「開門せよ」
・・着飾られたフィアンナを連れ、エトとパーンが入城する
さすがに、あの薄汚れた・・卑猥な恰好で城に入れるわけにもいかず、見張りの兵士に自分達が連れて行くと強硬主張し
・・・・中で衣服を手に入れ身なりを整えた上で城へ入っていくのだ
エトとパーンが薄汚れたままなのは仕方ないだろう・・それに、パーンの鎧は聖騎士団の物だ、この国では信頼が厚く
迷いもなく進むフィアンナの後を続く・・
左右に並ぶ、安堵した騎士達の顔を眺めながら
・・・フィアンナは、ファーン王の元へ赴き・・・
「うまくいったな」
酒を食い荒らすパーン・・場所は王宮の一室だ
やはり、エトのファリス神官の姿とパーンの聖騎士の鎧は効果が高かった、あっと言う間にヴァリスのロイドへ潜り込むことが出来たわけだ
後は適当な名目で残る2人の仲間を引き入れればよく
「後は騎士団入りと・・・」
「わかってるよ」
エトがうまくこの国に取り入れば、マーモへの手助けは容易くなる・・フィアンナを誑し込んだことも、意味を持ってくるだろう
「けど・・それなら今回の戦争には参加しない方がいいね」
「ああ・・・」
マーモとヴァリスの戦争・・・
傭兵として参加することは出来るが、それは最前線で戦うことを意味する・・・死地で昔の同胞と戦うことは心苦しく
「うまく好機を作って・・・別の場所へ赴くさ」
その言葉通り・・パーンは大賢者ウォートの元へカーラの正体を探るたびに赴くようにと命令される
それはこちらから誘導した結果であったが、周りからは謙虚な姿勢と取られ・・むしろ好感を持たれたようで
取り急ぎ城を立つパーン達はフィアンナに見送られるまま城下へ降り
・・・城下で、パーンは久しぶりに・・あのハイエルフと再会するのだった
「久しぶりだな・・ディード」
「くっ・・・」
呪いに縛られ、彼等の言葉に逆らえないハイエルフは・・・出逢ったときと同じ、若草色のレザーを纏って座っている
・・・そのラインから、下着を着けていないことは分かる。その短いスカートではすぐにお尻が露わになるだろうに
ディードは唇を噛みしめながらその視線に耐え
スレインに現状を説明し
「大賢者ウォートですか・・・そこへカーラのことを聞きに行けと」
・・彼等はカーラとは面識がある、その正体も知っているが
・・・そう、気にする必要はないだろう。混沌が望ましいというのならマーモの支配を望むのも理解できる
ベルドのマーモ支配は盤石とは言え。それがロードス全土に拡がれば混乱も産み・・・彼女にとっても望ましい世界となるはずだ
彼等は憂いもなくウォートの元への道程を進み
・・・戦争は着々と、マーモにとって有利な物へと変わっていく
灰色の魔女の哄笑に気付く物は、まだ誰も居ない。パーン達ですら・・
「初めてお目にかかります、大賢者ウォート」
「世辞は言い・・マーモの連中がこうも集まって何の用じゃ」
・・どうやらパーン達のことも分かっているらしい
地下トンネルのドラゴンを駆逐し、長い道程の果てに辿り着いたウォートの住居ではカーラが当然のように姿を現し
「私を倒す術を探しに・・のはずよ」
カーラの言葉に肩を竦める。事実その通りなのだから何も言うべきではあるまい
もっとも、マーモの味方をする限りカーラと敵対する気はないのだが
「・・・ベルドの奴は、本気で世界を統一する気のようじゃな」
昔の仲間を思うのか、ウォートが深い溜息を吐く
・・かつて、女神官が遺した言葉がベルドを縛り付けている・・・その呪縛が解けぬ限り、ベルドの世界制覇の夢は消えはしないだろう
現に、アシュラムやパーン、ファラリスの大僧正や妖魔族の長、バグナードまでもが・・ベルドに忠誠を誓っている
零から大陸の覇権を競えるまでの武力を築き上げた腕はファーンより上と言うことか
・・だからこそカーラにとっては望ましくないのだろうが
ウォートにはそれが分かる、そこがパーン達とは違う。カーラをベルドの味方だと思っているパーン達に対し。ウォートはベルドもまたカーラの敵に等しいと知り・・
それを教えはしない・・・
・・・・ウォートはカーラが自らの過去を話すのを眺めると、それが去るのを待ち
「持って行け・・・」
その魔力を封じる杖を授ける・・今はまだそれを使う気はないだろう
それでも。ファーンにそれを持っていくことはパーンの地位を上げる役には立つ。大事そうに懐にしまい
・・・ウォートの策謀の駒になる・・・
すぐにまた・・そこには静寂が訪れ
「・・・」
・・・去っていくパーン達の背を眺めながら毒づく
「・・・カーラ・・ナシェルを殺した償いはして貰うぞ」
それは・・数十年前の出来事
けれど・・彼さえ生きていれば歴史は変わっていた
ファーン、ベルド、ニース、フレーベ・・ウォート
かつての戦乱で6英雄と呼ばれた勇者達を惹きつけた。男・・
ベルドやウォートをして将来の行く末に希望を持ち。竜騎士ともなった青年
戦乱の世にあって世界をまとめ上げるだけのカリスマを持っていた勇者。それを殺した
奴の言う・・平穏のために
・・共に戦った仲間であったときから、それだけが・・ウォートの蟠り
・・・・唯一の直弟子を失った怒り
「さて・・」
そしてパーンの眼を思い出す・・・複雑な色合いをしたその瞳
「あの男は・・何処まで上り詰めるか」
帰還したパーン達は雨の中。ギム、スレイン、ディードを加えてファーンへの謁見を果たした
エルムというスレインがマーモへ赴く前に会ったことのある男が居ること、また2人が妖精族であることからほとんど問題はなく。彼等は仲間として受け入れられ
・・・全面戦争を控え、客人として迎えられた
決着が付く・・ベルドがロードスを支配するときが近付く
それを待ち構えながら。彼等はヴァリスの食料に薬を盛ったり武器が脆くなるよう酸を振りかけ鎧の留め具を傷つけ
ヴァリス城内を駆け巡ることになる
それには当然、ディードも加えられ
「ほら・・・行きますよ」
スレインは、戦いに備える兵舎前で。ディードを引きずった