その2

 

 

 

 

たとえ頼りにしていた藤本を無惨に倒されても、ここで引いたら二度と繁華街で

デカイ面が出来ないから、高校生達は悲愴な覚悟で年下の連中と殴り合っていた

。だが、仲間が少しでも不利に成れば、あの野獣を思わせる大男が駆け付けて来

て、藤本を一撃で倒した拳を容赦も無く奮ってくるのだ。そうしている内に、ひ

とり、またひとりと高校生の不良は道路にのびて動かなく成って行く。

「やっ… ヤバイっすよ、タカさん。マッポっす! 」

路地の入り口付近で見張り役を務めていた手下の声に、隆俊や他の連中も残党狩

りの手を止めた。面子にこだわり妙に粘った高校生連中を、思う存分に叩きのめ

した彼等であったが、さすがに通報で駆け付けて来た警官からは散り散りに成っ

て逃げ去って行く。隆俊は仲間がどこからか暢達してきた原付の二ケツで現場を

後にした。

 

 

「おう、ありがとうよ。そんじゃ、明日な」

「はい、失礼します」

家の近くの路地まで原チャリの2ケツで送ってもらった隆俊は、かるく手を振り

仲間を見送る。

「さてと、あの女が、まだ戻って無けりゃ、いいけれど… 」

最近は妙に保護者顔をする義理の母親の煩わしさを憂いながら、彼は家の戻る近

道の公園を早足で歩いていた。

「うん? なんだ? 」

夜風に乗って林の方から微かに聞こえたうめき声を耳にして、隆俊は立ち止まる。

(へへへ… これは、アレだな。お盛んなことだぜ)

形は大柄でも、頭の中身はようやく思春期を迎えたばかりの隆俊は、公園で夜風

に乗って流れて来た青カンの声を聞いて、興味津々とばかりに声の主達の姿を求

めて林の中に入って行く。足音をしのばぜながら小道を進めば、やがて男と女の

秘事の際に漏れる声は徐々にハッキリして来た。

(おっ… やってるやってる。どれ… )

大きな図体であるけれど俊敏な少年は、奥の大木に両手を付いて後ろ向きに尻を

露出して男を迎え入れているカップルを、月明かりの下で目を凝らして見つめた

。薄明かりの下で、剥き出しにされた白い尻は邪悪な美しさを醸し出している。

(くぅ… いい尻だぜ。あんな女と犯ってみたいものだ)

しばらくは興奮を抑えて出歯亀を楽しんでいた隆俊だったが、不意に違和感を覚

える。

(あれ? あのシャツは? 見覚えがあるぞ… まさか… )

彼は影に成って見辛い女の顔を確かめようと、少し場所を動いてみた。すると… 

(げっ! 暢子じゃねえか! あのアマ… )

思わぬ場所で義理の母親の情事を目撃した隆俊は、呆れ返りながらも股間を固く

して月夜の林でのセックスを見つめていた。

隆俊の父親は広域指定された暴力団の組員である。一昨年の抗争事件の結果、武

闘派でならした父親は対立組織を相手に殴り込みを掛けて大暴れした咎で逮捕さ

れて、今は長い務めに出て鉄格子の中にいる。

その父親が刑務所に収監される半年前に籍をいれたのが、今、公園で青カンに夢

中になっている暢子なのだ。早くに生みの母親を病気で失った隆俊は、その時々

の父親の情婦達の手により育てられて来た。組一番の強面だが、気風も良く腕も

立つ父親には女が途切れた事は無い。それどころか、父親を巡って何人かの女が

角を突き合わせる修羅場も何度も見て来た。だから小学校に上がる頃には、自分

が他の友人達と違い何人も母親がいる境遇を、隆俊は別段不思議に思わなく成っ

ていた。

そんな父親の最近のお気に入りが、今、どこの馬の骨とも知れぬ男に尻を預ける

暢子である。駅前の歓楽街の一等地に小さなスナックを持たされた美人の義母は

、夫の留守を良い事に破廉恥な振る舞いに及んでいるのだ。

だが、もしも彼女に一分の理があるとすれば、繁華街近くのラブホテルに客とし

け込んだのを地回り連中に見られて、服役中の夫の耳に入りでもしたら、彼女も

客もただでは済まない。だから、こうしてスナックのある夜の街から離れた、彼

女のマンションの近くの公園での青カンに及んでいるのであろう。ヤクザの情婦

には、それなりの窮屈な事もあった。

(しかし、まあ、こんな場所でよく犯るぜ、暢子の奴め)

父親不在の間、彼の保護者面して、あれこれと煩い義母の淫らな行為を呆れて眺

めながらも、隆俊は妙な興奮に捕らえられて股間を膨らませてしまった。

 

 

「ただいま! 」

一足先に覗きの現場の公園から自宅のマンションに戻っていた隆俊は、浮気の気

配など素振りも見せずに戻った暢子の帰宅をリビングで出迎える。

「おかえり、遅かったじゃないか」

「当たり前だろう? こちとら気楽な学生さんと違って稼いでいるんだからね」

やはり少しは後ろぐらいのであろうか? 心持ち上気した顔を背けたままで暢子

が伝法な口調で言い返す。

「それより、あんた。今晩は何処に行ってたのさ? 10時前に電話したけれど

 、家の居なかっただろう? また街に出て下らない連中とつるんでいたのかい

 ? 」

多少アルコール臭い息を撒きながら、暢子が振り返って義理の息子を睨んだ。

(こうみると、年は行ってるけれど、けっこう良い女なんだよな、コイツ)

まだ30まで数カ月を残している暢子だから、年が行っているとは言い過ぎだろ

うが、中学生の隆俊から見れば彼女とて、もうおばさんの部類に入っている。だ

が、これまでは父親の女であり、自分にとっては義母のひとりであると見ていた

暢子の、あられもないセックスの光景を目撃した今、はじめて彼の目は義理の母

親を女と意識していた。

ヤクザの情婦に成り任されたスナックを仕切るくらいだから、彼女はかなり気が

強い。切れ長で、ほんの少しつり上がった目と、スッと通った鼻筋。それに薄い

唇から些か冷淡な印象を受ける美女目当てに店に通い詰める客も多く、駅前のス

ナックはそれなりに繁盛している。

「こんなに遅くまで遊び歩いていないで、学生なんだから少しは勉強したらどう

 なのさ? この間の保護者面談では赤っ恥をかかされたんだからね」

確かに学校での素行は最悪だから、保護者に対する面談で隆俊を誉める教師はい

ないだろう。成績にしたところで、超低空飛行なのは分かっている。だが、つい

今まで夜の公園で見知らぬ男に尻を預けていた暢子に、義理とは言え母親顔をさ

れるのは面白く無い。そこで彼は人の悪そうな顔をして、やや酒の入っている義

母を見つめた。

「なによ? その顔? 少しは反省しなよ。毎晩あっちこっちで下らない連中を

 取り巻きにして煽てられて喧嘩三昧でさあ、馬鹿丸出しじゃない」

やはり臑に傷もつ暢子は、何時もと違って威勢よく言い返してこない義理の息子

の無気味な態度に多少たじろいだ。

 

 

 

 

 


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