週間更新お休み企画  陵虐の捜査官
その3 (3.11アップ)

 

 

 

 

1999年、7の月に人類が滅亡しなかったのは、天の意志の大いなる過ちでは無

かったのだろうか? MBAジャイロ・ジェット・マーク7の銃把から弾倉を引き

抜き、中に詰まった団栗を思わせる15発のロケット弾を確認した吉野は、小さく

一つ溜息を漏らしてから、不埒な思いをねじ伏せてマガジンを元に戻してチャンバ

ーを引く。

金属の掠れる小気味良い音と共に、最初のロケット弾が撃発可能な状態と成った。

20世紀の後半に開発されたものの、色々な弊害が重なり一度は表舞台から姿をけ

したジャイロ・ジェット・ピストルではあったが、炸薬の革新的な発展に伴い、2

1世紀も残すところ数年と成った今日には捜査員達にとって、頼もしい相棒と頼ら

れる存在と成るに至る。

発射音は拳銃に比べると極小であるのも大きな利点だが、大口径のマグナムをも上

回る威力を秘めながらも反動がほとんど感じられず、素晴らしい命中力を誇る小型

のロケット弾は、状況によっては炸裂弾頭の使用も可能である。

もっとも、連邦捜査局ともあろう者が、もしもそんな剣呑な弾頭を使用すれば、た

ちまち内部監査課に吊るし上げを喰らうことは請け合いだ。条件によっては、ライ

フルよりも速い弾速すら期待の出来るハンド・ロケットを手にした吉野は、インタ

ーコムに集中して突入のチャンスをじっと待った。

夜間には人気も疎らな湾岸の新工業地域に一角に鎮座する食品加工工場の裏口で乱

入する機会を待っているのは彼だけでは無く、都市迷彩の制服の上に気休めに過ぎ

ない防弾チョッキを着込んだ捜査課のメンバー3人が、押し黙ったままで突入の指

示を待っている。

 

 

