はじめから読む

柏木彩 (12月30日(月)03時06分10秒)
こんばんは,柏木彩です。
好評いただいたので,今できてるところの最後まで,送ります。
ごらんの上,できれば感想を聞かせてください。
それによって,内容を再検討します。
なお,この文章は,私の妄想を冗談のオブラートで包んだもので,
実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
=5=
「うわあっ!」
僕は、危うく椅子から転げ落ちそうになりながら目を覚ました。
テレビをつけっぱなしにして眠ってしまったらしい。
「夢? なんて夢なんだ、いったい。」
女王様のバナナの感触と甘い蜜の香りが口の中に残っている。
いったい、今日は朝からどうしちゃったんだろう。
親父はまだ帰ってきていないらしい。
テレビは、見たことのない、深夜番組を放映している。
眠ってしまったら、また、あの夢の続きを見ることになりそうで、
僕は、コーヒーをいれ、昼間買ってきたSFマガジンの続きを読むことにした。
{Sodomi&Fellatioマガジン}
えっ?
よく見るとちゃんとSFマガジンだ。
今日は、頭がどうかしている。
もう眠りたくなくて、僕は、最初のページから順番に読んでいくことにした。
久々のSFは、真剣に読むとやっぱり面白い。
僕は、だんだん、物語に引き込まれていった。
次の短編は、日本人作家のものだ。
「ヴィーナスフォート」
どうやら、お台場を舞台にしたSFみたい。
『ヴィーナスフォートに寄せて
東京都 金子弘
SFマガジン1月号を読んで、久々に、心躍る作品を読むことができたので、
例によって読後感を書いておきたい。
まず、最初の1作は、なんといっても「ヴィーナスフォート」である。
舞台は近未来、お台場の一角、女性のためのテーマパークとして開発され、
拡張を続けた空間、ヴィーナスフォートだ。
コンピューターにすべてを管理された、小規模な電脳空間がそこにできあがっていた。
自己の管理する空間の維持・管理、防犯その他安全対策を任されたコンピューターは、
ヴィーナスフォートの発展と共にその役割を周辺地域の治安維持にまで拡張し、
ついには、人間の存在こそが、防犯、治安対策上の最大の問題であることを悟る。
ここまではよくある設定だ。
ところが、この物語でコンピューターが選んだ解決策が秀逸である。
もともと、女性のためのテーマパークとして誕生したものの、
機能の拡張に伴い男性客の出入りも増加し、それに伴い、
女性のためのテーマパークという当初のコンセプトは既に過去のものとなっていた。
空間の拡大に伴い、必然的に増加する犯罪、騒動の原因を、
コンピューターは、新たに客として登場した、男性に求めたのだった。
人間の精神の中の男性的部分、それが、暴力、破壊、混乱をもたらすというのだ。
すなわち、完全なる人格であるべきはずの人間の、精神の一部の欠落であると
コンピューターは判断したのだ。
全ての人間に女性性を補うことで、男性的部分、
すなわちコンピューターの考えるところの欠落部分を補うことができるというわけだ。
欠けた心の補完、人類補完計画の始まりである。
コンピューターは、ヴィーナスフォートの一角に設けられたバーチャルマシンから、
改革に踏み出す。
バーチャルマシンを体験する人々は、ひと時の間、
コンピューターが作り上げた、仮想世界の中で、
現実では体験できない冒険を楽しむことができる。
マシンに入っている間は、現実との区別がまったくつかない、
精巧なバーチャル世界の中で、コンピューターは、人間の改造を試みた。
本来なら、客は、自分でストーリーを選択し、一定の舞台設定の中で、
現実のルールには縛られない、自由な冒険を楽しむことができる。
ところが、改革を決意したコンピューターは、
全ての物語を、最終的に1つの結末へと導いてしまう。
すなわち、男性性の破壊、全ての人間の女性化へと。
男は、20代のうだつの上がらないサラリーマンだった。
現実では果たせない夢を求めて、バーチャルマシンに入る。
男が選んだ物語は、西部劇の世界。
男は、自分のキャラクターを、フェロモン放出しまくりのマッチョに設定し、
得意の早撃ちで悪漢どもをなぎ倒そうとするのだ。
ところが、その日の展開は違った。
男は敵の罠にはまり、囚われの身となってしまう。
もちろん、最初は、隙を見て逃げ出し、
最後にはヒーローの活躍でジエンドとなるはずだった。
しかし、物語は男の予定していたようには進まなかった。
誰に雇われてやってきたのか、頑として口を割らない男に、悪漢どもは拷問を始める。
鞭でしばき、水をぶっかける。
それでも口を割らない男を、悪漢たちは、天井からつるし、衣服を切り裂いた。
そうして裸に向かれた男は・・・・輝くばかりの肉体を持った、美貌の女だったのだ。
いつの間にか男の顔や髪型まで変わってしまっている。
悪漢どもは、天井からつるされた男に群がり、その肉体をむさぼる。
本来なら、男がそれを快感に思うはずがなかった。
ところが、男の全感覚を支配しているコンピューターは、
