私は21歳以上です。



      カリスマ

                        作:テンちゃん  
その6

 第5試合  『美しき姉妹愛』


 「、、、大丈夫よ、離しても、、、、、、ほら、いらっ
しゃい、、、、そんな大口たたけなくしてあげるわ、、」

 ナミは男を抑えつけている弟子にウインクしてみせると
紳士的?にロープをあけてやり男を招き入れようとした。

 そんな態度をみせられた男、テツヤは「ケッ!」と苦い
顔をし、ナミが開けたロープをくぐりながらユウナに「よ
ぅ!」と手を上げる。それに「ヨゥ!」とカワいくピョコ
と答えるユウナ。

 その時、一瞬背後を見せた彼をナミは見逃さなかった。
 
 テツヤの後頭部にムチのような蹴りを入れるナミ。

 「、、ッテ〜!、、、何しやがんだぁ!、、」

 と、ナミの方を向いた彼の背中にユウナの『ジャンピン
グニーパット』がキマる。

 「!!!、、っくっ、、は、、っく、、」

 ナミは息が詰まった彼に素早く『卍固め』をかける。

 「、、、、どぅ?、、、キモチイイでしょう?、、」

 が、まだ力が充分あるのか、力まかせに技を解くテツヤ


 直後「パンッ!」と言う乾いた音は、動向を見守ってい
たリナにも聞こえた。

 テツヤこと『タフガイ』は大胆にもナミの頬をぶったの
である。 

 ユウナは食器を床に落とした時のように自分の口を両手
で押さえ驚愕した。
 だが、それは『姉がやられた』からではなく『彼がやっ
てしまった』からである。

 「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」

 長く重い沈黙が場内を数秒間包み込む。

 「、、、へっ、、どーしたってゆーんだよ!、、、、、
、、なんやかんや言っても所詮オンナじゃねーか!、、、
、、ハハハッ!、、、『カリスマ』が聞いて呆れるぜ!」

 助っ人?テツヤは悪びれた様子もなくペラペラとしゃべ
り続ける。

 「、、、、、、、、、、、、、、、、」

 ナミはぶたれた方の頬を押さえ下を向いていたが、ロン
グの黒髪をスゥと細い指でかきあげると前方を向いた。
 その表情は『喜怒哀楽』のどれでもなく、ただ、今しが
た自分の頬を張った男をユル〜リと切れ長の目で見据えて
いる。
 
 「、、、うわっ!、、ヤバッ!、、、おネエちゃん、ダ
メだよ!、、『切れちゃ』ダメだかんね!、、、、、、、
、、ほらっ、アンタも、、なんつったっけ?、、早くアヤ
マんなっ!、、、いいから!、、、早くっ!、、、」

 はぁ?と訳もわからぬ顔で身振り手振りで必死に説明す
るユウナの方を見るテツヤ。

 「、、、つーか、全然カンケーねーんだよ!、、、、、
おらっ!おらっ!、、、、」

 ほとんど無防備な状態でつっ立っているナミの腹部に渾
身の『ワンツー』を叩き込むテツヤ。
 続けざま重い『ミドルキック』を放った彼だったが、こ
こである種の違和感を覚えた。

 まったく効いていないのだ!いや、格闘世界を生きてき
た彼自信、パンチやキックの手応えは確かにあった。
 おかしい。ムキムキの筋肉女ならいざ知らず、その水着
の間から覗く、うっすらと小さな腹筋は見えるが、細く柔
らかそうな白い『腹部』に的確にヒットさせた感触は確か
にあったのだ。
 
 だが、ナミは先ほどと同じ姿勢、同じ表情でこちらを見
ている。
 ここで初めて彼の背筋に冷たいモノが走った。

 「、、、なに?、、、いまの?、、攻撃したつもり?、
、、、『攻撃』っていうのは、こうするのよ、、、」

 声は小さかったが明らかに彼女が臨戦体勢に入ったと悟
った彼は両腕を上げ身構える。

 が、ナミの動きはケタ違いだった。
一瞬にして彼の目前まで来たかと思うと、ガードの隙間を
縫い『曲線』を描いて彼のテンプルに一発見舞う。
 これで彼のガードが甘くなった所にムチのようにキック
やパンチが連打された。

 「、、ズゴッ!、、、バゴゥッ!、、、ズドゥゥ!」

 一体どこにそんな力があるのか、ナミの繰り出す連打は
一発一発が重く鋭かった。

 やがてコーナーポストまで追いやられ、親に折檻される
子供のようにうずくまり頭を両手で覆う彼は、あまりの痛
みに声もだせず、ストップをかけようとやっとの思いで彼
女の片腕を掴んだ。

