巫女の館 〜ドラゴンクエスト5天空の花嫁〜
 
 

 ビアンカが暖めてくれたシチューを、僕達は心ゆくまで味わった。

 自分の腹のいやしさに呆れながらも、たっぷりと何杯もお代わりしていた。

「お姉ちゃん、お料理とってもじょうずだね!」

 ソアラが言った。

「うふふ、ありがとう、ソアラ君。トレノちゃんもおいしいかな?」

 トレノも頬を真っ赤に染めて、

「うん!すっごくおいしいです!」

 と、目を輝かせて言った。

 肘をテーブルに置いて、頬づえをついていたビアンカは、嬉しそうに笑った。

「よかったわ。2人に喜んでもらえて。で、アルスはどうなの?」

「ぼ、僕かい?2人の言った通りだよ、おいしいな。」

「そう、グランバニアの王様の口に合うなら、安心だわ・・・いつもお父さんと2人じゃない?あんまりお料理の腕を振るう機会がないの。お客さんでも来ないとね。」

 ビアンカの目が青く光っている。

「お姉ちゃん、お嫁さんにならないの?」

 僕は危うく口の中の飲み物を吹き出しそうになった。我が息子ながら、ソアラはまったく何てことを言うのだ。

「こ、こら、ソアラ!」

 ぶつ真似をして手を振り上げると、叱られたソアラが口を尖らせた。

「だって、ビアンカお姉ちゃんのシチュー、すっごくおいしいんだもん!」

「あらあら、ソアラ君、ありがとう。でもね、私はね、お嫁に行かないの・・・病気のお義父さんがいるからね。」

「じゃあ、僕が大きくなったら、ビアンカお姉ちゃんをお嫁さんにしてあげる。」

「ありがとう、ソアラ君。うふふ、私は王子様の奥様になるのね。」

・・・嘘だ、ビアンカ、お義父さんの病気が理由じゃないだろう?・・・

 ソアラとトレノのコップに飲み物を注ぐビアンカを見て、僕は心の中で呟いた。

・・・僕が原因なんだろ?僕があの時、サラボナで富豪ルドマンの娘フローラを選んだからなんだろう?・・・

 ビアンカと目が合った。彼女は優しく微笑み、シチューのお代わりはどう、と聞いてきた。

 僕はお腹がいっぱい、と断った。
 
 

 ビアンカがキッチンで食事の後片付けをしている。

 ソアラはわざわざここまで持ってきたオモチャで1人遊び、トレノは殊勝にも椅子の上に乗って、ビアンカが洗った皿や食器をせっせと拭いていた。

 僕は家の中を無遠慮にも見回した。

 裕福そうではないが、こざっぱりして品のいい家具に囲まれている。病人がいるせいか、清潔に整えられているみたいだ。

 先程、病気のダンカンさんに会った時のことを思い出した。商人だったダンカンさんは、もう身体を自分では起こせない程の重病人だった。昔、意気揚々と近在の町に出掛けては商売に精を出していたことが信じられないくらいだ。

 う、う、う、と僕の差し出した手を握り締めては、ダンカンさんは泣いていた。

 疑問が起こった。

 お義父さんが病気。ビアンカは1枚の田畑も持っていない。では、どうやって彼女は生計を立てているのだ?この感じのいい部屋は、独身時代に訪れた時のままで、一切調度品も何も変わっていない。