それを快感と感じるよう、男の脳神経に指令していた。
ありえない展開に戸惑いながらも、次第に快感におぼれていく男。
それでも心の片隅で抵抗を続ける男としての意識を、
女としての快感が激しく攻め立てる。
そうして、とうとう、男は、最後の一線をうちくだかれ、
女としての自己を受け入れ、激しい快楽に身を委ねるのである。
マシンを出た男は、これまで経験したことのない快感をわすれることができない。
マシンによる刺激を繰り返せば、次第に、脳の快感構造自体が変化し、
現実世界でも、同じ刺激を快感として受け入れるようになるのだ。
こうして、1人、また1人と、人間の女性化が進行していく。
東京都内の一角から始まる、人類大改造計画。
既存の世界が少しずつ、だが、確実に改変されていく、
SFの本来の醍醐味を久々に堪能できたように思う。
最後に、一人の若者が、コンピューターの陰謀に気づくところで物語は終わる。
このあたり、続編を予定しているかのようで、作者のあざとさを感じる。
しかしながら、私は、作者の術中にはまっていることを自覚しつつも、
若者の活躍する続編の登場を待ち望んでしまうのである。
是非ともシリーズ化を期待したい一作である。』 
なんだったんだろう。
夢中で読み終えたものの、気がついたら、これは、男性の女性化、
まるでさっきからの夢みたいじゃないか。
ついつい物語りに引き込まれてしまったが、
さっきの夢が思い出され、物語の中の男が、まるで僕自身のことのように感じる。
『次にあげるべき1作は、「ERI」である。
 ニューハーフの高級娼婦ERIの周囲でうごめく陰謀・・・・・」
眠ってしまうことが怖かった僕は、とうとう、朝まで雑誌を読みふけってしまった。
・・・・・

=6=
・・・・・・・・・
僕は,眠い目をこすりながら,学校へと向かった。
思わず,SFマガジンを読みふけって夜を明かしてしまった。
夢が怖くて,眠りたくなかったということもあるけれど,
物語に引き込まれてしまっていた。
「ヴィーナスフォート」に「恵理子」,なんで,こんな作品が,いくつも・・・
徹夜明けの寝ぼけた頭に,古文の授業はつらい。
ありおりはべりいまそかり・・・・・ZZZZZ
「アリスや,おいしいかい?」
頭の上から女王様の声が聞こえる。
僕は,跪いたまま女王様のバナナの先端を咥えていた。
「さあ,お立ち。こちらへおいで,アリス。」
女王様は,立ち上がった僕を後ろから抱きすくめた。
硬いものが,スカートを穿いた僕のお尻に押し当てられる。
「下のお口のほうは,どうじゃ?」
女王様は,僕の,太ももに指を這わせながら,少しずつ,スカートを持ち上げようとした。
お尻には,硬いバナナが押し当てられている。
「アアン」
思わず声が漏れる。
「おやおや,可愛い泣き声じゃ。もっと泣くがいい,アリス。」
女王様は,僕の反応にますます機嫌よさげな声で,じっくりと内股を撫で回した。
アアン,ダメ,女王様の手から逃げなきゃ。このままじゃ・・・

「柏木,今のところは試験に出すから,誰かに教えてもらっておけよ。」
クラスの笑い声に授業の終わりを告げるチャイムが重なった。
「お前,朝までSFマガジン読んでたんだろう?」
「ち,ちがうよ。」
恵理子の姿が脳裏に浮かび,僕は,慌てて首を振った。
「何、照れてるんだよ。」
「そんなことないって。」
見透かしたような弘の言葉に、僕はますます慌てた。
「お前だって昔は徹夜でSF読んでたろう。もう、SF読むなんて、恥ずかしいってか?」
そういうことか。
僕は安堵しながら
「そんなことないって。」
と答えた。
「それよりどう、最近? 何か、面白いのある?」
僕が話を変えると、弘は、わが意を得たとばかりに答えた。
「昨日、いいもの手に入れたんだけど、来るか?」
「いいね、いくいく。」
相変わらず弘の部屋は、趣味に満ち溢れている。
こちらの棚にはSFマガジン、あちらの棚には、美少女物、といった具合。
「これなんだ。」
薄っぺらな小冊子。
「ロリータもの?。」
表紙を見て僕はちょっとビビる。
『アリスの部屋』
ありきたりなタイトルだけど、今の僕には、刺激が強い。
何食わぬ顔をしてべーじをくる。
鏡の前にいるのは、ウサギだ。
傍らには、背中まで届く柔らかくカールした髪の毛に、フワフワした白いドレス、
膝上まで届くソックスをはいた女の子。
『・・・アリス、可愛いドレスだね。
こっちへおいで、背中のリボンを直してあげる。・・・』
『・・・アリス、髪の毛をとかしてあげるよ。膝の上にお座り。・・・
・・・ウフフ、ウサギさんのおひげがくすぐったい。・・・』
『・・・アリスのあんよはスベスベだね。・・・
・・・ウサギさんのお手てはやわらかい・・・』
『・・・ウサギさん、どうしたの。そんなに怖い顔をして。・・・
・・・いやだ、そんな目で見ないで。こわい。・・・』
『・・・あなたは、悪いウサギさんだったの?・・・』
最後の場面だけは、少女は下着姿だ。
露骨な場面はどこにもないけど、それが逆に、想像力を刺激する。
でも、この場面って?
