世界が壊れた

その瞬間全てが変わった

「・・・俺が・・王子・・?」

栄光への道標、与えられた道からの脱却

「そうじゃ・・・」

今まで自分を育ててきた父が小さく見える、今まで抑えてきた力が眼を覚ます

・・・革命の時、それも・・今の為政者が望んだ

「どうするかはお前の自由じゃ・・今、これを知ることは近衛騎士団とわし達、そして・・国王のみ」

・・・望むべくは・・ただ、強くあること

1人の冒険者から一国を築いた王、リジャール

・・今、彼の父は自分こそその皇太子であると告げたのだ、これが・・ただの酔っぱらいの言葉なら聞き流せたろう

だが、父は酔いもせず・・真剣な面持ちで

そして何より、彼の父は・・・・魔術師ギルドの長、偉大なるカーウェスだった

その昔、冒険者だった国王リジャールと共に野を駆け回った朋友・・・もし自分が本当に国王の隠し子だとしたら彼以外に託される道はなかったろう

「リジャールの奴め、自分の子に自分の跡を継ぐ資格がないとみるや貴様に目を付けおった」

・・・強靱な体躯、父によって魔術の知識を叩き込まれる毎日を続けながら立派に育ったそれ・・・

生まれながらの戦士、リジャールそのもののように

「どうする・・もし、お前があいつの跡を継ぐというのならもう魔術師になれともいわん・・だが、妾腹の子が王位を奪うのだ、国王の援助があるとは言え、容易くはないぞ」

「・・だが・・リジャールはそれを望んでいる」

敢えて、父とは呼ばずリジャールと呼ぶ

・・・奴は自分の子と認めるとは言わなかった

這い上がってこいと言うのだ・・自分と同じ地位まで、自分の子と言うのなら

「確かにな・・本当の父の名を告げ、ここまで来いと言うのが伝言じゃ、あいつは・・お前が同じ血を引いているのを望んでいるのじゃろ」

一介の冒険者から王者の地位まで上り詰めた父親に自分が達する・・・

血が・・滾る

「今まで通り魔術師としていくのも・・・・・・・やれやれ」

養父の溜息

「眼が、あいつと同じか」

共に戦った戦友だから分かる、養子の目の輝きが

「もう無理に魔術を習えとは言うまい・・近衛騎士団が剣術を教えてくれると言っておる、今日からお前の師はローンダミスになろう」

リジャールに次ぐ剣将の名を聞こうともう血は騒がない・・・自分が目指すのは、そのさらに上なのだから

立志伝の父を目指す

自分も零から・・始めるのだ
 
 
 
 

・・等と言ってからもう何年経ったか

血だろう、剣の腕はめきめきと上がった

ローンダミスの話では王妃との間に生まれた正当な血筋の王子は数ヶ月ほどで追い越したらしい

それでも、彼からはまだ3本に1本しかとれないのだから・・・リジャールの実力とは如何なる物なのか・・・

「道のりは遠く、険しいか・・」

場末の酒場でエールを傾けながら嘆息するリウイ、当然1人だ

・・・正確には、ギルドの友人と呑んでいたのだがその友人は既に酔い潰れてギルドで寝ている、飲み足りなかったリウイは裏路地へと足を踏み入れ杯を傾ける

何時からか出入りするようになった場所だ、慣れ親しんだそこでリウイは酒を傾け

・・歓声が上がる

「んんっ?」

見れば、喧嘩が始まったようだ・・女性3人が屈強な男達相手に大立ち回りを演じ

それに視線を注ぐ・・・そこいらの女よりも魅力的な容姿をしている・・・だが、強い・・男達は完全に圧倒され

・・リウイは面白そうにそれを見ている、女達の戦い方は手慣れており

「・・・慣れてねぇな・・」

嘆息する・・・

リウイが言っているのは裏路地でのことだ・・殴られている男達の顔は見覚えがある、この辺りを巡回している衛兵だ、非番なのだろうが

「・・・・」

足音が聞こえる、当直の衛兵だろう・・・そうなれば、どちらが悪かったにしろ女達が罰せられるのは確実だ

見せ物としては面白かったが・・後味の悪さは残るだろう

嘆息しながら、リウイは立ち上がる・・・興が削がれた

ずかずかと喧嘩の中心に歩み寄ると、男の肩を叩き

「ごふっ」

腹に拳を叩き込む・・くの字に折れ曲がって悶絶する男を担ぎ上げ、連れらしい男に投げ

「何しやがるっ」

男の相手をしていただろう小柄な少女がが殴りかかってくる・・・獲物を獲られたことが腹立たしいのだろうが

「げ・・ふっ」

その少女の腹にも一発・・・内蔵を傷つけないよう慎重にはしたが、横隔膜が痙攣して地面に伏せる・・・しばらく動けないだろう

「喧嘩両成敗だ・・とっとと失せろ」

赤毛の女が殴りかかってくる、それに殴られるにまかせ

「ぐっ」

倒れることはせず、殴り返す・・・

「衛兵が来ている・・これ以上騒ぎを起こすな」

その言葉には慌てたのだろう、女達は倒れている少女を抱えると・・・リウイに恨みがましい眼を向けながら走り去り

「やれやれ・・・」

同じく、恨みがましい眼を向けてくる男に軽く肩を竦める

・・・結局、到着した衛兵によってリウイは投獄され

・・・

・・・一晩が開けた頃

「よぉ」

鉄格子の向こう・・・嘆息するローンダミスと養父を前に笑う

飲み足りはしなかったが、女達の暴れっぷりは見ていて面白かった・・それに、牢獄で一晩明かすのも経験としては悪くないだろう

ローンダミスに会釈すると、リウイは城門を抜け・・・・
 
 
 
 

・・・自分を勇者と呼ぶ、不本意らしい神官と出会った
 

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