はじめから読む

乙女にとっての宝の山から、
わたしたちが這い出してくるまでにはかなりの時間がかかりました。
うーん。やっぱり知性的で大人っぽくても、数値フェチっ娘さまも女の子。
わたしと一緒にあれがいいだのこれが着てみたいだのって
ひと騒ぎしてしまっていました。
更衣室が使えるようになってたら、
つい着替えちゃって夜中まで掛かってたかもしれませんね。
でもいろいろなエッチ物、
良平さんが退屈しないようなものもあってよかったです。
でないと女の子二人だけで騒いでて、怒られちゃうところでした。
トレーラーから出てきてみると、もう日が陰り始めています。
夕陽に照らされて、盛りの桜の花がいっそう赤い色合いになっていました。
春とはいえこの時間になると、ちょっと冷たい風が吹いています。
「うー……なんだか物凄かったな……」
「ほんと…」
うー、目と心が洗われるようだ……。
女装ショップとコスプレショップとブルセラと
大人のおもちゃ屋とブティックをいっぺんにハシゴしたような、
沸いちゃいかけた頭には、目の前の若葉と桜の薄桃色に彩られた
○○○公園の風景は、あまりにも爽やかで穏やかでした。
========================
わたしたちは気を取り直して、設営の計画書を持って公園の中に入りました。
公園の大きさはだいたい百メートル四方ほど、
まあちょっと大きめの校庭くらいでしょうか。
ちょっと奥行き方向の方が大きいですね。
まあ地方や立地によって、学校の校庭面積の平均は違うみたいですけど。
夕暮れとともに遊びをやめて家に帰る子供たちが、
わたしたちの脇を駆け抜けていきました。
入り口の右わきに、こぎれいな公衆便所があります。
敷地の際のところは柵と植え込みがあって、外からは見えないようになっています。
そして公園の真ん中をつらぬく形で、薄茶色の石畳で覆われた遊歩道があり、
その左右から覆うように大きな桜の木が植えられていて、
少し花びらがこぼれ始めています。
その他にも何本かの木と茂みがあって、それぞれに若葉を芽吹かせています。
なんだかいかにも春木立っていう雰囲気ですね。
遊歩道から外れて、その桜の辺りまでだいたい十五メートルくらいは、
グレーの石畳で覆われていて、そこから奥は芝生と土が半々くらい。
土が露出しているところには、これから花を咲かせるだろう植物が芽を出しています。
桜と桜の間の奥の方の土が出ている場所には、
ジャングルジムとかブランコとか雲梯とか、あとあれはなんていうんだろう、
あの……フラーレンって言うのは解りにくいのかな、
サッカーボールの縫い目の線みたいな形に鉄の棒を組んであって、
ぐるぐる回るやつ、……もあります。
どなたかご存知の方、あれの名前を教えてください。
遊歩道を挟んでベンチがいくつか。
そして遊歩道の真ん中くらい、
入り口から六十から七十メートル程度入った辺りに、
直径五メートル程度の噴水があります。
その周囲は石畳が広げられて、ちょっとした広場のようになっています。
明日にはこの辺りにまでトレーラーを乗り入れて、
ここで皆さまに着替えてもらえるようにします。
あとこの噴水広場には、明日には大型のプロジェクター……
アカリさまの「先生」から借りてきたものじゃないよね?
ちゃんと業者から?ですね、はい。
大型のプロジェクターが二基置かれて、
会場の各所で行われているイベントやらいろんなことを、中継してくれるそうです。
カメラは良平さんが一台と、あと有志の方で何台か、
それにステージ固定で三台くらい使われます。
それと噴水のグリセリンをお使いになる方のために、
特設の「丸見えトイレ」も設置されます。
えっとこれは…工事現場とかにある仮設トイレの外装を取っ払って、
どこからでも丸見えになるようにした上に
高さを一メートルくらい持ち上げたものです。
あ、ちゃんと昇りやすいように四方に階段がついてますよ。
便器は和式で、ちゃんと透明な強化ガラスで成形されています。…ちゃんと?
まあ勇気のある方、というか
こういうのがお好きな方はどうぞという感じですね。
わたしにはとてもとてもその勇気はありません。
だからここのトイレを使っていただくか、
入り口そばの公衆トイレまで急ぐかはご自由にお決めください。
噴水から奥の方に、また遊歩道が延びていて、
突き当たりには白い屋外ステージがあります。
この噴水とステージの間には、明日はテーブルが置かれてお料理やお菓子、
それに軽いカクテルなどが供されたり、何軒かの屋台も出るということです。
なんだかパーティーというより、
「全国女装者祭り」の様相を呈してきている気もします。
まあアニトさまがそれで納得しているのだから、わたしは構わないんですけど。
たぶんアニトさまはご自分がお祝いしてもらうのと同時に、
わたしたち一人ひとりにもいっぱい楽しんでほしいんだと思います。
屋台っていうのは何が出るんだろう。
焼きそばとか飴細工とかかな、カルメ焼きとか。
それとも名古屋だから味噌カツとか天むすとかでしょうか。
食べ物だけじゃなくて射的とかお面とかもあるかもしれませんね。
遊歩道の突き当たりの屋外ステージの周囲には、すり鉢状に観客席が設えてあります。
ステージは幅がだいたい三十メートル、奥行きが十メートル、
ステージの高さが一メートルくらいでしょう。
ライティングの関係なのか、舞台の上だけはダークグレーになってますね。
