ幼い少女だ。それなのに、兄が今感じている衝動は……
「…………!?」
自分の感情に戸惑う兄は、化粧品から視線を移してふと目に止まった物からあるモノを連想して、自分の中で何かがどんどん膨らんでいくのを自覚した。
翌日、8月15日。雛子の誕生日。
兄はプレゼントを手に雛子の家を訪ねていた。
夕方からは家族でのお誕生祝いが開始されるが、昼間は両親とも都合で家を空けなければならないために、兄が昼前から雛子の家に呼ばれることになったのだ。
どっちにしてもこの日は雛子の誕生日のために予定を空けてあったので、何の問題もない。それどころか、兄が考えていることには家の者がいないというのは極めて好都合だった。
「はい、雛子。誕生日プレゼント」
「わぁ、ありがとう。おにいたま! なにかなぁ……? クシシ」
玄関に迎えに出てきた雛子に、兄は持ってきた小さな包みを手渡した。
兄からのプレゼントに、雛子は嬉しくなってどうしても笑いが溢れてしまう。
「開けてごらん?」
雛子について妹の部屋に上がった兄は、嬉しさに顔をほころばせながらどんなプレゼントだろうかという好奇心も抑えきれずにいる妹にそう声をかけてやった。
「うん!」
満面の笑みを浮かべて元気よく返事した雛子は、早速プレゼントの包みを解き始める。
「あれ? …………コレ、なんだろ?」
だが、まるで予想もしなかった妙なものが包みの中から出てきたために、すぐに首を傾げることになってしまった。
「え――っと……まっさーじ器?」
袋に書いてある字を読んで、雛子はますますわからなくなった。ビニールの袋に入っているのは、短いペンのような形をしたピンク色のプラスチックの物体だった。
「……おにいたま、これ何につかえばいいの?」
まだまだ、マッサージ器の必要はない子供だ。雛子が疑問に思うのも無理はなかった。
だが、兄は左手でポケットから単三電池を取り出すと、戸惑ったような表情の雛子に掌を上にして右手を差し出した。
「ちょっと貸して。それは電池を入れて使うんだよ」
そう言って雛子からマッサージ器の袋を受け取ると、袋を破って中からピンク色の本体を取り出した。袋に付いていた小さい紙を見ながら、ペン状のマッサージ器の細い方の端を回してキャップを外し、そこに電池を入れるとキャップを元通りに戻す。
ブ――ン……
最後にスイッチを入れると、電池を入れたのとは反対側の少し太くなった部分が、虫の羽音にも似た音をたてて小刻みに振動を始めた。
「ほら、こうすればここの部分が震えてるだろ?」
マッサージ器が作動する様子を雛子の目にもよく見えるように妹の顔の前に持っていってやる。雛子はそれをどう使うのかということなどよくわかっていないようだったが、ぶるぶると震えるマッサージ器に興味を持ったかのようにこくこくと首をうなずかせた。
ブゥ…………ン
今度は、一応関心を示したような雛子の肩や首筋に軽くマッサージ器を押し当てる。
「んくっ。くっ、くすぐったい……っ!」
マッサージ器のぶるぶるという振動が肌をかすめ、雛子はくすぐったそうに身を捩った。ぶるぶるが雛子の身体から離れると、
「おにいたま…………さっきの、何したの?」
不満、というほどではないが、急にくすぐられたことでその余韻と、兄の行動に対する感情が混じり合い、少し複雑に見える表情で兄の説明を求める。
「あ、ゴメン。そんなにくすぐったかった?」
少しだけ申し訳なさそうな声と表情で、兄はそう言いながら手の中のマッサージ器を再びぶぅんと震わせる。
「これは普通は今やったみたいに、肩がこったときとかにマッサージに使うんだけど、今日はこれを使ってちょっと変わった別の遊び方を教えてあげるよ」
「別のあそびかた?」
「そう。大人の人もこれとよく似たおもちゃを使って遊んだりもするんだけど、雛子みたいな子がそんなので遊んでたらホントは怒られちゃうからね。これで代用するんだ。多分、これでもちゃんと楽しめるはずだよ」
「それっておもしろいの?」
簡単に乗ってくる雛子に、兄は思わず笑みをこぼしそうになりながら、
「うーん、どうだろ。やっぱりやってみないと、ホントに雛子が楽しめるかどうかはわからないなぁ」
「じゃあ、やってみよう、おにいたま」
決め手となる言を引き出し、何気ない風を装いながらも胸の内で興奮と衝動を必死に抑え込んでいた。あくまで優しい声を心がけながら兄は再び口を開く。
「雛子がそう言うなら、教えてあげるよ。じゃあまずは、そこのベッドの上で横になって」
「うん」
兄を疑うということを知らない雛子は、兄の指示に素直にうなずきを返すと、言われるままにベッドに幼い自らの身体を横たえた。
