週間更新お休み企画

天才少年  その2(9.21)


 

 

 

 

「ほんとうね。天才のやる事はわからないわ。こんな場所で水遊びな

 んて… 頭のネジがどこか弛んでいるのかしらね? 」

信子の傍らに寄り添うのは同じく生徒会の委員であり、更に茶道部の

副部長を務める佐々木祐子である。信子よりも頭一つ長身のスレンダ

ーな美女は、友人の傍らで濡れ鼠の獅子丸を見下して嘲笑う。彼女も

親友と共に常に獅子丸の生徒会の運営を邪魔する天の邪鬼に他成らな

い。

「ほら、ひょっとしたら、誰かが悪戯で入れたラブレターに誘われて

 のこのことこんな場所に現れた挙げ句に、局地的な集中豪雨に出会

 した脳天気な自惚れ家さんかも知れなくてよ」

3人目の美浜沙百合は生徒会の委員では無いが、いつも信子や祐子と

徒党を組んでいる学内でも目立つ存在である。彼女の家はこの地方の

古くからの大地主なのだが、言わば成り上がり者である獅子丸の一族

の台頭が、やはり面白く無いらしく、そのとばっちりを獅子丸までも

が受けている。

短大生と偽っても誰も疑わない大人びた雰囲気の美女が身に付けてい

るアクセサリーは、どれもずば抜けて高価な代物であり、それら全て

はボーイフレンドからの貢ぎ物で、自分が買ったものはひとつも無い

と言うのが沙百合の自慢である。

街を歩けば取り巻きが半ダースも連なる事を誇示するだけあって、そ

の妖艶さは巷の女子校生には無いものだ。それぞれに毛色の変わった

三人の美女から嘲笑われながら、獅子丸は憮然として悪戯の現場から

立ち去って行く。

「あら、濡れ鼠の間抜けが、帰って行くわ。ほら、御覧なさいよ、身

 の程知らずの馬鹿男のザマを… チビでデブなくせにラブレターが

 もらえると思っていたのだから滑稽ね」

背中に浴びせられた信子の侮辱を無言で受け止めて、その後に巻き起

こった3人の美女の嘲笑から逃れる様に、びしょ濡れの天才少年は足

早に現場から立ち去って行った。

 

 

 

「そりゃあ、俺がモテるなんて、思ってはいないけれど… でも、ゆ

 めを見るくらいは、良いじゃ無いか」

まんまと偽のラブレターに釣られてしまい、全身ずぶ濡れの醜態を曝

した天才少年は放課後の教室で野暮ったい学校指定のジャージに着替

えてから、トボトボと重い足取りで家に戻って来た。

思春期の女の子特有とも言える残酷な仕打ちを喰らって、すっかりと

打ちのめされた獅子丸は、落ち込んで項垂れたまま自宅の屋敷に辿り

着く。

高級住宅街の一角にそびえ立つ白亜の豪邸は祖父から父に受け継がれ

た代物で、裏の雑木林を含めた敷地は、近所から垂涎の的に成ってい

る。しかも、この豪邸に脇には、企業グループの全ての役職を退いた

後に父親が建てた、近代的な3階建ての研究塔が威風を放っている。

また、獅子丸に比べても多芸多才な父親は、敷地の中に音楽スタジオ

や、小さいながらも劇場までも造り上げ、他に自らが設計した日本庭

園なども配されている。

ちょっとした短大程度であれば、スッポリと納まってしまうような広

大な敷地の中に鎮座する屋敷で暮らすのは、驚いた事に獅子丸と父親

の二人きりだった。幼い頃に事故で母親を失った天才少年は、写真で

しか母の顔を知らずにこれまで育って来た。

小さい頃には住み込みの家政婦もいた屋敷であるが、獅子丸が中学校

に上がる頃には、家政婦は皆、通いに切り替わっている。しかし、別

段、獅子丸は孤独を感じた事は無い。むしろ自宅にいる時には、ひと

り静かに思索に耽る環境が整っている事の方が利点が大きいと考えて

いた。

誰に邪魔される事も無く、ヒトゲノムの解析や、まだ立証されていな

い数式に取り組む事こそ、今の獅子丸にとっては至福の時であった。

 