背景っていうか、ステージバックは五メートルくらいの高さがあります。
ここで明日は皆さまの日ごろ鍛えたいろいろな芸が披露されるんでしょうね。
わたしたちはステージに寄りました。
「やっぱりな……おい由衣美、あれは磔台じゃないぞ」
「……え?」
良平さんは舞台の中央いちばん奥と左右の奥の方に立てられている、
T字型の鉄製の柱を指さしました。
高さは二メートルくらいでしょうか。
頑丈そうに補強されていて、黒く塗られています。
アニトさまから送っていただいたデジカメ映像を見ると、
わたしにはどう見ても人を縛りつけるための物に見えたんですけど。
「ほら、電源もあるし……
きっとこれ、ステージの使い方によって照明とかスピーカーとかを固定するピラーなんだよ。
俺はおかしいと思ったんだ………」
良平さんは、さも人をバカにしたように言いました。
し…しまった。
そう言われてみれば確かにそうです。
ふつう公園のステージに、磔台なんてあるわけないんです。
ただ、わたしアニトさまのお誕生パーティーだっていうんで、
こりゃSM絡みだろうと思って、このあいだついつい「磔台」なんて言っちゃったんです。
「ばーか」
言われちゃいました。
あ、フェチっ娘さまも笑いをこらえてる……。
……ううぅぅぅぅーー………。
どうも今年も、わたしのおっちょこちょいは直りそうにありません。
皆さま、それに○○○公園の屋外ステージを設計した方、ごめんなさい。
ただ、救いというか、確かに設計した方は
これに人を縛りつけようとは考えていなかったでしょうけど、
でもこれはきっと立派に実用に耐えます。
なので、やっぱりこれは明日だけは「磔台」ということにしちゃいましょう。
たった今そう決めました。
「むぅ……これは明日だけ磔台なの」
「おまえなぁ……」
「いいの、幹事の権限でこの柱は明日のお昼から夕方まで、
照明とかの支えじゃなくて磔台。うん、もう決まり」
「幹事の権限って、そーいうもんなのか」
「うるさいなぁ……良平さんはしょせん幹事補佐なんだから、
幹事のゆーことに逆らうんじゃなぁい」
「おまえ由衣美のくせにナマイキだぞ。
俺はせっかくあれが磔台じゃないって発見してやったっていうのに」
「えー?あれはどう見ても磔台だよー。
たぶん明日集まった人たちに尋ねたら、
十人中六.八八人までがあれを磔台だって認めてくれると思うよ」
「なんだその変に細かい数字は?どっから出てきたんだよ」
「当社推計。
たぶん数値フェチっ娘さまは数値フェチなんだから、
この数字の根拠を明確に示してくれると思うよ。
ね?そうですよね?フェチっ娘さま?」
「…え? いきなりわたしに振るの………?」
何やら笑って会話を聞いていたフェチっ娘さまは、ちょっと狼狽。
うう、助けてくださいよぅ。
「うーん………まあ数字の根拠はわたしにも判らないけど、
でもあれが面白いことに使えそうだっていうのは、確かかもね」
おお。でもきちんと答えてくれました。
なんていい人なんだ。
「ほーらごらん良平さん。だからあれは磔台なのだ」
「おまえなー。
フェチっ娘さんはあれが磔台だなんてひとっ言も言ってないじゃねーか」
…しまった。確かにそうだ。
「ふふ……ぷっ……もぅ…」
あぅ、フェチっ娘さまに吹き出されちゃった。
「もう、笑われちゃったよぅ」
「ご、ごめんなさい……。悪気はなかったんだけど、つい。
……ほんとに、良平さんと由衣美さんと二人だと、
毎日が楽しいんだろうなぁって思ったら……」
「俺は毎日苦労してるんですよ。こいつの地ボケに」
「あー…ひどいなぁ。
おかしなことは良平さんの方がよっぽど考えてるじゃない」
それにわたしにだって色々苦労させてるくせに。
「そうなの?」
「そんなことないぞ。
少なくとも今はおまえの方が変なこと言ってたし」
「そうですよぅ。
『空想デート』でわたしが書いているおかしなことの半分は、
あれは良平さんが考えたことを、わたしの言葉で言ってるだけなんですよ。
なのになんだかそのせいで、最近だんだん由衣美のキャラクターは
”おかしなお姉ちゃん”で固定されつつあって……。
わたしはせめてアニトさまと皆さまの前では、
清純でけなげな乙女でいたいのに、みんな良平さんのせいだぁ……」
「ふ……語るに落ちたな。
半分は俺…ってことは残りの半分は、
おまえが自分で考えたおかしなことだっていうことじゃないか。
ふっふっふっ……フェチっ娘さんの前で
自分だけいいカッコをしようとしたうぬが不覚よ……」
そうか、考えてみたら3/4とかにしとけば良かったんだ。むむ……。
良平さん自分も変にカッコよく言おうとして、
いつのまにか白○三平の忍者みたいな口調になってます。
あぅぅ……なんだか大人の女性の前で、二人して子供なところを晒しちゃってるよぅ。
でも、皆さま、ステージ上には確かに「磔台」があります。「磔台」ですよ。
そこのところは明言しておきます。
よーし、こう言っておけば明日は十人中十人が
「あれは磔台だよね」って賛同してくれるでしょう。
====================
なんだか形勢が悪くなりそうだから、その前に話を戻します
(話をごまかしますとも言う)。
わたしたちはステージの前にちょっと陣取って、
会場の設営計画書を広げました。
だいたいのところは先程描写したんですが、
参考のために皆さまもご覧ください。