「いいだろう?」
弘は、僕がすっかりはまってると勘違いしている。
「悪くはないよね。」
「そんな程度じゃないだろ。お前、ジーっと見入ってたじゃん。
よかったら、これ今日貸してやるよ。」
「そんなことないよ。いらないよ。」
「いいからいいから、照れなくても。
俺はお前がこっちの世界に帰ってきてくれれば、それが一番うれしいんだから。」
「こっちの世界って、俺、ロリコン趣味なんか、前からなかっただろう。」
「いいって、分かってるって。俺はお前に読んでもらいたいの。」
強引にかばんの中に押し込められてしまった。

=7=
父は今日も帰らない。
僕は、いつものように一人で夕食をとった。
ぼんやりとテレビを眺めながら、SFマガジンの続きでも読もうかな。
そう思って、雑誌に手を伸ばす。
{Sissy&Feminizationマガジン}
「ん?」
まただ。
いつも見妙な文字が見える。
もういい、今日は読むのをやめておこう。
僕は、弘がかばんに押し込んだ、あの本がこころに引っかかっていた。
あの場面って、前に・・・
僕はかばんから本を引っ張り出した。
『アリスの部屋   − 育ち盛りの女の子たち』
妙なサブタイトルがついてるな?
よく見ると、鏡の隅っこに、ハサミを持った兵隊が映っている。
やっぱり、夢の中のお城?
でも。
あれ?
さっきとなんか違うみたい。
ウサギの手が、アリスのスカートの中に入りかかっている。
それに、アリスの顔が・・・
これ・・・僕?
はっきりしない。
でも似てる気がする。
それに、アリスのスカートの前が、不自然に膨らんでる。
僕を撮ったの?
でも、あれは夢の中のことで、この写真はいったい・・・

=8=
・・・・・・
突然、トランペットが鳴り響いた。
「王子様のご到着です。」
大臣が重々しく告げる。
女王様は、ちょっぴり残念そうにしながら、僕に、席に戻るよう言った。
マントを翻した3人の王子が入ってくる。
大臣たちはあわただしく立ち上がり、王子たちにお辞儀をすると席を譲った。
僕の目の前に、3人の王子が腰掛けた。
1番目の王子はスラリと背が高く、眼光鋭く、冴え渡る剣のよう。
2番目の王子は背は低いけれども、がっしりしていて、ごつごつした岩のよう。
3番目の王子は一番きらびやかだけれども、冷酷そう。
薄い唇とチロチロ覗く長い舌がとてもいやらしい感じ。
「ようこそアリス、以後お見知りおきを。」
「ようこそアリス、以後お見知りおきを。」
「ようこそアリス、以後お見知りおきを。」
3人はいっせいに僕に挨拶した。
「こちらこそ・・・」
僕は、ゴニョゴニョと小さい声で返事をした。
すぐに新しいお茶とケーキが運ばれてきた。
王子たちは、かわるがわる僕に話しかけた。
「アリス」のことを聞かれてもなんと答えていいのか分からない僕は、
あいまいにごまかしながら相槌をうっていた。
「王子たちや、どうじゃ。」
突然、簾の向こうから声が響いた。
3人は、いっせいに立ち上がると
「まことに結構です。」
「まことに結構です。」
「まことに結構です。」
いっせいに返事をした。
「アリスや、わらわの自慢の王子たちはどうじゃ?」
「は、はい・・・その・・・とっても、ご立派で・・・素敵な王子様だと・・・」
しどろもどろになって返事をする。
「そうか、そうか。それでは、お前たち、アリスを妃とすることに依存はないな?」
「もちろんです。」
「もちろんです。」
「もちろんです。」
「アリスも、よいな?」
「え・・・・・?」
後ろからウサギが、僕のスカートを引っ張る。
「はいって言うんだ、アリス。」
ひそひそ声に、意味ありげな視線の先にいるのは・・・・・
