「香絵 −かえ−」

 

 私はこの十年間、「満たされて」いないと感じていました。

 坦々と過ぎる日々。なにもない、退屈な毎日。

 あのころは幸せだった。満たされていた。

 沙耶(さや)お姉さま…私が愛し、私を愛してくれた人。中学を卒業して全寮制の女子校に入学した私は、そこで沙耶お姉さまと出会いました。

 そのとき沙耶お姉さまは三年生で、生徒会長をなさっていました。とても聡明で、お美しい沙耶お姉さま。

 私の中で、沙耶お姉さまへの憧れが恋に変わるまで、さほどの時間は必要としませんでした。

 勇気を出して沙耶お姉さまの寮室を訪れた私を、泣きながら好きですと告げた私を、沙耶お姉さまは優しく抱いてくださいました。

 それから沙耶お姉さまが卒業なさってしまうまでの十ヶ月ほど、私は毎日のように沙耶お姉さまに抱いていただけるようになりました。

 幸せだった…満たされていました。

 ですが「別れの刻」は確実に存在して、私が学校を卒業なさってしまわれた沙耶お姉さまと逢える日は、二度と訪れませんでした。

 あれから十年。私は沙耶お姉さま以外の誰かに、身体を許したことはありません。

 …逢いたいです。沙耶お姉さま。

 私は未だに、沙耶お姉さまを忘れることができません。あの満たされていた日々を、忘れることができません。

 擦り込まれた沙耶お姉さまの香りが、未だ私の身体に残っているように思えるのです…。

 

     ☆

 

 私の職業は教師です。設立二年目の女子校、聖(セント)シェラリール女学園の初等部に務めています。

 聖シェラリール女学園は、名門といわれ少数精鋭の教育方針をとっている桃の丘女学園とは違い、来る者は拒まず…といった校風で、園生の数は初等部だけでも千二百人を超えています。

 私は未だ教師生活二年目の新米ですが、昨年は三年六組の、今年は五年二組の担任教師を任され、少しですが教師という職業に自信がもてるようになってきました。

 

 夏休みも終わろうとする八月二十八日。私が学園の教職員室で新学期の準備を進めていましたら、

「花井先生」

 園部長先生(校長先生のようなものです)が、私に声をかけてきました。

 自己紹介が遅れましたが、私の名前は花井静子(はない せいこ)といいます。年齢は二十六歳で、身長はあまり高いほうではなく、155cmです。自分でも少し痩せすぎかもしれないと思うような体型ですが、中学のころから胸だけが取りつけたように大きく、沙耶お姉さまには、

「静子の胸…好きよ。大きくてやわらかくて、たべちゃいたいわ」

 と、いってもらったこともあります。沙耶お姉さまにそういってもらえるまで、私は自分の大きな胸が好きではありませんでしたが、そのときから好きになりました。

 私は授業プランを構築する作業の手を止め、

「はい。なんでしょうか」

 園部長先生に顔を向けます。

「新学期から、先生のクラスに転校生を入れたいのですが、よろしいですかな」

「転校生ですか? それは…構わないと思いますけれど」

 私が受け持ったクラスに転校生がくるのは初めてのことですけど、不安などは感じませんでした。

 園部長先生は肯き、私に転校生の資料を手渡しました。

 受け取った資料に目を通す私。付属された写真に目を落とした私の心臓が、一度、大きく波打ちました。

(に、似てる…沙耶お姉さまに)

 その転校生の名前は、小石橋香絵(こいしばし かえ)さん。表情は幼いものでしたが、切れ長で知的に輝く意志の強そうな瞳も、日本人形のように眉の上で水平に切り揃えた前髪も、私に沙耶お姉さまの面影を感じさせるものでした。

 私は園部長先生の呼びかけにも気づかず、しばらくの間その写真を凝視し続けていました。

 