「あれ? 親父、居るのかな? 」

玄関の三和土に父親の愛用のリーガルと、もうひとつ見なれぬ白のパ

ンプスを見つけて、獅子丸は怪訝な顔をする。企業グループの総帥の

立場を退いた父親ではあったが、その後に名乗りを上げた『オカルト

・超常現象・研究家』の立場から講演活動に狩り出された挙げ句に、

テレビにまで顔を出している事で、忙しい毎日を過ごしている。

また、家にいる時でも、母屋の屋敷では無くて、趣味の音楽スタジオ

か新設された実験塔に隠っている事が多い父だから、こんな時間に戻

って来ているのは些か妙だった。

「ああ、そうか、妙子さんが、原稿を取りに来ているのか… それと

 も打ち合わせかな? 」

世の中、何がウケるかわからないもので、父親が執筆した『世界の中

心で超常現象』と、その続編にあたる『蹴りたい!超常現象』の2冊

が、ベストセラーと成った事から、最近は作家としても注目されてい

る。

「それならば、挨拶でもしておくか」

少年が来訪を期待した大高妙子は父親を担当している編集者であり、

今年30才に成る美女なのだ。女好きの父親に3作目を早く書き上げ

させる為に担当にされた妙子だが、けして作家、一郎丸と上手く行っ

ているとは言えない。

何しろ、天才的な薬学者であり、才能ある企業家だった父親なのだが

、有り余る才能を持つわりには、まるっきり図々しく下品な中年のお

っさんに過ぎなかった。

小柄な上に、獅子丸に輪を掛けた太鼓腹を揺らして、下ネタを連発す

る一郎丸を相手に、有名な国立大学を優秀な成績で出た才女は、半ば

呆れてやむなく相手を務めてくれている。

若い頃に結婚をしくじり、バツいちである妙子だからこそ男を見る目

は厳しく、下劣な品性丸出しでセクハラに勤しむ一郎丸との仕事を苦

痛に感じながらも、相手がドル箱作家である以上は私情を捨てて、こ

れまで何とか責務を勤め上げていた。

そんな才女の悩みを知ってか知らずか? 獅子丸もまた、美人編集者

には仄かな憧れを抱いている。だから、彼女が原稿の為に家を尋ねて

来た時には、用事も無いのに必ず獅子丸も顔を出しているのだ。

学校で同級生の女子生徒から酷い仕打ちを喰らった事も忘れて、彼は

胸をときめかせながら応接間へと向った。長い廊下を早足で進み、銀

縁眼鏡も凛々しい美貌の女編集者の元に馳せ参じた獅子丸は、応接間

の前でハタと立ち止まる。

部屋の中から漏れ出して来るのは、尋常ならざる声色ではないか? 

海外から直輸入した裏DVDでお馴染みの、アノ時の声を耳にして、

獅子丸は応接間の扉の前で立ちすくむ。

(んっ… なんだ? 妙子さんじゃ、無いのか? 親父の奴、どこか

 の女を引き込んで、よろしくやっているのかな? でも、それなら

 ば、何で応接間なんかで? ベッドルームでやればいいのに… )

ヤモメ親父と、似たもの息子の2人暮らしの屋敷に響く、なんとも艶

っぽい嬌声が獅子丸の好奇心を痛く刺激する。こんな声を扉越しに聞

かされたならば、思春期の少年であれば、是が非でも中を確かめたく

成るものだ。

ほんの数秒間の躊躇の後に、彼はゆっくりとドアのノブを掴み、次い

で音をたてぬ様に気を付けながら、ほんの少しだけ扉を開いて中を覗

いた。

(ゲっ! ゲゲゲゲゲゲのゲ! まさか、ウソだろう? )

想像を超えた室内の光景を見て、獅子丸は目を丸くした。皮張りのソ

ファの上では、全裸に成った美女が四つん這いに成り、父の一郎丸に

尻を捕まえられて、後ろから激しく責められているのだ。

(妙子さん… だよねぇ… うん、間違い無い、妙子さんだ。でも、

 どうして? )

日頃、趣味の良い銀縁の眼鏡を光らせて、父親の下品な軽口を冷やか

に受け流す美貌の女編集者の、あられもない乱れ姿に、獅子丸は仰天

して言葉も無い。

 

 

 


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