ごくっ……
幼い妹にこれからすることを思うと、思わず唾を呑み込んでしまう。
雛子自身はまだ気づいていないようだが、横になったときにスカートの裾が少し捲れて、その下に隠されている白い布地の端がわずかに覗いている。
「じゃ、じゃあ教えてあげるから……」
背徳感がいや増し、そう告げる兄の声が少し上擦る。緊張に手が震えそうになるのを抑えて、右手にマッサージ器を持ったまま左手を雛子のスカートに伸ばす。
ばっ
裾を掴んでお腹の方へ大きく捲り上げると、キャラクターのプリントが付いた白い子供パンツが兄の目の前に現れる。
「おにいたま!?」
雛子が声を上げるが、兄の耳にはもう届かない。下着のその幼さと、これからしようとしていることのギャップが、さらに兄の興奮を煽っていた。
(このままパンツも……)
一瞬、兄の頭にそんな考えがよぎる。内なる衝動に導かれるまま、指がパンツに伸びてゴムの部分に届きそうになったが、その瞬間、
ピンポーン
「っ!!」
インターフォンの音に、心臓が止まりそうなほど驚いた。
「はっ……はぁっ……はぁっ……!」
思わずスカートを捲り上げていた手を離して自分の胸に当てたが、ドクドクと激しい鼓動が掌に感じられる。一旦飛び上がりそうになった動悸はなかなか治まらない。
ピンポーン
兄が落ち着こうとする間に、訪問者は待てなくなったのか、再びインターフォンを鳴らす。
「はいはーい、今出ます……」
まだ早い鼓動を打つ胸を軽く押さえながら、兄はマッサージ器を置いて玄関へ向かった。
玄関を開けると、そこにいたのは書留を持って来た郵便屋。勝手知ったる妹の家、ということで兄は判子を出してそれを受け取る。鍵を掛け直し、玄関脇のわかりやすい場所に受け取った書留を置いて雛子のところに戻った。
「お母さんにお手紙だったよ」
部屋に戻ると兄は今のが何の訪問だったか伝えたが、雛子は何も答えない。ベッドの上に座り込んで、じっとこちらを見ていた。もちろん、捲れ上がっていたスカートは元に戻っている。
「雛子……?」
やはり中断が入ったのはまずかった。いや、つい暴走しかけていたから、我に返ることができたのはよかったのだが。問題は、変なことをする途中で中座したことだ。雛子が嫌がって、やっぱり止めると言い出すことは十分に考えられる。
そう思いながら雛子に声をかけてみると、
「おにいたま、今ヒナにエッチなことしようとしてた」
じっとこちらを見上げるまま、雛子は咎めるような響きでそうつぶやく。
(マ、マズイ…………)
兄のTシャツの背を大粒の汗が幾筋も伝う。親に告げ口などされた日には、兄の信用は一気に消え去ってしまう。親たちに妹と会うことを禁止されたり、最悪兄一人どこか遠くの街へ引越しさせられてしまうことすら考えられた。
「そ、それは……」
言い訳しようにも、事実であり言い訳のしようもない。元々、雛子にいけない遊びを教えて性の快感を覚えさせた後、厳重な口止めをするつもりだったのだ。まだ何も教えていない段階でそう言われてしまっては、どうしようもない。兄が言葉に窮していると、
「おにいたま、ヒナのこと好きなの?」
雛子が問いかけてくる。この状況で兄が返せる答えは一つしかない。そしてそれは、偽りというわけではなかった。
「うん……好きだよ、雛子」
それを聞いて、ようやく雛子の表情が緩む。
「じゃあ、ゆるしてあげる。でもそのかわり……」
結局、兄は後日喫茶店かどこかで甘いものを奢った上で、改めて大きなクマのぬいぐるみをプレゼントし直すことを約束させられた。
その夜、家族でお誕生日のお祝いをした後、雛子は部屋に戻るとベッドの上にマッサージ器が残っているのを見つけた。
(おにいたま、ヒナにどんなことしようとしてたんだろ……)
ベッドに寝た雛子はふとそう思ってマッサージ器を手に取ると、ぶるぶると震えるそれをパジャマの上からおしっこをする部分に軽く押し当ててみた。
ぶぅぅ……ん
「んっ、くすぐったい…………」
布越しとはいえ肌の上を何かがぶるぶると震えるというのは、やっぱりくすぐったかった。でも……
「んん……もういっかいやってみよ」
マッサージ器を離すと、さっきまでのくすぐったさがなんとなく恋しくなってくる。雛子は再び同じ場所にマッサージ器を押し当てた。
ぶぶぅぅぅ…………
「クシシ……やっぱりくすぐったいよぉ」
くすぐったいのだが、なぜか止められない。“快感”という言葉を知らない雛子は、くすぐったさの中にわずかに混ざる心地よい感覚の正体を知らないまま、何度もベッドの中でマッサージ器をおしっこの部分に押し当て続けた。