「小石橋香絵です。よろしくおねがいします」

 八月三十一日。夏休み最後の日。私は、新しく始まる学園生活の準備のために学園を訪れた彼女と、初めて直接の邂逅を果たしました。

「花井静子です。小石川さんが転入するクラスの担任をしています」

「はい、花井先生ですね」

 真っ直ぐに私を射抜く視線が痛い。写真で見るよりも、沙耶お姉さまに似ていると感じました。

 彼女に学園内を案内することなった私は、私よりほんの少し低いだけな身長の彼女と並んで、無人の廊下を進みます。

 と、不意に彼女が私の手を取りました。私は驚き、咄嗟に振りほどいていました。

 驚愕の顔を向ける私の目を覗きこみ、

「クスっ…かわいい」

 彼女は蠱惑的に笑いました。

 クラクラしました。そのいいようが、その表情が、沙耶お姉さまそっくりだったから。

「な、なにをいってるんですかっ」

 彼女の顔が、息が届くほど近くにあって…。

「こ、小石ばっ」

 彼女の唇に塞がれる私の唇。口腔内に進入しようとする彼女の舌。私が歯を閉じると、左胸を痛みが襲いました。

「ぅぐっ!」

 強い力で私の左胸を握り潰す彼女の手の平。痛い…でも。

(気持ち…いい)

 思わず開いてしまった歯の隙間から進入した彼女の舌が、私の舌に絡まります。私は無意識の内に、自分からも舌を絡めていました。

 左胸の痛みが緩み、彼女は握り潰すのではなく、やさしく愛撫を始めます。

 なにがなんなのかわかりません。でも私は、自分の心の中にポッカリと空いていた穴が、急速に埋まっていくようにも感じていました。

 

「アッ、あンっ! ハッ、ハッ、は…ぁアアァっぅンッ!」

「クスっ…そんなに大きな声だしちゃ、誰かきちゃうかもしれないわよ」

 社会科準備室。小石橋さんのキスと愛撫で思考力を奪われてしまった私は、気がつくとそこで彼女に遊ばれていました。

 きっと私が彼女をここに案内したのだと思うのですが、まったく憶えていません。

 ここなら誰もこない。

 無意識で私は、そう…思ったのでしょうか。

 私の衣服は下着まではぎ取られ、引き裂かれたストッキングと一緒に床に散乱しています。しかし小石橋さんは衣服を身に纏ったままで、床にお尻をつけて座りこみ、股を大きく開いた私の隙間に身体を割りこませて、その濡れた秘部を手で責めます。

「すごい量…溜まってたのね」

 私の恥ずかしいお汁でベットリとなった右手で、私の顔中をなでる小石橋さん。私には抵抗する気などなく、いえ、そればかりか、

「もっと気持ちよくしてほしい」

 とさえ、思っていました。

 小石川さんの人差し指と中指とが、揃って私の唇の奥へとさしこまれます。私はピチャピチャと音を立てて、その指を舐めていました。

 美味しい…と思いました。

 自分の恥ずかしいお汁にまみれた彼女の指を、とても美味しいと感じたのです。

「静子…これからは、あたしが静子をかわいがってあげる」

 私は思わず肯いていました。「静子」…と、名前を呼び捨てにされたことが、とても嬉しく感じられました。

 彼女はどうしてこんなことをするのか? などと、そんな「些細」なことは、どうでもよくなっていました。

 私は口から指を離し、

「あ、ありがとう、ござい…ます。か、香絵…さま」

 小石橋さんの…いえ、「香絵さま」の笑みが私に与えられ、私は再び「満たされた」日々に還ることができるのだと、幸福の中で悟りました。

 

     ☆

 

 新学期が始まり、転校生として私が受け持つクラスの園生となられた香絵さまは、二週間が経過した今では、まるで転校生だとは思えないほどクラスに馴染まれました。

 私はクラスメイトと仲良くしている香絵さまに安心しながらも、教え子たちに嫉妬も感じてしまいます。

「私の香絵さまと馴れ馴れしくしないでっ」

 …醜い感情。わかっています。とても香絵さまには、私が教え子たちに嫉妬しているなどとは話せません。

 あの日から私は、一日も間を置くことなく香絵さまにかわいがっていただいております。

 学園内では密かに人目を忍んでキスや愛撫をいただき、夜になると香絵さまのお住まいの近くにある公園のトイレで遊んでいただき、そして二度あった日曜日には、ホテルで朝から夕方までかわいがっていただきました。

