桃原美希子 (4月18日(金)17時30分49秒)
■アニトさま■
やっぱりワタシはエッチっ娘みたいです。
「女装をしなかった人生」は非エッチの予定なので
発散できる物語を書きたくなっちゃうのです。
今回は考えた設定がどこまで可能かって試してみました。
物語中にある「白のワイシャツにネクタイ」の恰好で
下には詰め物をして膨らませたブラをつけて
そのままじゃ目立っちゃいますから上着は着てデパートへ行ってきました。
透けブラ露出とか下着の試着購入とか空想ではいろいろ考えます。
でも現実は紳士服のコーナーで誰も見ていないのを確かめて
試着しているふりをして上着を脱いだりするのが精一杯で
婦人服は手にするだけでドッキドキですし
まして下着売り場にはとても入っていけませんでした。
女装外出している方々の勇気といいますか
女装完成度は本当にすごいんだと思ったしだいです。
できないことは物語で発散いたします。
−−− 注文の多い百貨店 −−−

女装歴は5年ほどになる。
はじめは下着だけだったのだけどだんだんエスカレートしてきて
スカートを穿き、ウイッグをつけてお化粧をするようになった。
といっても1人暮らしの家の中だけでのことだった。
それが1年前ネットで女装ができるお店を知り、
『フルーツ畑』に月2・3度は通うようになる。
それまで1人では不可能だったプレイがそこではできた。
言葉責め・緊縛・放置・スパンキング……。
すももさんは私のマゾ性を開発してくれた女王さま。
「個人的にお仕えさせてください」
当分結婚をするつもりはなかったし、
公の生活に支障がない範囲であればもっともっと女装を楽しんでみたい。
どなたか御1人のために尽くし、その御方のご命令とあらば
どんな辱めも淫らな行為も悦んでしまえる自分になりたいと思ったのだ。
しかしすももさんの返事は良いものではなった。
もっともそれは予期したものではあったけど。
が、熱意だけは受け取っていただけたようで
「ご主人さまを探してあげるわ」とおっしゃっていただけた。
2週間後、すももさんの知り合いという方からメールが着た。
お名前は「マスター」とだけあり、
文面からだけでは性別もわからなかった。
何度かやりとりをしながら希望を伝えると
面接をしていただけることになった。
『明日、空想百貨店へ行きなさい。
案内所にプレゼントをあずけてあるから名前を言って受け取りなさい。
中を確認したらメールしなさい』
空想百貨店というのは郊外にある4階建てのショッピングセンターで
女性用の洋服やアクセサリーなどを中心に
雑貨店・美容室・ペットショップなどのテナントも入っている
ファッション&バラエティ総合デパートといったところだ。
男1人暮らしの身の上にはあまり縁がない場所でもあった。
私は洋服や下着ならある程度持っていてそのことを伝えてある。
縁のない場所ではあるけれど女装で行くには相当な勇気がいる。
ご指示の続きには服装の指定もあった。
『……白のワイシャツにネクタイ、上着は着ずに……』
ということは男の姿のままでもいい?
もしかしたらご主人さま好みの洋服とか
コスプレ衣装を購入するよう命じられるのだろうか?
それとも何かを実行させて私の忠誠度を計るのだろうか?
その様子をどこかで見ていらっしゃるのだろうか?
いずれにしてもすももさんのご仲介なのだ。
見知らぬご主人さまに気に入られるかどうかわからないけれど
少なくともすももさんへの感謝を示さなければならない。
それを想うだけでドキドキした。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
22時を少しすぎてようや空想雑貨店のドアを通り抜けた。
引き返そうかと何度迷っただろう。
入ってしまえば取り返しのつかないことになるかもしれない。
もしも知り合いに会ってしまったらどうしよう。
でも前に進まなければ変わることはできない。
一部の店舗を除きオールナイト営業ではあるが
遅い時間ならば客の数も少なくなっているだろうと考えた。
でもゼロではなく、私の前に入る人がいて、出てくる人もいた。
案内カウンターには制服姿の女性がいて私は思い切って名前を言った。
「三瀬塩つぶらといいます。私宛に預け物はないでしょうか?」
本当の名前は三瀬塩つよしだけれどもスモモさんがつけてくれた名だ。
つぶらという名に女性は反応することなく白い封筒を取り出した。
封を切り、中を覗くと一枚の便箋とカードが入っていた。
『ブラジャーとパンティを購入しなさい。
支払いはカードを使い、済んだらメールすること』
たったこれだけ?
ちょっと拍子抜けした。
でも指示の内容が少なければ少ないほど自分で補わなければならない。
そこを試されているのかもしれない。
ともかく下着売り場を探すことにした。
1階フロアは中心部に量販品の服や靴やカバンなどのコーナーがあり
取り囲むように壁際に個性的なショップが並んでいる。
食料品を扱っていないためか一見して主婦と見える女性や
時間が遅いためお年寄りや子供の姿はほとんどない。
2人の世界に入り込んでいるアベック、
仕事帰りらしい地味目OL、露出気味の夜遊びギャルたち、
足早にこの階を通りすぎていく脂肪太りのオタクふう男性など
普通とちょっとずれた感じがする人の溜まり場のような感じもする。
下着売り場はフロア中ほどにあることはあったが
数人の女性客がいるうえに四方八方からの目が気になる見通しの良さで
では行ってきまーすと踏み込んでいける雰囲気ではなかった。
いややこれも試練なのだ。
と自分を奮い立たせようとしたとき、遥か前方に色鮮やかな一角が見えた。
近づいてみると淡いやら濃いやら極彩色のプラプラプラプラプラ
パンティパンティパンティパンティパンティパンティパンティが
目に眩しいほど所狭しと飾られている。
おまけにレースレースレースフリルフリルフリル。
こっこれはぁ〜……さっきの方がまだましだぁ。
が三軒隣りに有名下着メーカーを扱うお店があった。
やはり華やかな雰囲気はあるもののさすがに落ち着いている。
好都合なことに客はおらず、年配の女店員が1人いるだけだった。
私は意を決して歩を進めた。

