○方士 王
第一話「王 万里、山中にて賊を降す。
周 月西、万里に突かれてすすり泣く。」
奥深い山中。
薄暗い木々の間、根方に座す方士服の男。
そしてその膝の上には、あどけない少女が抱えられている。
「………ひ、………いぁ」
少女は熱に浮かされたように頬を染め、切なげに身を捩った。
男の手は裾子の上から股間を撫で回している。
淡い木漏れ日の中、漏れ出すと少女の溜息と、微かな衣擦れの音。
時折、柔らかな風に枝が震え、きらきらと陽光を瞬かせる。
「先生〜ぃ、こんな処でするんですかぁ?」
顔を上げ、上目遣いに男を見る少女。男は少女の身体を抱きすくめると、耳元に唇を這わした。
「ふんぅっ!」
きゅっと身をすくめる少女。
「こんな処も何も、月西が用を足したいと言うから………」
そう言うと男は、少女の胸元に手を伸ばし、白い乳房を捻りだした。年齢とは不釣り合いな豊かな乳房が、身体の震えと共にふるふると揺れる。
「やぁ、せ、先生、私は用を足したいって言ったんです。こう言う事をしたいと言ったんじゃないですよお……」
少女は愛らしく頬を膨らませてみせるが、反意は口だけであるという事はその瞳が物語っていた。眉根を寄せてはいるが、どこか甘えたような瞳の色だ。
「月西に可愛いお尻を見せられて、興奮しない男なんていないだろ?」
男は薄い笑みを浮かべながら裾子の裾をめくりあげる。
日の光をほとんど浴びたことのない白い足が姿を現し、男はその太股に手を伸ばした。その柔らかな弾力を楽しみながら、男の無骨な指は徐々に奥深くへと進んでいく。
くすぐったさを我慢をしながら、小刻みに身体を震わせる少女。
「先生ってば、それじゃあ変態さんですよぉ……」
「月西だって、私に見られて興奮していたんだろ?変態さんはお互い様なんじゃないのかな?」
そう言って、まだ尿の切れていない秘裂にそっと指を添える。
「あ〜んぅ、違いますよぉ。私は見ないでって言ったじゃないですかぁ。それを先生が勝手についてきて……」
「それじゃあ、このぬるぬるは何かな?おしっことは違うようだけど?」
ぷちゅり。
指先が谷底に潜り込み、にゅぷにゅぷと掻き回す。奥深くまでは侵入せず、亀裂をなぞるように、ゆっくりと動かす。
「いやぁ、せんせ〜いぃ………そ、そんなにしちゃ駄目ですよぉ……」
「駄目な事なんて何も無いさ。月西は私の玩具だ。この大きな乳房も、濡れてひくついているこの口も………」
そう言うと、男はもう片方の手で乳房の先を摘んだ。完全にしこり立っているそれは男の指に弄ばれ、更に大きさと堅さを増していく。柔らかな乳房と、こりこりとした乳首の感触がたまらない。
やがて、男は秘裂をまさぐっていた手を離すと、少女の口元へと持っていった。すると少女は、恍惚とした表情で自分の汁を舐めとり、喉を鳴らして飲み込んだ。唾液でべたべたになった指を、今度は乳房になすりつける。
「………ひはぁ……はぅ」
身体を完全に男に預けると、少女はもぞもぞと仰け反った。
男が構わずに乳房をこね回すと、白い乳房は段々と桜色に染まっていく。
「せんせ……いぃ、……ひぃ」
目にうっすらと涙を滲ませ、譫言のように呟く少女。
いつの間にか男の陰茎はそののっぺりとした頭を覗かせ、先走りの汁を滲み出させている。
にちゅ、くちゅ……。
柔らかな小淫唇が粘りつき、竿を舐め回す。
「あ、あつっ……先生のこれ、……熱いよぉ」
悲鳴を上げる少女。男は容赦なく乳房をこね回し、陰茎を擦り付ける。