 私は今、一人暮らしを始めようかと考えています。香絵さまのお住まいの近くへ引っ越そうかと。

 私は両親と妹ととの四人暮らしをしていて、家で香絵さまにかわいがっていただくことはできません。

 それに香絵さまのお住まいの近くで暮らすことには、大きなメリットもあります。家が近いと逢える機会も増えると思いますし、今のように公園のトイレなどではなく、家の中で遊び、かわいがっていだだけることもできるでしょう。

 あぁ…香絵さま。私の…私だけの香絵さま。

 …しかし香絵さまは、私が香絵さまの一番大切な場所にキスすることも、触れることさえ許してはくれません。

 それに私は、香絵さまの大切な場所を目にしたこともないのです。香絵さまは私の前で、最後の一枚を取ることがないのです。

 お胸は見せてもくれますし、触れさせてもキスさせてもくれます。香絵さまのお胸は小さくて、でも、とてもお美しいです。先端の輪は私のもののように大きく広がってはいませんし、色彩は鮮やかな桜色で、私は女子校に在籍していたこともあるので同性の胸の先端は多く目にする機会がありましたが、香絵さまほどお綺麗な色は、見たことがありません。沙耶お姉さまも、香絵さまほど鮮やかな桜色ではありませんでした。

 その桜色を口に含むことを許された私は、たしかに幸せ者なのでしょう。ですがやはり、一番大切な場所にもキスすることを許していただきたいのです。

 これは、私の我がままなのでしょうか…?

 

 今日は三度目の日曜日。私たちが利用しているホテルは、いわゆる「そういうこと」をするためのホテルです。

 私が友人から、

「あそこのホテルなら、どんなヤバイ男といっても大丈夫。相手が、ボクちゃんまだ子供なのぉ…な未成年でもね。だって、受付に人いないんだもん。

 ま、あんたには使うこともないだろうけどさ。でも、もしも…ってこともあるでしょ?」

 と聞かされたホテルで、本当に受付には誰もいません。その友人は、ショタ…っていうんですか? 小さな男の子にしか興味がなくて、

「二十代の内に、百人のチェリーちゃんをむいてあげるわっ!」

 と、鼻息を荒くしているような人です。どう見ても小学校の中学年にしか見えない男の子と「ヤっている」ビデオを、自慢げに見せられたこともあります。

 普段はそれなりに普通な人なのですが、小さな男の子の話になると人が変わります。変わった彼女は、少しこわいです。目が血走ってます。

 自分一人で盛り上がり、

「もうガマンできないっ!」

 といって、小さな男の子の写真を片手に、私が見ているのに自慰を始めるのは止めてもらいたいです。

 私、こんな人の友人なの? と思って、自己嫌悪してしまうからです。

 でも彼女にこのホテルを教えてもらって、助かっているのは事実です。なので、少しは感謝しています。しかし、

「ねぇ…どっかに、かわいいチェリーちゃんいない?」

 と、週に三度は電話してくるのは困りますけど…。

 朝からホテルにチェクインした私と香絵さまは、これまで二度使った部屋が埋まっていたので、

「じゃあ、ここにしようか」

 と香絵さまが選んでくださった、なんだか少し暗いイメージの部屋に向かいました。そこはどうやら、「SM」なことをする部屋のようでした。

 壁にかかった鞭とか、赤色のロウソクとか、浣腸セットと書かれた箱とか、そんな物があります。

 と、隣の部屋でしょうか。私たちもそうですが、朝から(昨日の夜から?)楽しんでいる人たちの声が聞こえてきました。

「クスっ…この部屋いろいろ道具もあるし、隣に負けないくらいかわいがってあげるわ」

 香絵さまがいってくださいました。

 私は、

「はい、香絵さま。よろしくお願いいたします」

 と頭を下げた。期待に胸が膨らんで、すでにショーツの中は、ビチャビチャに濡れていました。

 

     ☆

 

