「……どうするかなぁ」
ここ数日、兄の頭を悩ませている問題が、口をついて出た。
兄が今悩んでいるのは、亞里亞の誕生日のことだった。11月2日、その日はもう目前に迫っていた。
兄には12人もの妹がいる。みんな兄によく懐いていて慕ってくれるのだが、妹たち全員を構ってやるには体力的にも経済的にもきついものがあった。休日はほとんど必ず誰かが遊びに誘いにやって来る。平日でも一緒に登下校したり、放課後どこかにちょっと寄り道することになるのもしょっちゅうだった。
今悩んでいる誕生日についても、偶然うまくばらけていて毎月誰かの誕生日があるようになっている。そのたびに妹に何かプレゼントをしてやらねばならない。
それに、今月は亞里亞の誕生日だ。メイドなんかを雇っているような家に持っていって恥ずかしくないようなプレゼントなど、学生の懐では難しい。いつも他の妹たちとのつき合いで慢性的な金欠になっている兄では尚更だった。
(ちょっとやそっと奮発した程度じゃ、どのみち大して変わらないしなぁ……)
亞里亞の家の大きさと、内部の豪華さなどを思い出して、兄は少し憂鬱になった。
(……やっぱり、お金を使うより僕の誠意を前面に出すようにするのが一番かな)
別に亞里亞のことが可愛くないからお金を使いたくないというわけではない。むしろ、少し年齢以上に幼いような感じで妹たちの中でもかなり気にかけていた。ただ、兄が出せる程度の額では、金で買えてしまうようなものは亞里亞の家では簡単に手に入ってしまい、あまり亞里亞を喜ばせることができないような気がしたのだった。
(やっぱり、僕じゃないとあげられないようなものをプレゼントしてあげないと)
しかし、ではそれは何なのかというと、なかなか閃かないのだった。
11月2日。
結局、名案が浮かばないままに誕生日当日の朝を迎えてしまった。
「……どうしよう…………」
とりあえず、亞里亞の好きなキャンディーなんかのお菓子を買ってきて、プレゼント用に綺麗に包装してリボン掛けした物を用意してあるが、それだけというのはいくらなんでも、という思いがある。
しかも、プレゼントを何にするかばかり考えていて、気がつけば何の約束もしないまま誕生日当日となってしまっていた。事前の約束も何も無く家を訪ねて、渡すプレゼントがお菓子だけというのはさすがに気が引ける。
チッ、チッ……
そうこう考えている間も、時計の針は休むことなく進んでいく。
ゆっくり考えているような時間はもうなかった。そもそも、何日も考え続けて思い浮かばなかったものが、時間に追われて焦る今になって急に閃くとも思えない。
「……しょうがないか…………」
出口の見出せない迷路で迷うようにして時間を浪費すればするほど余計に行きにくくなる。下手をすればこのまま行きそびれて亞里亞の誕生日に何もしてやらないということにもなりかねない。もしそんなことになれば亞里亞の幼い心を酷く傷つけてしまうことになる。それよりは、一応用意していたこのお菓子だけでもプレゼントするべきだ。
ピンポーン
兄が意を決して腰を上げたちょうどそのとき、玄関に来訪を示す音が鳴った。
「……誰だろ? こんなときに」
出鼻を挫くようなタイミングで鳴った音を訝りながらも、兄は部屋を出て玄関の向こうを覗いた。
「…………えっ?」
そこには、ちょうど今兄が訪ねて行こうとしていた相手が立っていた。
「あ、亞里亞!?」
驚いて声を上げると、兄は慌てて玄関のドアを開けた。
いつものようにパラソルを手にドレス姿で、どうしていいやらわからぬような様子で立っていた亞里亞は、兄の声と姿を認めると、ぱっと顔を輝かせた。
「あっ、兄や〜」
満面の笑顔を見せると、亞里亞はぱたぱたと足を動かして、息がかかるほどの距離まで近づいてきた。
「兄や〜亞里亞、来たの……」
目と鼻の先に来た亞里亞は、独特ののんびりとした口調でそれだけを告げる。何しに来たとか、どうやってここまで来たなどということは何も言わない。
「あ、ああ……いらっしゃい」