▽ ▽ つづく ▽ ▽




アニト (4月20日(日)09時50分00秒)
桃原美希子さん、こん○○は。
今度は宮○○治できましたか。
美希子さんの《物語》と《エッチ》は尽きないですねぇ。
どういう《注文》がされるのか楽しみです。
ある本によると「恥ずかしさ」には4の要素があるようです。
逆説的に「恥ずかしくない」を考えてみたとき、
1・他人の目がなければ恥ずかしくない。
2・他人の目があっても行為が見つからなければ恥ずかしくない。
3・自分の人格や能力ではなく、気の迷いや事故のせいだと判断されれば・・。
4・人格のせいだと思われても、その人との関係性が薄ければ・・・。
ということは、大勢の人の前で、自分の女装が露見し、
それが自分の趣味や性癖のせいだと判断され、
その光景を自分の身近な人々に見られた場合が一番恥ずかしいとなります。
他人に迷惑をかけず法に触れない範囲で実行し、
《できないことは物語で発散》するのが良識ある女装娘さんの楽しみ方でしょう。
わたしの場合は今が最も野外デートにいい季節なので
いくつかのポイントでムフフな《注文》をしています。




桃原美希子 (5月20日(火)18時59分25秒)
■アニトさま■
恥ずかしさの4要素はとても勉強になりました。
ワタシの場合女装して人前に出るまでのことはしておりませんけれど
普段街を歩いていて「このお洋服欲しい」と思うことがあります。
でもとてもとても買う勇気がありません。
周囲にはたくさんの人、もしかしたら知人がその中にいるかも知れず、
仮に全然人がいなくても
店員さんに自分の趣味や性癖を見透かされるような気がして
その恥ずかしさに耐え切れないように思っちゃうのです。
なので物語で三瀬塩つぶらさんに体験してもらいます。
なんとか物語に活かせれられるようがんばってみます。
ちなみに名前は「見せショーツ・ブラ」なのでございますぅ。
それと、みさと奈緒美さまとのご挨拶のやりとりにドキドキしております。
ワタシもどなたかに向けられたご命令や課題を
自分に置き換えて実行してみたことがあるのですけれど
>しかしそれは自分への直接の課題ではありませんから
>実行してもどこか他人事のような
>なにか現実味に欠けたものだったかもしれません。
と感じたことがあります。
■みさと奈緒美さま■
みさと奈緒美さま、はじめまして。桃原美希子ともうします。
わーっ、ドキドキしちゃう物語の連続書き込みで
場面場面を想像しながら読み耽ってしまいました。
アニトさまと同じくワタシも「女装」と「物語」は似ていると感じてます。
言葉をつなげていけばいちおう物語らしくなりますし
女性の服を着ればいちおう女装らしくになります。
でも、できあがったもので本当に自分は満足できたのかと考えると
女装も物語もこれで良しと思えるような完成形はまだまだ先、
といいますか、はたしてあるんだろうか気さえしてしまうのです。
だからこそなんですけれど
わからないなりに試行錯誤しながら書いたり女装するのが
難しくもあり楽しくもありという感じで今日まできています。
一緒にがんばっていただける方がいるとワタシも勇気が出ますので
これからもよろしくお願いいたします。
−−− 注文の多い百貨店 2−−−
「下着を…か、買いたいんです」
売り場に1歩踏み込むなり私は言った。
ためらっていては心がくじける。
それにいつ他のお客さんが入ってくるかわからない。
年配の女店員は一瞬だけきょとんとした表情をしたけれど
すぐに笑顔を作ってくれた。
「どういった品をお探しでしょう?」
元々計画性があったわけではないからいきなり返答に窮してしまう。
「プレゼントでございましょうか?」
「え、ええ……」
「その方のサイズはお分かりになります?」