           <会場概略>         駐車場←
/−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−\
・        ジャングルジム   ブランコ      ・
・ 四阿       ●        ●        ・
・       
桜      桜      桜   トイレ・
・                            ・
・ 
 観            ・プロジェクター×2  ・
・ 
     □□□□□    ・          受付  →ホテルへの
・ 
 客  遊歩道==噴○水====遊歩道====公園入口   歩道橋
・ 
     □□□  ●                   
・   席      仮設トイレ(丸見え)        ・    名古屋駅
・       
更衣室&貸衣装  シャワー        ・     ↓
裏       
桜      桜      桜      ・
口          ●        ●        ・
・   藤棚 サッカーボールみたいの  雲梯       ・
\−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−/


 
印は各種屋台、及び食品類を乗せたテーブルです。
 このほかに各所に木とベンチがあります。
 また裏口付近には駐輪場が、入り口付近にはコイン駐車場がありますので、
 バイクや自転車、または自動車でいらっしゃる方はご利用ください。

はい、一部省略はありますが、だいたいこんな感じです。
概算ですけど、文字一マスが四メートルくらいでしょうか。
まあ広い公園ですから、見落としていることも色々あるかもしれませんね。
まわりは柵で囲っていますし、桜の枝影になっているので、
外からはまず見えないと思いますが、
さっきのホテルからならちょっと見えちゃうかも。
実際のところ、設営の準備はほとんどしてくださってるので、
今晩少しやって、あとは専門的なところは業者の人にお任せして
(例えば噴水の水を丸ごと入れ替えるとかですね)、
あとは明日の朝からの準備で間に合いそうです。
ほんとにありがたいなあ。
わたしたちはこれを見ながら、明日の配置やスケジュールなどを確認しました。
あ、パーティーのスケジュールはだいたいこんなものです。
まあ去年のものと、あまり代わり映えはしていませんが。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
☆当日プログラム。
 日時:平成13年3月○○日12時〜18時
 ・開会の言葉&進行役……フェチっ娘さま(ここは恒例)。
 ・バースデーケーキ登場・・・・みやむ〜さん
 ・代表者祝いの言葉・・・・・・・綾乃さん
 ・歓談と会食
  同時にプレゼントタイム。
 (ここまでは噴水広場がメインステージです。
  で、ここからは屋外ステージで行います)
 ・一芸披露
 ・ファッションショー&各種コンテスト。
 ・公開調教
 ・閉会の言葉
 ・記念撮影
終了後は三々五々解散。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−
☆あとスタッフ配置はこんな感じでしょうか。
○幹事(役立たず)・・・初瀬由衣美
○監督(兼賓客)・・・・数値フェチっ娘
○幹事補佐・・・・・・・上条良平
 (兼カメラ係兼会場ホスト兼雑用係兼連絡係)
○その他「空想デート」関係者より有志。
それぞれのプログラムを実行してくださる方、
つまり「代表者」や「一芸をお持ちの方」、
それに「ファッションモデル」さんなんかは、
いちおうの目算はありますけど明日集まってくださる方たちの中から、
自薦他薦問わずお任せすることになりました。
皆さまのご参加をお待ち申し上げます。

あ、良平さんはほんとうに今回は雑用係なので、
お集まりいただいた方たちは何でも申し付けてくださいね。
きっと美人の頼みなら、ほいほい喜んでしてくれますから。
……えーと、いちおう……「本番(下半身)のみ不可」ってことで、いいでしょうか。
お口までは、あー…許可します。
お尻関係は、あの…皆さま各自でお持ちのものをお使いください。
あの人は「一穴主義」なので。
…というか、わたしの気持ちのことを考えてだと思うんですけど。
あ、あとその気はないうえに、きっと似合わないので
女装をさせるのもやめておいてください。
これらの注意をお守りいただけば、
あとは良平さんのことは何でも、何にでもお使いいただいて構いません。
男手が必要なところや、その他男性がいた方がいい時には重宝だと思います。
まさかそんなときに、アニトさまや権太ちゃんを使うわけにはいきませんからね。
以上が良平さんの使用上の注意でした。

☆その他「空想デート」関係以外のスタッフ。
○屋台のおじさん(種類は色々)
○美容師のお姉さん
○スタイリストのお姉さん
こういった方々は、ちゃんと女装者に興味と理解がある人を
人選してくださったそうです。
だから皆さま安心してお付き合いしてくださいね。
☆その他スタッフでもないけど、いるかもしれない人。
○源太郎さん(本名不祥)

