由衣美 (3月4日(日)10時16分28秒)
アニトさま、お嬢様がた、
それにこのページをご覧いただいているたくさんの方々。
こんにちは、由衣美です。
お、今回はあんまり間が開いてないですね。
このペースで行きたいものですね、できれば。
わたし的には風邪と花粉症が合併して、えらい体調になってしまっています。
ただでさえ働きの良くない脳みそが、ほんとに動いていません。
うー…ずるずる。
三寒四温とかいいますが、不順な気候が続いています。
皆さまもくれぐれもお体にはご注意くださいね。
さて、いきなりですがここで告知です。
▼▲告知▲▼
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「空想デートの空想パーティー Happy Birthday2001」

 
(アニト注・「空想パーティ」の告知は別記しました。)
☆アニトさま。
お忙しいのに連れ出してしまって、ごめんなさい、アニトさま。
でも、わたしだけじゃなくてアニトさまのお誕生日をお祝いしたいっていう
たくさんたくさんの女装娘の気持ちを代表するつもりで、
こんな企画をさせていただきました。
さっそくにご快諾いただいただけでなく、
会場の詳細まで教えていただいてほんとに感激感謝です。
幹事としては自分自身がいちばん先行き不安ですけれど、
まあ皆さまに助けていただければ、こんなわたしでもなんとかなるでしょう。
………皆さま、ほんとうにお願いしますね。
☆数値フェチっ娘さま。
唐突に妙なお願いでほんとうにごめんなさい。
毎月の調査と集計、ありがとうございます。
ちゃんと見ていてくれて、そして微笑んでくれる方がいるっていうのが、
わたしのなけなしの作家性の支えであり励みだと思っています。
(過大評価されてる気はとってもとってもしますが)
あと、わたしなんだか二月の書き込みの回数が少ないので、
「活躍」とかおっしゃられると、むしろ恥ずかしいくらいです。
「一子」はあの政治的事故の直後、十二月位に書いたものですし、
「お仕置レポート」は”やっちゃったことは書かなきゃだけど、
そもそも公序良俗に反してる”…だし。
まあ存在自体がわたしの場合公序良俗に反してはいますけど。
☆綾乃さま。
完全復活ーっ!ぱふぱふー。
「雛飾り」とっても良いです。
慣れない女装に羞じらいながら、でも男の子に見つめられて、
戸惑いと切なさの中で、でも女の子になっていっちゃう感じ。
最初の男の子っぽい物言いとのコントラストも、
「…少しだけ泣いた」この終わり方も、
やっぱり綾乃さまだぁって思っちゃいました。
「智の泣きたくなる日」の再開も嬉しいです。
ほんとに待ってたんですよー。
あんな「きゃー。これからもっと…な亊されちゃうの?ワクワク」
なところで中断なさってたから。
期待にたがわない復活ぶりで……いいなぁ智美ちゃん、可愛い。
プレッシャーのつもりはぜんぜん無いんですけど、いつもいつもお待ちしてます。
それと、あはは……わたし「ひなた戦記」が
大河RPG長編禁断ロマンだって初めて知りました。
わたし的には書けば書くほど
「妙なもの」というジャンルにしか収まらない気がしてきてましたが、
そんな立派なジャンルにカテゴライズしていただけば、もう安心です(なにが?)。
ただ、病気はこれ以上悪化すると、何にも完結しなくなっちゃうんですぅ…。
あの、綾乃さまもお忙しいのは承知しておりますが、
パーティーの出席欄にはちゃんと(というか勝手に)○させていただきましたので
ウカツなことをさせられたくなかったら、先に良いところを押さえてくださいね。
☆久仁子さま。
どうもわたしのテンションが低いと思ったら、
今週は久仁子さまの「先輩」が無かったんですね。
…って、わたしのテンションが低いのは生まれつきなんだから、
久仁子さまのせいではまったくないんですが。
なかなかご都合が取れないのかもしれませんが、
書くほうも実生活での女装も
思う存分できるようになれるようお祈りしています。
それと、もしもご都合よろしければ、久仁子さま世界の方々ご同伴で
アニトさまの誕生パーティーにお越しいただければ嬉しいです。
☆やすこさま。
普通の浣腸液の20倍……しかも自らアヌス栓になるなんて、
スネークがあればプレイライフも広がるってものですね。
戦争が科学を大きく進歩させたとはいえ、早く戦争が終わって
スネークが「平和利用」される世の中になりますように、
とか思ってしまいました。
…そうか、そういう警鐘を鳴らすお話だったんですね。
この後もどう責められていくのか、とっても楽しみです。
「ひなた戦記」は残念ながら、次回でとりあえず一段落のつもりなんです。