その方というのがあなたの目の前で頭の中が真っ白になりかけている私なのだ。
「……身長は…私くらいで…」
女性に下着をプレゼントしても喜ばれないという話を思い出した。
色やデザインの好みもさることながら
直接肌につけるものだけにサイズや身につけ心地は
その女性だけの感覚的なものだからというのだ。
もしかしたらこの女店員もそう思っているかもしれない。
とすれば下手な小細工をしてもお見通しなのではないか。
もう開き直っちゃうしかない。
「本当は…私用の下着が欲しいんです」
女店員はもう一段の笑みを浮かべた。
「そうですか。でしたらサイズを測らせていただき
ご予算とお好みでお揃えいたします」
男性が女性下着を店頭で購入する最大の難関は店員しだいだと思う。
店員がサービス業に徹した人ならば勧められるままにしていれば手に入る。
もっとも相手はこちらの予想金額以上の品を提示する場合が多いけれど。
上下セットで9800円はカードで支払いができた。
店を出てすぐさま私は携帯電話でメールを送信する。
『よろしい。次は洋服と靴を買いなさい』
返事はまたもあっさりしたものだった。
ただ単に洋服と靴を買う指示があるだけで具体的な指定はない。
どんな洋服を買ったらいいんだろう?
けど1つをクリアしたことで心は揚々としたものになっていた。
いつも着ている洋服は鮮やかな色使いや女性らしいシルエットのデザインが多い。
デートのときならばそれでもいいかと思うけど
今日は面接のようなものなのだ、女装マゾとしての。
思いきってメイド服を買おうか?
でもそれじゃあまりにも願望を前面に出しすぎ。
上品で控えめでセクシーで従属的で……
そうだ、ファッションのテーマを秘書にしよう。
すぐに採用となってご主人さまにお仕えできることになれば
制服のようないでたちこそふさわしいのではないか。
ご主人さまの後ろにいつも控えていて、
お声がかかれば、いえ、ほんの少しの動作だけで
ご主人さまのご要望を察知できるような優秀で忠実な秘書。
奴隷秘書という言葉が思い浮かび身体の中心がじんわり熱くなる。
壁際に沿って歩くと大きいサイズ専門のブティックがあった。
ここでも勇気を出して自分が着る洋服を探していると告げると
店員は快い返事で対応してくれた。
濃紺のショート丈ジャケットは3つボタンのタイトなシルエットで
深いスリットの入ったスカートと共に試着してみる。
店員が見立ててくれたそれらは不思議なほどにジャストサイズだった。
「きれいにお手入れされているのですね」
私の脚を見て店員が言う。
お世辞とはわかっているけど出掛けに脱毛クリームで
首から下のムダ毛をすべて処理しているので気分がいい。
スカートの丈は10分ほどで手直しができるというので
大胆に20センチ短くしてもらうことにした。
「よろしいのですか?」
「はい」
「お客さまに良いことがありますように」
店員は意味深に微笑んでそう言った。
スカートの直しができる間に靴屋に行き、パンプスを購入する。
ハイヒールの足首のストラップが太く枷のようにも見える靴だった。
今すぐにでも着替えたい気持ちを抑えてメールする。
ご主人さまは褒めてくださるだろうか?
「2階へ行きアクセサリーをそろえなさい」との御返事。
この場合のアクセサリーとは何をさすのだろう?
ご主人さまは私がどんな洋服を買ったのか知らないし、
私はご主人さまのご趣味を知らない。
普通にネックレスやイヤリングと考えていいのだろうか?
それとも一目で奴隷とわかってしまう装飾具だろうか?
これまでにもう5万円以上は使わせていただいている。
あまりに無分別に高価なものを買っては呆れられないだろうか。
買い物をするところからテストは始まっているのかもしれず、
すべては私に任されているむずかしい一次試験のような気がしてきた。

