静謐な空間

地下深く、静かで…聖別されたその社…

誰にも知られる事なく、ただ眠っていたそこは…護るべき遺志の中。静謐な世界を保ち続ける…

英雄の魂と、悪鬼の魂を護り続けるそこは…ひどく、神聖な場所で

「近付くこと、違わず…」

分かりきっていたことだが、純が近付こうとすれば…それらは刃を向ける

鬼門の血を強く継承する純を相手にすれば当然のこと

鋼の先祖だろう霊達を前に、純は足を止め…

「佐藤…」

ゆっくりと首を横に振る、純の傍らには楓…仲間達に先へ行くようへ合図しながら、純は周囲を見渡す

…神聖化された世界。厳かな空間…

鬼門の長であった男の御霊は、今やそこへ封ぜられるまでに至り

…懐かしさを感じる。すぐ傍に自分が居る。今まで足りなかった欠片。真実の一片がそこに在り。

(落ち着け…)

自らを戒める

周囲には鬼門を受け継ぎし純を拒む霊達、それらを押しのけて御霊へなど辿りつけはしないだろう

「…………」

鋼が守護者達に頭を垂れ、時が来たことを告げている…そして。純こそが頼光の魂を継ぐ者だと

そして、守護者達が指し示す

空間の中心。社のように組まれた祭壇の上…拍動するように淡く蠢く。御霊…

「アレが…」

鬼門の長の魂。皆本の力に捕らわれた…鬼の魂

「アレに力を注ぎ込めば」

そう…あれに力を注ぎ込めば鬼の魂は再び固き呪詛に捕らわれ…復活の機会すら掴めぬまま眠り続けることになるだろう

「っし、待ってろよ純。すぐに鬼の血を消してやるからな」

言いながら、卜部が足を踏み出す…卜部も遠い祖先の血を色濃く継いでいるのだ。守護者達に邪魔されることなく前へ進み出

守護者達に阻まれるのは純だけ。ゆっくりと…時が近付き

「まさか…魂呪されていたなんてね」

影から走り出た一匹の獣がその卜部を弾き飛ばした

「うあっ…とぉ」

美しい女…鬼門は皆、美しい容姿を持っている

特に、それは美しい…かつては鬼女とまで呼ばれていようと…

「しのぶ…」

「覚えていてくれて嬉しいわ…それは彼の記憶?それとも…頼光の記憶?」

しなやかな指先に握られた筆が空間に文字を刻む。それは瞬時に獣となってひかる達に襲いかかり

「鬼門っ」

「偶然見かけて追ってみれば。面白い事になっているものだ…」

笛の音…それが途端に希美子の全身から力を奪い

「お兄ちゃん」

ジュンの側に居た守護者が少女の爪に一蹴された。その隙に…順はひかる達の方へ走り寄る

「…お兄ちゃん…」

哀しそうな少女の顔…

「どうやら…まだ頼光の血が濃いようですね」

白衣を纏った眼鏡の男が歩み出る。ひかる達は剣を抜き。互いは対峙しあい

「けれど…あの魂を解放すれば」

「誰でもいい、御霊に力を注ぎ込め」

鋼の声と共に激闘が始まった

互いの運命すらかかったその戦闘。誰しもが死力を尽くし

「くっ…」

御霊に向かって走る純の行く手をしのぶが塞ぐ。牽制しあい動けぬままに戦いは膠着状態へと陥り

そして

「楓ちゃんっ」

卜部の声…戦闘能力のない楓が戦いの隙間を縫うように御霊へ向かう

頼光の血を引かぬ故に油断したか。鬼門の誰もそれを止められず

「くっっ…」

しのぶの放った符が鷹となって楓に襲いかかる、その嘴は楓の肩口を捉え…

「あうっ…」

血を滴らせながら、右腕が動かぬほどに肉を抉られながら…動く左腕を御霊へ差し伸ばす。その指は確かに…不安定な存在感を持つ御霊を掴み

「それをこちらへっ」

「くっ、奪い取れ」

鬼門と皆本のそれぞれが楓に手を差し伸ばす。楓は迷いもせずに…戦闘の中心。純に向かって走り

「こちらへ」

差し伸ばされた由里の手を払い除けるように走る

「楓さん?」

御霊を純の元へ。それだけが今の彼女の全てで

矢が頬を掠めた、笛の音が頭をかき回す、金剛石が身体を叩く

それでも、血にまみれながら。楓は走り

「こちらへ」

ヒカルが手を伸ばしてきた。それから御霊を護るように楓は手を動かし

鈍い音がした。何かが砕ける音…鋭い爪が…少女の鬼の爪が…楓の左腕を。砕いた

「ああぁぁぁぁぁっっ……」

肘から下が地面に落ちる、華奢な指が…御霊をその手にしたままで地面へ、ぼとっと…鈍い音を立てながら零れ

「くぅっっ」

ガッ…ボトッ、ボト…

楓は迷いもせずに…落ちた自分の腕を蹴り飛ばした。御霊を掴んだままの拳は。床を転がり…純の足下へと辿り着き

「…良かった…」

全身に傷を負い。片腕をちぎられ。惨たらしい姿の楓が膝を屈した

けれど痛みは感じなかった

笑っていたから。微笑んでくれたから

純は確かに、微笑んでいるのだから
 

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