(の)(9月6日(水)23時31分19秒)
<歴史の中での許されない嗜好>
瑠璃色の零戦(空想デート版改修作品)≫

正式名称 「零式艦上戦闘機 A6M」
一般的に”ゼロ戦”、と言った方が早いだろうか。
どちらにしても、この<読み物>の出だしに、
ピッタリと合っている・・・・筈がない。
どうして?なぜなら、この<読み物>は心に女性が住んでいる・・・・
そんなフェチストが主人公向きのサイトへの作品の筈なのだから。
ゼロ戦、戦時中も含め、公式書類上、
漢字の「零」をゼロとは読まない為、
正式には「零戦」(れいせん)と呼称される、
第二次大戦中の帝国 日本海軍の戦闘機・・・・
採算性重視の「商業誌」ではないのだから、
ゼロ戦についての諸元性能など、ダラダラと書いて
貴重なスペースを消耗するつもりは毛頭ない。
ましてゼロ戦と嗜好、どちらも、限られた条件の元で、極限の美を追求・・・・
などこじ付けようとは思わない。
今、西暦はミレニアムを刻み、人々は様々な平和を甘受し、
世界中に数機だけ残る「ゼロ戦」は、もはや「兵器」としてではなく、
趣味の対象として評価されるに過ぎなくなった。
多くの趣味の一つとして・・・・・多くの趣味、・・・・・・
平和という現象は、様々な「趣味」をこの世に生み出した。
人の数だけ趣味があるのか、趣味の数だけ人がいるのか・・・・・
人生を豊かにする筈の「趣味」に逆に人生を踏み外す事すら、
今では何の不思議もなくなっているのだから・・・・
だが、「零戦」という戦争兵器が大空を飛び交っていた時代、
人々の価値観は、ある目標に集約され、その目標を現実にする為に、
おおくの「趣味」はその存在を縮小、制約され、あるいは滅殺されていた。
今宵、舞台となるは
帝都の、とある演舞場。時期は、そう、昭和の18、9年とでもしておこう。
では、おつきあい願うとしよう。
けして幸福とは言う事の出来ない、ある時代、
「男」は、今以上に、そして無条件に男であらねばならなかった時代に、
心の中の異性を愛しみ、そして周囲の者に対しては、
無常の母性を持って生き抜いた、嗜好の共鳴者の物語に。
ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
「いょー、3代目ー!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
「亜丹藤屋〜!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
チョン、チョン、チョン、チヨン、チョン
ドンドコドコドン、ドドンドドンドン
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
いつまでも果てる事のない拍手の洪水を緞帳の向こうに全身で感じながら
板(舞台)を下りた艶やかな女形(おやま)に
「三代目〜お疲れ様でございましたぁ〜」
「お疲れ様でございましたぁ、若!たいそうよろしゅうございましたぁ」
『はい。はいはい、ありがとう、どうも、ありがとうね。』
満員の観客の割れんばかりの拍手に送られながら、
舞台の袖に戻ってきたのは
あでやかな十二単の姫君の衣装に身を包んだ歌舞伎役者。
美形女形(おやま)として当世の話題を集めていた、
あの亜丹藤の三代目、秋之助その人だった。
男とは思えない当代一の名女形「秋之助」、人気の秘密でもあろう、
裏方達にまで、舞台上と同じ笑顔で心安げに会釈しながら、
楽屋に戻りかけたその時
ヴウウウゥゥゥー、ヴウウゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥゥー、ウウウウゥゥゥゥゥー
<<<<<空襲警報、発令〜空襲警報発令〜、>>>>
<<<太平洋上○○方面より、敵B−29の数機編隊、進入、
非難せよ、ただちに非難せよ>>>
秋之助の妖艶なまでの舞台の余韻に浸っていた観客達は、
突然、氷水でも、ぶっかけられた様に我に返った。
空襲警報・・・敵国の爆撃機による帝都攻撃は、もはや定期便となり、
軍部による”諸演芸”の中止命令で、
最後の公演となったこの日も例外なくやってきたのだ。
「若、ここは危のうござんす。いざ、こちらへ。防空壕へ、ささ。」
小屋主、つまりこの演舞場のオーナーの言葉に、秋之助は
『ちょいとお待ちな!なぁ、小屋主さんよ。いつも、そう言ってんだろ。
アタシなんざ、一番シンガリで構いやしないんだよ。
お客様はどうなさってるんだ。え?お客様は!』
「わ、若、あんだけのお客さん、いくらなんでも・・・・」
『しゃらくせいや、この朴念仁!