とりあえず妹にそう声をかけておいて、兄は当然一緒に来ているであろうメイドの姿を探したのだが、周囲を見回してもそれらしい人影や車は見当たらなかった。
「まさか……一人で来たの、亞里亞?」
亞里亞から明確な答えは返らなかったが、少なくとも今この場には亞里亞の他に誰もいないのは間違いなかった。兄は突然のことに困惑していたが、とりあえず玄関で話すのもどうかということで、亞里亞を中に招じ入れた。
「……それで、亞里亞はどうして僕のところに来たの?」
亞里亞を自分の部屋に通した兄は、一旦台所に行ってココアを作ると、カップを亞里亞の前に置いてからそう切り出した。
「今日は、亞里亞の誕生日なの……」
兄に問われて、亞里亞は差し出されたココアのカップの熱さにおそるおそる手を触れさせながらそう返す。その答えで兄はだいたい理解できた。兄がプレゼントのことであれこれ悩んでいるうち、誕生日の約束をしそびれていたため、亞里亞の方から来たのだろう。亞里亞のことだから、プレゼントの催促だとかそんな気持ちはまるでなく、単純に寂しかったのだろう。
「……うん。だから僕もさっきちょうど亞里亞のところに行こうとしてたんだけど……ゴメン」
プレゼントのことで悩んだ挙句ろくなものを思いつかないまま、亞里亞に声をかけるのを忘れて結局喜ばせる前に寂しがらせてしまったと兄は恥じたが、謝られた方は何故兄が詫びるのがわからず、兄が自分のところに来ようとしていたということだけを聞いて単純に喜んだ。
その笑顔を見た兄は、たいしたものじゃないけど、と前置きしておいてから机の上に置いてあったお菓子を包んだものを亞里亞に手渡す。
「キレイなリボン……」
亞里亞は、包装の中身よりも、まず包装に使われていたリボンに喜んだ。兄に予想外のことだったが、亞里亞が喜んでいるなら問題は何もない。そして、包装を解いて中にお菓子を見つけた亞里亞は二度喜んだ。
「ありがとう、兄や〜」
「兄や……」
それは、突然のことだった。
兄からのプレゼントに喜んだ亞里亞は、しばらく兄と楽しくおしゃべりしていたが、ふと何か思い出したような顔をした後、自らベッドに身を横たわらせたのだ。
「うん? 眠くなったの?」
子供だなぁと思いながらベッドに倒れた妹の方を見る。
「!」
その瞬間、兄は一瞬焦った。亞里亞が寝転んだときに捲れたのだろうか、亞里亞の長いスカートの裾が大きく捲れ上がって、その陰から白い布地が覗いていた。相手はまだ子供、しかも妹だという思いが無いではないが、若い男の性というものか、異性の下着を見るとどきりとしてしまう。
「兄やぁ……」
ベッドに身を横たえたまま微妙に身をよじって兄を見上げてくる。何かを訴えかけるような光がその瞳に宿っている。そして、身体を動かしたためにさらにスカートは捲れ、さっきまでよりはっきり兄の目に亞里亞の下着が映っていた。
だが、まさかこんな幼い少女が意図して異性の前に下着を晒すとは思えない。スカートが捲れているのはただの偶然だ。それを指摘するのも妹を恥ずかしがらせるだけ。ここは何も気づかないふりをしてやるというのがもっともな態度だろうと兄は考えた。
(だいたい、亞里亞は子供だ、子供。それに妹なんだから……)
自らにそう言い聞かせ、気づかないふりをしようと思うのだが、どうしても時折ちらちらと捲くれ上がったスカートの方に視線が行ってしまう。その視線に気づいているのかいないのか、亞里亞は動こうとしない兄に対して、再び口を開いた。
「兄や、来て……」
小さく囁くような声で、しかしはっきりと亞里亞はそう言った。さらに驚いたことに、亞里亞は捲れ上がっていたスカートの裾を手に取ると、自らの手でそれをさらに大きく捲り上げた。
「……あ、亞里亞……?」
兄は妹の言動にほとんど絶句した。
目の前の光景が信じられなかった。妹たちの中でも一番精神的に幼いと思っていた亞里亞が、自らスカートを捲り上げて下着を晒し、兄を呼んでいるのだ。兄が夢と疑うのも無理はない。
「兄や……喜んでくれないの?」
下着を見せる格好のまま、亞里亞は困ったように洩らした。その瞳は困惑に満ちている。
「い、いや……喜ぶとかそういうことじゃなくて……」