なぜかというと、あの主人公をちゃんと女装Mに導く「ベストエンド」
(やなゲームだな、まったく)はあと十話近くかかりそうなので、
いくら長編型らしいわたしでも、とても付き合いきれませんです。
まあ、完結した一エピソードをずつ飛び飛びくらいにできればと思いますけど。
あの、やすこさまもパーティーにご参加いただけたら嬉しいです。
……できれば、「スネーク持参」で。
☆絵梨花さま。
これまでの生活と自分を捨てて、新しい世界へと踏み出すときの
静かなドラマがとっても素敵でした。
社長さんの人柄の良さが、
それを捨てようとする心の疼きをわたしにも感じさせてくれました。
でも絵梨花さまだから、これからのことにワクワクしてもいるんです。
もっともっと書いていただけたら嬉しいんですけど。
あ、あと絵梨花さまはアニトさまにもうお祝いさしあげたかも知れませんけど、
よろしかったら空想面のパーティーにもご参加くださいね。
女装Mとしてずっと先の方を行かれているようなので、お話、お聞きしたいです。
お待ちしています。
☆山崎アカリさま。
新作「スプリング・フィールド」、わくわくの導入部ですね。
わたしもちょっといじめられた経験があるので、
なんだか高志君に移入してしまいます。
いつもいつも、ひとりひとりのキャラクターが魅力的で、
楽しいやら羨ましいやらほんとにすごいなぁって思います。
ちょっと北条司づいてますか?
ほんとに永○町のお歴々も「あの時つぶしとかなきゃよかった…」って
思ってるんじゃないでしょうか。
…でも実を言うと、K氏(一子のモデ…じゃなかった、影響を与えた人物)も
某政党の中にいる方だから、盗聴法やら国々法やらは通してるんですよね。
この国のこれからが、もっと優しくなればいいなって心から思います。
アニトさまの誕生パーティーはちょうど桜の花が咲くころらしいので、
お花見がてらお出かけくださいね。会場は貸し切りですし。
いらしてくださるんでしたら、お願いがあるんですけど、
……久仁子さまご本人が参戦してくだされば、
それはそれに越したことはないんですが、もしもご無理な場合、
「久仁子さまをご同伴の上で」お願いしたいんですけど、ダメでしょうか?
☆権太ちゃん。
……あれ?今週は権太ちゃんがいないな。
由衣美(with良平さん)だけじゃぜったいなんか失敗するから、
パーティーの準備、権太ちゃんも手伝ってね?お願いだから。
あとパーティーのホスト役も、数少ない男の子(?)なんだから
お嬢様がたに失礼のないように、…ってわたしに言われたかぁないよね。
とにかくよろしくー。
☆美香さま。
ご丁寧にありがとうございます。
美香さまが優しい物腰なので、図に乗ってここではお友達としての
言葉遣いをさせていただきますが、お気に障りましたらごめんなさい。
ほんとうにMの人が喜ぶことを、配慮してやってくれるSの人って、
どっちがほんとうに奉仕しているのか判らない面がありますよね。
だからこそ愛情と信頼が必要なんだと納得させられました。
自分がノーマルだとか穏健だとか規定している人の中に、
心の中の攻撃性や排他性をうまく処理できない人がいることを考えると、
そんな人に排斥されているSやMの人の方が、自分の中の様々な情念を、
きちんと「優しく」処理できているようにも思えます。
よろしかったらパーティーでも、Mの皆さまを喜ばせていただけたら嬉しいです。
……えっと、わたしのことも……ちょっと…とか。
☆宏美さま。
こんな短期間でアニトさまの奴隷になられたんですね。おめでとうございます。
すっごいご活躍ですね。
元気で力量のある方ががんばってくださるのが、とても嬉しいです。
それにパソコンも手に入れられたみたいで、
これからコンスタントにお会いできそうですね。
マルチエンディングのどちらもとても魅力的だし。
でも、リクエストを聞いていただけるのも嬉しいですけど、
まずは宏美さまの書きたいものを書きたいようにやってみてくださいね。
あと、新人奴隷の顔見せとしても、パーティーにはぜひぜひお越しください。
☆今週お出でいただけなかった方々も、しばらくいらっしゃれなかった方も、
それに来たくても二の足を踏んでいるという方も、
会費無料、
女装し放題、
食い放題飲み放題、
歌い放題笑い放題、
そのうえ苛め放題苛められ放題の楽しいパーティーにしたいと思っておりますので、
どうかお誘い合わせの上ふるってご参加ください。
いきなりご自分の視点で書き始められてもけっこうですし、
「こんなことがやりたい」「こんなものが着たい」
というのを掲示板にお書きいただくか、数値フェチっ娘さまにお伝えいただければ、