 ↑この方はこの○○○公園を根城にしているホームレスの方だそうです。
当日はいるかどうかは判らないのですが、
ちょっと清潔さには欠けるけれど、悪い方ではないらしいです。
四十歳くらいらしいですが、もうちょっと老けて見えるそうです。
もし当日いらっしゃって、皆さまがご不快なようでしたら
しばらくご退去いただくことにしましょう。
でもなんだか、権太ちゃんのお話とかを読んでると、ちょっと優しくしてあげたくなります。
その他、これといった問題はないようです。
まあ当日始まってみるまでは判りませんが。
「だいたいこんなところでしょうか……。
すみません、ほんとにここまで整えていただいて」
わたしは、というかわたしたちは頭を下げました
これでは当分数値フェチっ娘さまには頭が上がりません。
「いいのよ。それに実はわたしよりも、
アニトさんご本人の方が色々とノッてやってらっしゃったみたいだから、
お会いしたらあちらにお礼申し上げてね」
控えめな方だなぁ。
そうか、でもアニトさまにも改めてお礼申し上げないといけませんね。
お会いするのが楽しみです。
でもなんだか現地の様子を見て、ちょっとですけど不安はなくなりました。
あとは皆さまが来てくださって、喜んでくださるといいな。
色々遊んでくださるといいなって思います。
そしてそれで、あの優しくてサディストで、
人に喜んでもらうのが大好きなアニトさまが喜んでくれたら、
それが何よりのお誕生日プレゼントになるんじゃないかな、
わたしはそう思いました。
「……あした、いいパーティーになるといいな」
良平さんも同じようなことを考えていたみたいです。
呟くようにわたしにそう言いました。
「……うん、いいパーティーに、がんばってしようね」
わたしもそう答えます。
お世話になってるから、そして大好きだから、アニトさまに、
そして「空想デート」の皆さまに喜んでいただきたいなって、思いました。
フェチっ娘さまが、なんだかちょっと微笑んで、頷いてくれました。
===========================
不意に、微かに演歌のメロディが聞こえました。
”♪やだねったら、やだね♪”っていうやつです。
なんだろう……?
そう思ったらフェチっ娘さまは手にしていたポーチから携帯電話を取りだします。
お、503iだ。さすがiモード専門家だなぁ。
ボタンを押すと、メロディが停まります。着メロだったのか。
「はい、素内です」
朗らかだった表情が、一瞬で切れ者の美人秘書っていう感じに切り替わりました。
フェチっ娘さまは相手の方からの話を、一心に聞いています。
わたしたちに関係ないことなのかもしれないけど、でも明日のこととかかも。
そう思うと、ついつい何となく注視してしまいます。
それで話が聞こえるわけでもないのに。
「はい……わかりました。
まあ注意ができる性質のものじゃないですけど……
ええ、じゃ…失礼します」
けっこう長かった通話が切られ、携帯がしまわれました。
「由衣美さん……あなたたち確か、SFがけっこうお好きだったわよね?」
「え……はい、まあ…」
いきなりSFが好きだなんて……なんだろ。
フェチっ娘さまはその細い指をこめかみに当てて、
なんだかちょっと悩ましそうな表情をします。
大人の女性っていうのは、こういう表情が似合うのが羨ましいです。
「……あのね、ちょっとSF的な変なことが起きるかもしれないって……。
航空宇○研究所とスーパーカミ○カンデ……
えっと、ニュートリノの研究機関だっけ……そこのデータがおかしいんだって」
「スーパーカミオ○ンデ………?」
良平さんも眉をひそめました。
なんだか「空想デート」とは物凄くかけ離れた単語だなぁ。