親衛隊長がハサミをジャキジャキ言わせている。
「は、はい。」
僕は慌ててそう答えた。
「そうか、そうか。それはよかった。みなのものご苦労であった。
今日のお茶会は大成功じゃ。早速結婚式の支度に取り掛かるように。
アリスは、部屋を用意しているゆえ、そちらでな。」
それだけ言うと、女王様が退席したのが気配で分かった。
3人の王子たちもつづいて退場していった。
「どういうことなの?」
声をひそめてウサギにたずねた。
「どうって、今目の前であったとおりさ。君は王子様たちのお妃になるんだよ、アリス。」
「そんな、いきなり言われても。無理に決まってるじゃない。」
「大丈夫だよ、アリス。何も心配はいらないよ。」
ウサギの視線が一瞬、僕の下半身に向けられた。
大丈夫って言われたって。
「第一、誰のお妃になるの?」
「王子様たちだよ。今見ただろう。」
「だから誰の?」
「アリス、お部屋のご用意ができました。こちらへおいで。」
いきなり後ろから声をかけられた。
「さあ、アリス、もう行かなきゃならないよ。私はここでお別れだ。」
「そんな!」
「心細そうな顔をしないで。私はいつでも君のそばにいるよ。
ただ、ここから先は、一緒にくっついていくわけには行かないんだ。
ひとつだけ忠告しておくよ。女王様と王子様たちの言うことには絶対逆らわないこと。
それさえ守れば、君は大丈夫。あと、できるだけ女の子らしく、ね。
君のことは、私はすべて知っているよ。君以上に。
その私が言うんだから大丈夫、心配しないで。
さあ、早く行きなさい。」
「ちょっと、待ってよ。」
傍らで待っている侍女のほうに押し出されそうになるのに必死に抵抗しながら言った。
「今言ったろう、アリス。
女王様が用意した部屋で待つように言っておられたのだから、
それに逆らってはいけないんだ。君も花火になりたいのかい、アリス?」
僕は激しく、首を振った。
「女王様たちの言うことに逆らわなければそれでいい。
でも、どうしても心配なら、これを渡しておこう。
どこからでもいい、電話のあるところからこの番号にかけておくれ。
どこからでもいいからね。
『アリス』と名乗って、私を呼んでくれればいいから。
君に何かあったら、すぐに駆けつけるよ。
いつでも君のそばにいるから、アリス。」
ウサギは名刺を手渡すと、僕を侍女に引渡し、自分は別の方向へと去っていった。
ウサギにもらった名刺がたった1つの頼りの品のように思って、
僕は、しっかりとポケットにおさめた。
「こちらです。女王様のご命令です、
何か足りないものがあったらすぐに持ってきますから、そのベルをならして呼ぶように。
私や他の侍女が控えていますからね。よろしいですね、アリス。」
「はい。」
こじんまりとした部屋だった。
とても大きく寝心地のよさそうなベッドは、
ふわふわの羽根布団や、一面のレースにいろどられている。
クッションのやわらかそうなソファ。
物書き机。
部屋の隅には鏡台があり、一方の壁には一面の巨大な鏡が据え付けられている。
「女王様からの贈り物です。」
若い侍女が大きなお盆を抱えてやってきた。
お盆の上には・・・かごいっぱいに盛られた、バナナだ。
「心ゆくまで召し上がるようにとの仰せです。」
侍女はお盆をテーブルの上に載せたまま、動こうとしない。
「どうもありがとう。そこに置いておいてもらえばいいですよ。」
「はい。」
そう言ってドアに向かおうとしたものの、侍女は、まだグズグズしている。
「どうしたの?」
「あの、召し上がるときは、蜜を塗ったほうがよろしいですよ。
持ってまいりましょうか。」
「いいえ、今はいりません。」
「まあ、やっぱり、アリス様は、上のお口で召し上がるんですか?