由衣美の能力の及ぶかぎり、何とかしたいと思いますので、どうかご協力ください。
(あの……由衣美の能力はたかが知れてますので、
そこもちょっとだけご配慮くださいね)

えっと、こんなことを始めてしまったのも、わたしがバレンタインに
アニトさまにバレンタインメールも出さずにいたから、
その代わりに何かプレゼントを、と思ってだったんです。
期待していた方には(いるのか?)申し訳ありませんが、
「ひなた戦記」第一話完結編は、また今度です。
今回はそんな由衣美がバレンタインをどう過ごしたか、というお話です。
たまには時事ネタを、とか思いましたが、遅すぎですね。さすがはわたしです。
でも「三国一の幸せカップル」と褒められてしまった以上
(褒めてない、ぜーったい褒めてないぞそれ)、
恥ずかしいけどお聞かせしないわけには行きますまい。
ちょっとでもお楽しみいただければ嬉しいですけれど、
あんまりにお間抜けな話しに怒らないでくださいね。
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     「チョコの神様」
       または
「あんまり正しくないバレンタインの過ごし方」

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ピンクの淡いフラワープリントのブラジャーに、
白いソックスだけという服装で、わたしはお風呂場に連れていかれました。
お風呂場でなんですから全裸でもよかったんですけど、
でもやっぱり少しでも女の子らしくいたかったんです。
せっかくの新しいブラジャーだし。
軽く後ろ手に縛られた状態で、
わたしはまずイチジクを、十分ほど我慢させられました。
完全に排泄したあと、
もう更に二回こんどは園芸用の散水ホースを改造した浣腸器で、
おなかの中をぬるま湯でいっぱいになるまで洗腸されて、
わたしの大腸はきれいにされました。
そのあいだ、わたしの半裸の体は、
お風呂場のマットの上で様々に愛撫され、いたずらされました。
そしてわたしのアヌスからかなりの量のお湯が、
用意された金だらいの中に噴出されました。
「これでいいな?由衣美」
「……はい、たぶん……おなかの中は、きれいになったと思います…」
繰り返しの浣腸による倦怠の中で、わたしは応えました。
「はは…赤くて可愛くなってるな」
たくさんの排出物を通過させて、少し腫れた感じのするお尻の穴を見て、
ご主人さまが笑い、わたしは恥ずかしさに唇を少し噛みました。
わたしが出した黄土色のぬるま湯を入れた金だらいを、
トイレに持っていって中を流してから、ご主人さまは戻ってきました。
そしてわたしは縄尻を取られて、ベッドへと誘われたのです。
不思議な興奮と倦怠に包まれながら、
わたしのペニスはすでに完全に勃起していました。
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ことの起こりは昨日、二月十三日のこんなことです。
「テンパリングの温度を間違えないように気を付けてぇ…。
って、その温度はどうやって知るんだろ?」
「溶けたチョコを肌の上に垂らして、
で我慢できなかったらロウソクの溶ける温度よりも高いっつーことだろ」
ムチャクチャ言うなぁこの人。
まあいつものことなんですけど。
だいたいロウソクの溶ける温度は何度なの。
ぜったいチョコの融点より高いし。
やっぱり温度計買ってくればよかったかなぁ…。
ここまでのやり取りでお解りかとは思いますが、
わたしはきたるバレンタインデーのための、
ありきたりですがハート型チョコレート制作の真っ最中です。
「…そもそもだな、一番の間違いは……」
え?なんか間違ってるのかしら。
だいたい、何でテキストを良平さんが見てるんだろ。
…そりゃ、手作りチョコなんて初めてだし、
そもそもお菓子作り自体が初心者なんだから、
いろいろ不安はありますけど……。
「…?なんか間違ってる?」
良平さんはちょっと芝居がかった仕草で、びしっとわたしを指さしました。
「なぜおまえは、せっかく買ったメイド服を着ていないんだっ?」
……………なに言い出すかと思えば、結局それが見たかったのね、良平さん。
「だって、汚れたらイヤだもん」
あの手のものは、洗濯して干す場所にも気を使うんですから。
わたしは普段着の、オレンジピンクのトレーナーと
赤のチェックのスカートの上に、
男の時も使っているジーンズ地のエプロンという格好でした。
下着もごくごくノーマルな、白のブラジャーとショーツ、
それにフレッシュカラーのパンティストッキングという格好でした。
「しかしメイド服っつったら、そーゆー仕事の時に着るもんだろう?