いいか、その耳の穴かっぽじって良くお聞きな!
腐っても枯れても、この亜丹藤の三代目、
てえせつな(大切な)お客様を、ほっほり出して自分だけ助かろうなんざ、
これっぽっちも考えちゃいねぇんだよ。」
「は、ははぁ、ですけんど・・・若、、、、」
『だまんない!若もハッカもあるもんけぇ。
第一、このアタシが、そんな事しちまったら、
あたしが、あの世に行った時に、
戦地に散った二代目にどうやったら顔向けが出来るんだえ!
アタシしゃ、絶対にへえらねぇ、お客様の最後のお1人が、
チャンと防空壕にお入りいただてからなら、
喜んでご一緒させてもらおうじゃないか。」
あでやかな姫君の衣装、化粧の姿のまま、紅をさした秋之助の唇から、
威勢の良い、江戸っ子口調のタンカが飛び出す。
秋之助の、気持ちは百も承知、千も承知の小屋主だったが、
まさか、ハイそうですか。とも言う訳にはいかぬ。
すでに息子同然の二代目も、この世に無い、
どんなに叱られようとも、後には引けぬ。
やはり江戸っ子の気性ではあったのだ。
「そうかいそうかい、おい三代目!アンタの贔屓してて良かったよ!」
「はっ?おや、ご隠居、こりゃとんだ失礼を・・・いけませんですよ、早く避難・・・・」
見事な勘亭流で、「秋之助」と白抜かれた真紫の暖簾が、パッと捲りあがり、
ニュっとのぞいたのは、いかにも好々爺とした老人だった。
「避難なさって下さい」・・・
秋之助の言葉は、その老人に遮られた。
「なんの、こんな帝都のど真ん中まで、
敵の爆撃機が我が物顔で飛んでくるご時世だよ。
あんな穴倉で死んじまうくらいなら、、、
秋之助、ちょっとあたしに考えがあるんだがね。
お席亭も、ちょっと雁首貸してくれないか」
秋之助達に何か耳打ちをする老人、
そして一々相づちする秋之助の顔が、
水白粉の下からカッと晴れやかになるのが解った。
ますます高鳴る空襲警報、
近づいてくる爆発音の中、キンと静まりかえった演舞場。
あれだけの観客も、すでに避難してしまったのかと観客席を覗いてみると?!
何と満座、しかも立ち見が出る状態ではないか!
「とざい、東〜西、本日お越しのみなみなさまに、秋之助、見納めの舞台、
今生のお別れを込めて、ご披露させていただきます。」
チョーン、チヨーン、チョーン、チョ、、ン
ますます、大きくなる爆撃音を掻き消すような秋之助の熱演に、
客席から湧き起こる大喝采。
ありったけの紙ふぶきに迎えられながら、
花道を通り桧舞台で大見栄を切る秋之助の姿は、
誰の眼にも、さながら生死を超越した美しさを持った
「妖精」か「天女」の様な風情と官能を、惜しみなく与えていた。
読者諸兄には、誠に合い済まぬが、
無粋な作者は、その演目の題名すら知らぬ。
だがその板上で、あやなされる今生、最後かも知れぬ、
その秋之助の舞姿に心打たれる事だけは、お伝えが出来よう。
いつの間にか、爆撃も止み、
秋之助、益々演技に熱も入ろうかと言う、まさにその瞬間だった。
今、観客は総立ちになろうか、まさにその時
ガタ、バタッカッカッカッカッ
「公演中止!公演中止ー!ここの経営者は誰か?