やがて男はその白いうなじに舌を這わすと、片方の手を再び淫裂へと滑らせた。
「あんっぅ!?」
淫核を摘まれ、少女がぴくりと跳ねる。
「月西はどちらのお豆を弄られるのが好きかな?」
男はそう言うと、人差し指の先で乳首と淫核、両方を撫で回した。激しい愛撫とは違い、もどかしさが募る。そして、それが却って少女の官能を助長する。ひくひくとつま先を震わせ、快感を噛み締める少女。
「ひんっぅ!あ、……はぁんぅっ!!……お、お願い、先生〜ぃ……熱いのちょうだい」
少女の哀願に、男の顔が愉悦に歪む。
「それでは、可愛い月西ちゃんのお言葉に従いまして………」
そう言うと男は、少女の脇の下に手を差し込むと、その小さな身体を僅かに浮かせた。亀頭が濡れそぼった花弁にあてがわれ、にちゅりと割り開く。
ぐいぐいと秘腔を押し広げられる感覚に、少女は充足感を感じた。
「はあ、……入ってくる。……熱いのが、……はあぁん」
うっとりとして溜め息をつく少女。そうしている間にも、愛液に溶けた淫唇は竿をぬるぬると舐めながら、それを頬張り、呑み込んでいく。
「ふんぅ………、お腹の中がひきつれちゃう」
剛直を完全に呑み込むと、少女は自ら腰を動かし始めた。
ぐちゅぐぢゅと猥褻な音が漏れ、少女は歓喜にすすり泣く。
「やれやれ、こんな処じゃ嫌だと言っていたのは月西じゃなかったのか?」
今更ながらに少女を嘲弄する男。
「くんぅ!……やは、……先生…い、意地悪言わないでぇ…あんっ!」
「やれやれ、それじゃあそろそろお互いいきますか」
男はそう言うと、下から少女を突き上げた。
がつがつと腰がぶつかる度に、淫水が溢れ、飛沫をあげる。
「あああああっ!い、いはぁっ!あん、あんっ!!お、奥まで……奥まで当たってるぅうううっ!!」
嬌声をあげ、身悶える少女。
男の手が大きく揺れる乳房を掴むと、乱暴に揉みし抱く。
「はあっ!あんんぅっ!!……き、……ひ、……気持ち良いよぉっ!先生ぃ……」
その瞬間、男の指が少女の淫核を捻りあげた。
「きひぃいいいっ!!」
悲鳴を上げ、達する少女。
男の濃厚な樹液が噴出し、子宮を直撃する。
ぐったりとして、男に倒れかかる少女。せわしげに胸を上下させる少女を、男は無言で見つめた。
その時、背後で枯れ枝を踏む音がした。
その音に、男は薄い笑みを浮かべる。
「よお、兄さん。良い玩具持っているじゃないか」
今までどこに隠れていたのか、物騒な男達が木々の間からわらわらと姿を現す。手にはそれぞれ得物を持ち、各々下卑た薄笑いを浮かべている。
「やあ、これはお揃いで。どこかへお出かけですか?」
方士服の男は、どう見ても山賊にしか見えない男達に対して、怖じけることもなくにこりと微笑んだ。一瞬、呆気にとられる男達。
「どうです、こちらに来て皆で姦りませんか?」
「ちょ、なんて事を言い出すんですかぁ!?先生〜ぃ!!」
とんでもないことを言い出す方士服の男に、誰よりもまず少女が驚いた。
「あれ?月西はそう言うの嫌いですか?いけませんねぇ、やってみると案外良いかも知れませんよ?」
「な、なな、ななな………」
驚いて、二の句が継げない様子の少女。そこへ、気を取り直した山賊達が二人に得物を向ける。
「方士服の兄さんよぉ、面白いこと言うじゃねえか。でも、俺達は手前ぇの懐にも用があるんだ。素直に身ぐるみ脱いで置いていきやぁ、何も命までは取らねえよ」
山賊の一人にそう言われ、方士服の男はやおら立ち上がった。