メイドの神様に申し訳ないとは思わないのか?」
「って、『小僧の神様』じゃあるまいし……。
あのね、良平さん?
女の子が……その、好きな人にあげるチョコを作ってるときに、
その横にいて茶々を入れるっていうのは、失礼だと思うの。
……ちがうかな?」
…ですよね?
そう思いますよね?
いくらそれを貰うのが自分だって判ってても、そこは知らんぷりをして、
いざバレンタイン当日になって、丁寧にラッピングしたそれを貰って、
で、ちゃんとびっくりしてくれて、
「ありがとう。
俺のためにがんばってチョコを手作りしてくれるなんて、すごく嬉しいよ」
…とか照れながら言って受け取ってくれて、
お礼に、ちゅ、ってしてくれるのが、
バレンタインを迎える男性の義務だと思うんです。
そりゃまあ、あの良平さんに対しては高望みだって解ってるんですけどね。
だし、わたしだって、男の子の状態だったら、
きっとそれはできないなって思いもするんですけど、
でも女の子としてはそう思うんです。
うーん……複雑。まあ願望なんですけどね。
一昨年までは、ちょっと仲の良かった娘から本命が来ないかとか、
義理が幾つ集まるかとかそんなことを気にしてたんです。
あと…女の子と付きあってたりした時には、
どんなイベントがあるかとか、ちょっとワクワクしてみたり。
あ、一応言っておきますけど、
由衣美は昔っからこんな変態だったわけじゃないんですよ。
(ぐさっ!…いててて。今ついつい自分で自分の心に矢を放ってしまいました)
そして去年は、自分の中の女の子を扱いかねながら、
でも…好きになってしまった先輩に、想いを込めてチョコを贈ろうとしてて、
それを受け取ってもらえるか、一人悩んでいました。
匿名で贈ろうとしてたのに、それでも軽蔑されたらどうしよう、
もう先輩と後輩でさえいられなくなったらどうしようって、
不安な夜を過ごしていました。
まあ確かに、先輩と後輩の関係じゃいられなくはなりました。
お分かりとは思いますが、今年はその先輩はわたしの横で、
ロマンティックの欠けらもない茶々をわたしに入れていて、
わたしはわたしではじめて自分一人でチョコを手作りしながら、
乙女チックな妄想に浸っているんです。
人生って、不思議でなおかつ複雑なものなんですね。
「じゃ、俺は退散するか。
メイド服じゃない由衣美を見ていてもしょうがないしな」
「…はいはい」
呆れつつ笑って、わたしは応えます。
やりにくいし、だいたい劇的に狭いキッチンに、
二人いるっていうのが間違いなんです。
「良平さん、テキストは置いていってね?」
それを持っていかれたら、
あした良平さん自身が、できの悪いチョコで苦しむことになるんだから。
「あ、由衣美さ」
「…ん?なぁに?」
「あした、俺が晩飯作るからさ、
おまえそれに合わせてちょっと遅く帰ってこいよ」
「え?でも……わたし作ってもいいよ?せっかくだし……」
正確には、せっかくの、初めての二人のバレンタインだし、です。
ちょっとがんばってお料理して、
ふたりのロマンティックな夜を過ごしたいですもんね。
「ええがら。俺に任しときんしゃい」
どこの産まれなんだか。
「…じゃ、そうさせてもらうけど……でも早く帰ってきて手伝うよ」
「いや、これは命令だ。少なくとも七時半まではブラブラしてこい」
「………わかったよ」
うーん。複雑な残念さを含んで、でもわたしは承諾しました。
ちょっと複雑なのにはもう一つ理由があります。
良平さんが仕事で遅くなるときと、わたしが女の子モードのときには、
料理当番は自動的にわたしになるんです
(いろいろ考えて決めたことで、
とくべつ男尊女卑ってわけじゃないんですよ)。
つまり断固として良平さんが料理をするっていうことは、
同時にわたしが由衣美として愛してもらうという期待が
ちょっと薄らぐってことでもあるんですね。
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「……この乙女初心者がぁ」
そんないきさつを、彼女も呆れながら笑って聞いて、
恵(けい)ちゃんは言いました。
高井恵ちゃん。わたしの友達で、わたしの女の子としてのお師匠さんです。
「…で、あたしにキミの暇つぶしの手伝いをしろって言うの?