 全裸で後ろ手に手首を拘束されベッドに転がされた私は、すでに為すがまま状態です。

「あっ…か、香絵さまあぁ」

 香絵さまはショーツ一枚のお姿になられ、ベッドの縁に腰を下ろされると、

「脚開いて、ちゃんと見せなさい。もう濡れてるんでしょ? 静子のまんこ。見てあげるわ。静子の濡れぬれまんこ」

 私はいわれた通り、仰向けのままお尻を浮かせ、香絵さまに向かって股を開きました。

 香絵さまのご命令で下の毛を毎日手入れしている私のあそこはつるつるで、濡れた花びらがヒクヒクしている様子が香絵さまには丸見えでしょう。

「なに? もうそんなに濡らしてるの? だらしないまんこね」

「も、もうしわけございません、香絵さまぁ」

 私の滴るお汁がお尻に垂れ、そこから糸を引いて落ちると、ベッドに染みを作ります。

 は、恥ずかしい…で、でも、見てほしい。

 あそこが熱い。腕を拘束されているのが辛い。自由ならば、花びらを割って奥をかきむしり、腫れあがったクリトリスをこねることもできるのに。

「触ってほしいでしょ?」

「は…はいぃ」

「じゃあ、ちゃんとお願いしなきゃね」

「は、はいっ…お、お願いいたします。私のあそこ触ってくださいっ」

「…それじゃあだめよ。もっと、いやらしくお願いしなくちゃ」

「い、いやらしく…ですか?」

「そう。いやらしく…よ」

 私は一度唾液を飲み、できるかぎり恥ずかしい言葉を使ってお願いする決心をしました。

「か、香絵さま…わ、私のまんこ…濡れぬれで、恥ずかしいまんこ汁を垂れ流しているまんこを、香絵さまのお美しい指で、滅茶苦茶のグチャグチャのニュチュニュチュにしてくださいぃ」

 は、恥ずかしいっ。私、こんな恥ずかしいこと口にしたの初めてです。あそこを、「まんこ」だなんていったのも初めて。

 でも…なぜでしょう? 「まんこ」と口にしたとき、なにかすっきりとした感じがしました。

 私は、「まんこ」と口にしたかったのでしょうか?

「香絵さまっ、まんこを、まんこをおぉっ! まんこっ、まんこっ、まんこ弄ってくださいいぃいぃ〜っ」

 いい終わった瞬間。恥ずかしいお汁…いえ、まんこ汁が噴き出したのがわかりました。私…イッちゃったみたいです。

 触れられてないのに、「まんこ」と口に出して繰り返しただけで、私、イッちゃったみたいです。

 膝から力が抜け、お尻を上げているのが辛いです。

 私のお尻が落ちようとしたとき、

 グチイいぃいぃッ

「ヒグウゥッ! い、痛いッ! 痛いです香絵さまッ」

 香絵さまの三本の指が私のまんこに突き刺さり、落ちるのを許してくれませんでした。香絵さまは突き刺した三本の指で私の下半身を持ち上げようとなさいます。

 い、痛いッ。本当に、すごく痛いです。まんこが裂けてしまいそうです。涙が溢れ、私は鼻水まで垂れるのがわかりました。

 こんなみっともない顔を、香絵さまに見られたくない。

 しかし腕は拘束されています。それでも私が必死になって手首の拘束を解こうと足掻いていると、

「クスっ…クスクス。静子…鼻水垂れてるわよ? 鼻水垂らしちゃうほどいいのね? そんなかっこ悪い顔をあたしに見せるくらい、まんこが気持ちいいのね? クスっ、クスクスクス」

 あ…あぁ…見られてしまった。香絵さまに、鼻水を垂らした顔を見られてしまいましたっ。

 しかし私は絶望に浸る間もなく、突き刺した指を強く奥へと誘う香絵さまのなさりように、激痛と快感を同時に与えられて、な…なんと、

 プシャアあぁあぁぁーッ!

 し、失禁してしまったのですっ。

 香絵さまの指で形を変えられた私のまんこ。圧迫された尿道は狭まり、放尿の勢いはまるで水鉄砲のようです。

 勢いよく放射される尿が香絵さまの腕はもちろん、お美しいお胸やお腹。そして、ご尊顔にまでも…。

 滴に濡れキラキラと輝く香絵さまのお身体はとても神々しく、しかしその滴は私の尿なのです。

 …汚してしまった。香絵さまのお身体を汚してしまったっ!

