拉致監禁の檻
物語の背景
作:Gia
世の中はゆっくりと歪み、ゆっくりと侵蝕されていった。
そう遠くない未来。
最初の兆しは空からの飛来物にある。
その年は世界各国で妙な飛行物体(ある人はそれをUFOとよび、
ある人は隕石、ある人は霊魂だと言う)の発見・告発が相次いだ。
各国の政府はその存在を認知せず、低俗なマスコミとオカルト集団、
そして市民の噂だけが先行していった。
異常現象、地球外生物との遭遇、集団神隠しといった怪情報が
ネットで飛び交い、一時的な熱狂が渦巻くなか、
そこは世の常、当初世界のお茶の間を賑わせていたネタも
月日を追うなかで徐々に影を潜め、そして忘れ去られていく。
不可思議な現象は少なくなり、世の中は平穏を取り戻したかのように見えた。
それから数年後。
今度はより現実的なものが世界を震撼させた。
未知のウイルスの大量発生、そして急速な広がりである。
今まで見たことの無いような、その数多なる微小な悪魔は
世界を覆い、人々を恐怖のどん底に陥れた。
全種類のウイルスにおいて、共通して見られる特徴がある。
それはより年齢の高い者に異常なほどの感染率・発病率があり、
二十代の後半から三十台の前半において、致死率がほぼ100%に
なること。男女の死亡率の差が桁外れであり、男は世界の全男性人口の
約95%が死亡。女性は遥か下の40%前後に留まった。
(もっとも、二十代の後半になれば女性の死亡率も飛躍的に伸びて
ほぼ100%になるので、25歳〜30歳では男女の死亡率が拮抗する)
人類の存亡をかけて、ワクチンの研究が急がれた・・・かのように見えたが、
技術的な問題ではなく上層部からの圧力によって頓挫。
人口の急速な減少を受けて、物流の停滞、文化の後退、社会の荒廃が
起きると思われた・・・が、なぜか起こらなかった。
物流は滞りなく行われ、社会は暗い沈黙のともに平穏な状態を保った。
世界はすでに狂っていた。