このバレンタイン当日に、この恵ちゃんに?」
一緒に取っている講義が終わったあと、わたしは恵ちゃんを誘ってみたんです。
あ、大学なのでもちろん男モードなんですけど、
わたしが混乱するのでナレーションのみ女言葉でお送りします。
「う……そりゃ、ダメだよねもちろん。
江西とかにも誘われてたし……」
そうでなくても美人で性格もいい恵ちゃんは、
なんで特定の彼氏を作らないんだか謎なくらい引く手あまたなんです。
バレンタイン当日に、ヒマなわけはないよなぁ。
「…いいわよ、付き合ったげる」
「え?いいの?」
「え〜〜〜〜?そりゃないよぉ……」
これは江西のセリフ。
ちなみに恵ちゃんと、この同じくわたしの友達の江西雅人は、
同じ映画研究会に属していて、
わたしが「由衣美」であることを知っている数少ない人物です。
「おだまんなさい。
女同士の友情に、オトコが入り込む隙なんて無いんだから」
「普通、逆じゃないかなぁ恵ちゃん」
これはわたし。
それに、あんまり堂々と「女同士」って言わないで欲しいんだけど。
「ほんとだよ。俺なんか先月から、バレンタインはよろしくーって
あんなに言ってたやん?」
「だからよろしくしてあげたでしょ。
ちゃんとチョコもあげたし、なにが不満なのかな?江西クン?」
「うー……不満ありませーん……」
気の毒に。
江西は普段から「恵ちゃんラブラブー」と公言してはばからないんですけど、
完全に主導権は恵ちゃんに握られています。
ちなみに江西がもらったのは、ちっちゃなトリュフチョコが一つ。
恵ちゃんらしくちゃんと吟味したものですけど、
本命向きではぜんぜんありません。
わたしも同じものをもらいました。
うーん。
気持ちの上では女の子に近くなっていて、男の人を好きになっていても、
もらえばそれなりに嬉しいものなんですね。これは発見。
その他にも、多少はもらいましたけど、やっぱりみんな義理です。
「初瀬は彼女を作る気が無い」っていうのが、すでに知れ渡ってますから。
でも「初瀬自身が彼女である」って知っているのは、ごく少数です。
「じゃ、行こうか初瀬クン」
「あ、じゃ俺も俺も」
「だーめ、女の子一人にオトコ二人じゃバランス悪いでしょ?今日だけは」
恵ちゃん……
わたしを男扱いしてるのか女友達として扱ってくれるのかわかんないなぁ…。
「じゃな、悪いね江西」
「ちぇっ…”彼氏”持ちが人のターゲットを奪うなよなぁ」
しーっ!しーっ!
人前でそんなこと言うなぁ!
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「でもなんで江西じゃいけないの?
悪いヤツじゃないでしょ?ルックスだって悪くないし」
「うーん……もう一押しっていうのが足りない気、しない?
もう一息の頼りがい、もう一息の可愛げ、もう一息の苛めがい……」
「苛めがいって………恵ちゃん、ぼくのこともそれ?」
「あはは、そーかも。あとは育成ゲームみたいな感じとかかも。
でも初瀬クンのことも由衣美のことも、
友だちとして大切だし可愛いって思ってるのよ?