 血の気が引き、私は悪魔に心臓を握り潰されたように感じました。

 しかし放尿の勢いは止まらず、私は最後の一滴が涸れるまで、香絵さまのお身体を汚し続けてしまいました。

 

 楽しい時間はまだ始まったばかりでしたのに、私は…もうだめです。このような自己嫌悪に支配された気分で、香絵さまに遊んではいただけません。

 私は最低です。香絵さまのお身体に放尿してしまうなんて。

 …あぁ、なんと香絵さまに詫びればいいのでしょう? どうすれば香絵さまは、私をお許しになってくださるのでしょう。

 香絵さま…香絵さまぁ。

 途方にくれた私は、子供のように大きな声でしゃくり上げて泣いてしまいました。

 ボロボロと零れる涙。香絵さまにお見せできるような顔ではないのに、後ろで拘束された腕が自由にはならず、私は顔を隠すこともできません。

「ヒッ…ヒグッ、か、香絵さま、ヒッ…も、もうし、ヒッ、ヒッ」

 言葉になりません。香絵さまは、そんな私のだらしのない様子をご覧になり、

「大丈夫よ、静子。この部屋、オシッコもウンチもしほうだいなんだって。ほら、あそこに張り紙あるでしょ? 室内、ベッド上での放尿脱糞は全て当ホテルで処理いたしますので、お客様は心ゆくまで放尿脱糞をお楽しみください…ですって。なにそれ? ギャグ?

 でも、よかったわね? 静子。ついでに脱糞もする? ブリブリブリって、ウンコひねり出してみる? あっ、それとも、浣腸してビチャビチャビチャーってほうがいい? あたしはどっちでもいいよ? クスっ…ね? せ・い・こっ」

 香絵さまがなにをおいいになられておられるのか、私には理解ができませんでした。

 …香絵さまはお怒りではない? で、でも…脱糞?

 ま、まさか私に、香絵さまの前で脱糞しろというのでしょうかっ。そ、そんな…そんな非道いですっ。

 香絵さまはそんな私の気持ちなど、どうでもいいというかように、

「ほら静子。どっちがいいの? 普通にひねり出すのと、浣腸してぶちまけるの。どっちがいいのって訊いてるの」

 私のまんこに刺した三本の指をグイと拡げて、女神のような微笑みでおっしゃいました。

 私は恐くなりました。それは香絵さまへの恐怖なのか、それとも違う「なにか」への恐怖なのかはわかりませんでしたけど、私は、

「も、もうお許しくださいませっ!」

 まんこを圧迫する指を無理やり引き抜くように腰を引き、その激痛に苛まれながらも身体を反転させると、シーツに顔を押しつけ泣き崩れてしまいした。

 

     ☆

 

 これで終わりだ。再び与えられた幸福な刻も、これで終わってしまうんだわ…。

 私はまた喪失感に犯されながら、これからの長いながい時間を過ごさなければいけないのでしょうか…?

 い、いやです。あんな辛い時間はもうたくさんですっ!

 沙耶お姉さま。そして香絵さま。

 私ような最低女をかわいがってくださった、すてきな方々。

 …死にたい。与えていただいた幸福な思い出を抱いて、このまま死んでしまおうかしら…。

 と、

「せ、静子…?」

 私の肩に置かれるやわらかな温もり。私はビクッと肩を震わせ、その温もりをはね除けました。

 それは意識した行為ではなく、身体が勝手にそう動いてしまったのです。

「どうしたの? 静子。い、痛かった? ごめんね。あたし、ちょっと調子にのりすぎちゃった? ね、ねぇ静子? こっち向いてよ。静子…せ、せいこぉ」

 私はとても香絵さまのお顔を見ることができる気分ではありませんでしが、言葉の最後、私の名を呼んだ香絵さまの声に涙が混じっていたように感じ、ふと、顔を上げてしまいました。

 すると…香絵さまの頬を、瞳から伝う滴が濡らしていました。

「か、香絵さま…」

「ご、ごめんね。ヒッくっ…ごめんねぇ静子ぉ。ごめん、ヒッ、ひっくっ…ゆ、ゆるして、ゆるして静子ぉ。あ、あやまるからぁ…もう、痛いことしないなからぁ。ゆるして、おねがい、ゆるしてぇ」