「はあ、せっかく楽しい遊びが出来ると思ったのに……」
わざとらしく溜め息をつく方士服の男。
「あなた方はとんでもない人間に喧嘩を売っているんですよ?」
そう言って、山賊達を見渡す方士服の男。勿体を付けてはいるが、山賊達の間では失笑が漏れ始める。
「おいおい、兄さん。格好を付けるのは良いが、大事な物をしまってからにしちゃあどうだ?」
山賊達の間でどっと笑い声が上がる。
「あ、いやいや、ちょっとお待ちを……」
方士服の男は慌てて後ろを向き、逸物をしまい込む。
「おほん、お待たせしました……。ええっと、どこまで話をしましたっけ?」
「お前さんが何者かって事だろ?」
首を傾げる方士服の男に、山賊の一人が律儀に応じる。
「私の名前は王 万里。金鰲島で道果を修めた立派な神仙なんですよ」
得意げに名を告げる方士服の男。しかし、山賊達は首を傾げ、互いに顔を見合わせるだけであった。
「あれ、知りませんか?結構有名なんですが………」
王がわずかに自信を失いかけたその時、山賊の一人が声を張り上げた。
「ああああっ!俺、知ってる!!」
その言葉に、満足げな笑みを浮かべる方士服の男。
「色鬼(すけべ)の王 万里だっ!!」
方士服の男は思わず仰け反るが、山賊達は言葉を発した仲間に注目した。
「こいつが王 万里だとしたら、とんでもねえ色鬼だって噂だ。道果を修めようと金鰲島に渡ったは良いが、仙姑達の尻を追いかけ回し、挙げ句に追い出されたってぇ話だ」
仲間の言葉に、山賊達は腹を抱えて笑い出した。面目を潰され、冷や汗を流す方士服の男。いや、色鬼王 万里……。
「成る程、色鬼の王万里か。道理で、こんな処で女とやっているわけだ!」
「それで、そんな色鬼が山奥でどうしようってんだ?」
「この似非仙人、おおかた麓の村で鬼退治でもしようってんじゃないか?」
「ははは、そいつは良いやっ!色鬼が鬼退治か……。鬼と言ってもあの僵尸は偉いべっぴんだそうだからな。色鬼ならしたがるんじゃないか?」
王を口々に嘲笑う山賊達。しかし、王は笑いながらも、口の中で独りごちた。
「(………麓の村?…鬼退治)」
ふと考え込む王だったが、すぐに笑みを浮かべる。
「いやあ、そんな美人の僵尸なら是非ともお相手願いたいものです。それじゃあ、私はこれで………」
どさくさに紛れてその場を立ち去ろうとする王。しかし、そんな簡単には逃がしてもらえない。山賊の一人が立ち去ろうとする王の肩をむんずと掴んだ。
「おい、兄さん。調子に乗ってるんじゃねえ。さっさと置いてくもん、置いて行きな……」
凄んでみせる山賊に、王は笑みを崩さなかった。崩さなかったが、目元は笑ってはいなかった。
「すみません、この手をどけてくれませんか?いくら人の良い私でも、終いには怒りますよ?」
そう言って、山賊の手を払う王。しかし、山賊の一人はあくまでも王を侮り、少し脅かしてやろうと剣で殴りかかる。
「調子に乗るな!!って………言って。………え??」
殴りかかった筈が王の姿は一瞬視界から消え、気が付くと王は殴りかかった男の腹を掌で軽く触れていた。
次の瞬間、殴りかかった男は倒れ込んでしまった。
「………ぐえ」
見ると、男の鼻や口元から鮮血が溢れ出ている。
「や、野郎ッ!!おかしな術を使いやがるっ!!」
いきり立つ山賊達。
しかし、王はあくまでも飄然とした態度を崩さなかった。
「いえ、術とは少し違いますよ。どちらかというとこれは技でして………」
「このっ!ふざけやがってぇっ!!」