21世紀の後半に成ると、医療技術、特に臓器に関する移植の技術は目覚ましい進

歩を遂げている。2077年に、西メソポタミア大学のモー・アン教授のグループ

が開発した人体の異物に対する拒絶反応を遺伝子変換により制御する技術の確立の

おかげて、それまでは困難を極めていた移植手術も成功率は飛躍的に上がり、今で

は脳みそ以外であれば、如何なる臓器の移植も不可能では無くなっている。

だが、人類の夢のひとつであり、人々に幸せをもたらすはずの臓器移植技術の進歩

に比べて、人口臓器の開発が遅れた事が大きな悲劇を生み出す温床と成ってしまう

。怪我や病気などで臓器の移植を希望する患者に対して、治療技術の向上から提供

者の数は圧倒的に不足する。

その結果、闇での臓器販売は大きな利益を生み出す事と成り、犯罪組織にとって臓

器の密売市場は新しく、そして魅力的な収入源と成った。臓器売買が目的の誘拐や

殺人が、深刻な社会問題化する中で、連邦捜査局も専任捜査官を増員して、この禍

々しい犯罪の取り締まりに取り組んでいる。

吉野清一は27才、ニュー・トーキョーでPC勤務だった彼も、4年前からは東京

市警察の臓器販売摘発室に籍を置く捜査員と成っている。今夜のガサ入れは、彼の

半年にも及ぶ潜入捜査の据えに、ようやく察知した組織の臓器貯蔵庫の工場が目標

だった。

「なあ、吉野? 本当にドクターTはいるのか? 」

同じ年だが、彼よりも1年早く臓器販売摘発室に配属されたグェンが、小声で話し

掛けてくる。

「さてね? 一応はここの責任者だって事に成っているが、だいたい誰も彼の事を

 見たものはいないし、実在するのかどうかも怪しいものだぜ」

長い間の組織への潜入生活の中でも常に噂しか聞かないドクターTは、不法臓器の

流通には欠かせない医者だった。医学の知識など皆無な犯罪組織にとって、この凄

腕と噂されるドクター無しでは闇の市場は成り立たない。組織にもぐり込んだ吉野

は、結局正体不明の医者の存在を確認する事は出来なかった。

「まあ、ドクターTが居ようが居まいが、ここが東京11区画では一番大きな密売

 用臓器貯蔵工場な事にかわりは無いさ。それに今日は組織の主だった連中も集ま

 るはずだから、運が良ければ悪魔の医者もとっ捕まえる事が出来るかもな? 」

吉野はジャイロ・ピストルの銃握から手を離して、緊張の為に汗ばんだ掌をズボン

でぬぐい去る。そのとき… 

『こちら、セブン・アップ・リーダー! 全員、突撃せよ! 繰り返す! 全員突

 撃だ! 』

待ちに待った知らせを受けた吉野は、先頭に立って裏口に駆け寄る。背後や両脇を

固めるグェン達を他所に、彼は鉄製の頑丈な扉に取り付くと、ドアノブにプラステ

ィック爆弾を詰めた袋をぶら下げた。

「やるぞ! 耳を塞げ! 」

警告から5秒後に、全員が退避した事を確認してから吉野はスイッチを入れる。派

手な音を立てて爆発したドアは、計算通りにビルの中に吹き飛ばされる。待ってま

したとばかりに、ロケット・ピストルを持ったグェンが飛び込み、吉野は一足遅れ

て彼に続く。捜査員達は一丸と成って、爆発の余韻の濛々たる埃をかき分けながら

、工場の廊下をひた走る。やがて彼等は吉野の案内に従い建物の中央区画に辿り付

いた。

「よし! 東京市警察だ! 全員その場を動くな、両手を頭の後ろで組め! 」

まるで、何かの食品工場の様に整然とした作業室には、20人を越える男達が驚愕

の表情を浮かべて立ちすくんでいる。彼等はここで、あらゆる不正な手段により取

得された各種臓器の洗浄と、偽の臓器医学協会のケースへの収納を行っていた。も

しも、買い手が望む臓器の在庫が無ければ、どんな荒事を行っても、すぐに組織は

必要とされる品を暢達してくる。

 

「畜生! 」

捜査員が乱入して来たのとは別のドアから、慌てて大男が般若の様な顔付きを見せ

ながら飛び込んで来た。ガウン姿の彼の手には、時代物の大型リボルバーが握られ

ている。

「やめろ! 抵抗しても無駄だ! ここは完全に包囲されている! 」

グェンの制止の声の後半は、男のリボルバーの轟音で掻き消される。軍隊の歩兵の

主力武器がレーザー・ライフルへと改変される中、まだまだ存在感を示すハンドガ

ンが、立て続けてマグナム弾を室内にまき散らす。流石に訓練が行き届いた隊員達

は、遮蔽物に隠れたり床に伏せて、組織の男お悪足掻きから身を守る。

「まったく! ヤクで頭までイカれているのか? 」

無論、黙ってみているわけには行かない吉野達も、物陰から慎重に狙いを定めると

、凶悪な大男に向って、小口径のロケット弾を集中して叩き込む。しかし… 巻き

添えを恐れて床に伏せた作業員達を尻目に、男は両手で顔を隠したまま仁王立ちで

捜査員の反撃を平然と受け止める。ガウンの布地の切れ端が幾つも飛び散り、屈強

な男の身体を何発ものロケット弾が貫通するが、それでも標的は平然と立ったまま

、再び銃撃を再開する始末だった。

「糞ったれ! 強化人間だ! ヨシノ、心臓を狙え! 」

グェンに言われる間でも無く、彼は怪物の心臓に向って集中して射撃を行った。だ

が、高速で飛来したタングステン固弾は、耳障りな金属音を立てて跳ね返されてし

まう。

 

 

 

 


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