「ビアンカ?」

「なあに?あ、トレノちゃん、もういいわよ、お手伝いありがとう。」

「はい。」

 誉められたトレノは、嬉しそうに僕のところに戻って膝の上に乗った。そこへエプロンで手を拭きながら、ビアンカが戻ってきた。

「何、アルス?何か飲む?」

「いらない・・・あのさ、ビアンカ・・・」

「何、どうしたの?」

 言いにくいがはっきり聞いてみた。

「あの・・・暮らしはどうしてるの?お金とかさ。」

「どうしたの、突然に?」

 ビアンカが僕の隣に腰掛けた。

「いや、お義父さん、病気だし、どうやって生活できるのかなと思って。」

 ビアンカが顔を伏せた。言うのも辛いが僕は続けた。

「はっきり言おう、僕はグランバニアの王だ。君さえよければ、お義父さんも一緒に王宮で暮らさないか?」

「え!お姉ちゃん、一緒にお城に住むの?」

 喜びもあらわに、ソアラが僕の膝に噛りついてきた。

「まあ、一緒に暮らすには、お母さんを先に見つけなくっちゃいけないけどね。」

 そう諭すと、ソアラとトレノは目を合わせて、うん、がんばる、と言った。

「・・・やめてよ。」

「ビ、ビアンカ?」

「さぞかし王様は、慈善ができて嬉しいでしょうね!私みたいな貧民に、慈悲をお掛けあそばしになられてご満悦でしょうね!」

 きつい口調のビアンカに僕は驚いた。

「で、でもビアンカ、国にはいい医者もいるし・・・」

「で、私は王様のお妾さんにでもなって、フローラさんを探す合間のアルスにお仕えすればいいの?フローラさんが戻ったら、びくびくしながら暮らせばいい、っていうの!」

「ビアンカ・・・」

 ビアンカの青い瞳が涙に濡れた。

「そんなつもりじゃないんだ。ただ・・・」

「ただ、昔捨てた私に情けを掛けたくなったのね?」

「ち、違うよ。」

 ビアンカは首を横に振った。

「やめてよ・・・もう、そんなこと言わないでよ。もう遅いの、遅すぎるんだから・・・とにかく私は、お義父さんとここで生きて、死ぬの。構わないでちょうだい、お願いだから。」

「お姉さん、死んじゃうんですか?」

 見ると心配そうに僕等のやりとりを聞いていたトレノが、目に涙を溜めていた。

「え、あ、そういう意味じゃないの。ごめんなさい、心配かけて。」

 トレノに目を移したビアンカは急いでハンカチを取り出し、彼女の目を拭う。トレノは途端に大きな声で泣き出し、ビアンカに抱きついた。

「お姉さん、死んだらいやです!いや、いや!!」

「大丈夫よ、トレノちゃん。お姉さん、死なないわ、絶対に。」

 一緒に泣き出したソアラのことも抱きしめて、ビアンカが優しく言う。

 2人の子供は赤ん坊のころに父母を失った。魔物ジャミの呪いによって石像にされた僕は助け出されたが、まだ母であるフローラは行方不明のままだった。

 故に母性に常に飢えているのだ。きっと、2人は母の面影をビアンカに重ねていたのだろう。

「大丈夫だから、ね、泣かないで、2人とも。ここにいるから、いつでも遊びにきて、ね?」

 そう言いながら、ビアンカも頬に涙を流していた。
 
 

「ごちそうになったよ。」

 僕は2人の手を引いて、玄関に立った。

「ごめんね、これからお店に行かなきゃいけないの。」

「いいんだ。」

 どうせ、馬車では仲間も待っている。

「じゃあ、お姉さん、さよなら。」

「お姉ちゃん、バイバイ。」

「はい、2人ともお父さんの言うこと、よく聞くのよ。」

「は〜い。」

「あ、待って!」

 声を揃えた2人に、ビアンカはひざまずいて、頬っぺたにキスをした。お返しに子供達もキスをした。 

「じゃ、ビアンカ、おやすみ。」

「アルス、フローラさんが見つかること、祈ってるわ。」

「ありがとう。」

 不意にいい匂いがしたかと思うと、ビアンカが背伸びした。一瞬、柔らかい何かが僕の唇に触れて、消えた。

「ビ、ビアンカ・・・」

 キスを受けてたじろいだ僕に、ビアンカは微笑んだ。

「おまじないよ、早くフローラさんと会えるようにって。」

「・・・さよなら。」

「さよなら。」

 そうして玄関の戸が閉じられた。
 
 