王の言葉などには聞く耳を持たず、別の男が刀で斬りかかった。
そしてこの男も、するりと攻撃を躱した王に身体を撫でられ、ひっくり返ってしまう。
「私にしてみれば、人の身体などは水の詰まった革袋のようなものなんです。ですから、こうして軽く波紋を作るだけで………」
そう言って、別の男の攻撃を避け、相手の胸に掌を当てる王。
そして王に触れられた男は、やはり血を吹いて倒れてしまう。
「こ、この野郎っ!!よくも仲間を……」
山賊の中でも一際大きな男が、王の前に進み出る。そして、得物を持たぬこの男は、素手で王に殴りかかった。
しかし、王は機先を制する形で相手の膝を踏み砕いてしまう。
「ぐわあああっ!!」
膝を抱えて転げ回る大男。
「あ、すみません。ちょっとやってみたかったものですから……」
鼻の頭をかきながら、王は相手に謝罪する。
しかし、王の強さに恐れをなした山賊達は、色を失って逃げ出した。
「ちょっと待って下さいよ」
王はそう言って、山賊の一人を捕まえた。
「は、放しやがれっ!!」
「ちょっと待って下さいよ。聞きたいことがあるんです……」
山賊に、何事か質そうとする王。しかし、逃れようと無我夢中で藻掻く山賊は、王の言う事など聞く耳を持たなかった。
「て、手前ぇなんぞに話す事はねえっ!!」
山賊はそう言って乱暴に王の手を振り払おうとするが、王は懐から一枚の呪符を取り出し、男の額に張り付けた。
「仕方ありませんね………緊」
王の言葉と共に、山賊の身体が硬直する。
「こ、この化け物めっ!」
「いい加減、私の話を聞かないと、黒こげにしますよ」
そう言うと王は、懐からまた新たに呪符を取り出した。
「ふん、やれるものならやってみやがれっ!!そんな脅しに誰が乗るもんか!!」
開き直る山賊。しかし、王の力を見せつけられ、今や怯え、その膝はがくがくと震えていた。
「金」
そう言って呪符を飛ばす王。
次の瞬間、王の放った呪符は木の根に突き刺さり、そして驚くべき事に、呪符目掛けて雷が落ちたのである。
大きな爆裂音と共に木は裂け、炎が上がり始める。
「どうです?話を聞く気になりましたか?」
呆気にとられている山賊ではあったが、不承不承ながらも王の言葉に応じる。
「な、何が聞きたいんだよ?」
山賊の言葉に、王は至極満足した笑みを向ける。
「先程の鬼のことですが、そいつは飛僵にまでなっているんですか?」
「なんだい、マジで鬼とやろうってのかい?」
怪訝な表情を向ける山賊。
「そりゃあ、勿論相手にもよります」
真顔で即答する王。
「呆れたね、色鬼とはよく言ったもんだ………」
「それより、その鬼のことをもっとよく教えて下さい。飛僵にまで成長しているのですか?大体、鬼になる前に、どうして誰も葬ってやらなかったんです?」
「そんな事は知らねえよ。ただ、鬼は相当の神通力を使うって話だ。それに、えれえべっぴんだってよ」
山賊の言葉に、王の耳がぴくりと反応する。ついでに彼の愚息もぴくり。
「先生〜ぃ!まさか、その僵尸と本気でしたいなんて、思っているわけじゃないですよねえ!?」
いつの間に身繕いを整えたのか、月西がまなじりを吊り上げて王の耳を強かに引っ張る。
「痛った、たたっ!?何を言っているんです、月西。考えすぎですよ。大体、人々を苦しめる邪悪な僵尸を退治するのは、私達の役目じゃないですか」
言い逃れようとする王であったが、月西は聞く耳を持たなかった。今度は王の下半身に手を伸ばし、思い切り捻りあげる。