亞里亞がどういうつもりでこんなことをするのかはわからないが、まさか誘われるままほいほいと劣情に流されることはできない。さっきから繰り返し自らに言い聞かせている、相手が妹であり、また幼いということが防波堤となっていた。
たしかに兄は、性的なことに関心の強い年頃だ。だからといって、それを妹、それもまだ身体も未成熟な幼い亞里亞に向けることを自制するだけの理性を兄はちゃんと持っていた。とりあえずは軽く諌めて、どうしてこんなことをするのか事情を聞こうと考え、兄は亞里亞をなだめるために近づいていった。
「とにかく、そのスカートを……」
しかし、近づいてきた兄に対して、亞里亞はまたも予想外の行動をとった。
きゅっ……
スカートの裾を掴んでいたのを離したその手で、亞里亞は近づいてきた兄の股間に手を伸ばしたのだ。頭の理性とは裏腹に、ズボンの中で正直な反応をしていたものに、少女の小さな白い指が触れてきた。
「わっ……なっ……!?」
兄は仰天した。まさかこんなことまでしてくるとは全く予想していなかった。しかし、触られた股間は、未知の刺激に素直に悦びを表してむくむくとズボンの中で完全に勃起を遂げた。
ジ―――ッ
亞里亞の手でズボンのファスナーが開けられ、そこから飛び出したトランクスのテントをきゅっ、きゅっ、と指が握る。
「ううぅっ…………!」
他人から与えられる刺激に、兄は意志とは関係なく強い快感を感じてしまう。
「や、やめっ……うっ……!」
びくびくと嬉しげに震える兄のテントに、しっかりと亞里亞の指が絡みついている。強引に止めさせようにも、文字通り急所を押さえられているために迂闊なことはできなかった。しかも、初めて味わう快感が電流のように一物から全身に伝わり、制止しようとする声にも快感のうめきが混じってしまう。
「兄やぁ……これでいい……?」
しかし、亞里亞は容赦なく兄の快感を高めていった。テントに絡めた指の握りに強弱をつけ、また幹をゆっくりと上下させるようにも動いている。そして、自分の動きが間違っていないか確かめるように兄の顔を見上げる。だがその表情には一辺の淫らさも浮かんではおらず、純真無垢に行為の是非を問うているかのようだった。その行為と表情とのギャップがまた不思議なことに兄の快感を一層高め、経験を持たない若い男性を限界へと押し上げていった。
しゅっ、しゅっ……
「うっ……うあっ……! も、もう……っ!」
膨れ上がる快感に理性が次第に侵食され、兄は限界を告げる。しかし、亞里亞はそれがわからないように変わらぬ調子で兄の一物をしごき続けた。結果、
どくっ、どくっどくんっ……
兄の一物は亞里亞の手の中であっけなく暴発し、トランクスのの内側をべとべとに汚した。当然、吐き出された濁液は内側だけでなく表面にも染み出して、トランクスに大きな染みを作り出した。
「あぁ…………」
妹の手で射精してしまった兄は、疲れたようにため息にも似た声を上げた。
ずっと兄のをしごいていた亞里亞も、兄の射精に驚いたのか、どこかきょとんとしたような顔で手の動きを止めていた。
その後、汚れた下着を穿き替えて兄が亞里亞に先ほどの行為の真意を聞くと、
「じいやがそうすれば兄やが喜んでくれるって言っていたから」
という答えが返ってきた。
亞里亞は行為の意味も知らず、じいやに教えられたまま、プレゼントをくれた兄にお礼をしようとあんなことをしたと言うのだ。
兄としても、今さら行為の意味を改めて亞里亞に教えることも恥ずかしくてできず、今日のことを秘密にすること、誰にも今日のことをいわないことなどを亞里亞に言い含めることにした。
そして、しばらくすると亞里亞に変なことを吹き込んだ張本人が亞里亞を迎えにやって来た。
玄関でじいやと顔を合わせた兄は、彼女をよほど非難したかったが、結果的に自分もそれにのって亞里亞の手で射精してしまった以上、何もいうことはできなかった。
ただ、亞里亞自身は結局自分のしたことの意味も知らないまま、兄と“ふたりだけのないしょごと”ができたことを無邪気に喜んでいるようであった。