その34

 

 

 

 

一応、ギャラの倍増を勝ち取ったと信じる千尋は、不機嫌なままで振り返り、

勇ましい足音を残して2人の前から去って行った。

「いいのですか? 主演の子を、あんな風に怒らせてしまって… 撮影に差し

 障りがあると、困るでしょう? 」

「いいの、いいの… もしも、あの子が駄々を捏ねたら、その時には園子が脱

 げば済む事だもの。うふふふふ… 」

冗談とも本気とも付かぬ笑いで、園子を慌てさせた由紀江は、不意に彼女から

視線を外すと、満面に笑みを浮かべて遠くに向って手を振ってみせる。

「トシくん! こっちよ! こっち! ほら、心配して園子も駆け付けてくれ

 たんだから」

その声を聞いて振り向いた園子の傍らに、学生服姿の隆俊がゆっくりと近づい

てくる。

「やあ、来ていたのか? 俺の初出演を見に来たのか? 園子」

躯は大きいが、顔はまだ幼さの残る中学生の義理の甥を見て、園子は呆れなが

ら溜息を漏らす。だが、由紀江の元に預かってもらった昨日までの4日間は、

けして無駄では無い。

お陰で姉の暢子は、ようやくに己を取り戻して、昨日の昼には改装中のスナッ

クに出かけて、工務店の人間との打ち合わせも行ってくれた。だが、一見、付

き物の落ちた様に見える暢子であっても、その内面ではドロドロとした欲情が

渦巻いているに違い無い。何故なら、園子もまた、美しい姉と同様に少年に対

する欲情を持て余しているからだ。だからこそ、こうして図々しくもAVの撮

影現場にまでやって来ている。

「あなた… その髪の毛は? 」

現れた少年が見事な茶髪だった事で、園子は絶句する。

「似合うか? これで、伊達メガネを掛けるんだ。ほら、身元がバレると不味

 いからな。慌てて昨日染めたんだぜ。もっとも、この撮影がおわったら、す

 ぐに黒に戻すのさ」

確かに女優が現役大学生であれば売り物にも成るが、相手を務める男優が現役

の中学生では洒落にも成らない。

「心配はいらないわ、AVの主役は女の子だもの。トシくんの顔は、なるべく

 外すし、後で編集で何とでも成るわ」

最初に彼を紹介した時とは随分と態度が違う由紀江の、牝の媚びを含んだ声色

に驚きながら、園子は二人を交互に見比べる。これでは、真面目な学生と言う

設定も何も、あったもんじゃないだろう。

「ねえ、台本はちゃんと、読んだ? 」

「台本と言ったって、俺のセリフは、みんなアドリブに成っているじゃないか

 。とにかく最初は真面目に、途中からは好きにしろって… いいかげんなモ

 ノだぜ」

確かに中学生にいきなりアダルトビデオの男優をやれと言う方に無理がある。

妙に演技をすれば、素人なのだからしらけるばかりだろう。それならば、変に

セリフなどは付けずに、勝手にやらせておく方がマシと言うものだ。なにしろ

監督である由紀江が求めているのは隆俊の演技力などでは無く、底なしの欲情

を見せる獣性なのだから… 

「ねえ、トシくん。今日の相手の井上千尋なんだけれど、最近生意気でしょう

 がないの。だから、この際、少しお灸を据えてやろうと思っているのよね」

サングラスの中で、女監督の目がスッと細められる。

「あの子が、どんなに泣いて赦してくれって言っても、やめないで。とことん

 犯りまくって、骨抜きにしちゃってちょうだい。そうすれば、これから何か

 とやり易くなるわ。いいわね、この作品のタイトルは『女教師・壊れる』に

 したいのよ」

由紀江の言葉に、隆俊は獣を思わせる凄惨な笑みで応えた。

「いいのかよ? 今日に備えて、昨日の夜はセーブしていたから、俺の欲求不

 満は爆発寸前なんだぜ? あんな売れっ子をほんとうに乗り潰してしまうか

 もしれないぞ」

彼の愛人に加わったばかりの女監督は、微笑みながら鷹揚に頷く。

「いいわよ、徹底的に犯りなさい。スタッフには手出しさせないから、場合に

 よっては、これが井上千尋の引退作品に成ってもかまわないの」

何か千尋に含む所があるのか? 由紀江は冷淡に彼女の処刑許可書にサインを

するに等しい行為をやってのけた。

「まあ、監督の由紀江が、そう言うならば、俺としては何の文句も無いぜ。好

 きなだけ犯らせてもらうさ」

隆俊が不敵な笑みを浮かべて嘯いた後に、スタッフの一人が駆け足で近づいて

来て、準備が整ったことを女監督に報告する。

「さあ、トシくん。いよいよ本番よ」

 

部外者である園子を残して、由紀江は隆俊と連れ立って、スタジオに設えられ

たセットに向って歩いて行く。そこには、主演女優の千尋が、憮然とした顔付

きで銀縁のメガネを光らせている。彼女にしてみれば、売れっ子の自分に、こ

んな新人の、しかも餓鬼をあてがう由紀江のキャスティングが不満で成らない

しかし、だからと言って椅子を蹴飛ばして、スタジオを後にする事も出来なか

った。規模こそ大きいとは言えない由紀江の会社であるが、その作品は高く評

価されて、売り上げは常に上々、さらにレンタルビデオ屋における回転率でも

、いつもトップ10に2〜3本は、由紀江の監督作品が入っている。

数多くの新人が次々にデビューを果たすAV業界で、トップレベルの座を維持

するのは非常に難しい。たとえ演じる千尋がどんに頑張ってみても、無能な監

督の元で下らない作品に出演した時には、底々にしか売れない駄作が出来上が

る。

その点、由紀江が監督であれば、少なくともこれまでは作品の質は安定して高

いレベルを維持して来た。だからこそ千尋も、彼女の作品への出演を快諾した

のだ。もうしばらくAV嬢稼業を勤めて荒稼ぎをした後で、時期を見計らって

転身を果たしてタレント活動すら考えている千尋だから、己の評価を落とす様

な作品に出るのは願い下げだった。

(由紀江カントクの看板も、そろそろ落ち目なのかしら? こんな餓鬼に何を

 期待しているの? 時間の無駄に成るに決まっているわ。まあ、出演料が2

 倍もらえるならば、馬鹿馬鹿しいとは思うけれど、付き合ってあげるわよ)

女教師と言う役柄上、控え目な化粧で地味なスーツを着込んだ美貌のAV嬢は

、金に目が眩んで、いまそこにある危機に気付かない。差し換えられた台本だ

から、細かい指示はなされていない。あまり気乗りはしない千尋だったが、こ

こは一番、さっさと目の前の少年をダウンさせて、余った時間で買い物にでも

出かける気に成っている。

(でも、この子… 本当に何ものなのかしら? 体つきは大きいけれど、顔を

 見れば、大学生って事は無いわよね。高校生にしても、幼い顔じゃない。ま

 あ、由紀江監督の推奨だから、どんなモノだか、お手並みを拝見しましょう)

 

 

 

 


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