挙国一致で国難に備えようという時節に、この乱稚気騒ぎは何かー!」
「憲兵」と書いて、「やぼ」と読ませる。
帝都のみならず、当時の国民の間に
流布されていたその言葉は間違ってはいなかった。
柿色の陸軍服の襟に「憲兵」を示す葬儀色、
水を打ったように静まり返る演舞場の中央通路に軍靴の音だけが響いた。
『ジークハイル!アハ、ツウンク!』
「????!!な、なんだ貴様ぁ!事もあろうに敵国語など。この非国民が!」
肩いからせた憲兵少尉は、突然のドラ声の発生者を見つけると恫喝した。
「ほほう、敵国語でしたかぁ、いやいや歳は取りたくありませんなぁ。
わしゃ、敵国語をしゃべっちまったか・・・・。いや勉強になった。
ところで少尉さんや、勉強ついでに教えてもらいたいんだがな。」
舞台の最前列からスッと立ち上がって、通る声でそう言ったのは
先程、秋之助の楽屋に現れた、あの老人だった。
「な、何を、このくそジジイが・・・言いたい事は憲兵隊詰め所で聞いてやる・・・」
「そうはいかんのじゃ。なぜなら少尉!下手するとな、
たった今、アンタさんを非国民として、
憲兵連隊に引き渡さにゃいかんのだからな。」
「ふ、ぶ、無礼者・・・・・キ、キサマ、何者だ、、、ジジイ」
「わしかい?わしゃ、ちょこちょこっと、船を動かして
食い扶持を頂いてるジジィじゃが・・それがどうした。
非国民のエセ少尉・・・・どの?
うん。それとも、その軍服は、どこぞの古着屋でくすねた来た偽者かの」
「キ、キキキ、キサマ、、、、船宿の隠居ジジイの分際で・・・・許さんぞ・・・」
「だまれー!
許さんのはコッチの方じゃ!
では聞くがの、帝国ではいつから、
出征する兵士の壮行会を禁止するようになったんじゃい?
それともうひとつ、帝国はいったい、いつから、
同盟国の独逸とも交戦する事になった!返答せい!」
「こ、、このジジイが!気でも違ったのか、
盟友”独逸”との交戦とか、壮行会の禁止など、帝国はしておらんわ。」
「たわけ者がー!、、、、であるならば、じゃ、
なぜ、壮行会の席上、透明濃くの独逸語で「勝利バンザイ」と。
そして出征する帝国海軍少尉の登場に「アハ、ツウンク」と
これも又独逸語で「気を付け」と言ったのが敵性語なんじゃ。
きさま、たしかにそう言ったではないか!
のう観客の皆さんもお聞きになったじゃろ?」
そうだそうだー
引っ込め、朴念仁。
憲兵徽章が泣くぞー。
「うっうぬぬぬぬぬ、、、、、」
「それだけじゃないわい!
壮行会が禁止されてないとするなら、それを邪魔するキサマは何じゃ!
タカリか、それでなかったら大ウツケ者かな」
「なんだと!ジジィ・・・・言わせておけば・・・」
「だまらんか!この三等憲兵の大ばか者。
この秋之助、恐れ多くも陛下の赤子として
明日より、帝国海軍航空隊に再任官されるんじゃい。」
「階級はな、オイ!この三等憲兵、きさまの肩に張り付いているのと同じじゃ。
もっとも中身は雲泥の差じゃがな。」
「うぬ、くそ、、、、ジジィ貴様、、、船宿の隠居ふぜいが、、、
おいジジイ!貴様の船宿の屋号はなんだ、、
場合によってはここにいる全員、逮捕してやる、、、」
「わっははははは、船宿のう。船宿か、教えてもいいが、お前の頭で解るかな。
何しろ”独逸”相手に戦争をやらかそうって唐変木に。」
「くそ、全員逮捕せい、、、抵抗するものがあれば撃・・・」
「衛兵!」
バタ、ハダッ、ドドドドド、カキ、カキ、コキ、カキ、
「おう?なんだ、どうして海軍の陸戦隊が、、、ジジィ貴様、いったい」
驚いたのは憲兵ばかりではない。
観客はもちろん舞台上の秋之助自身も唖然としてしまった。
突然、演舞場すべてのドアが押し開かれ、
陸戦装備の海軍兵士が鈴なりになっていたのだから。
「ふむ、国民の、こんなささやかな楽しみさえ守ってやれぬ小さな船宿じゃがな、