▽ ▽ エスカレーターで2階へとつづく ▽ ▽




アニト (5月21日(水)23時38分35秒)
桃原美希子さん、こん○○は。
わはははは、《見せショーツ・ブラ》でしたか。
名付けのおもしろさは美希子さんらしいですね。
そんなバカな!と驚いた女装露出の話を聞いたことがあります。
見せる人にとっては刺激的な行為でしょうが
見せられてしまった人はたまったものではないでしょう。
最近物騒な事件が各地で起こっていますから
へたをすれば不審者とみなされ通報される可能性さえあります。
美希子さんは良識がありバランス感覚に優れているため
無茶な行動はとりませんよね。
それでいいのです、その分、物語ではじけてください。




桃原美希子 (6月10日(火)17時11分20秒)
■アニトさま■
前回第2話のときアニトさまが物騒な事件が各地で起こっている
と書かれましたのは5月21日でございました。
そのあと同じマンションの住人による殺人事件が世間を震撼させ、
またまた恐ろしい事件が日曜日に秋葉原で起こってしまいました。
そりゃ生きれていれば嫌なことがあったり落ち込んだりします。
自暴自棄になるのは本人の勝手ですけれど
なんの関係もない人を巻き込むなんてしていいはずがありません。
もーほんとになにがどうしちゃったというんでしょう。
ワタシはお酒はあまり飲めない方ですしギャンブルはしませんので
考えてみますと、女装することで日頃の憂さを晴らしているのかもしれません。
女装しても人と会ったりする勇気はないので
物語を書くことで欲求を満たしているのかもしれません。
でもこのあたりがちょうどバランスが取れている状態のような気がします。
難しい事を考えたら頭がくらくらしてしまいました。
桃原美希子が活動できる場を与えてくださるアニトさまに
とてもとても感謝しております。
ちょっと早いですけれど空想デート10周年おめでとうございます。
10年前のワタシは何をしていたのかと振り返ると
本当に長い期間続けていらっしゃると感じ入るばかりでございます。
重ねてありがとうございます。
−−− 注文の多い百貨店 3−−−
ファッション小物を扱うお店が並ぶ2階には1階より多い女性客がいた。
両手に買い物袋を持ち、場違いさをひしひしと感じながら
パールの短いネックレスと赤い石がついたイヤリングを購入する。
2つあわせて3000円。
すぐさまメール。
御返事は「『リンゴ園』という店に入り名前を告げなさい」
いったい何回こうしたやりとりをすればいいのだろう?
ん?そういえば『フルーツ畑』にもリンゴさんという人がいるけど……
2階の奥まった場所にあったそのお店は
ガラス張りと自動扉で通路フロアと区切られ、
静かで落ち着いた雰囲気をかもし出していた。
どうやら他店と違い高級な化粧品を扱う専門店のようだ。
気後れを感じつつ1歩踏み込むと花の香りに満ちていた。
「いらっしゃいませ」
真っ白な制服を着た3人の女性の声がハモる。
「あの〜、三瀬塩つぶらといいます…」
小さな受付カウンタに1人がやってきてファイルを開く。
「三瀬塩つぶらさまでございますね。
はい、ご予約承っております。どうぞこちらへ」
え、予約? ああきっとご主人さまが……
っていうか何の予約?
不思議に思いながらも案内に従う。
受付カウンタの横に商品棚やテーブルがあり、
どうやらメイクもしてくれるようだ。
反対側はネイルコーナーで女性客が1人爪に加工している最中。
「お掛けになってお待ちくださいませ。お荷物をお預かりいたします」
勧められた椅子は外からは見えない店の奥にあり、
美容院のそれのような機能性と座り心地の良さを兼ねていた。
天井からカーテンが吊ってあり、閉めれば個室にもなるようだ。
先ほどの3人とは別の女性がテーブルワゴンを押してやってきた。
「それではこちらにお着替えください」
