プロローグ 静寂と漆黒の闇の中で私は目を覚ましたのだろうか? 横になっているの?身体が重く感じ動きたいという気力さ えも何故か沸かない、まるで私の脳は思考を拒んでいるか のよう。 『 闇?』ほんの一瞬、心の中に恐怖とも驚きとも取れる 自分の声が響きわたり、ひとかけらの思考が私の顔全体に 覆われている" マスク "の存在を教えてくれた。 しかし、教えてくれたのは何故かそこまでで「自分の声」 はその事実に対する経過も疑問も問いただす事が無かった。 私の思考は『身体を動かせ』とはまだ命令しない、「自分 の声」は動かしたいとの意思表示もしない、何かを待って いるの? 時間が過ぎていく。でも、私にはその時間を感じ取る術も 無く、思考自体が不必要な時間の存在を認めてくれない。 視覚という五感の一つを閉ざされたまま、私は私からの指 示を待っている『時は止まってる、私が私のための時を心 と身体にに刻むまで』心の奥底から湧き出したメッセージ に身体が反応してくる・・・眠い。 目を覚ました、光こそ判らないがマスクの内側から目を開 いている感覚が感じ取れる余裕が出てきた、今私が囚われ ているこの空間(部屋?)は熱くも寒くもなく、不安こそ あるものの昨日[感覚としての]よりは視覚以外の感覚がゆ っくりと動き出しているのを理解できた。 「お腹が減った」自然と口から出た初めての言葉、思考が 少しずつ開放されてきたのだろうか?『身体を動かそう。』 だが、これは既に私の思考の中に住着いていた悪魔の優し く残虐なプレゼントだとは、たった一つの簡単な行動が二 度目に発する声と共に「私」存在を過去の物へと消し去り、 以後別の私に変心させる事となるなんて。 身体を動かした瞬間、見えないはずの目が私の脳に信じら れない程鮮明な自分の姿を映し出した、全裸で首はおろか 両手首・足首、太もも、腰に至るまで枷をはめられ、四つ んばいになるように鎖で固定されているあさましく、おぞ ましい姿を。 二度目に発する声、それは「悲鳴」。二度と戻らない過去 の私への「さよなら」の言葉。悲鳴とともに全ての私が闇 の中深く沈んでゆくのを本能が告げた。 永遠とも思われる絶望と、異常な快楽のみが支配する未知 なる世界へと。 薄れゆく意識の中で、純白の羽根が生えた悪魔舞い下り私 に優しくこう囁いた「迎えにきたよ。もう一人のお前が昔 から住みたがってたあの世界の扉を開く鍵が、今やっと見 つかった。さあ、行こう。」 意識を失った私は彼に抱かれ未知なる世へと飛び去った。