教えてやろう、屋号はな<連合艦隊>っちゅうんじゃが、
お前さん知らんじゃろ。
わしの乗るちっぽけな船は<大和>って言うらしいがな。」
「<連合艦隊>・・・・・オヤジ・・・・・・・・・長官!・・・・・・」
どうなる事かと、固唾を飲んで身を縮めていた観客、
短い間をおいて沸き上がった歓声の中、
興奮して赤鬼のようになっていた憲兵隊の顔色が一瞬にして、蒼白になった。
「もっとも、正式な任官は明日、0800からじゃ。
今はただの地方人じゃから、ホレ、憲兵隊でも陸軍省でも、
どこでも連行してくれて構わんぞ。」
すでに好々爺とした雰囲気の消え去ったその老人は、一息ついて
「その替り、お前さんが、陸軍があれほど哀願して締結された同盟国
”独逸”と戦争をすると、地方人を先導した事、
わしゃ全部報告してやるわい。どうじゃ!」
「ふむ、あう、、ううぅぅううう、、、」
「こんな場所で弱いものイジメをして、
憲兵の無知をさらしている暇が、あんたらにあるか?・・・失せろ!」
観客の失笑と罵倒にさらされながら、
ほうほうの体で尻尾をまいて逃出す憲兵隊・・・・・
その夜、帝都のステイションを隠れるようにして発車する最終の汽車。
すべての見送りを遠慮し、その汽車に静かに腰掛けていた秋之助の手には
薄っぺらな「招集令状」が握り締められていた。
{水無月昭博(みなづき、あきひろ)}
秋之助の本名が墨痕も黒々と書かれた薄桃色のブーブー紙は、
例外なく秋之助にも届いていたのだ。
当時まだ二代目も健在で、しかも戦線がこのように劣悪な状態になる以前、
秋之助は一度、海軍にその席を置いていた。
任地は当時住み慣れた、海軍の航空隊である。
日々、悪化する戦況は、「航空艦隊」の要である空母を失い、
必然、秋之助の配属された部隊も、
本土防衛が主要任務となっていたのだが。
二回目の千年紀を迎えた現代では、
若葉マークを付けた婦女子が駆ける自家用車ですら、
もっと馬力があるかも知れない・・
だが、当時としては唯一無二の兵器「零戦」にすがらざる
を得ない国情を背景に、秋之助の配置された部隊も苦戦を強いられ、
ついに・・・・・・・。
「ルノツ、ヲ者望希加参ノヘ隊撃攻別特」
→右から読む!
あくまでも「募集」であり、どこまでも「本人の意志」によるものである。
姑息極まる形式上は・・・・・・・・
片道分だけの燃料、軽量化の為、
台座からザックリと取り払らわれた翼内の20mm機銃、
もはや「戦闘機」ではない、不思議な空を飛ぶだけの機械・・・・・・
ドダン!
「司令!なぜ、自分が搭乗割りから外されるんでしょうか!
直援ならいざ知らず「戦果確認飛行」とは納得がまいりません。」
執務机に叩き付けられる拳、ドアの外に立つ衛兵が思わず銃把を掴み直す。
「三代目、気持ちは解る、、、、だがな、、、、」
「ご理解いただけるなら、なぜ?」
「良く聞け。三代目。こりゃオヤシの意向だ、
だがオレもオヤジに同感なんだ。いいか!」
「・・・・・・・オヤジ、、、、長官の、、、」
「この戦争、間違いなく負ける。それも早い時機に。
それは貴様にも理解出来ている筈だ。そうだな。」
「はい、、、、あっ、いいや。けして、そんな、、、、、皇国は、、、」
「無理せんで良い。オヤジもオレも、
出来るならこんな「特別攻撃」など、貴様らにさせたくはない。
だが、、、、、こんな事、言うのはなんだが
オレ達は、その後お調子者の世間知らずな陸軍が始めた、
この戦の、その後を考えているんだ。」
「責任は必ず取る。
いいか三代目!これは命令であると同時に、オレ達の願いだ。
三代目こと、海軍中尉、水無月昭博(みなづき、あきひろ)}
戦果確認機への搭乗を命ずる。
作戦に対する変更は一切認めない。以上!下がれ。」
司令室を出た秋之助は、その足で資材庫から格納庫に廻っていた。
いったい何を・・・・?