 ふと彼女の顔を見上げたテツヤは背筋の冷たさを増すこ
とになる。
 ナミは微笑んでいた。殴り蹴りながら微笑んでいるのだ
。薔薇の花ビラのように点々と返り血を浴びたその美しい
小顔は優しく彼に微笑みながら、掴まれた手首をふり外す
と弱よわしくガードをする彼の上から尚、連打を浴びせる


 あまりに凄惨な光景にユウナが動いた。

 「、、、、ちょ、、、ちょっと、もーやめなよ!、、お
ネエちゃんてば!!、、、ほらっ、にいさんも、もーわか
ったよね!、、、降参だよね!!、、ほら、わかったって
!、、降参だって!!、、、、おネエちゃん!!」

 が、ユウナに鋭い視線を向けると後方にドンッと押し返
すナミ。

 「キャ!、、、イタッ!!、、」

 ユウナは小声で言うと逆コーナーに尻餅をついた。

 ここで<異常事態>に気づいたのか、今まで黙って見てい
たリナが素早くリングに入るとユウナを抱きかかえる。

 「、、、大丈夫?、、ユウナ?、、、、」

 リナの胸の中で彼女のパッチリ目には涙が溜まってゆき
、せきをきったように泣きだすユウナ。

 「、、ウエ〜ン!、、、、もうナミねえなんかキライだ
よ〜!、、アタシとめただけなんだよっ!、、ホントだよ
っ!、、、ピエ〜ン!、リナねえも見てたでしょ、、、グ
スッ、グスッ、、」

 ここでフッと妹の泣き声に気づいたのかピタッと攻撃を
止めたナミは、ゆっくり後方を振り向きリナとユウナの
所に歩を進めた。

 リナは万が一の『不測の事態』に備え、やや警戒してい
るのがナミには解った。

 「、、、リナ、、、大丈夫よ、、、、、ごめんね、、ユ
ウナ、、おネエちゃんが悪かったわ、、、痛かった?、、
、ホントにごめん、、」

 グスン、グスンと泣きベソ顔をし、上目使いで自分を見
つめる妹を見るとたまらなく愛しく感じたナミは、その場
にしゃがみ、ユウナと同じ目線でさとすように言った。

 「、、、でもね、ユウナ。、、プロレスを馬鹿にしてる
ああゆうヤツを見るとネエさんすごく腹が立つの、、それ
はアナタも同じでしょ?、、、だからもう少しネエさんに
時間くれる?、、、、大丈夫!、、今度はキレたりしない
から、、あいつに体で教えてあげるわ、、、いい?」

 『いつもの姉』に戻ったナミを見て安心したのか、ユウ
ナはグズリながらも微かな笑みを浮かべコクンと首をかし
げた。
 
 「、、、血ぃついてるよ、、ゆーながふいたげる、、」

 白のカーディガンを伸ばし手の平に挟むと優しく姉の顔
に付着した血をぬぐい取るユウナ。
 
 ナミは立ち上がる間際、一瞬だったがリナとアイコンタ
クトを交わす。そこには長女と次女だけが疎通する何かが
あった。

 「、、、じゃ、アタシ行くからね!、、ユウナ、がんば
んなよ!、、、あ〜、ナミねえなら大丈夫だから!」

 いつもは自分のする行動にチャチばっかりいれるリナが
肩を優しくポンッと叩きリングをあとにする。
 
 ユウナはいつも自分を『二人の姉』が守っていてくれて
るのを知っていた。
 彼女達は『カリスマ』である為、自ら『助け』を求める
ことはしない。いや、出来ないのだ。
 いつだったかシングル戦でかなり不利に立たされたユウ
ナをタイミングよく救い、結果『ショー』を成功に導いた
のも二人の姉が居たからだ。
 
