その42

 

 

 

 

「なにしろバックに、K工が付いたから、馬鹿百合の連中と来たら、やりたい

 放題なんだ。もう繁華街をウロつく事も出来やしない。それに… 」

留璃子は痛ましそうな目をして話を続ける。

「うちの下級生が何人か、K工の連中に拉致られて輪姦されちまったんだ。で

も、こっちには打つ手が無いのさ」

「それと、俺と、何の関係があるって言うんだよ? 」

どうにも話の見えてこない少年は苛立った様子で詰問する。陸橋の日陰であり

、川からは幾分心地のよい風も流れては来るが、それでも夏の容赦の無い日ざ

しの中では、不快指数はうなぎ上りだ。

「実は関係は大ありなんだ。あんた、前にB高の藤本を潰しただろう? アタ

 シ等はB高と組んで、馬鹿百合やK工と張り合っていたんだよ。でも、B高

 のボスの藤本は、あんたにやられて入院しちまった。だから、今のB高は完

 全にK工に締めらちまって、頼りに成らないんだ」

なるほど、確かに隆俊はひと月ほど前の深夜のゲームセンターの出口で、偶発

的な喧嘩から、相手方のボスである藤本を叩きのめしていた。少年との喧嘩の

結果、藤本が入院を余儀無くされた事で、どうやら微妙だったパワーバランス

が崩れてしまい、結果的に留璃子や清美は苦境に立たされているらしい。

「一方だけぶちのめすのは片手落ちじゃないか。どうせ叩くなら、両方にして

 よ。あんたなら、K工の熊倉だって怖くは無いだろう? 」

藤本と同じく、この界隈の不良高校生の中では乱暴者として知られたボスの名

前を出して、留璃子は挑発的な目を向ける。

「気の毒だがお断りだな。俺は仕掛けられたらとことんヤルけれど、自分から

 喧嘩をふっ掛けた事は、ただの一度だって無いんだぜ。まあ、藤本を病院送

 りにしたのは悪かったが、あれも、奴から売ってきた喧嘩だ。だから、わざ

 わざK工業とやり合う気は無いよ」

取りつく島もない大柄な少年に向って、今度は清美が声を掛ける。

「怖いのかい? K工が? 笹川隆俊も、以外と臆病なんだね! 」

短髪で長身の美女の挑発だが、少年はまったく取り合わない。

「ああ、怖いお兄ちゃん達に喧嘩を売るのは真っ平だ。今の俺は忙しいんだよ

 。だいたい、高校生同士のもめ事じゃないか、それなら中坊に頼るな、馬鹿

 女! 」

こうして喧嘩を期待して嬉々として呼び出されていながらナンであるが、後を

引く様なゴタゴタは嫌いな少年は、気乗りしない様子で切り捨てる。いきなり

正論を吐かれてしまい、清美は力無く項垂れるが、こう成ることを予想してい

たのか? 留璃子の方は少しも怯む様子は無い。

「なにもタダでK工の熊倉を締めてくれって頼むつもりはないんだよ」

「金か? あいにくと今の俺は結構金持ちに成る予定なのさ。だから、用心棒

 代金なんぞアテにはしないよ」

AV男優としてのアルバイトにより高額な報酬が約束されている少年は、ニヤ

リと笑って言い返す。

「お生憎様、アタシ等は金欠なんだよ。だから、もしも熊倉の奴をブッ飛ばし

 てくれたら、ひと晩アンタに抱かれてやろうじゃないの」

適確に獣の弱点を突く申し出に、隆俊の気持ちは大いにグラついた。

「でもよぉ、なんだって、そんなにムキに成ってK工を締めたいんだよ? 」

己を落ち着かせる為に、取りあえず少年は聞いてみた。

「K工の奴等、アタシ等にエンコーしろって言って来たんだ。それで上納金を

 稼げって言う事なのよ。馬鹿百合の連中が嬉しそうに言ってきやがった。逆

 らえば、ウチの仲間の子を全員輪姦するって脅しやがったのさ、本当に汚い

 連中なんだ」

不良女子高生に援助交際を強いて、ピンハネを目論むK工のあくどい遣り口に

は、さすがに隆俊も腹を立てる。

「くだらねえ事を考える馬鹿野郎だな、そんな糞っ垂れな事を、よくも思い付

 くものだぜ。いいだろう、そういう事情なら助っ人の話、乗ろうじゃないか

 。ところで… 褒美の話は、そっちの彼女も入っているのかよ? 」

義侠心だけで立ち上がらない所が何とも情けない隆俊だが、そんな少年の返答

に安堵の顔を見せた留璃子は、指名されて驚く清美をちらりと見てから、笑っ

て首を横に振る。

「だめだめ… この子、ツッパっているけれど、まだ処女だもの。アタシひと

りじゃ不服なの? 大丈夫よ、たっぷりと楽しませてあげるからさぁ」

まだ経験が無いことを友人に暴露されてボイッシュな美女は血相をかえる。

「なっ… なによ、私だって、平気よ! 馬鹿にしないで! 」

顔を真っ赤に染めて抗弁する清美を見て、少年は内心で舌舐めずりしている。

(そういえば、処女と犯った事はなかったな。もしも、その気があるなら、初

 物喰いも悪くは無いぞ)

まるっきり中学生らしく無い思惑をおくびにも出さずに、隆俊は真面目な顔で

留璃子を見つめた。

「後の話はとにかくだ… お前、熊倉の携帯の番号を知っているか? 」

「ええ、無理矢理に登録させられたけれど、何で? 」

怪訝そうな顔の茶髪の少女に、少年は人の悪そうな微笑みを向ける。

「エンコーの事で打ち合わせしたいから、人目の無いところで会いたいって電

 話しな。場所は向こうの指定した所に出向くさ。藤本って野郎も居ないから

 な、連中は、もうすっかりと勝った気分だろうぜ。うまくすれば1人、まあ

 、精々2〜3人の取り巻きでノコノコと出てくるだろうよ」

少年の悪知恵に、留璃子は合点が行き頬を緩める。

「それなら、アタシ等もメンバーを集めるよ。アンタが一緒なら、女でも… 」

「馬鹿言え! 女の助っ人なんて御免だぜ。喧嘩は俺一人で十分だ」

自信満々な隆俊の台詞に、二人の少女は当惑して顔を見合わせる。

「でも、もしも熊倉が子分をいっぱい連れて来たら、どうするのさ? いくら

 アンタが強くても、相手が10人もいたら、やらっれちゃうだろう? 」

心配そうな清美の問い掛けに、隆俊は不敵な笑みを浮かべる。

「10人くらいなら何とでもなるけれど、そん時にはシカトさ。まあ、俺の読

 みならば、おそらく熊倉の野郎、エンコーをやらせた儲けを一人占めする事

 を考えているハズだから、たぶん精々連れて来ても腹心を1〜2人だろうぜ

 。でも、もしも予想が外れて仲間はゾロゾロ来ていたら、呼び出した上でシ

 カトして、次のチャンスを狙えば良い。いずれにしろ、今日明日中には決着

 を付けようじゃないか」

一応、隆俊の説明に納得した留璃子は、彼の指示に従い熊倉に電話する。

「1時間後に、◯◯町の神社の裏庭へ来いってさ、私ひとりで来る様に言って

 いたわよ」

電話を終えた留璃子が不安げな面持ちを少年に向ける。

 

 

 

 

 


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