「明日、1日、作戦参加の飛行兵に休暇を与える。
家族、知人と過ごすも良し。行動は自由である。
ただし定刻までに帰隊の事、なお、明日は10:00より劇団の慰問がある。
三代目は本日、13:00より、そちらを手伝ってくれ。」
(こんな時に何が「慰問」の手伝いだ・・・・)
心中、そう思いながらも秋之助は、
指定された刻限ギリギリまで、整備要員達と、?
不思議な事に資材庫の要員を集めて格納庫の隅で何かをしていた
・・・・なにかを。
「三代目〜、こっちは俺達だけでダイジョブだぞ。
貴様の気持ちは良く解った。
必ず明日の朝までに間に合わせてやっから。な!なぁみんな?」
「そうだそうだ、三代目。餅は餅屋って言うやないか。
正直、アンタはんみたいなシロウトにうろうろされてたら、
時間、なんぼあったかて足らへん。
大道具の仕事に、役者が口出しせんといてや〜。」
「うまいコト言うな〜。それ三代目よう、あのトラック、慰問の劇団と違うのかい。
『秋之助一座』って、派手なノボリ立てて・・・・」
「え?・・・」
整備員達の言葉に秋之助は見た。
衛門を通り、砂埃をあげて滑走路を横切って、
こちらに来る蒼色のトラックに、はばたくノボリを。
そして荷台から千切れんばかりに手を振っている座員達の懐かしい顔を。
「若〜!!!!!!お元気そうで〜!!!」
船宿のオヤジは、小屋(舞台)を失い、
憲兵隊に眼を付けられてしまった「秋之助一座」をすかさず、
連合艦隊の指定慰問団に認定し、専属の運転手とトラックまで与え
全国の海軍施設を巡回させていたのた。
秋之助には絶対に秘密、と言う条件を出して。
滑走路のかたわらに急ごしらえの舞台が作られる。
人手はあった。いくら休暇を貰ったところで、
親類縁者など日帰り出来る近距離にいない者ばかりで、
する事にない特攻隊員達にとって、かっこうの気分転換でもあったのだ。
「すまん。恩に着る。この通り!」
「よしてくれよ三代目。
そんな水臭い、オレ達はみんな、アンタの贔屓筋なんだからよ。」
「来たねえ贔屓だな、おい。
それだけじゃない、アンタが提案してくれた「こいつ」・・・・・・・・
おれ達、感激したんだよ。三代目。安心して手伝ってきな。」
船宿のオヤジの「粋」なはからい・・・・・
しかし、それを知った秋之助に、驚く暇はなかった。
秋之助の手伝い事、、、それは秋之助しか出来なかった、
ゆるやかな夕暮れは、去りがたく
足踏みしている真昼の陽射しを優しく下手(しもて)へと導く。
この基地には、こんなに人がいたのか、そう驚かされる程の人数が、
灯火管制に沈む滑走路の片隅に浮かび上がる架設舞台を取り囲んでいた。
色物と呼ばれる「お笑い漫才」、「手品」、
どんなわずかなジョークでも一言も逃さず爆笑と拍手が巻き起こる・・・・・・・
巡回慰問に慣れた秋之助一座は、
その喝采が死線の狭間に生きる者たちに共通する力強さである事を、
いつ頃からか感じていた。
今まではトリであった、お笑いの寸劇。だが今夜だけは違った。
「おまたせいたしました〜。
ただいまより、当、秋之助一座、座長によります、特別公演、
どうぞお楽しみのほど〜」
”女形”秋之助の登場に、
沸き上がった喝采と歓声は一瞬にして星空に吸い込まれていった。
舞えば蝶、微笑むは華、、、まさに妖艶、まさに艶やか、
戦時の事で豪華な衣装は望むべくもないが、
女形としての素質と、秋之助の内なる女神が
おしみなく舞台から発散てしてくる。
汗臭い男所帯に咲く一輪の花、
油染みた白い整備服の、航空服の、あるいは上半身スッパダカの、
思い思いの格好の観客達はただ秋之助に見入っていた・・・・・・
「最後まで御鑑賞いただき誠にありがとう存じました。
秋之助一座、これをもちまして本日の公演、演目打ち止めでございます〜」
「三代目〜ありがうよう〜