……責任も、まああるしね」
まあ恵ちゃんはわたしたちよりも二つ年上だから
(あ、彼女は短大を出てから四大に入り直してるんです)、
頼りがいが無いって見られてもしょうがないかもしれないけど。
「頼りがいっていうと…りょ…上条先輩とか竹谷先輩みたいな?」
「あのエロダンナに頼りがいを感じてるのは由衣美だけ」
「エ…エロダンナって……」
反論したいけど、しても確実に論破されるのが悔しい。
「キミが…由衣美が書いてるのを読んだ人は、誰も否定しないわよ、きっと。
あたしゃ日曜日にキミの書いたの読んでみて
『割れ鍋に閉じ蓋』っていうことわざの意味を、心から理解した気になったわ」
あ、えっと、それは「お仕置オナニーレポート」のことです。
知りあいに読まれるのが、一番羞恥心に堪えるんだよなぁ。
うー、顔が熱い…。
「赤くなるくらいなら、やらなきゃいいし書かなきゃいいのに。
…で、そうなるってことは事実なのね。あれって?」
「…うん……だいたい」
はあ………、と恵ちゃんは溜息。
「くれぐれも捕まんないようにしなさいね。
あたし的には『検挙されたエロカップル、カッコ片方は女装カッコ閉じ』の
友だち代表としてインタビューを受けるのはまっぴらなんだから」
「…う、うん……気を付ける。忠告ありがとう」
こんな言い方ですけど、恵ちゃんはちゃんとわたしたち二人のことを
心配してくれているんです。
でも彼女、わたしと二人の時にはわたしが男装してても、
女の子として扱ってくれるんですよね。
嬉しい気もするけど、どう対応していいかちょっと混乱します。
=========================
その後、二人でまるでカップルみたいにお茶して、
一緒に取ってる講義の資料を本屋で買ったりとかしました。
そのあとは…えーと、恵ちゃんがアクセサリーショップに連れてってくれて、
それからランジェリーショップに一緒に行きました。
バレンタインのお返しにランジェリーを買わされる
ボーイフレンドの振りをしながら、
ちゃっかり自分用の、淡いピンクのフラワープリントのブラジャーと
キャミソールのアンサンブルと、白いレースのショーツを買いました。
こういう友だちがいるっていうのは、ある意味危険ではありますけど、
でもとてもありがたいですね。
まあ恵ちゃんと友だちでなければ、
そもそも女装の道に踏み込まなかっただろうとも思うんですけど。
「あ、先輩?初瀬です。
こっちはそろそろ帰れるんだけど……?」
そんな一見デート、実は女同士のお出かけというのを済ませて、
わたしは家に電話しました。
今は指輪をしてないから、良平さん相手でも男モードで会話します。
そういうところのケジメは、けっこうこだわる人なんです。
『…お、今どこだ?』
「電車降りたとこ」
『じゃ悪いけどなんかオカズ買ってきてくれよ。
ちょっと料理してるヒマ無くなっちゃったから』
「ん、いいけど…メインは?」
『ミルクラーメン』
…ほんとに時間が無かったんだ。
ミルクラーメンは良平さんのお気に入りのインスタントラーメンの食べ方です。
お湯の代りに薄めたホットミルクで戻すっていうそれだけなんですけどね。
…でも、はあ……。
良平さん、つまりはロマンティックなバレンタインを
由衣美と過ごすっていうつもりは、ぜんぜん無いってことなんだろうなぁ。
そんな雰囲気はまったく無いメニューだもんなぁ。ミルクラーメン。
ちょっと、女の子として憂うつな電話になっちゃった。
こんな時ついつい、良平さんがわたしを
ちゃんと女の子として扱ってくれてるって解ってても、
きっと他の女の子とでも(そんなこと絶対にイヤなんですけど)
同じように不調法をするだろうって思っても、どうしても憂うつになるんです。
彼がこんなふうにするのは、
わたしがほんとうの女の子じゃないからなんじゃないかって。
やっぱり本物の女性でないと、
心の底からの満足はさせてあげられないんじゃないかって、思ってしまうんです。
良平さんは、ちゃんと女の人を好きになれる人なんです。
ただ一番好きになった女が(ものすごく照れる言い回しですけど)、
たまたま肉体が男性だっただけだって言ってくれるんです。
でもそう言われることは嬉しいけど、