美しく折りたたんだ白い服を渡される。
てっきり化粧品を買うのだと思っていたけど違うようだ。
「あのう…私は何をされるんですか?」
女性は微笑みながら首をかしげた。
「ご予約では、女性に変身されたい…と」
え? ここで変身? ってどこまでの変身?
ここでメイクをしてもらい、服は男のままのアンバランスな恰好で
次の指定場所に行かなくちゃならなくなるの?
着替えもさせてもらえるだろうか。
だけどもウイッグは持ってきてないし買ってないし。
いろんな事がごちゃごちゃと頭に浮かんで不安が増していく。
でもこれがご主人さまの指定ならば逆らうことはできない。
「そ、そうでした。お願いします」
「かしこまりました。お着替えが終わりましたらお呼びください」
「この下には何を?」
私の問いに一瞬だけきょとんとした顔をして
次の瞬間女性は腰に両手をやり
「他は全部」と脱ぐ仕草をしてカーテンを閉めた。
うっそぉー!パンツ一枚!!
しかも店の奥まったところにあるとはいえ
カーテンを隔てて女性ばかりの店員とお客の店中で
着替えをすることになるなんて。
とはいえここまで来て帰るわけにはいかない。
白い服を広げるとそれは病院で着る術着に似ていた。
今日はパンティこそ穿いてこなかったものの
私はいつも薄手のビキニパンツを愛用している。
トランクスやボクサーパンツはセクシーじゃないから。
大急ぎで服を脱いで術着に着替えて椅子に座ると
なんだか裾が短いワンピースを着ているような気がした。
「あの〜」
「ご準備よろしいですか」
まるで初めからそこにいたかのように間髪いれずの返事。
カーテンを分けて女性が2人入ってきてからはなすがままの状態だった。
私の顔や髪や指や足を丹念に見て触り、用紙に何か書き込み、
出て行き、別の人に入れ替わり、確認して、出て行き、
また違う人が色見本のシートを顔に近づけ、
次に入ってきた人が数種のウイッグを試し乗せ、
椅子が背後に倒れて洗髪され、フェイスパックで顔を覆われたかと思うと
移動式のネイルカウンタが来て爪を磨きだすといっためまぐるしさ。
そしてメイクが始まったのだけれど
鏡がないものだから自分がどうなっているのかさえわからない。
だけどそこはプロ集団。
手際の良さに感心している間にウイッグを被せられ仕上がったようだ。
「お待たせいたしました。
あとはお着替えをされてから全体のチェックをさせていただきます」
そう言って私が買った品々を目の前のテーブルに並べる。
スーツ、靴、下着、アクセサリー、それにヌーブラのような擬似バスト。
「お手伝いは必要でございましようか?」
ま、まさか!
「いえいえ自分でしますから」
最後に残った女性が含み笑いをしながらカーテンを閉めた。
ひいぃい〜、いったい私はどうなっているんだろう?
とりあえずメイクをしただけで男の服という不恰好はしなくてすむようだけど
ここで着替えが済んだら当然店を出なければならない。
フル女装で大勢の人がいる店内を歩かなければならない。
どう見られるのだろうか?
本当に女性のようになっているのだろうか?
だけど今さら戻れない。
意を決して立ち上がり術着を脱ぐと肩に触れるものを感じた。
ストレートのウイッグがさらりと揺れる。
見えないけれど顔に塗られた化粧品の香りとちょっと引きつるような感覚が
ほんのり気分を高揚させてくれる。
真っ赤なネイルは足の指にも光っていた。
感心している場合ではなく急いでピキニパンツを脱いで
黒地に真っ赤なバラをあしらったパンティに穿きかえる。
布面積的には同じくらいなのにやっぱり穿く心地はぜんぜん違う。
続いて膝上15センチに直してもらったスカートに足を通して
ハイヒールのパンプスを履く。
ここまでは上半身裸でも特別な意識はなかったのだけれど
擬似バストを胸に貼り付けると恥ずかしさがこみ上げてきた。
ヌーブラなら使ったことがある。