「ぐあっ!?ちょ、ちょっと、月西、やめなさい。大事な息子様が使い物にならなくなってしまいます……」
「何言ってんです!暫くは温和しくしていてもらった方が、世の為、人の為、女の子の為ってぇもんですっ!!」
顔を真っ赤にして、何とか月西の虐待から逃れようとする王。
そこへ、今まで呆れて事の成り行きを見守っていた山賊が、不意ににやりとほくそ笑む。
「へへへ、じゃれついていられるのも今の内だぜ………」
聞こえよがしに呟く山賊。王と月西が同時に振り返った。
と、その時。
ひゅっと音がして、矢が王の頬をかすめた。
「ありゃ、まあ………」
間の抜けた声をあげる王。
それと同時に、矢が、雨霰と降り注ぎ始める。山賊が武装して出直してきたのだ。
「ひゃあっ!!やめ、やめてくれえええぇえっ!!俺はまだ此処にいるんだよおっ!?」
捕らわれていた山賊が悲鳴を上げるが、弓による攻撃はまるで気配がなかった。それどころか、矢の一本が捕らわれていた仲間の胸にぶすりと突き刺さる。
「なんて事です。仲間の命なんてどうでも良いんでしょうかねえ……」
感慨深げに呟く王。しかし、主とは対照的に月西は切迫した声をあげる。
「ちょっと、先生〜ぃっ!!のんびりしてないで、少しは慌ててくださいよっ!!」
言いながら、月西は超人的な跳躍を見せると、懐から暗器を大量に取り出すと、敵目掛けて投げつけた。
武器に付けられた鎖が、放射線状に広がる。
「ひゃあああっ!!」
林の中で隠れていた山賊達は、木が月西の暗器の粉砕されるのを見て、引きつった悲鳴を上げる。
「な、何だああっ!??」
何が起こったかも分からず、狼狽える山賊達。
しかし、矢の一本が期せずして月西の胸に深々と突き刺さった。
「きゃっ!?」
小さく悲鳴を上げる月西。しかし、王は素知らぬ顔で呪符を一枚取り出すと、自分の足下に置いた。
「禁」
口の中で鋭く唱えると、目に見えない壁が出現し、敵の矢を一本も通さなくなってしまった。
そして、矢を胸に受け、倒れる筈の月西もむくりと起きあがり、ぱんぱんと膝の汚れを払う。更には、えいとばかりに胸の矢を造作もなく引き抜く月西。
「あ〜んっ!!服に穴が開いたじゃないっ!!どうしてくれるのよぉっ!!」
あまりの出来事に、恐慌を来す山賊達。
「わ、わわっ!!どうなってやがんだ、あの女?」
「もしかしてあいつも鬼じゃないのか!?」
しかし、賊の頭目らしい大柄な男が、手下達を何とか引き留めようとする。
「だあああああっ、この情けない奴等めっ!!大の男共が寄り集まって、似非方士や女に歯が立たねえってのはどういうわけだああっ!!」
どう言う訳もこう言う訳もなかったが、賊の頭目は手下の前に立ちはだかり、まず手近にいた手下の一人を青龍刀にて両断した。
「お、お頭……何を!?」
「うるせいっ!!逃げ出す奴ぁ、この俺が叩き斬るッ!!」
頭目に一喝され、子分達は縮み上がる。
やけのやんぱち、無理矢理勇気を奮い起こすと、再び山賊達は王達に襲いかかった。
文字通り決死の覚悟であったが、技量の差はいかんともし難く、山賊達は王の足下に血反吐を吐いて転がる。
「ええい、煩わしい方達ですねえ」
襲い来る賊をあしらいながら、王は懐から呪符を数枚取り出した。
その様子を見た月西が、慌てた声を出す。
「ちょ、ちょっと先生っ!こんな処でやめて下さい〜っ?!」
月西が制止するのも聞かず、王は呪符を飛ばした。
「金ッ!」