 香絵さまは涙に濡れたお顔を真っ直ぐに私に向け、何度もなんども「ごめんね」と繰り返します。

「あ、あたし、静子がかわいかったから、グスッ…ちょ、ちょっと意地悪したくなっちゃって、グ、グスッ…そ、それでつい調子にのっちゃって、い、痛いことしちゃったね…ごめんね、静子ぉ。ゆるして、き、きらいにならないでぇ、グスッ…あ、あたし、静子にきらわれちゃったら、ど、どしていいかわからないよぉ」

 泣きながら私に謝罪する香絵さま。たしかに痛かったのは事実でしたが、気持ちよかったのも事実です。いいえ、気持ちよかったのがほとんどでした。

 香絵さまは、私が、痛いことをされたから怒ってしまったと思われたのでしょうか?

 私は、香絵さまに放尿してしまい、自己嫌悪と香絵さまがたぶん意地悪でいわれた脱糞を本気にして、それで理解不能な恐怖に襲われて混乱してしまっただけで、香絵さまのことを怒ってなどいないのに…。

 それなのに香絵さまは、私が怒ってしまったと勘違いして、涙を流して謝罪している。私に嫌われたくないと、嫌われてしまうとどうしていいかわからない…と。

 あぁ、香絵さまっ。

 私はなんというバカ女でしょうっ。

 香絵さまの気持ちも知らないで、安易に死のうなどと考えてしまうなんてっ。

 バカな私。でも…なんと幸せ者な私。

「香絵さま…もう、泣かないでくださいませ」

「ぐ、グスッ…ゆ、ゆるしてくれる?」

「はい。私は最初から、香絵さまのことを怒ったりなどしておりません。私は香絵さまのお身体を尿で汚してしまい、それで、少し混乱してしまっただけなのです。許してくださいといわなければならないのは、私のほうです。申し訳ございませんでした、香絵さま」

「い、痛くなかった?」

「はい。痛くなどございませんでした。それよりも、あまりに気持ちよくてお漏らしをしてしまい、香絵さまのお身体を汚してしまいました。本当に申し訳ございません、香絵さま。私こそ、なんとお詫び申し上げてよいやら…」

「い、いいのっ! そんなのいいのっ。静子のおしっこ、温かくて気持ちよかったよ? すごくすてきだった。もっといっぱいかけてほしいって思ったよ? だから、いいの。静子はなにも悪くないわ」

「…香絵さま」

「ごめんね。静子、おしっこいやだったんだよね? 恥ずかしかったんだよね? あたし自分はすてきだって思ってたから、静子の気持ちに気がつかなかった。静子も、楽しんでるって思ってた。ごめんね、静子ぉ」

 これほどしゅんとなさった香絵さまを見るは初めてでした。

「ゆるして…くれる?」

「は、はいっ。もちろんでございます、香絵さま」

「よかったぁ」

 香絵さまは微笑み、

「おわびに、静子のお願いきいてあげる。なんでもいって? おしっこしろっていうなら、するよ? うんちだってする。静子がしてほしいなら、あたしなんだってするわ」

 胸が一杯になりました。泣いてしまいそうでした。さきほどの涙の意味とは正反対の意味の涙が、溢れそうになりました。

「…はい。そ、それでは、わ、私、香絵さまの一番大切な場所に、キ、キス…したいです」

 私は思いきって、その願望を口にしました。

「え、えぇ〜っ! そ、それは…」

「だめ…なのですか? なんでもすると仰ったのは、ウソ…」

「ウソじゃないわっ! で、でも…恥ずかしいし」

「どうしてでございますか? 香絵さまの大切な場所は、とてもお美しいだろうと思います…その、お見せいただいたことはございませんけれど」

 私が本心からそう告げますと、

「…あ、あのね? 静子」

「はい?」

「あたしね、まだ子供だから、静子みたいに立派じゃないの。毛もまだだし、せ、線だけなの。それにあたし…しょ、処女だし」

「…それが、なにか?」

「だ、だから恥ずかしいのっ。静子は大人だから、ちゃんとしてるでしょ? でもあたしのは…だ、だからねあたし、静子に毛の処理しろっていったの。汚いっていったのはウソ。うらやましかったし、なんだかくやしかったから…。