だから、蜜はいらないんですか?」
年若い侍女は、顔を上気させ興奮した声で叫んだ。
「とにかく、今はいりませんから。」
僕は、自分でもほほが赤らむのを感じながら、
一人で妄想を膨らませている侍女を部屋の外に追い出した。
「アリス、ウエディングドレスのサイズを合わせますよ。」
年嵩の侍女が大勢引き連れて入ってきた。
僕は、あっという間にスリップ1枚の姿にされ、
すぐに今度はウエディングドレスを着させられた。
純白の、レースをたっぷり使った裾の長いドレス。
あ、綺麗。
鏡に映った姿を見て、思わずそうつぶやいていた。
「ピッタリのようですね。
どうやら、手直しをするのは胸のところだけですみそうですね。」
「あの、結婚式っていつやるんですか?」
「明日のお昼です。祝宴の後、すぐにお床入りの儀があって、
それで晴れてあなたはお妃様になるのですよ、アリス。」
「お床入りの儀って?」
「皆様の前で、ア、アレをお食べになったアリスならお分かりでしょう。
結婚した男女が、毎晩行っていることですよ。」
その前に何とかしなきゃ。
「結婚式までは自由にしていていいんですか?」
「とんでもない。」
何を馬鹿なことを言っているのか、といわんばかりの口ぶりだ。
「あなたはお妃になるのですよ。神に選ばれた聖なる方々に加わるのです。
まず、今夜のお食事では体内を清める食物を召し上がっていただき、
それからバスで、侍女たちに体の手入れをさせるのです。
全身に香油を塗りこんで、その夜は、純白の衣服をまとって、祭壇にこもり、
朝になったら結婚式での作法を私が教えますから・・・・・・・・」
ほうっておいたらいつまで続くか分からない。
「分かりました。それじゃ、お食事の時間までは自由にしていていいんですか?」
「いいえ、アリス、お妃になる前に、
お教えしえおかなければならないことが山ほどあるのです。」
「でも、僕も1人になって考えたいことが」
「まず、その言葉遣いから直していただかなければ、アリス。
お妃になろうという方が、僕とはなんですか。」
「はい。でも、あたしもちょっと1人になりたいのです。」
「1人にですか。仕方ありません。
それでは、ウエディングドレスの直しが終わったら、お食事の時間まではお一人でどうぞ。
その後は、もう自由になる時間はありませんからね。」
侍女は、テーブルの上のバナナにチラッと視線をおくり、
「女王様の贈り物では、しかたありませんね。」
とほんのりほほを赤らめながら小声でつぶやいた。
この人もあらぬ誤解をしているみたいだけど、1人になれるのならそれでもいいや。
「それから電話のあるところを教えて欲しいんですけど。」
「電話、電話などお城にはありませんよ。」
なんで、電話がなければ助けを呼べないじゃない。
ウサギだけが頼りだったのに。
「お城にあるのは、大臣の部屋と、森のはずれに1つずつだけです。
それに、お城の外には、電話を持っているものも何人かはいるでしょうね。」
「それじゃ、大臣の部屋に連れて行ってください。」
「それはできませんよ。たとえお妃になるという人でも、
みだりに大臣のお部屋にお連れするわけには行きません。」
「それでは森のほうに。」
「いけません、アリス。森にはジャバウオックという恐ろしい怪物が住んでいるのです。」
「それじゃ、お城の外の電話でいいですから。」
「いけません。」
「場所だけ教えてくれれば一人で行きます。」
「いけません。あなたはもう、お妃になられるんですよ。
侍女を連れずに一人で歩くなどとんでもないことです。
この部屋からは一歩も出ないでください。」
「そんな。」
「誰かに伝えることがあるのなら、侍女に申し付けてくだされば、よろしいのです。」
「自分で電話がしたいんです。」
「それはできません。
それからお部屋の外にはお一人では決して出られないように。
それでは、ごきげんよう。お食事の時間になったら、またうかがいます。」
そういって、侍女たちはぞろぞろ出て行った。

=9=
どうしたらいいかウサギに教えてもらいたかったのに。
お食事の時間までに逃げ出ししちゃおうかな。
でも、どこをどういけばいいか分からないし・・・
とにかく外の様子を見てみようと思って、僕は、部屋のドアをそっと開けた。
「キャア。」
ドアのすぐ外には、さっきの若い侍女が立っていた。
「どうしてこんなところにいるの?」
「もうしわけありません、アリス様。お呼びになるのではないかと思って。」
「でも、こんなドアのすぐそばに立っている必要はないでしょう?」
「呼ばれたときに気づかないといけないと思いましたので。
いいえ、決して覗いていたわけではありません。」
侍女はまたほほを赤らめている。
「こんなところにいられると気になるから、下がっていてくれない?」
「そんなわけにはいきません、