おっかぁ・・・・・・・・「丈夫なガキ産んでくれよぅ〜
「亜丹藤屋〜忘れないぞう〜
俺、がんばるから・・・・「おっかぁ・・・・・
「千両役者〜
○○子〜・・・・・・・・俺なんか忘れて幸せになれよ〜
歓声・・・それだけではない、喝采・・・・・だが秋之助自身にだけではない。
言葉に出す事を、堅く戒しめていた、若き武士(もののふ)は
舞い踊る秋之助の姿に心の中に封じ込めていた母親に、
妻に、婚約者に対する、思慕を噴出させていた。
愛しき妻に・・・年老いた母に・・・・残した婚約者に・・・・・・
伝えたい、残したい、だか封殺しなければならなかった様々な思いが、
秋之助への声援を通して、噴出しているのを
秋之助はしっかりと感じとっていた。
その宴は、「軍」と言う役所が眼をつぶる事の出来る限界まで、
何度も何度もアンコールされた。
不思議な事に海軍でも、特に規律の厳しい事で有名な筈のその航空隊は、
その日に限って、当直士官達は、その日付が翌日を知らせても尚、
雑務に忙殺されて消灯時間のチェッチなど忘れていた。
情けを知る朝日も、ゆっくりと昇り、
滑走路に並ぶ零戦に駆け寄る武士の姿を照らし出した。
「お!」
「え?」
「ど、どうして・・・」
≪ザザッ、、、各搭乗員は速やかに搭乗せよ・・・・ザザザザザ
我、直援機と共に上空にあり。四方に敵影なし・・・ザザザザザ≫
通じの悪い空中無線から流れ出す秋之助の声に急かせされるように、
パイロット達は驚きを飲み込んだまま、めいめい零銭のコクピットに身を沈める。
≪ザ、各搭乗員は、離陸前に、ザザザザ指定されたる固定金具を装着せよ。≫
「帽ふれ〜」
「ばんざ〜い・・・・・ばんざ〜い・・・・・」
一機、また一機、滑走路を離れる零戦達、
整備兵達は若きパイロットの驚きの理由を知っていた。
彼らの座席には、すでに無用の長物とされ
薬にもならない「大和魂」と引き換えに
廃止同然だったパラシュートが全機に装備されていた事を。
≪ジャザザザ、飛行中の全飛行機に告ぐ、これより通達する事を厳守せよ。
各操縦士は、、、計器盤の隅にある命令書を読みザザザザ、これに従え。
くりかえす・・・・・≫
数分後、飛行中の零戦のコックピットに軽い衝撃が走った。
それは、まだ墨痕も乾ききらない黒墨で書かれた一言とならんで
舞台用の京紅で走り書きされた、一言によって。
犬死する事、相成らん。生きよ。
これは上官命令である。
生きなさい。明日の祖国の為に。愛する者の為に。
あなたの愛すべき者の代理人
そして、その便箋の片隅に刻印された
紅の色も鮮やかな唇の形、、、キスマーク、、、
≪我、これより貴官の戦果を確認する為に同行す。
各飛行機は、命令に従い戦果をあげる事を信ずる・・・・≫
きゆうぅぅぅうううぅぅぅん
はるか上空を飛行していた零戦が一機、
特別攻撃隊の編隊に機首をむけた。
ぐうおうぅぅぅううううぅぅぅうんんんんん
「あああ!」
「おう、ううう?!」
飛行進路の直前を遮るように急降下する零戦、
それは耳慣れた「栄」発動機の快調な爆音と共に近づいた、が・・・・・・・
その零戦は、戦闘の為の衣を否定し、濃緑色であるべき機体上部を、
まるで狩猟期の夕焼け空のような瑠璃色に塗装されているではないか。
これではまるで敵に対して
<俺を目標にしろ。>
と、宣言しているようなものではないか。
弟同然の、離陸が精一杯の未熟な搭乗員達に、
自らが盾にたっての「戦果確認」
それが秋之助の選択出来えた唯一の方法だったのだ。
そしてキャノピーを全開にした、
その瑠璃色の零銭のコクピットに眼をやった特攻隊員達は我が眼を疑った。
飛行帽こそ被っているものの、三代目の顔は、
昨夜、彼等が心を奪われた
あの舞台の上の名女形の化粧にいろどられていたのだから。