 子供達を宿屋に寝かせて、僕も早くにベッドに入ったがなかなか目が冴えて眠れなかった。何回か寝返りを打ってみたが、どうにも眠れない。

 ビアンカと会ったせいだろうか。久々に再開したせいなのか。

 ビアンカは結局僕の申し出を断って、この寒村と言っても過言ではない村に残るつもりだった。寄付を申し出たが、義父の商人時代の蓄えがあるから、とそれも拒否された。

・・・お店に行く、って言ってたな・・・

 この寒村に夜開くお店と言えば、酒場しか考えられない。今頃、化粧したビアンカは、きっと泥酔した農夫達の相手でもしてるのだろう。

 いやだ、と思った。やはりビアンカをここに置いてちゃいけない、と思った。

 一方的にビアンカを捨てておいて、勝手な考えだとも思ったが、いてもたってもいられなくなってベッドから跳ね起きた。

 急いで衣服を身にまとい、子供達がすやすや寝ているのを見届けてから、階下に降りた。

 宿の主人に酒場のことを尋ねると、肩をすくめて、こんな村にはそんなもん、ありはしませんぜ、と言われた。いやなやり方だったが、お金をちらつかせて、正直にビアンカと僕の関係を告げて、教えてもらうことにした。

 すると主人は、

「はは〜ん、巫女の家のことですね。」

 と、目を光らせて言った。

「巫女の家?」

「そうでがす、巫女の家です、ビアンカちゃんがいるのは。ほれ、あの娘は魔力を持っているでしょう?」

「ああ。」

「そういうのは、ここでは巫女の家系に繋がるんですよ。」

「まあ、いい、どこなんだ、それは?」

「ようがす、教えましょう。他ならぬグランバニア王のお頼みだ。でもあっしから聞いたとは言わんで下さいよ。」

 結局20Gを支払って、地図を書いてもらった。

「お気をつけて、いってらっしゃい。」

 景気のいい主人の声に送り出されて、僕は村外れにあるという巫女の家に向かった。

・・・お店って、占いの館なのかな・・・

 僕は館にたどり着くまで、そうのんきに思っていた。てくてく歩きながらそう思っていた。
 
 

 そこは大きな白亜の洋館だった。ルドマンさんの屋敷より大きい、と思った。

 たくさんの飾り窓をつけ、たいまつで煌々と照らしている。不思議と屋敷に入っていく人をあまり見かけなかった。

・・・ビアンカ、いるのかな?・・・

 勇気を出して頑丈そうなドアを叩こうとすると、重い扉が中から開かれた。向こうに満面の笑みを浮かべた老婆が立っていた。

「いらっしゃい、さあ、こちらへどうぞ。」

「あ、はい。」

 天井には見事なシャンデリアがある。入り口近くには、カウンターバーがあり、バーテンと思しき男性が何やらカクテルを作っていた。

 老婆に案内され、僕は豪華なソファに座った。

・・・何だか占いっぽくないな・・・

「今日はあの娘に決めたべ。天女みたいにキレイだなや〜」

「オラもこの娘に決めたべ。どっちさ、先にすんべか!」

 訛りが聞こえてきたので振り向くと、農夫然とした2人連れが反対側のソファに座っていた。

「お金、1年分溜めただ。」

「カカァにばれたらえらいこっちゃ!」

 2人は、絵のようなものを何枚も熱心に眺めているようだった。

・・・1年?!そんなに高いのかな、占いの見料って・・・

「お客様。」

 声を掛けられた。さっきの老婆が笑みを浮かべて立っている。

「今日は初めてでございますね。どの娘になさいます?」

 5枚の絵を渡された。覗き込むと、いずれも化粧をしているがアカ抜けない感じの娘が描かれている。

 僕はそれを老婆に押しやって、

「ビアンカをお願いします。」

 老婆の顔が曇った。

「ビアンカ?・・・そんな娘はおりませんが。」

 占いでも仮名を使うのか、僕は必死にビアンカの容姿の説明をした。ようやく老婆はハッとして、2人の農夫らしい男達から絵を受け取って、僕に見せた。

「この娘でございましょう?」

 そこには純白の下着姿で妖しく微笑むビアンカの姿が描かれていた。下の方に「フローラ」と書かれている。

「・・・ビ、ビアンカ・・・」

「お客様、フローラは今晩、あのお2人様がたった今、予約されまして・・・」

 ここは占いの館などではない、と今更気づいた。ここは娼館なのだ。

「いくら払えばいいんだい?」

 僕はぎっしり詰まった財布を見せた。老婆は目を仰天させ、たった今予約は空きました、と叫んだ。
 
 