「ええ、どうもデータを総合的に勘案すると、
あしたの日本時間で午後二時十二分プラスマイナス約三分、
推定位置はだいたい北緯三十五度十分、東経百三十五度五十八分……
つまりこの名古屋市にね……」
「な…何か起こるんですか?」
「えっとね…二ヶ所のある時代ある場所に存在するはずの物体が、
時空の乱れにはね飛ばされて明日この場所に出現するかも……だって」
「二ヶ所………って……
つまり他の時代から何かが二つ飛んでくるっていうことですか?」
それって大変なことなんじゃないかなぁ。
「そう、いわゆるタイムスリップね」
「でも何でいきなり二ヶ所から……?
そんなことが起きる確率はものすごく小さいし、
二つ同時に、しかも同じ場所で起きるなんていったら……」
良平さんが驚くのももっともです。わたしもびっくりしました。
「天文学的な小さい確率、だよね……」
「うーん……わたしにもよく解らないけど……
次元の対称性が関係しているみたい。
ほら、ほとんどの事象は対になって発生するっていう。
つまり二つの時代から何かが飛んできて、
そしてこの時代のこの場所でぽん……とぶつかって……」
そう言いながら、両手を顔の前で打ち合わせました。
そして跳ね返るみたいにまた両手を離していきます。
「そしてまた元の時代の元の場所に戻っていくみたい。
次元の対称性が、自らの歪みを自動修復するんでしょうね。
相対論的に時間と空間が同じものだっていうのはよく聞くわよね。
その積が等しい……つまり近い時代の遠い場所と、遠い時代の近い場所から
それぞれ約二人分の質量が飛んでくるらしいわ。
まあそれは出現するだけで、
なんの被害ももたらさないで元の時代に帰っていくらしいけど……」
「あ、被害は無いんですか……良かったぁ……」
「ええ、どうやらミ○ルが墜落するショックで空間が歪んで、
そこに引き寄せられたみたいね。
あ、別に名古屋に落ちたわけじゃないんだけど。
細かいところは判らないけど計算の結果、西暦2075年のどこかの基地と……
それから戦国時代の日本……この二ヶ所から、
二人分の質量がタイムスリップしてきて、そしてまた帰ってゆく……。
明日そういう小さな奇跡が起きるっていうことしか、今は判らないけど」
そこまで判っただけでも、すごいことのような気がするんだけど。
そうかぁ。○ールが墜落すると、そんなことが起こっちゃうんだ。
でも「どこかの基地」っていったい…。
それに戦国時代から二人来るっていうのも…。
「まあ頭を殴られただけでアーサー王宮廷にタイムスリップした人もいたらしいし、
けっこうよくあることなのかもね」
そうなんですか。
えーと、話を整理しましょう。
明日パーティーの開催時間中に、名古屋市の辺りにそれぞれ別の時代から
「人間二人分くらいの質量」×2がタイムスリップしてきて、
で数時間滞在したあと、また元の時代に帰っていくということです。
あ、量子論的な相克が起こるとかなんとかで、
別に実際に二つの時代から来た物体が、ぶつかって跳ね返る必要はないそうです。
なんだかそれぞれが光と小さな爆発とともに現れて、
そして陽炎が消えるように帰っていく確率が高いそうです。
あ、もしかしたら「三人分くらいの質量」になる可能性も否定できない、
ということです。
いったいどんなことが起こってしまうんでしょう。
神ならぬ身のわたしには、さっぱりわかりませんが。
やっぱり宇宙開発って、こういう不思議なことも起こるんですねぇ。
恐るべし、ミー○。
そして、いきなりタイムスリップの舞台になるとは、
さすがにタイムボ○ンのテーマソングを歌っていた歌手の出身地だけのことはあります。
恐るべし、名古屋。





