週間更新お休み企画  陵虐の捜査官
その4(3.18)

 

 

 

 

「やばい、ボディ・アーマー内臓型だ! へたをすると頭蓋骨も強化装甲製だぜ」

国軍の特殊強化兵並みの性能が予想される大男を前に、流石の強行捜査班の猛者達

も青ざめた。相手が強化人間であれば、ジャイロ・ジェット・ピストルでは無く、

対戦闘車両用の携帯ミサイルが必要であろう。捜査員達の武装の程度を見定めた男

は勝ち誇る様に不敵な笑いを浮かべながら、ゆっくりと撃ち尽したリボルバーの弾

倉を開いて空薬莢を床にばらまく。

「たかが、政府の小役人に捕まるかよ、この馬鹿野郎供め! 」

余裕を取り戻したジョンの罵る声を耳にして、吉野の頭に血が登る。彼はまだ半分

以上のロケット弾の残っているマガシンを銃握から引き抜き、制服のポケットから

新しい弾倉を取り出す。弾頭が青く塗られている事を確認した彼は、大きく溜息を

吐いてから装填して、チャンバーを引き激発可能な状態とする。

「全員、伏せろ! 顔をあげると吹き飛ばされるぞ! 」

余裕綽々でリボルバーに弾を込めている大男に向って、吉野は使用どころか携帯す

ら禁止されている炸裂弾頭をおみまいした。室内での使用の為、鼓膜を心配しなけ

れば成らない程の大音響が木霊する。爆風が過ぎた後に顔を上げた捜査員達は、粉

微塵に吹き飛んだジョンの残骸を見つける事に成った。

 

 

 

「どうやって、言い逃れたんだ? 吉野」

ガサ入れの翌日に、グェンは覆面車のハンドルを握りながら助手席の吉野に問いか

ける。

「たまたま、あの大男が持っていた手榴弾に、俺の弾が当たったのさ。それで、手

 榴弾がボン! だよ」

彼のすました言葉に、グェンは耐え難いと言った様子で顔を左右に振りながら大声

で笑う。

「そんなみえすいた嘘で、よくも押し通したものだ」

「まあな… 課長だって本当の事は知っているさ。ただ、阿呆な部下が命令を無視

 して非合法の炸裂弾頭を使いました、なんて、上層部には絶対に報告出来ないだ

 ろう? 」

確信犯である吉野が相棒に不敵な笑い顔を見せた時に、車が震災を逃れた旧市街の

再開発準備地域に差し掛かる。過密する東京市の再生を旗印に掲げる市長の直属の

諮問機関の立てた計画に基づき、かつて下町と呼ばれたこの界隈も、強制代執行の

結果ゴーストタウンと化している。

今後の開発を待つ地域は、一時的にエアポケットの様な空間と成り、表街道を歩け

ない連中にとっては、格好の隠れ蓑と化していた。余り人気が無い路地をゆっくり

と流していると、二人の乗った覆面PCの前に、いきなり大型のセダンが飛び出し

てくる。衝突の避ける為にグェンは慌ててブレーキを踏み締めた。

「つぅ… 馬鹿やろう! 」

シートベルトの締め付けで鎖骨が悲鳴を上げる中で、グェンは顔を顰めて前のセダ

ンを罵った。しかし、彼等の災難は始まったばかりなのだ。前のポジションを取っ

た黒いセダンのサンルーフが開くと、ダークスーツ姿の男が走行中にも関わらず身

を乗り出す。

「やばい、グェン! よけろ! 」

男がサブ・マシンガンを取り出すのを認めた吉野は、相棒に叫ぶ。次の瞬間、襲撃

者のMP7ーA1が、11ミリの鉛玉を覆面PCに向ってシャワーの様にばらまき

始めた。

「なんだ? 俺達が市警察の捜査官と知っての襲撃か? 」

耳障りな金属音は煩わしいが、完璧な防弾の施されたパトカーのハンドルを握るグ

ェンは、無謀な襲撃者の行動に呆れ返る。その脇で吉野は無線をスイッチをONに

した。

「こちら雷門09… 正体不明の襲撃者に遭遇! くりかえす、こちら雷門09… 」

『ザッ… ザザザザ… ザザザザ… 』

東京市警察が昨年導入したばかりの自慢の自動周波数変換式のデジタル無線機は、

その能力に敬意を表さない持ち主達の日頃の乱暴な扱いに抗議して、肝心な時にス

トライキを決め込んだ様だ。

「おい、聞こえないのか? 司令センター! こちら… 」

『ザザザザザ… 』

耳障りな雑音しか返ってこない無線機を、忌々し気に吉野は睨んだ。

「ちくしょうめ! ここ一番って時に壊れやがって! 」

襲撃者は50連のドラムマガジンに収納された11ミリの拳銃弾を撃ち尽すと、悠

然とマガジンを取り替えているのだ。

「糞! なめやがって! 」

吉野は懐からジャイロ・ジェット・ピストルを取り出し、助手席のドアの窓をあけ

る。

「おい、無茶するなよ、ヨシノ! 相手はサブマシンガンだぜ。弾の雨の中に… 

 やめろってば! ヨシノ! 」

運転しているグェンの声を無視して、彼は助手席の窓から身を乗り出す。当然、襲

撃者も獲物からの反撃を察して、無謀な捜査官に銃撃を集中してくる。だが、互い

に猛スピードで蛇行しながら走り続ける2台の車だから、思惑通りの射撃が出来る

わけは無い。

双方ともに虚しく弾をバラ撒きながら、しばらくは剣呑なカーチェイスが続けられ

た。やがて、先行する黒いセダンは13区画の角を曲がるとトンネルに姿を消す。

グエンはチラリと車のコンソールに目をやると、トンネルの入り口付近で急ブレー

キを掛けた。

「おい、どうしたんだ? なぜ追い掛けるのを止める? 」

吉野は目の前の獲物を取り逃がす事を恐れて相棒に噛み付く。

「やばいよ、ヨシノ。これを見てみろ! 」

グェンはコンソールの中央に浮かび上がったナビゲーターの画像を指差す。

「なっ… ここにはトンネルなんて、存在しないんだ。俺は旧市街のパトロール

 を2年もやったから、この辺りは詳しいんだよ。でも、こんなところには絶対

 にトンネルなんて無かったんだ。ナビもそれを証明している」

確かにグェンの指さす先は運河であり、そこには橋もトンネルも存在しないとナ

ビゲーターには表記されていた。

「じゃあ、目の前にある穴はなんだ? 幻か? それとも東京砂漠の蜃気楼か?

 俺達を撃ちまくった連中は、雲や霞みとばかりに消えたって言うつもりか? 」

「そうは言わない! でも、なんだか嫌な予感はするんだよ。こいつは罠だ! 」

青ざめたグェンはハンドルを握り締めたままで、梃子でも動く気配は無い。

「よし、わかったよグェン」

急に吉野は柔らかな口調に成る。

「わかったから、降りろ」

「えっ… なんだって、ヨシノ? 」

急に物わかりが良くなった相棒の態度の不審を抱き、グエンは吉野を見つめる。

「降りて、お前は署に連絡を入れてくれ。俺が奴等を追い掛ける」

「馬鹿を言うなよ! こいつは罠だ。質の悪い罠にきまって… おい、ヨシノ

 、やめてくれ、銃口を向けるな! 危ないじゃ無いか! 」

相棒のシャイロ・ジェット・ピストルの先が自分に向けられた事で、グエンは

動転する。 

 

 

 


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