 老婆が苦心してようやく農夫2人組をなだめてから、僕は2階の部屋に通された。

「フローラ、お客がお見えよ!」

 心臓が高鳴った。老婆がさあどうぞとドアを開けた。

「いらっしゃいませ、フローラです。」

 天蓋つきのベッドの上に、お辞儀するビアンカがいた。絵の通り、見事なまでに真っ白な下着だけを身にまとっている。

 下着だけ、というのがビアンカの豊満な肉体を美しく飾っていた。むっちりした胸がことさらに強調され、肉付きのいい足が露出している。

 僕は唾をごくりと飲んで、

「ビアンカ・・・」

 途切れ途切れの声で言った。

 ようやく目を伏せていたビアンカが顔を上げ、僕の顔を見てすぐに手を口に当てた。

「アルス!!ど、どうして・・・」

「・・・君こそどうして・・・しかもフローラなんて・・・」

 ビアンカが切れ長の美しい瞳を伏せて、ふかふかの赤い絨毯を眺めた。その視線を追いかけた僕の目が、彼女の白い足首で止まった。

 さっき家で見た時、美しい桜色をしていたつま先が、今は真紅のベディキュアで塗られている。その深い紅が、今のビアンカの境遇を物語っているような気がした。

「・・・この村では、魔力を持った女性が時々産まれるの。それが巫女の家系。」

「巫女の家系?」

「そう。身体をひさぎながら、相手のことを占うの。そうね、性行為の中で、未来を予知するって言ったらいいのかな。」

 初めて聞いた。

「でも、もう巫女の家系は先代で絶えてしまったわ。アルスも見たでしょう、あのお婆さんよ。ここのママよ。」

「お婆さんが・・・」

 あの厚化粧のお婆さんも巫女だったのか。

「私は、お義父さんの本当の娘ではないけど・・・魔力を持っている。」

 そうだ、子供の頃、一緒に幽霊城を冒険した。あの時もよくビアンカの魔法に助けられたものだ。

「お義父さんが、病気になってすぐにタチの悪い人にお金を借りちゃってね、借金がすごく膨らんでここのママに泣きついたら、助けてくれたの。きれいさっぱりにね。」

「・・・それで君は借金のカタに、ここで娼婦になっている訳か。」

「ええ、そうよ。魔力を持っているし、予知も少しくらいならできるしね。他の娘はそんなこと無理だし。」

「どうして僕に言ってくれなかったんだ?」

 怒りに任せて僕は言った。

 だが、ビアンカは僕の目を見つめてこう言った。

「だって、アルスは私じゃなくて、フローラさんを選んだじゃない。」

 ギュッと心臓を掴まれた、そんな冷たい風が身体を走ったような気がする。

「あ・・・あ・・・」

 口が開いても、何も言葉が出てこない。

・・・そう、その通り、僕がビアンカを見捨てて、フローラに奔ったのだ!・・・

「おまけにもう1つ教えてあげる、アルス。お義父さんの借金の相手は、サラボナのルドマンさんよ。」

「!!」

「ふふ、だからこの館に入った時、フローラって名付けた。男に抱かれるのは、ビアンカじゃなくってフローラよ。そうすれば、彼女のことも汚せる、そう思ったの。」

 ぱしん!

 鋭い音がした。僕はいつのまにか無意識に手を振り上げて、ビアンカの頬を張っていたのだ。

 よろめいたビアンカが後の籐の椅子に座った。頬を押さえながら、

「ふふ、ぶったわね・・・そうね、ぶたれても当然かしらね。でもね・・・」

 乱れた髪の毛を掻き上げて、濡れた瞳でビアンカは僕に言うのだった。

「今日ね、初めてソアラ君とトレノちゃんを見たの。アルスと憎いフローラさんの子供。あなたの子供だと思ったら、半分アルスの血が流れてるって思ったら、可愛く思えたのよ!」

「ビアンカ・・・」

「だから、フローラさんが見つからないことを望んだ自分が、イヤになったの!きらいになったわ!!う、う、う・・・」

 顔を押さえて、ビアンカが泣いた。
 
 