 剃っちゃえば、静子もあたしと同じになるって、そう思ったの。

 …お、怒った?」

 私は首を横に振りました。

「ホントに?」

「はい。怒ってなどおりません。私も香絵さまにはちゃんと見ていただきたいですから、毛はジャマだと思っております。香絵さまが処理しろと仰らなくても、自分から処理してよろしいですか? と、お尋ねしていたと思います」

「そう…よかったぁ」

「処理しろと仰ったこと、お気になれされておられたのですか?」

「…う、うん。少し…ね。だって大人なら、普通はあるものでしょ?」

「そうですけれど、私は香絵さま以外の誰かに大切な場所を見せるつもりはありませんから、香絵さまがないほうがいいと仰られるのなら喜んで処理いたしますし、それでなにも困ることはありませんけれど」

「えっ? 静子って、彼氏いないの?」

「はい。おりません。私は異性と性交したことはございません」

「じゃ、じゃあ…処女ってこと?」

「異性と性交したことのない女性を処女というのでしたら、私は処女です」

「どういうこと?」

「処女の証は、十年ほど前にある方に捧げました。しかしその方は、同性でした。その方と別れて十年間、私は香絵さまと出会い、こうしてかわいがっていだだけるようになるまで、異性だろうと同性だろうと、誰かに身体を許したことはございません」

「じゃあ…どうしてあたしにゆるしたの?」

「それは、香絵さまが…その、無理やりというか」

「だってあんなの、いやだったら拒めたじゃないっ」

 たしかに、そうです。

「正直申し上げて、私の初めての方と香絵さまは、とてもよく似ておられるのです。私は別れてからも、その方を忘れることができずにいました。ですから香絵さまを拒むことができなかったのだと思います。

 あの方と…沙耶お姉さまと面影が重なる香絵さまを、もしかしたら私は、沙耶お姉さまの代わりとして見ていたのかもしれません」

 私の告白の後。しばらくの間、隣から届く快楽の声が私たちの部屋を支配しました。

 先に口を開いたのは香絵さま。

「…今も」

「はい?」

「今でもそうなの? あたしは、その人の代わりなの?」

「い、いいえっ! 香絵さまは香絵さまでございます。出会ったころはどうあれ、今の私には、香絵さまだけでございます。香絵さまが、一番愛おしいお方でございます」

「忘れられる? その人のこと」

「はい。もうあの方は、私の過去にしか住んでおりません」

 香絵さまは少しの間考えるようなお顔をなされ、

「…うん。信じる。あたし、静子を信じる。静子はあたしの静子だよっ? あたしだけの静子だよっ? 他の人の静子になったりしちゃだめだからねっ。絶対離さないんだからっ。一生、あたしだけの静子のまま、ずっとずっとそのままなんだからねっ」

 私は初めて香絵さまのことを、「かわいらしい」と感じました。これまでは「お美しい」と感じてはいても、「かわいらしい」と感じたことはありませんでした。

「はい、香絵さま。私はずっとずっと、香絵さまの静子です」

「うんっ!」

「はい、香絵さま」

「じゃあいいわ。静子にキスさせてあげる。あたしの一番大切…なのは静子だから、まんこでいいわ。あたしのまんこに、キスさせてあげる。

 でも、笑ったりしないでね。ホントに子供のまんこなんだから。静子みたいな、大人のまんこじゃないんだからね」

「はい、もちろんでございます。私は香絵さまのまんこを、笑ったりなどいたしません。この世で一番愛おしいお方のまんこなのですから」

 二人して「まんこ」などと恥ずかしい単語を使い、交わされる会話。でも私は、少しも恥ずかしいとも下品だとも思いませんでした。

 最後の一枚に手をかけ、それを下ろす香絵さま。私の尿で湿ったショーツの奥から現れたのは、本当に未成熟なまんこでした。

 素肌に短く刻まれた一本の線。本当に、それだけのまんこです。

 ベッドの上。座りこんだ私の目の前に立った香絵さまは、軽く脚を開き、

「…いいわよ。キス…して」

 少し震えた、恥ずかしそうな声でいってくださいました。

 私は香絵さまの細い脚に手をそえ、顔を股の間に潜りこませると、夢にまで見たそのまんこに静かなキスを送りました。

 


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