次の瞬間、辺りに光がほとばしり、耳をつんざく轟音と共に辺り一帯が焼け野原になる。
何処から出したのか、鉄扇子を広げて難を逃れた月西。
「も〜お、先生ってば、やりすぎい〜ぃっ!!」
月西は口を尖らせて非難の声を上げる。
「大丈夫ですよ、月西。加減はしましたから………」
平然と応じる王。周囲を見回す限り、とても加減をしたようには見えない。
そこへ、地面の底から怨念じみた声が響き渡る。
「加減しただとおぉ………。舐めやがって」
ぼこぼこと地面が盛り上がり、中から屈強な男、山賊の頭目が現れた。
「そいつは、俺が一番嫌ぇえな言葉だ……」
頭目の姿に、王は驚くより先に呆れた声を出す。
「やれやれ、頑丈ですね。一体どういう身体の構造になっているんでしょう……」
王は最早、賊の相手などはしたくはなかったが、相手はやる気満々。闘志を剥き出しにして、じりじりと間合いを詰めてくる。
「殺してやるぅううっ!!」
怒声をあげて王に斬りかかる山賊の親玉。
しかし、王は身体を横に滑らせると、賊の横に回り込み、二本の指で相手の手を押し下げた。
「うわ、たぁっ!?」
身体の均衡を崩し、前につんのめる山賊。
賊は、王のあまりに無理のない動きに、それが見事な体さばきであるとは気が付かず、ますます頭に血を上らせて襲いくる。
「ぐぎっぎぃいいっ!!」
半ば逆上気味に、王に掴みかかる山賊。
「もういい加減にして下さいよ………」
そう言うと王は、懐からまたも呪符を取り出し、山賊の額に貼り付けた。
「緊………急急如律令ってね」
王のその言葉に、山賊の身体が硬直する。
「うおおおおっ!!この野郎っ!!一体ぇ、何しやがったあっ!!!」
体を動かそうと、必死に藻掻く山賊。その山賊に、王は諭すように言った。
「良いですか?私はあまり人殺しとかはしたくないんです。それだけの実力差があることを今からお目にかけますから、よく見ていて下さい」
王はそう言うと、月西に顔を向けた。
「月西、ちょっとあの大岩を砕いてみて下さい」
王はそう言って、山の中腹の大岩を指差した。
「は〜い、先生♪」
嬉しそうに手を挙げてはしゃぐ月西。
しかし、すぐに真顔に戻り、手で印を結ぶと、何事か呟いた。
「我、造化の主となりて万神を召集し地龍を駆役す。地脉刀ッ!」
次の瞬間、月西の気合いと共に大地が隆起し、巨大な剣となって大地を走り、岩を粉砕した。
目を見開き、愕然とする山賊。
「さて、如何です?」
王の問い掛けに、山賊をぽっかりと口を開けたまま返事をしなかった。
王はしたり顔で頷くと、そのまま山賊を置いて山を下り始める。
「ちょっと待って下さいよ〜お。先生〜ぃ、ホントに僵尸を退治するんですかぁ?」
慌てて後に続く月西。
「何、言ってるんです。人助けですよ、ひ・と・だ・す・け」
「先生が人助けした所なんて、私、未だ一度も見たことないですよ。どうせまた、困っている人の足元を見て、無理難題をふっかけるつもりなんでしょ?」
「ちょ、月西。人聞きの悪いことを言わないで下さいよ。私がいつそんな事をしました?」
「え〜〜??してないつもりだったんですかぁ?」
じゃれあって山を下りる王と月西であったが、丁度山賊の親分が見えなくなった頃、背後から声が届いた。
「畜生っ!今回は見逃してやるが、次はそうはいかないからなぁああああああっ!!」
その声を聞き、顔を見合わせる王と月西。
月西がうんざりした声を出す。
「あの人、未だ負けてないつもりだったんですね………」