 しばらくしてから、泣き止んだビアンカが顔を上げた。

「時間がもったいないわ・・・アルス、私を抱きに来たんでしょ?」

「えっ!・・・い、いや・・・」

「それとも、こんな女はきらい?抱けない?」

 小首を傾げてビアンカが言う。その可憐な仕草に戸惑って、僕は少し後ずさりしてしまった。

「私を見て・・・」

 胸を隠す下着が取られ、豊満な乳房が現れた。真っ白な陶磁器のような胸の中心に2つある、淡くピンク色した乳首に視線が吸い寄せられていく。

「魅力ないかな・・・」

 今度は、下半身を申し訳程度に覆っていた下着を脱いだ。

「!」

 ほとんど無毛状態に近い股間を大きく広げて、ビアンカが僕を挑発していた。

 僕はフローラ以外の女性を知らない。だからつい覗き込んでしまった。

 可愛く、薄いピンク色の花芯。淡い翳りのせいで、すべてが丸見えだ。肌が抜けるほどに白いせいか、花芯がやたら扇情的である。

「ほら・・・」

 僕を誘うような仕草で、更に足が開いた。

 花芯から目が離せない。ビアンカは指で自分の花芯を探り始め、ふるふると充血したそれを僕に見せつけていた。真っ赤な花芯の内側に目をやった時、

「あ・・・」

 ビアンカが呟いた。

「私、濡れてる・・・アルスが欲しいみたい・・・」

 僕の中で何かが破裂した音がした。瞬間、世界を救う使命も、愛しい妻のフローラのことも、可愛くてしかたない子供達のことも、すべて頭から蒸発してしまった。

 ツカツカと、僕は籐の椅子で誘惑し続ける淫らな娼婦に歩み寄った。そしてビアンカに顔を寄せて、唇を奪った。

「ん・・・んう・・・んっ・・・」

 ビアンカは自分の身体を揉みしだきながら、キスに応じてきた。そして大胆にも舌を僕の口に侵入させると、激しくそれを絡めてきた。

 僕が追いかけるとビアンカは逃げ、彼女が逃げると僕は追いかけていく。そして遂に捕まえると、お互いを蛇のように重ね合っていった。

 籐の椅子から身体を起こすと、ビアンカが唇を重ねたまま、僕の衣服を解いていく。はらり、僕の服が脱げた。

「ああ・・・ア、アルス・・・アルス・・・ずっとあなたとこうしたかった・・・ああ、アルスゥ!!」

 熱い吐息を僕の素肌に吹き吹き、うなされたような口調で言う。椅子の上から、僕はようやく見事な水蜜桃のような乳房に触れてみた。

 ふにふに、指が信じられない程の柔らかさに埋もれた。あん、甘い声を出し、潤んだ眼差しで僕を見上げるビアンカ。

 そしてビアンカの華奢な指が、鋼鉄の剣のように固くなったペニスを掴んだ。

「ああっ・・・」

「うわ、アルスのすっごい・・・」

 2人の声が重なった。

 さわさわ、優しく撫でられる。むずがゆい快感が走り、僕は震えた。ビアンカの繊細な触り方が、どうにも気持ちいいのだ。

「口でしてあげる・・・」

 かぽっ、いきなりペニスが生温かい粘膜に包まれた。籐の椅子に腰掛けたまま、ビアンカがペニスを咽喉の奥まで咥えたのである。

「う・・・く・・・」

 僕は迫りくる快感を堪えながら、ビアンカの豊満な乳房の頂きを摘んだ。くぅんと可愛く悶えて、身体をくねらせる。それでもペニスに食らいついたまま、彼女は離れない。

 乳首を固くさせた後、今度は花芯を探ってみる。

 ぐしょ、ぐしょ、ぐしょ、指が、蜜を豊潤に蓄えた泉に触れた。押し込むと簡単に沈んでいった。

「あっ、あっ、あ・・・ん、ん、んっ!」

 ペニスに熱心な口唇による愛撫が続く。負けじと差し込んだ指をぐりぐり掻き混ぜて、ビアンカが可愛い声で喘ぐ。それを聞いているうちに、