お声が聞こえないところにいたのでは、御用がつとまりませんから。」
「あなた以外の侍女も近くにいるの?」
「もちろんです。
左右の部屋に3人ずつの侍女が控えてアリス様のお声がかかるのを待っているんです。」
「その人たち、どこか違うところに行ってもらえない?」
「そうおっしゃられても・・・」
「大勢の人が、あたしの部屋の中の物音に聞き耳を立てていると思うと落ち着かなくって。」
侍女は、何か勘違いしているようで、ますます顔を赤らめた。
「そ、そうですね。思わず声が出てしまうこともありますものね。
音がすることもあるし。そんな音を聞かれたら、あたしだったら恥ずかしくて・・・・」
なにやらゴニョゴニョと言っている。
「ね、お願い。」
「ですけれど、お声の聞こえるところに誰もいないというわけには。」
「それなら、あなたがいてくれればいいじゃない。
あなた1人だけにして、他の人はもっと離れたところに行ってもらえないかしら。」
侍女は一瞬心のそこからうれしそうな顔をした。
「そ、それならようございます。
私がおそばに控えていれば、何なりと御用をおつとめすることできます。」
「それじゃ、お願い、ね。」
「はい、かしこまりました。」
僕のウインクに、ひどく妄想を募らせたようすの侍女は、左右の部屋へ向かい、
控えていたほかの侍女たちを下がらせてくれた。
「これでようございますか。」
「ありがとう。あなたはとっても頼りになるわ。
それから、もうひとつお願いがあるんだけど。」
「なんでしょう、アリス様。」
「やっぱり、蜜が欲しいの。あなた持ってきてくれない。」
「は、はい、今すぐに。」
侍女は、期待に満ちた顔を真っ赤に上気させ、喜び勇んだ様子で去っていった。
首筋やふくらはぎまで、ピンク色に染まっている。
部屋を抜け出すなら今しかなかった。
僕は、そっと部屋を出た。
あたりはシーンとしており、
遠くのほうで、兵隊の歩くガチャガチャいう音が聞こえていた。
出口はどっちなんだろう?
窓がないから、どっちがどっちか分からない。
とにかく、明るいほう、いいえ暗くて隠れやすいほう、人の気配がしないほう、
いいえ人が大勢出入りしていそうなほう。
僕はアリスなんだからもし見つかったって連れ戻されるだけで
首をはねられるようなことはない。
僕は闇雲にさ迷い歩いた。
「アリス、ですね。」
突然背後から声をかけられ、僕は、びっくりして飛び上がってしまった。
恐る恐る振り返ると、燕尾服を着た紳士だ。さっきのお茶会で見たかも。
「ああ、アリス。あなたはとても美しい。
なんとかあなたとお話をと思っていましたが、
そんな暇もないまま、王子様たちのものとなってしまわれました。
お妃になられる方なのだから、私などにはもともと手の届かないお方だったのだと、
自分に言い聞かせていたのですが。
こんなところでお会いできるとは夢のようです。いいえ、夢に違いない。
お妃になろうというお方が、
お連れもなくお一人でお歩きになるはずがないではありませんか。
これは私の夢なのだ。おお、神よ感謝します。
私に、美しいアリスの夢を見させていただけるとは。
うつつには叶わぬ望みも夢の中でなら。
アリス、お茶会でのあなたの姿が目に焼きついて離れませんでした。
どうかアリス、私のバナナも、食べてみてください。
さあ、その可愛いお口で、早く、アリス。」
男はじりじりと僕ににじり寄ってくる。
目がいってしまっている。
「落ち着いてください。ここはお城の廊下ですよ。夢なんかじゃないんだから。」
「夢でなかったらなんなのだ。
あのアリスがこんなところを歩いているわけがないじゃないか。
そんなことを言うのは、お前はアリスではなくて悪魔か?
アリスの姿に身を変じて私をたぶらかそうというのか。
ああ、それでもかまわない。
悪魔よ、そのアリスの唇で私のバナナを。さあ、さあ。」
壁際に追い詰められ、男の手がゆっくりと僕の顔に近づいてくる。
1メートル、50cm、30cm、10cm、5cm
僕は顔を背けてぎゅっと目を閉じた。
シュラン
金属的な音がしたかと思うと、ボト、重たいものが落ちる音が続いた。
恐る恐る目を開けると、男の手は僕の頬に今にも触れそうな位置でとまっていた。
そして、さっきまで目の前にあったはずの、男の顔が、ない。
身をすくめている僕の目の前で、男の体は、ゆっくりと崩れ落ちた。
「ご無事でしたか、アリス。」
男の後ろには、剣を構えた軽装の騎士がいた。
刃の先端には、まだ血が滴っている。
「現実と夢の区別のつかぬおろかもの、刀のさびにしてやるのがちょうどよいのです。」
僕は、目の前で起こっていることが信じられず、固まったままだった。
「どうされたのですか、アリス? 様子が変ですよ。
そういえばおつきの侍女はどうしたのですか?