由衣美 (3月10日(土)14時33分44秒)
なんだか不思議なことが起きるらしいっていうのが判りました。
わたしとしてはパーティーに悪影響が出ないことを祈るばかりです。
何か良い影響があるのなら、それはそれで大歓迎なんですけど。
さて、ここまで準備していただいたら、
今日のところはあとはそれほどやることは残っていません。
トレーラーを公園に持ち込むのは明日になってからだし、
さっきも言ったように大掛かりなことは業者さんにお願いしたみたいですから。
夕暮れになって、公園ももうひとけが少なくなりました。
わたしたちはもう一度公園の中を回って、明日の注意点などをちょっとだけ話し合い、
それからホテルに帰ることにしました。
桜のピンクの花が、夕焼けに赤く染まっています。
春の夕暮れの公園に、桜の花びらが少しだけ散り始めているのは、
とってもロマンティックな風景で、わたしは何となく、思わず……
それとなく、隣を歩いている良平さんの手に、わたしの手を重ねてしまいました。
ちょっとだけまだ冷たい空気の中で、良平さんの手はとっても温かで、
そしてわたしの手を優しく握り返してくれました。
ちょっとだけ視線が合って、つい二人ともぷいっと逸らしてしまいます。
だって、やっぱりなんだか照れ臭いから。
こんな見知らぬ土地で、男と女として手を繋いでいるなんて、
なんだか隠す必要がないのが、嬉しいのに恥ずかしいんです。
「あした、天気だといいな」
視線を合わせないで、良平さんが言いました。
「…そうだね」
わたしはそれをいいことに、良平さんの横顔を見て応えます。
「楽しいといいな、集まってくれるみんなが」
良平さんが、わたしの方を見てくれて言います。
「……うん」
なんだかそれだけで、ちょっと切なくなるような疼きを感じて応えます。
良平さんは彼には直接関係がないことなのに、
わたしのために明日はいろんな苦労をしてくれるんです。
…もしかしたら、その…きれいな女装っ娘さんたちと
ちょっとは遊びたいのかもしれないけど。
……もしかしたら、ちょっとじゃないかもしれないけど。
でも、良平さんは優しくて、
わたしと同じように明日のパーティーの成功を祈ってくれてる。
わたしはそれを感じられました。
その顔が夕陽に照らされて、とってもまぶしく見えました。
「……もしかして、おじゃま?」
数値フェチっ娘さまが不意に尋ねました。
ちょっと、呆れられてるみたいです。
「あっ…いえっ……別にそんなこと……」
なんだか、そのつもりはなかったのに、別の世界に行ってたみたいです。
わたしたちは慌てて手を振りほどきました。
なんだか、すっごく恥ずかしいです。
フェチっ娘さまはまだ呆れつつ、でもとっても優しく微笑みます。
「明日もその調子で、仲良くがんばってくださいね。良平さんも由衣美さんも」
「あ…はいっ。がんばりますっ」
わたしにはそりゃ、がんばる以外のことはできないかもしれないけど、
でもそれでも、がんばってればきっとなんとかなります。
だって良平さんが一緒なんだもん。
それに「空想デート」の、まだ見ぬ皆さまが一緒だし、
そしてアニト様が一緒なんだから、
だからぜったいにだいじょうぶです。そう思えます。
「あー……ちゃんと注意しながらがんばれよ。
おまえががんばると、ぜったいになんかポカするんだから」
「もー良平さん、なんでそう水を差すかなぁ……」
またフェチっ娘さまに笑われちゃってます。
もう……。
ちゃんと優しい瞳で言ってくれてなかったら、怒っちゃうところです。
ちょっとにらみ付けると、良平さんはそれに押されたのかそれとも照れたのか、
少しだけ目を逸らしました。
そして、あれ?という表情になりました。
それに釣られてわたしも見ると、
桜の木立の暮れかけた薄桃色の向こうを、一人の女性が歩いています。
なんだがちょっと辺りを見回しながら、でもわたしみたいに
あっちをキョロキョロこっちをキョロキョロっていうんじゃなくって、ゆっくりと歩いています。
薄闇の中の桜と、その女性の優しく淑やかな動きが調和して、とても絵になっていました。
そのきれいな女性の、深みのある澄んだ瞳が、わたしたちの視線と合わせられました。
その人は嬉しそうに、にっこりと微笑みました。