「あ、ビアンカ、俺、出る!」

「くぽっ、いいわ、いって、アルス、私の口に出して!!」

 強烈な吸い込みが始まり、すぐに限界が来た。

「うく、あ、もう、出る!」

 叫ぶと同時に俺は射精した。首を振りながらいよいよ舌を絡みつけて、ビアンカはペニスを吸った。いよいよ唇をすぼめ、根元をこすりあげる。

 僕は刺すような快感に酔いながら、最後の一滴まで絞り取られていた。

「はっ、はっ、はっ・・・」

 口を離したビアンカと目が合う。彼女はちょっぴり目元を赤く上気させていた。そして咽喉をこくっと鳴らして、口に溜めていた精液を流し込んでいった。

「飲んじゃったの?」

 僕の問いにビアンカは笑った。

「うん、飲んじゃった・・・」

 そう言いながらも、また長い舌がペロリと伸びてきて、精液が付着してるペニスを清めていく。

 俺は心地いい疲労感と快感の名残りに浸りながら、気になったことを尋ねてみた。

「こうやって、みんなの飲むの?」

 胸に焼きつけるような思いを、僕は否定できない。娼婦として身体をひさぐ上に、こうして他の男の精液まで飲んでいるのだろうか。

 舌でペロペロ舐めながら、ビアンカは首を振った。

「まさか!・・・みんなの飲んでたら、身体が持たないわよ。」

「そっか・・・そうだよな・・・」

「アルスのだから、飲んであげたのよ。」

 そう言って、ビアンカはまたペニスを口に含むのだった。
 
 

 その後、僕はビアンカに手を引かれて浴室に入った。この村は良質な温泉に恵まれていて、この館にもそれが引かれているの、と彼女は説明してくれた。

 真っ裸になった僕の背中に、泡をごしごし塗りたくってビアンカはタオルをこすりつけてくれる。

「本当は、最初にお客さんを洗わなくっちゃいけないの。」

 一生懸命力を込めて洗いながら、ビアンカが言う。

「汚いお客さんがいるから?」

「そうじゃないけど、汗はやっぱりきれいにしないと・・・あ、アルス、ここ元気になっちゃったね?」

 僕のペニスがビアンカの両手に包まれて、大きくなってしまっていた。泡まみれになった手が上下に揺すられて、ペニスが緩やかに刺激されていく。後から甘えるような彼女の身体が密着し、僕はますます興奮していた。

 むにゅ、むにゅ、柔らかいビアンカの2つの乳房。

「ふふ、昔、アルカパでも一緒にお風呂に入ったっけ。もちろん、こういう風に洗ってあげたりはしなかったけど。」

 昔のことは思い出すのが辛い。僕は振り向いて、ビアンカにくちづけた。

 そのまま、ビアンカは、膝立ちの姿勢で僕の前に移動してきた。強く抱きしめた。

 華奢で、はかなくて、折れてしまいそうなビアンカの美しい身体。

 欲しい、と思った。抱きたい、と思った。

「もう強引ね、アルスは。」

 目をとろんとさせて、ビアンカが言う。

「そこに寝て・・・」

 マットを引いた浴室に横になった。すぐにビアンカが上にのって、キスしてきた。口を離すのが惜しい、そう思うような情熱のこもったキスを終え、彼女の舌が僕の身体中を舐め始めた。

「う、う、う、う、く、くっ・・・」

 お尻から、何かむずがゆいものが立ち上がってくる。僕は震えた。構わずビアンカは僕の胸を吸い、ペニスを握っていた。

「気持ちいい?」

「う、うん・・・」

「もっとよくしてあげる。」

「う、うわっ!」

 手を舐められたのだ。いや、手じゃない。指先だ。1本ずつ、舐められているのだった。ざらざらした舌の妖しい動きに、僕は悲鳴をあげたが、ビアンカはまだ許してくれない。次に足の指を舐められた。