あなたが侍女もつけずに出歩かれるはずがない。どうされたのです?」
「侍女は・・・」
「侍女は? あなたを一人にさせておくはずがないではないですか。
さては・・・・お前は、アリスではないな。」
今にも切りかかってきそうな勢いに、僕は、震え上がりながら答えた。
「いいえ、アリスです。」
「そんなはずがない。
アリスが今頃こんなところに、しかも一人でいるはずがない。
大方、アリスと摩り替わってお妃の位におさまろうという魂胆だろう。
拙者の目を節穴と思うか。
お前ごときがお妃など片腹痛い。拙者の妾にでもしてやろう。
さあ、口を開くがよい、スカートをめくって、尻をふるがよい。」
騎士の顔が、いつの間にか先ほどの紳士の顔になっている。
このままじゃ殺される。
僕は、じりじりと後ずさりし、騎士の隙をついて一目散に逃げ出した。
「待てー!」
騎士が大声を上げながら追いかけてくる。
助けて、誰か。
誰か人のいるほうへ、いるほうへ。
ところが、今は、誰もいない。
手当たり次第に扉を開いて中に飛び込む。
とうとう行き止まりだ。
騎士が荒々しく追いかけてくる足音が聞こえる。
僕は、隠れる場所を探した。
騎士が、一つ一つの扉を開いて中を確かめているのが音で分かる。
僕は、カーテンの陰に身を隠した、じっと息を潜めた。
助けて、誰か・・・
ガシャン
扉がなった音に、思わず目を開いた。
あ、机の上に、電話・・・・

=10=
僕は、ガバッと身を起こした。
真っ暗な部屋の中で、留守番電話の緑色のランプだけが光っている。
僕は、電話のそばに駆け寄り、ポケットを探った。
メモされた番号を必死にダイヤルする。
Trrrrrrrrrr
「はい。」
「助けて!」
「君は誰?」
「アリスよ。」
「ああ、アリスか。どうしたの。」
「あなたは、ウサギさん?」
「そうだよ、君をガイドするウサギだよ。」
「助けて、追いかけられているの。」
「何にだい?」
「騎士よ。剣を持って。人を1人殺したの。」
「それは君の夢だよ。騎士なんかいない。」
「でも、すぐそこに・・・」
「耳を澄ましてごらん、今でも聞こえるかい?」
・・・・・・・・・・聞こえない。
「聞こえないわ。でも・・・」
「もう大丈夫だから、ゆっくりお話し。
なんだって騎士に追いかけられることになったの?」
「お城の部屋を抜け出して一人で歩いてたの。
そしたら、おかしな人に襲われそうになって、エッチなこと言って。
騎士がその人を殺したんだけど、今度は騎士が私を追いかけて。」
「なぜ、追いかけてきたの?」
「本物のアリスなら、おつきもつけずに一人で歩いているはずがないって、偽者だって。」
「君はなぜ、部屋を抜け出したりしたの?」
「だって、明日、王子様と結婚式だって言われてるのよ。知ってるでしょう。」
「よく知っているよ。王子様と結婚するならいいじゃないか。」
「よくないよ!」
「どうしてだい?」
「だってお床入りの儀だってあるのよ。」
「なんだい、それは?」
「王子様と一緒のベッドに入るのよ。そしてエッチなことをするの。」
「エッチなこと嫌いなの?」
「そうじゃなくて、ばれちゃうじゃない。」
「何が?」
「なにがって、あたしのことが。」
「うん?」
「ほんとは、女の子じゃないってことがよ。」
「アリスは、女の子じゃないの?」
「ウサギさんだって分かってるでしょ?」
「もちろん、アリスのことならなんだって知ってるよ。女の子じゃないなら、なに?」
「・・・男の子、でしょ。」
顔が火照った。
「でも、王子様はアリスのことは女の子と思っているんだ。」
「そうよ。」
「なぜ?」
「なぜって、ウサギさんがこうしたんでしょ。あたしに女の子の服を着せて。」
「アリスは、男の子なのに女の子の服を着ているの?」
「そうよ。あなたが着せたんでしょ。」
「どんな服だったっけ?」
「白いブラウスに赤いチェックのスカートじゃない。」
「下着は?」
「白のスリップとパンティでしょ。」
「お洋服はすっかり女の子なんだね。」
「だから今まで何とかごまかせたのよ。」
「今も、同じ格好なの?」
「当たり前でしょ、ブラウスに、チェックのスカートを穿いて・・・」
自分の体を見下ろして、ハッとした。
違う。
これは普段の男としての僕の格好。
しかも、ここは?