<つづく>   ………というか続けさせてください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
さあこの女性は誰なのか??
もしかしてこれをご覧のあなた、そうそこのあなたかもしれません。
そのつもりで、姿かたちに関する描写をしてないでしょ?
ほら、今回のを読んで、
「なんだか心配……あの子が幹事じゃ。
やっぱり前日に行って、なんかお手伝いしたほうがいいんじゃないかなぁ…」
とか思ったでしょ。
そう思ってくださったのなら、
お早めに掲示板かフェチっ娘さままでご連絡ください。
それだけであの美人はあなたです。
あの女性役で出ていただいた場合、以後の扱いがやや良くなる他、
今晩のディナーという特典も付きます。
複数の場合抽選か、または描写自体を複数に書き直しますが、
もしも誰もいらっしゃらなかった場合は、
パーティー事務局サイドで勝手に決めさせていただきますのでご了承ください。




アニト (3月11日(日)23時11分49秒)
由衣美さん、ありがとう。
いただいたチョコレートは下半身のエネルギーへと変換しましたから
なんとか鼻血を出さずにすみました。
プログラムの配役は多少強引であっても指名して行っていいですよ。
誰もがほんとうは書きたくてウズウズしているのですから。
お忙しいでしょうが、進行を待っている人のためにも続きをお願いしますね。
それにしても絢爛豪華酒池肉林魑魅魍魎なパーティになりそうですね。

みなさんへ
いよいよ空想パーティが始まりました。
着て行く服をあれこれ悩む人、誘い合わせて来る人、
ドキドキしながら(ドタバタの者もいますが)新幹線に乗り込む者、
それぞれの個性が表われていて、とても魅力的な物語です。
空想パーティはどこから参加しても(書き出しても)いいですし、
お好きな部分を1話だけでもかまいません。
これまで『空想デート』を読むだけのあなた、
この機会にパーティに参加して見ませんか?。
物語の中では誰もが主役になることができますよ。

「Happy Birthday 2001」由衣美編 その2へ

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