・・・う、う、う、ビアンカ、すごい、あ、あ、あ・・・ね、猫が舐めてるみたい・・・

 全身の力が抜け、くたっとマットに沈んでしまう。

「アルス、感じる?」

「か、か、感じるどころか・・・」

「いいでしょ?」

「うん・・・」

 忘我の極み、とはこういうことか。今までこんな快感は経験したことがない。

 フローラとの短いハネムーンの間、彼女はただ震えて僕にしがみつくだけだった。ただ、ひたむきに、というのが僕の貧しい性生活だったからだ。

「私、欲しくなっちゃった・・・」

 何をするのかと見ていると、ビアンカはペニスを自分の股間に押し当てて、僕に跨ってきた。

「いい?」

 完全に僕はビアンカのなすがままだったから、うなづいた。

 にゅぷ、音がして、ビアンカが腰を沈めてきた。

「あん、ああっ!」

 華奢な身体が弓のようにしなる。髪を振り乱して、喘ぐその姿が美しいのだった。

 僕はその美しい、かつ淫らな娼婦に見惚れながら、腰を突き上げた。

「う、うくっ、あ、あ、激しいのね、あ、ああん!!」

 頬を染め律動するビアンカ。僕のペニスを体内深く収め、腰を揺する。

 可愛くて、美しくて、愛しいと思った。あのおてんば娘が、こんな淫らな娼婦に変わってしまったのだ。

 僕のせいなのだ。

「ビアンカ・・・」

「あ、あ、ああん・・・な、なあに?」

「・・・可愛いよ・・・」

 僕のペニスがきゅっと締めつけられた。

 身体を伏せたビアンカがキスをしてくる。しばらくそのまま、僕は背中に腕を回して彼女を抱きしめた。

 重なった身体がひどく熱く、ビアンカのすべてを感じている気がする。

「ね、アルス、いっていいのよ、いっていいからね・・・あ、あ、ああう、あ!!」

 泡で滑りやすくなった身体が動く、動く。ただ快感だけを追い求めて、粘膜をこすり合わせていくのだ。

 突然鋭い快感が、唸りを上げて僕に襲い掛かってきた。

「あん、あん、いい、いいよ、あん、いいっ!!」

 歯を食いしばって耐えようと思ったが、やがて頂点が訪れ、僕は精をビアンカの奥深く放っていた。

 ビアンカは、ああ、とうなされたように軽く震えただけで、僕のすべてを受けとめようとしていた。
 
 

 少しの休憩を挟んで、今度は天蓋つきのベッドの上で、僕はビアンカを組み敷いた。

 2回も放っていたのにも関わらず、昂ぶる情欲の嵐は一向に衰えない。

「あ、アルスのが・・・う、あっ、あっ、はんっ・・・アルスのが、私に入ってるようっ・・・あ、んっ!!」

 再び涙を溜めてビアンカが悶える。舌でその涙をすくい、それを含むと、喘いでいた彼女はにこっと笑った。

「あん、優しいのね。」

 黙って目の前の美しい身体を抱くだけだった。何かビアンカに言おうとしたら、僕は泣いてしまうような気がしていた。

 だから、肩に口をつけ、ビアンカの汗を吸う。胸元に鼻を寄せ、かぐわしい匂いを嗅ぐ。乳房を口に含む。

 ビアンカが哭く。泣く。喚く。キスを求める。

 捨てた女を抱く、という甘美な背徳の果実。今、僕はそれを味わってる。僕は最低の男だった。失った妻を忘れ、可愛い子供のことも念頭からきれいさっぱり忘れ、僕は情欲に耽っているのだ。

 だが、誰が僕を笑える?笑えるだろうか?

 父を目前で殺され、少年時代を奴隷として過ごし、結婚できたはいいが、すぐに妻を誘拐された。おまけに自分は石像になってしまった。こんなひどい人生も、そうそうあるもんじゃない。

 ビアンカに会うまで、フローラ以外の他の女は、一切抱いていない。万一の場合に備えて、召使いのサンチョや、前国王にして大臣のオジロンは、フローラの代わりに後添えを、と密かに勧めてきたが、僕は断った。子供達の手前もあるし、妻が生きていて欲しい、それが心からの願いだったからだ。

 だが、幼馴染みと再会し、それが娼婦に身を落としている。

 ああ、神様、どこまで僕に試練を与え給うのですか。

「あ、あ、ああ、私、いい、いいっ・・・ね、いっていい?」

 僕はうなづいた。そしてビアンカを突きに突いた。

 びゅくん、びくん、びくん、一瞬ビアンカの身体が痙攣したかと思うと、僕にぎゅっと抱きつき、それから力が抜けたようにぐったりとした。見下ろしたまま、それでもいよいよ激しく突くと、

「あ・・・いっちゃった・・・ごめん、先にいっちゃった・・・あ・・・あ!あ、ま、また、あ、くるう、くるよっ!!」

 2回目の絶頂が訪れたらしい。再びビアンカは、身体を震わせている。

「あ、いくっ!!」

 そろそろ、僕も頂点が見えていた。それを耳元で告げると、ビアンカは、

「ね、お願い、あ、あ、あ、あ・・・一緒にいって!ね、いって!!」

「うん・・・一緒にいこう!」

「あ、アルス!好きよ、大好きよ!!」

 答える間もなく、僕はビアンカの口をキスで塞ぎながら、放っていた。それは生涯で経験した、最高の快感だった。
 
 