 「、、、、ック、、イテェーよ!、、、っクショウ!」

 そんな昔の思い出に浸っているユウナの耳に顔面、いや
体中アザだらけのテツヤが虫の息で悪態をついているのが
聞こえてきた。 

 リング下からはツヨシが震える体で状況を見ている。
なんせ彼が勝ってくれないとマズイことになるのだ。ツヨ
シに与えられた猶予は0なのだから。
 
 「、、、ツヨシくん、、、ちょっと待ってて、、邪魔し
ちゃダメよ、、、、、、今、この子に『お仕置き』するか
ら、、、、、そこで見てて、、、」

 さらさら邪魔などする気もないツヨシに優しく言うと、
ナミは集団リンチをされた後のようにリングはじにうずく
まるテツヤの髪の毛をグッと掴んだ。
 
 「、、ほら、、、立ちなさい、、、さっきまでの威勢は
どこにいったの?、、、ねぇ?、、、ほらっ!」

 片手で髪を掴み強引に立たせるナミ。

 「、、、わ、わかった、、、俺の負けだ、、、ア、アン
タにはかなわねぇよぉ、、、」

 「、、、なに、その言いぐさ?、、、ダメよ、、ユルさ
ないわ、、、あなたにはタップリと教えてあげないとね、
、、」

 そう言った直後、先刻テツヤに力まかせに外された『卍
固め』をかけるナミ。

 「、、、ウギャアアアアアア!!!!!!、、!!」

 「、、、どうしたの?、、、さっきみたいに外してごら
んなさい!、、、ん?、、、ほらっ!?、、」

 テツヤは前回のとは明らかに異質なパワーで体中を締め
られる。

 「、、、あなたの骨がギシギシいってるわねぇ、、、、
ンフッ、いい音よ、、、んっ?、、でもサスガだわ、、、
普通のオトコならとっくにクラッシュしてるのに、、、」

 パッと技を解いた彼女はもんどりうって倒れた彼に『S
TF』を素早くきめる。
 この技は寝技版チキンウイングフェースロックで首、足
を同時にきめられる。

 「、、、あら?、、、だいぶ弱ってきたようね、、、、
、、ん、、、ほぅら、、」

 美しい白ヘビに巻き付かれたテツヤの褐色の体は全く動
かすことさえできないでいた。
 が、その技をアッという間に解くと、彼を無理ヤリ立た
せ『パイルドライバー』の姿勢にもっていくナミ。

 彼女と同一方向を向いてる為、テツヤの目の前にはちょ
うどナミの『股』が見える。
 さすがにこれだけの大男を持ち上げ続けるのが困難なの
か、「ンフゥ」と声を出すナミ。
 その体勢のまま、なんと自軍のコーナーポストに歩いて
いくではないか!
 歩きざまワザと自分のヒザを彼の頭頂部にゴンッ、ガン
ッと当たらせる。
 彼はピシャ、ピシャと彼女の決して太くはない張りのあ
る白い太股を叩いてはみるが無駄だった。

 この時テツヤは恐怖というよりも不思議な気分を味わっ
ていた。
 それは今まで女の子からこのような格好をさせられたこ
とがなかったし、『空中に持ち上げられる』浮遊感と無力
感はいまだかつてない『侮辱』だった。
 そんなことが血がのぼる頭の中で渦巻いていると、自分
の両足がロープにひっかかるのを感じた。

 すなわち、今テツヤは逆さの状態で両足をロープ上段に
フックさせられ、その足首をユウナに抑えられている。
 さらに自由な両手はナミがどうしたのか、ロープで『あ
やとり』をやるように上段、下段を交互にさせ絡められて
る為ピクリともしない。

 ナミは2〜3歩後ろに下がると軽く腕を組み、十字架に
はりつけられたような(といっても逆さだが)彼を見下ろし
口を開いた。

 「、、、さぁ〜て、どうしましょう、、、」

 ナミがこのセリフを言った時は危険な兆候であることが
リング下にいるリナにはわかった。

 「、、、エヘヘッ!!、、まず、このダサイパンツ取っ
ちゃお〜!!、はははッ、、お兄さんがワルイんだかんね
!、、、、そのせいでゆーな泣いちゃったじゃん!、、、
大好きなおネエちゃんにもキラわれそーになったしぃ!、
、、」

 場内からは「ゥワァァァ」と歓声がなる。
 彼の足首部分までパンツを脱がせながら、ユウナは『着
せかえ人形』で遊ぶ少女のような笑顔になる。 

 「、、、大丈夫よユウナ、、、ねえさん一度だってユウ
ナのこと嫌いになったことないわ、、、、ずっと、、、、
、、これからもそうよ、、、そう、ずっと、、」

 この言葉に無邪気に微笑むユウナの表情が一瞬険しくな
り、目には再び涙が溜まる。
 
 「、、、、エヘヘッ、、、、ねぇねぇ、それよりコイツ
にお仕置きしてよ、、、、」

 その空気をはぐらかすように笑顔で言うユウナ。そのポ
ックリとくた目はまだ微かに光っている。

 後悔していた。たまらなく後悔していた。こんな茶番劇
につき合わされた挙げ句、何百いや、何千人もの前で醜態
をさらし『見せ物』にされようとは、、、、

 だが『後悔』では済まない事態が彼の身にせまっていた
、、、、、、、、、、

                  つづく

                     
 その5に戻る   その7にすすむ   投稿の目次へ

fc