良平さんがちゃんとした…っていうと変ですけど、
ヘテロじゃなくてホモセクシャルな人だったら、
こんなに不安にならずに済んだのかな、とか思いもします。
微妙な不安と、自分の弱さを感じながら、わたしは駅前のスーパーで、
出来合いのサラダとラーメンに入れるチャーシュー、
それに補充の牛乳や野菜などを買いました。
==================
「ただいまー……?」
帰宅したわたしの語尾が上がったのは、
わたしたちのマンションに漂うチョコレートの香りに気づいたからでした。
これは、良平さんがもらったチョコを食べてたっていう名残なのかなぁ。
なんだか胸の底が、ちくりと痛みました。
わたしは、自分が作ったチョコを、まだ渡していないんです。
「よ」
また余分を省いた出迎えの言葉。
「チョコ、もらったんだ……?」
わたしは、平静を装って訊ねます。
すると良平さんは、ちょっと得意そうな笑顔を浮かべました。
こんな顔をするときには、だいたい良いことか悪いことか、
どっちかがわたしにやってきます。
「初瀬おまえはチョコ、もらったか?」
「う…うん、恵ちゃんとか、あと義理がちょっと…」
「そうか、嬉しいよな。
たいして好きでもなくてもチョコレートもらえるのは」
「ぼくは…けっこう好きだけどな。食べるのも……」
呑み込んだのは「あげるのも」っていうセリフです。
「そうか、そりゃ何よりだ」
やっぱり良平さん、誰かからチョコをもらったんだ。
会社の同僚の、ちゃんとした女の人から。
振りかかってきたのは、やっぱり良くないことみたいです。
ちょっとだけブルーな気持ちで、わたしは買ってきたものをお皿によそったり、
冷蔵庫にしまったりして、それから食卓に着きました。
ミルクラーメン、みそ味。ネギとメンマと、肉みそと海苔と、
それから各自にチャーシュー三枚。
それに買ってきたごぼうのサラダと、ウーロン茶を淹れました。
わざわざ中華風で統一することもないなぁ、って思いながらも。
まあ見すぼらしいとは言いませんけど、
バレンタインデーを迎えた恋人たちが食べる夕飯とも思えません。
「どうした?」
「…よりによって今晩、ぼくから強引に奪った食事当番で、
ミルクラーメンは無いんじゃないかな、…ってちょっと」
わたしはつい正直に言ってしまいました。
わたしがちゃんと女の子モードだったら、言えなかったかもしれませんけど、
「ミルクラーメンは美味いじゃないか。栄養的にも普通のラーメンより良いし。
初瀬、おまえは”おいしい牛乳飲むのだぴょん”という
ことわざを知らないのか?」
「ことわざじゃなくて、それミ○モニ……」
むちゃくちゃマイナーなバンドを聴いてるかと思うと、
変なところでミーハーなんだから。
大人なんだから”ぴょん”はやめてね、”ぴょん”は。
「メニューが不満だって言うのなら、じゃあ俺が特別に、
おまえのチャーシュー1枚と俺のメンマ1本を交換してやろう」
「そ、それは不公正貿易だぁ」
いつものように、男同士のたわいない会話の中で、
男同士の夕食が進められました。
わたしの、女の子の心だけを取り残して。
「じつはな、俺も会社でチョコをもらったんだ」
ふと会話が途切れて、そして良平さんは言いました。
でも少しだけ、戸惑っている気配がしました。
「…………ふうん」
それ以上、どう応えていいか判りませんでした。
わたしの中にも、戸惑いがありました。
「けどな、俺が好きなのより甘いやつだし、
それならおまえにやろうと思って持って帰ってきたんだよ」
「ぼくに……?」
わたしに、って尋ね返しそうでした。
他の女の人からもらったチョコを、わたしに食べさせるなんて、
そんな反発を感じます。
嫉妬、なのかもしれません。
でも、良平さんは、なぜだか少し照れを含めたぶっきらぼうさで、
「ん」
と頷きました。
その口調が、わずかな言葉でしたけどチョコをもらえたことを
後輩の男の子に自慢するものでないことに、わたしは気づきました。
「…ってーか、受け取るのは初瀬でも、由衣美に食ってほしいんだ」
そう言って、ラーメンのスープを飲み干した良平さんは、
席を立ってキッチンに行きます。
「笑うなよ、俺にしかできないヤツなんだから」