 ベッドでキスをしながら、情事の余韻を味わってると、ドアが叩かれた。ごめんね、とビアンカが立ち上がった。

 すぐに戻ってきて、すまなそうに僕に言うのだった。

「ママに怒られちゃった。もう時間がないの。」

 次の客、恐らくはさっき下で見かけた農夫2人組が待っているのだ、と僕は見当をつけた。

「なあ、ビアンカ、やっぱり王宮に来ないかい?」

 だが、ビアンカは、寂しげな笑顔を浮かべて首を横に振った。

「ううん・・・それは無理。私のことは心配しないで、アルス。だから、早くフローラさんを見つけ出して。」

「ビアンカ・・・」

「あ、そうそう。山頂にある神殿が見えたわ。」

「それって、巫女のお告げかい?」

「そうよ・・・信じるも信じないも、アルス次第だけど。」

「もちろん、お告げを信じるさ。」

「それから・・・旅は大変だと思うけど、よかったらまた会いにきて。」

「うん。」

「私、待ってるから。絶対待ってるから。」

 それがビアンカとの別れになった。引き裂かれるような思いって、こんなことを言うんだろうなと思った。
 
 

 階下に降りると、待っていたように農夫2人組が、勇んで階段を登り始めた。すれ違いざま、僕に舌打ちをした。

 ママが、にこにこ愛想顔と揉み手で近づいてきて、時間を延長した分を請求してきた。僕は支払いながら、

「あの2人、同時にビアンカ・・・じゃなかった、フローラに入るのかい?」

「ええ、そりゃもう、お待ちかねでしたから。」

 ビアンカの美しい身体が、あの2人に凌辱される姿に、興奮とやり場のない怒りを覚えながら、宿に戻った。

 ソアラとトレノは、すやすやと寝ていた。
 
 

 翌朝、宿を出て馬車のところに行くと、ソアラが僕の袖を引いてきた。

「どうした、ソアラ?」

「お父さん、あれ、お爺さんの馬車じゃないかな?」

「どれどれ?」

 ソアラが指差した方向には、やたら高級そうな馬車が停めてある。紋章が見えた。間違いなくあの馬車は、サラボナの大富豪ルドマンのものだった。

 僕が馬車に近寄ると、ちょうど向こう側で休んでいたらしい御者達の話し声が聞こえた。

「しっかしご主人様も、週イチでここに来るのが好きだな。」

「そうだな、朝っぱらから温泉浴びて、イヒヒヒ、その後は巫女の館で、1晩中お楽しみだな。」

・・・ルドマンさんが、お義父さんが、巫女の館?・・・

「ご主人様も大概にドスケベだな、娘の名前を冠した娼婦が好きなんだから。」

・・・!!・・・

「しかも、フローラお嬢様の恋のライバルだった娘さんだろう?ちょっと普通の人間には、できないよな。」

「俺もあんな美人のお世話になりたいよな・・・ま、そのおかげで俺達も安い女が買える、ってことさ、相棒、行こうぜ。」

「ああ、しかしなんだな、奥様とグランバニア王に心苦しいな。」

「おい、行くぞ、まずは温泉だ。」

「あ、おい、待ってくれよう!」

 

 僕は悟った。

 すべてはルドマンの手のうちにあったことを。

 ダンカンさんに借金を負わせ、そのカタにビアンカを苦界に沈めさせる、そして愛娘の名前をつけた彼女を思う存分に抱き、恥知らずの快楽を楽しむつもりなのだ。

 ビアンカ、君は哀れな女だ。

「お父さん、どうしたの?」

 何も知らないトレノが、心配そうに聞いてきた。

「あ、何でもないよ、さあ、出発だ。」

 僕がそう言うと、子供達はどこへ行こう、と相談を始めた。その愛くるしい子供達を見ながら、僕はまたここにこよう、と思った。

 ビアンカを抱くために。

 自分が捨てた女の媚態を見るために。

 自分の欲望のために。
 
 

(了)
 

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