お城じゃない、僕の家だ。
それじゃ、これは夢じゃなくて・・・
「どうしたの、アリス?」
「い、いいえ、ごめんなさい。なんだか勘違いしてたみたい。」
自然にアリスの口調で話している自分に気づく。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。でも、もう切るね。」
「そうか、残念だね。
でも、白いブラウスに赤いチェックのスカートを穿いた君の姿、見てみたかったな。
きっと可愛いんだろうね。」
「ありがとう、じゃね。」
「うん、バイバイ。」
(やっとつながったね)
「え?」
聞き返したときには、もう電話は切れていた。
今の電話はなに?
僕が寝ぼけてどこかにかけてたの?
でも、相手はウサギだって言ってたし、妙に話がつうじてたし。
でも、どう考えても、これは夢じゃない。
そのとき、左手に何かを握り締めているのに気づいた。
これは?
この間もらったテレクラのティッシュだ。
もしかして。
電話機の発信履歴を確認してみる。
違う。この番号じゃない。
ひょいと裏返してみると、裏面にもびっしり細かい字で電話番号が書いてある。
これだ。
いくつも並んだ番号の1つが、まさに発信履歴の番号そのものだった。
でも、これは・・・
「ニューハーフ、女装娘は、こちら」
そんなことが書いてある。
だから、あの人と話が通じたの?
でも、こんな小さい字で書いてあるのに、そんな偶然ってあるだろうか?

=11=
原因はともかく、僕が、今日、あの番号に電話したのは事実だ。
しかも、アリスとして。
夢ではなく、現実の世界で。
もちろん顔は見られていないけれど、声は聞かれてる。
僕の声だってばれないだろうか?
家の電話からかけちゃって、番号がばれるんじゃないだろうか?
もし、録音とかされてたら。
僕の自分の声で「赤いスカートを穿いてる」なんて・・・
心臓がドキドキ脈うっていた。
顔が熱くなるのが分かった。
頭がぐるぐる回って何も考えられなかった。
なぜだか下腹部がざわめくのを感じた。
僕は・・・・・アリス。
とうとう夢だけでなく現実の世界まで。
「アリス」
声に出していってみた瞬間、自分の声の大きさにびっくりする。
誰かに聞かれたんじゃ?
辺りを見回してみるけれど、何の気配も、物音もない。
心臓がドキドキしている。
心臓だけでなく、首筋の血管も。
「白いブラウスと赤いチェックのスカートを穿いてるの」
自分の言葉に、一瞬、全身鳥肌が立つような感じがした。
僕は何を言っているんだろう。
何も考えられない。
そうだ、あの本。
僕は、ソファの前に投げ出された冊子を手に取った。
アリス。
この顔は僕だ。
今は、はっきりそう思う。
ウサギの膝の上の僕。
ウサギの手が腰を抱き、片方の手で太ももを撫でている。
スカートは半分めくれあがって。
アリスの、いや、僕の顔は、なんていやらしいんだろう。
唇を半開きにし、トロンとした目をぼんやりと開いている。
次の瞬間には、ウサギの手はすっかりスカートの中に入りこみ、何かを握っている。
スカートの前が膨らんでいる。
僕は喜悦の表情を浮かべている。
スカートに黒いしみが広がる。
ウサギはスカートをめくりあげる。
あらわになったお尻。
僕は、喜んで腰を振っている。
そして、そして、・・・・・・
べっとりとした染み。

=12=
今日も眠れなかった。
「お前、顔色悪いよ。」
弘が声をかけてきた。
「昨日の本、どうだった? お前、一晩中、やってたんじゃないの?」
僕は何も言う気力がなかった。
ぼくは、どうなってしまったんだろう。
確かに、一晩中
でも、弘が思っているのとは違って、僕は・・・
今日は、女の子達の制服がやたらと気になった。
ひらひらしたスカートの襞がゆれるたび、僕は、ハッとして目を釘付けにしていた。
心臓の音が聞かれてしまうんじゃないか、そう思った。
一日中上の空で授業は終わった。
弘がまた誘ってきたけれど、とてもそんな気になれなかった。
「お前、どうしちゃったんだよ。後でおまえんち行くからな。」
弘の声を聞き流して、僕は家へと向かった。





アニト (12月31日(火)00時32分20秒)
柏木彩さん、こん○○は。
数学者でもあったルイス・キャロルの『・・の国のアリス』は難解です。
わたしは小学生のときにトライし投げ出しました。
学生時代は勉強のために読んで自爆しました。
言葉遊びにナンセンスともとれる論理ギャグ、
とてもではありませんがついていけませんでした。
しかし、数年前に読み返したとき、
これは吉本新喜劇と同じではないだろうかと思ったものです。
『ラッセルのパラドックス』
夢見る女装娘さんはどんな夢を見ているのでしょうね?。


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