一度梱包をといたらしい、不細工な赤い包みが、わたしに差し出されました。
言葉選びに戸惑っている感じで、良平さんが口ごもって、言います。
「あー……なんか夕べ、由衣美ががんばってるのを見たらさ、
…ほかの娘から義理でもらうのを……なんかなって思っちゃって、その…
……食いたくなかったんだよ」
「………え…?」
「…で、おまえのテキスト見て、もらったチョコを溶かして
俺も作ってみたんだ。
あ、おまえが残してたかたまりも使ったけど、…食ってくれるか?」
すごく照れた顔で、良平さんはわたしに言ってくれました。
「つまり…えと…先輩が、ぼくにチョコをくれるっていうこと?」
「……だな、まあそういうことだ」
どう応えていいか、わたしはまた迷っていました。
でも、さっきの鈍く重いかなしさを孕んだ迷いじゃなくて、
すごく温かな迷いです。
わたしは自分がすごくドキドキしているのと、
自分が今すごく、女でいたいと思っていることに気づかされました。
わたしは、これまで男の時にもされたことの無かった、本
当に大好きな人からバレンタインデーにチョコレートをもらうというのを、
女の子になった今、初めて経験しているんです。
わたしは自分の、素直な気持ちを口にしました。
「えと………先輩、……指輪、はめていいかな?
…由衣美で、もらいたいの……」
良平さんは静かに頷いてくれました。
わたしは二人用の(つまり食費とかを入れているものです)お財布から、
その中に大事にしまってあるわたしの指輪を取り出しました。
気持ちの上ではもうとっくに女に切り替わっていたんですけど、
わたしは気持ちを落ち着かせてから、
静かに自分の左手の薬指に、指輪をはめます。
たったそれだけのことなのに、わたしは自分のもっと深い部分から、
「女」が湧き出してくるのを感じました。
意識して男っぽくしていた物腰から、
しなやかで優しい動作に静かに切り替わっていくのが、
自分でも不思議な感覚です。
湧き出してくる女の感覚は、同時にわたしの中の、良平さんへの愛おしさを、
穏やかに、だけど強く燃え上がらせます。
性感にすこし似た甘く熱い疼きが、背筋を這い上がりました。
着替えやお化粧はしなくても、下着までが男性のものの状態でも、
わたしは確かにこの瞬間から、由衣美として存在していました。
「良平さん……」
恋人としての由衣美の時だけ許された呼び方で、
良平さんの名をそっと呼んでみました。
そして彼が差し出した、ちょっと不思議な形の紙包みを、両手で受け取りました。
「ありがとう、良平さん…」
まったく、日本でバレンタインにチョコを受け取るのに、
わざわざ女の子になる人がいるなんて。
変だって自分でも思います。
でも、どうしても女でありたかったんです。
女の子の、良平さんの恋人の由衣美として、それを受け取りたかったんです。
今さら照れる間柄でもないはずなのに、頬が熱くなっているのを感じました。
「開けてみろよ。手作りなんだから」
「…うん」
わたしが帰ってきたので、あわてて包んだんでしょう。
包装はかなりいびつでした。
考えてみると、良平さんは最初からこうしてくれるつもりで、
わたしから夕食の当番を奪い取ったんだって解りました。
それだから夕食も手抜きだったんです。
そして部屋の中に、チョコの香りが漂っていたのも、
それを手作りチョコにしてくれてたからなんです。
ほんとに、優しくて、誠実で、照れ屋な人。
時にはいじわるで、鈍感で、無神経な人でもありますけど。
でも、ほかの人からもらったチョコを、溶かして手作りチョコにしてくれるほど、
この人はわたしを大切に思ってくれてるんだって思うと、
わたしの胸の奥のつかえは、
すべて本当にチョコレートのように溶けて流れていきました。
わたしは、赤い紙包みを開きました。
そしてわたしは、またどう反応していいか判らなくなりました。

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例によって下に続く。

     「チョコの神様」
       または        
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