≪ザザッ宛、飛行中の、全飛行機に通達・・・ザザッ敵起動部隊を確認・・・・≫
突然、無線機から飛び出してきたその報告に
<三代目に打電!我、特攻指揮官機、我、これより敵機動部隊に突入す。>
<三代目のご好意に感謝するも、我{二代目}に”緞帳用”の資材をお届けにあがる>
<三代目に打電!我、二番機、三代目の熱演、マブタにあり、
その心情、我が胸にいだきこれより突入す。>
<我、三番機、我、二代目の緞帳の一片となりや>
<大ばか野郎ー、そんな為にパラシュートを搭載させたんじゃない!>
絶叫を堪え噛み締めた、秋之助の唇から一筋、
まるで唇が溶けたような一筋が流れ、
飛行服の襟にまいた純白のマフラーに
一輪の薔薇になって、伝わり落ちた。
「うおるらああぁぁぁぁああぁぁぁ」
「ガウウ゜オ゛オ゛ヴヴヴウウウウゥゥゥウウウウンンン」
ステック(操縦管)を押し倒す秋之助、
ごうごうと排気管から吐き出される炎と黒煙瑠璃色の零戦は、
僚機に肉薄する敵機に機首を向けていた。
映画、観劇、音楽、読書、さまざまな趣味、
しかし、外部から受け入れる「趣味」は、
その存在にいかなる制約が与えられても、
まだ個々の愛好者の努力によりかろうじて生き残る事が出来たろうが、
問答無用、発見、露見イコール”非国民”
”キチガイ””廃人”、戦地であれば、発見、即、銃殺、、、、、、。
そのような劣悪の中、内なる叫びに真摯に従おうとする者は、
史跡の上にその姿を認める事は出来ない。
ただ、瑠璃色の零銭の記録以外には・・・・・・

<読み切り>
某、これは過去に、恐らくみなさんの知らない「ミリタリーサイト」に
(の)が投稿したものにこちら用に、加筆修正した作品です。
一作目であり、この作品ではまだ、性の交わりは一切描いておりません。
しかし嗜好のフェチサイトに零銭なんか誰が出すのかね・・・
(の)はそんな奴なのです。




アニト(9月7日(木)23時24分02秒)
(の)=いわきのぞみさん、こんばんは。
『空想デート』のための改修をありがとうございます。
さすがですねー、文体や物語づくりの巧さは言うに及ばず、
そうとうなマニアとお見受けしました。
江戸っ子気質の女形の心意気にのぞみさんを重ね合わせてしまうのは
わたしだけではないでしょう。
多方面にわたってのご活躍、見届けさせていただきます。




(の)(−−;;;(9月8日(金)10時33分27秒)
カニ喰い娘の(うらやましい)
あ・や・の・・・・さん、、、、
定住ってね、、、あっちのBBS読んでても、まだ、そう言うかね・・・
いっぺん「小説通り」のオシオキだね・・・
どれがいいか出張から帰ったら選択しといてちょ。
おいらの作品、たいがいは、どこかしら『実践済み』だから。
あううううぅぅネタ切れだ・・・・
かと言って「スカトロ」と「カムバリズム」はキライだし、
古典に填まれば取り止めなくなっちゃうし、、、
『妖霧の源氏物語』なんか、長編なんてなまやさしいもんじゃないし
あとは『大奥、淫猫忌憚』・・・ありゃ怪談すぎる・・・
『くの一、お庭衆』・・・当たり前すぎた・・全部、没!!!!!!!
あああ、おいら、どこで何を愚痴ってんだ・・・帰ろ・・・・




アニト(9月8日(金)23時27分32秒)
(の)=いわきのぞみさん、こんばんは。
『空想デート』でしか読めない物語を歓迎いたします。
もちろん『空想デート』の趣旨に沿った上でのことです。
今回の≪瑠璃色の零戦≫は「空想デート版改修作品」、
主人公が「女形」であったことでセーフっ!です。
綾乃がご迷惑なことを言い、申し訳ありません。
あっと驚くような新作を期待しています。(あっ、わたしもだ)

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