ＴＳＵＫＩＹＯ　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　作：テンちゃん 　
　　　
　今宵は半月でせうか、、、欠けたやうな半月でせうか、、

おやおや、また誰か連れて来られたやうですねえ、、、
前に灯りのついた白い箱におなごが４〜５人、、、その中
に男が１人。ぶるるん、ぶるるんとやって来たやうです。
　近ごろは便利なものも出来たんだねえ、とたまに会う仲
間と話したりもします。

　そりゃね、昔は『こんくり』なんてなかったですからね
、ここらの川沿いには『船付き場』なんてありましてねえ
。祭の時分になるとボウボウと生えたアシの草のあいだか
ら「あちきと遊んでかなぁい？、、あちきと遊んでぇ」な
んて椿やユリの花の薄着物のおなご達がきっぷのいい若旦
那あいてにしてたもんですよ。

　おお。そうこうしてる内に土手の茂みの方でせうか。男
が変わった髪色のおなごから着物をはぎ取られたやうです
。見たこともない青い紐でしばられて、、
　いやね、あとで仲間から聞いたんですがアレは『びにい
るていぷ』というものだそうで。
　わたしはここから動くことが出来ないんで大体見る位置
は決まってるんですがね、こうして月の出る刻になるとボ
ウボウと生えたアシの草のあいだから、もう随分と長いこ
と見てきましたよ。

　時代の流れでせうか。今はおなごの方からああして男を
連れ込む方が多いやうでして、、ボウボウと生えたアシの
草のせいでせうか。妖しく光る半月がそうさせるのでせう
か。見たところ、しゃん、しゃん、と祭ばやしの音がした
あの頃の『月』と変わってないやうですがねえ、、、

　さあさあ、始まったやうですよ。おなごが上に乗ったや
うです。昔は四十八手なんてありましたがねえ、この体位
でやる者なんてトンと『見なかった』んですがねえ。
　あなた、この頃は面白いんですよ。イヤがる男に無理矢
理にね、上に乗るんですよ。月に照らされたおなごの裸体
がポワンと浮いたやうになりましてねえ、、、
　昔だったらね、男を縛るなんて打ち首もんですよ。それ
がね、今ではああですからねえ。
　男が弱くなったんでせうか。おなごが強くなったんでせ
うか。わたしには判らないけどもボウボウと生えたアシの
草のあいだで襲われてるのは男に相違ないやうで。

　なんだい！？邪魔だねえ。いえね、このころになるとわ
たしの仲間もユラユラと出てきましてねえ。まったく、、
自分の『居場所』ってもんがあるでしょうに。
　あぁ！あんな腰を使われたんじゃタマらないでしょうね
え、、泣いているのでせうか。情けないもんだねえ。
　喋れたらねえ、あの男に言いたいですよ。ここいらはね
、泣き叫んでも誰も来やしませんよ。ってねえ。

　わたしもね、そりゃ若い頃は遊んだもんですよ。ただね
、それが女房にバレちまってねえ。女房って言ってもアレ
ですよ、随分と昔ですからねえ、１８ぐらいでせうか。考
えるとね、額のあたりがガンガン痛むんですよ。
　だからあんまり考えないやうにしてるんですがねえ。こ
ういうのを見てるとね、額のあたりがね、痛むんですよ。

　ほれほれ、こっちは交代したやうですね。しかしイヤで
すねぇ。あの『漢字』をどうにかしてもらいたいんですが
ねえ。『特攻女狐薔薇云連合』とか、ちょうどね、なんて
いうんですか、白装束でせうか、書いてるんですよねえ。
　わたしたちにとってどうも『お経』みたいでしてね。な
んだか体がブルブルしてくるんですよ。ほんとにやめても
らいたいんですがねぇ。
　男は３回ほどヤられたやうですね。まだまだそんなもん
じゃ足りないでしょうとも。そうそう、そうやって上に乗
っかりなさい。まだまだ夜は長いですからねえ。

　わたし？わたしが誰かって？、まあまあ焦りなさんな。
さっきの続きですけどねぇ、、半狂乱になったおみつ、あ
あ、これは女房の名前ですけどねえ。数人の下宿人のおな
ご達ね、ちょうどこのあたりに連れ込まれましてねえ。　
まぁ、、、、今の男のやうにヤられた訳ですよ。
　ボウボウと生えたアシの草のあいだで何人も何人も入れ
替わり立ち代わりわたしを犯しましてねえ。
　
　ただねえ、あなた、その後がヒドいんですよ。女房の持
ってきた、ほら、よく畑で使う『鎌』ってあるじゃないで
すか。立つことも出来ないわたしにね、、ぶわんっ、とき
ましてねえ。あの時の女房の顔はスゴかったねぇ。
　ちょうど今宵のやうな『半月』でしたかねえ。

　この男もそこまでされるんでせうか。これからがね、見
物ってやつですよ。ここから動くことは出来ないけどねえ
、あなた、これはこれで楽しいもんですよ。
　おやおや、また誰か連れて来られたやうですよ、、、

　今宵は半月でせうか、、欠けたやうな半月でせうか、、
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終　

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