その3

 

 

 

 

「偉そうな事を言うじゃないか? なあ、暢子さんよぉ… 」

小学校の高学年の時から、目紛しく変わる保護者等に対して名前で呼ぶ様に成

った隆俊は、父親を裏切った義理母に対して優位に立った事を喜んでいる。

「あんたねぇ… 私はあんたの父親から、隆俊を頼むって言われているのよ?

 それとも鉄治さんの言い付けが聞けないのかい? 」

図体がデカく腕力にも自信がある隆俊だが、さすがにその道の本職である父親

に対してはまだ生意気な口ひとつも利けない。いつもならば、まるで水戸黄門

の葵の印篭の様な効果を持つ父親の名前だが、今日の隆俊には切り返す手段が

あった。

「◯×公園は良い所だな? あそこがお気に入りなのかい? 暢子さんよぉ? 」

切り札を放った隆俊は、瞬時に青ざめた義母を嬉しそうに見つめる。

「なっ… なんの事さ? 公園って? あんた、何を言っているのよ? 馬鹿

 じゃないの? わけが分からない」

「ほう… それじゃ、ついさっき、あの公園を通った時に、お前が林の中で誰

 かに尻を預けていたのは、あれは幻なのかい? ふ〜ん、おれは蜃気楼でも

 見たのかな? まあ、こんな与太話でも、ムショの親父は怒るだろうぜ」

痛い所を突かれた暢子は端正な顔を歪めて義理の息子を睨みつける。日頃は見

せない牝の狂いの隠った美女が醸し出す凄絶な色香に、思わず隆俊は息を呑ん

だ。

(なっ… なんだよ、コイツ、こんなに色っぽいのか? )

追い詰められた牝豹を思わせる暢子の色香に戸惑う隆俊は、艶っぽい緊張感に

耐えられずつい視線を反らしてしまった。

(あれ? はは〜ん。なるほどね、ワルだけれど、それほど女の場数は踏んで

 いないのかしら? ひょっとしたら童貞? )

夜の街を巧みに泳ぐ暢子を相手に言い争うには、隆俊は余りに幼い。物事の駆

け引きも素人なのでふとした仕種から、子供である事を見抜かれてしまう。こ

の瞬間に明らかに二人の立場は逆転した。勢いを取り戻した暢子の方が勇んで

逆襲に出る。

「それで? どうなの? 勃起したのかい? 」

「……… えっ… な、何だって? 」

とんでもない義母の台詞に、隆俊は瞬時には反応できなかった。

「だから、私が男と犯っている所を覗いて、チンチンがおっ勃ったかい? っ

 て、聞いているのよ? それとも、あんた、その若さでインポなの? 」

完全に夜の繁華街でのしたたかな顔に戻った暢子の、あまりにも赤裸々な問い

かけに、あの月明かりの下での淫媚な光景を思い出して、彼は股間が強張るの

を感じていた。そう… 暢子の言う様に、たしかに、あれが義母と見知らぬ男

の性行為だと認識した後にも、彼の一物は萎えるどころか増々固く成ったもの

だ。図星を刺されて年若い大男は狼狽する。

「ばっ! 馬鹿言ってんじゃ無いよ! だれがお前なんかで勃つものか! 」

言葉とは裏腹に顔を真っ赤にして、窮屈そうに幾分前屈みに成った義理の息子

の状態を正確に洞察した暢子は、以前から憎からず思っている隆俊を余裕を持

って見つめていた。彼女自身、これまで余り誉められた人生を過ごしてはいな

いから、妙に小賢しくひ弱な餓鬼よりは、隆俊の様にやんちゃでも元気の良い

子供の方が好みなのだ。

以前から図体ばかり大きくなった彼を挑発する様に、扇情的な下着姿でリビン

グを横切ったり、風呂上がりにバスタオル一枚でうろついて見せて、隆俊の目

が不自然に泳ぐのを楽しんで来た若く美しい義母は、この時には覚悟を決めて

いる。これまでも思春期を迎えた義理の息子をからかう事に喜びを感じていた

暢子は、ソファに腰掛けている隆俊の傍らに歩み寄りしゃがみ込む。

「なっ… なんだよ? 」

「勃ったんだろう? いやらしい覗き野郎だねぇ… 」

アルコールの匂いに混じり、プアゾンの挑発的な香りを鼻腔に感じた隆俊の股

間は、もうおさまりが付かない程に強張ってしまう。そんなだらしない姿を見

られる事を恥じた若者は、増々前屈みに成り股間を隠そうとする。

「うっ… うるせえな! 関係ないだろう? あんな所で盛りやがって! ま

 るで牝犬じゃないか」

「なにさ? その牝犬のセックスを見て、股間を膨らませるあんたは何様なの

 ? それに、いつも人の下着姿を涎をながさんばかりにチラチラ見ている事

 もお見通しなのよ」

たしかに、風呂上がりの色っぽい姿や、夜の商売に出る前に準備を整える時の

下着姿は、年頃の少年には刺激的な光景だから、隆俊も目を奪われる事も何度

かあった。しかし、あくまでさりげなく振る舞っていたつもりだったから、ま

さか義母に勘付かれているとは思わない辺りが、彼の幼さを現しているだろう

「ほら、どうしたのさ? あれ? まだ勃ったままなのかい? あははは… 

 義理とは言え、母親のセックスを見てチ◯チンを固くするなんて、あんたも

 大した鬼畜じゃないか? ほれ、何とか言ってみなよ」

浮気の現場を見られて、一時はどうなる事かと動転した暢子だったが、うまく

切り返しが出来た事で些か調子に乗っていた。形は大きな義理の息子だが、頭

の中身はまだ子供だと思えた事で彼女は安心しきっている。後日、それが大き

な誤算であると気付く頃には、もう抜き差し成らぬ泥沼にはまり込んでいた。

「たっ… 勃ってなんて、いねえよ! 馬鹿な事を言うな」

「へえ、そうなの。なんだ、つまらないの」

身近からじっと見つめられていた暢子の視線が不意に離れた事で、不用意に隆

俊も気を抜いた。その次の瞬間… 

「えっ! うわあ! 馬鹿、何するんだ! 」

油断した隆俊の股間に絶妙なタイミングで暢子が手を伸ばすと、ズボン越しに

勃起をムンズと掴んだのだ。

「勃っているじゃない。ほら、こんなに固くして。このスケベ野郎」

「ちがう、馬鹿、離せ。この牝犬! 畜生! 」

義母の暴挙に慌てる隆俊だが、一物を握られていては格好は付かない。物心つ

いて以来、初めて異性に股間を弄られてしまった若者は動転して、その場から

逃げ出そうと試みる。そんな義理の息子の慌て振りに調子付いた暢子は、しな

やかな身体を彼に預けて動きを封じてしまった。

 

 

 

 


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