牝喰伝 6 (7.31) 
その41

 

 

 

 

「ねえ、タカトシって、あんたかい? 」

暑い夏休みの最中に、なんでこんな馬鹿げた日があるのか? と、登校日を呪

いながら校門を出て、ジリジリと照りつける太陽を恨みがましく見上げた隆俊

の背中に、無礼な誰何が投げ付けられる。

これが何処かの不良生徒のいちゃもんであれば、何かに鬱憤をぶつけたい今の

隆俊には大歓迎と言う気分なのだが、多少ドスが利いてはいるが、明らかに女

の声での呼び掛けなので、彼には思い当たる節も無い。毒にも薬にも成らぬ教

師の繰り言を1時間も聞かされた挙げ句にようやく解放されたところだから、

少年は何時に増して不機嫌な顔で振り返る。

「ああ、俺が隆俊だよ。アンタら、誰? 」

自分の通う中学生とは違う制服姿の女性が二人、何やら大柄な少年を値踏みす

る様に見つめている。一人は黒髪を短く整えている、野生の豹を思わせる鋭い

目をした少女で、上背もあり、一見すると宝塚の男役の様な気配が漂っている

。その連れの子は小柄で、こちらは髪を茶色の染めた上で、アイドルの様に化

粧もばっちりと決めている。どちらも美少女ではあるが、お世辞にも真面目な

女生徒には見えないので、隆俊は大いに面喰らう。

(あれ? 俺って、女に喧嘩をふっかけた事、あったっけ? )

余り友好的とは言えない顔付きの美女等を交互に見比べながら、少年は胸中で

密かに心当たりを窺った。

「ワルいけれど、ちょっと、顔を貸してよ」

茶髪のアイドル顔の方がにっこり笑って呼び掛けるから、少年は黙って頷くと

彼女等に付いて行く。2人は最初の十字路を折れて、駅とは反対方向に彼を誘

う。

(こっちは、河原か… なるほどね、そこに男が待っていて、と言う寸法かよ

 。面白いぜ、最近は喧嘩騒ぎは、とんと御無沙汰だから、ひと暴れしてやる

 さ)

おそらくこの2人の美少女等は、どこかの不良グループの使いっパシリにされ

たのであろう。油断してノコノコと付いて行く先には、どんな罠が仕掛けられ

ているのか? 剛胆な少年は込み上げてくる暴力衝動に駆られて、野獣の血を

滾らせる。

教えられたばかりの女の味に淫して、最近は年上の愛人連中相手にとっかえ

ひっかえの桃色遊戯に耽っていたから、こんな修羅場は久しぶりだ。忘れてい

た凶暴な昂りが何とも心地よいから、あれ程に不機嫌だった少年は何時しか凄

惨な笑みを浮かべて河原への道程を歩んで行く。

君子危うきに近寄らず、の名言は、少なくとも少年の辞書には無い。土の堤防

にへばり付く半ば朽ちかけたコンクリート製の階段を昇ると、夏草の生い茂る

河原が一望の元に成る。相変わらず照りつける日ざしは強いが、川辺を流れる

風は町中よりも心地よい。

(やっぱり、高架下かい? 陸橋の支柱の影に、野郎共が隠れているっていう

 ところだろうぜ)

川を跨ぐ線路の鉄橋の下へと歩く2人の美少女の後を、隆俊は油断なく辺りを

見回しながら付いて行く。

(あれ? 妙だな? 人の気配がしないぞ。本当なら、この草むらの中にでも

 、伏兵がいて、一気に俺を取り囲む… って言うのが常道だろうに)

昼の日ざしの厳しい最中だから、まだ河原に涼みにくる酔狂者の姿も無く、何

だか隆俊は肩すかしを喰らった様な気分に成り、再び険しい顔に戻っている。

陸橋の真下の日陰に辿り着くと、2人は用心の為に辺りをきょろきょろと見回

た後に、改めて隆俊に向き直る。

「あたいは留璃子、そんでもって、こっちは清美。見ての通り、二人ともR女

 さ」

茶髪の方が、なにかを探る様な目つきで自分と相棒の短髪を紹介する。

「ああ、あの阿呆女子学院か… 」

かなり偏差値は低いが、一応R女子短大の付属であることから、比較的に裕福

な家庭の子女が多く通う隣街の女子高を思い、隆俊は無遠慮に言い放つ。

「なんだって! この野郎! 」

髪の短い方の清美が、無礼な少年の言い種に怒りを露にするが、頭一つ背の低

い茶髪の留璃子は落ち着いて彼女を制する。

「よしなよ、こいつにまで喧嘩を売って、どう成るのさ? 」

アイドルの様な仮面を脱ぎ捨てて、留璃子は低い声で相棒を諌める。

「御免よ。この子、悪い子じゃないんだけれど、ちょっと短気でね… 」

内心はどうあれ、留璃子は少年の不遜な態度を気にする様子も見せずに、大人

の対応を見せる。

「こんな所に呼び出したのは、まさか決闘を申し込むってえわけじゃ無いだろ

 う? それとも二人揃ってラブレターでもくれるのか? 」

予想していた喧嘩沙汰が有耶無耶に成ってしまったから、相変わらず隆俊は機

嫌が悪い。彼の無礼な軽口に清美の方が血相を変えて一歩前に歩き出すが、留

璃子に腕を掴まれて強引に引き戻された。

「ちょっと、ちがうのよ。でも、アンタにも良い事だから、話を聞いて頂戴」

にっこりと微笑みながらも、目が笑っていない茶髪の少女に必死さを感じて、

隆俊は腕組みをして頷いた。

「うちら、先輩の代から、T商業の連中の仲が悪いのよ。知っているかしら、

 T商業? 」

「ああ、馬鹿百合商だろう? 」

百合の花をあしらった校章から馬鹿百合と揶揄されるT商業高校は、留璃子ら

の通うR女学院と、どっこいなレベルの高校だった。 

「ああ、その馬鹿百合さ。ずっと因縁の深い喧嘩だから、もう拗れ切っていて

 、顔を見ればいがみ合っているのよ」

何故か自嘲気味の笑顔を見せて留璃子は吐き捨てた。

「なんだ? まさか、女同士の喧嘩に、俺が仲裁に入れとでも言うのか? 馬

 鹿を言うなよ。俺は喧嘩は得意だけれど、仲直りの世話なんて御免だぜ」

「私達だって馬鹿百合の連中なんかと馴れ合う気は無いわ。でも、それじゃ済

 まない事に成って来ちゃったんだよ! 」

隆俊の誤解を聞いて長身の清美が怒りに燃えた声で叫び、プイとそっぽを向い

て下唇を噛み締める。怒る相棒の台詞を、静かに留璃子が引き継ぐ。

「T商の連中、あのK工業の奴等と組んだのさ」

この沿線で、乱暴な事で知られる男子高の工業高校の名前を聞かされて、隆俊

は増々困惑を深める。

 

 

 

 

 


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