けれどこれは既製品よりはるかに膨らみがあり、乳首までついていた。
こんなにリアルなものが世の中にはあるわけ?
パンティとお揃いの黒地に真っ赤なバラが咲くブラジャーをして
さらに恥ずかしさが増幅する。
男なのにブラジャーをするという倒錯的な羞恥と
ブラジャー姿を晒している露出の羞恥。
急いで秘書をイメージした濃紺のショート丈ジャケットを着て
イヤリングとネックレスをつけて完成。
………本当に完成?
「いちおう着替え終わりました」
「失礼します」
カーテンが開いてそこには横一列に並んだ5人の女性が立っていた。
絡みつくような視線の後、お互いに顔を見合わせうなづいたり首をかしげたり。
「それでは仕上げをさせていただきます」
そう言うとそれぞれの担当箇所を点検し始める。
「歩いてみてくださいますか」
1歩2歩…3歩4歩5歩。
ハイヒールは好きだけど緊張のせいかよろよろとしてしまう。
「姿勢を正して、腰で歩くようにしてください」
…6歩7歩8歩9歩10歩。
「はい、ターンして戻って」
カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツッ。
私のものではないバッグを腕にかけられまた歩く。
カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツッ。
だんだんと慣れてきた。
「お上手ですね。ではこちらに鏡がありますからどうぞ」
案内された先に見たこともない私がいた。
自分でもお化粧をするし華やかな服を着ることもある。
でもプロの技術にはそれとは違う細やかさと艶やかさがあった。
思わず「きれい」と言ってしまいそうなほど女性みたい。
着替えたら百貨店内を女装して歩かねばならないという不安は
早く歩いてみたいという期待に変わっていた。
どんなふうに見られるのだろう?
ここでも支払いはカードででき、
メイクや着付けの他にウイッグやバッグも私のものになった。
「ありがとうございました」
白いワンピースの制服を着た5人の女性の声に見送られて『りんご園』を出る。
目の前をOLらしい女性2人組が通り過ぎた。
おしゃべりに夢中で私に気づかないのか何の反応もない。
反対側から今度は女性が1人向かってくる。
じろりと一瞥したような気もするししなかったような気も。
声をかけて感想を聞きたい気がする。
どう、私って?
続いてやってきた若い男性。
み・見てる見てる、今度ははっきりと私を……の足元を見てる?
きゃっ、ミニスカートだけに注目しているんだわ。
恥ずかしいやら嬉しいやら。
もしかしたら女性としてこの景色の中に溶け込んでいるのかしら。
ふと振り向くとガラス張りの『りんご園』の店内から
5人の店員がこちらを見て
1人は笑顔でうなづき、もう1人は小さくガッツポーズをし、
その隣りはOKサインを出し、そのまた隣りは手で押すようなしぐさをし、
最後の1人は「胸を張って」と言わんばかりに巨乳を突き出していた。
そう、胸を張って歩かなきゃ。
あっ、その前にご主人さまに連絡を。

▽ ▽ つづく ▽ ▽




アニト (6月11日(水)00時27分47秒)
桃原美希子さん、こん○○は。
他人の物語を考えられない人が事件を起こすのでしょう。
いや自分のこれからの物語さえ空想できないのかもしれません。
《難しい事を考え》るのはこれくらいにして。
『空想デート』の10年間、幾度か危機はありながら
なんとか続けてこられたのは
美希子さんをはじめ多くの人に書き込みをいただいたからこそです。
不思議と止めようと思ったことはないのです。
なぜかって?
こんなにもおもしろい物語が読めるからです。


注文の多い百貨店 4へ

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