「……」
最後の文献を閉ざす
ヒカルの家…修学旅行の特訓の後。純は皆本の屋敷にこもったまま文献を読み漁り
それでも、何も見つからない歯がゆさに叫びそうになる
知りたいことは1つだけ。けれどそれが分からない…必ず。何らかの形で遺しているはずなのに
…皆本の家は過去に文献を焼失しているから、そのせいかとも思うが
残念ながら、手がかりになりそうなものは無かった…
あの後…鬼門達に拒絶の意思を示した後、純は皆本の家の地下、座敷牢に自らの身を追いやった
万が一自分が鬼門だった時、一緒に暮らすのはやばいだろうと言う名目だ
…実際には、由里はともかくヒカルにまで襲いかかりかねない自らの性欲が原因だが
理性の歯止めが危うくなってきている、飢餓が限界へ近付いているのだ
けれど、鬼門かも知れないと言う危うさを抱えたまま捕食の真似事すれば、そこからの飛躍は火を見るよりも明らかで
…もう限界なのだろうか、諦めて…彼等の元へ帰るべきだろうか
けれど、駄目だ……まだ、駄目なのだ
「…より、直接的な手段を取るしかないか」
…鋼が降りてくる、面会…というのも何だが、会いたいという者が来たようだ
鋼は彼女を案内すると姿を消し…全てを承知したように楓はショーツを脱ぎ捨てる
楓、今やほぼ唯一の自分の性欲処理の道具…けれど、彼女で飢えを擬似的に満たすことがどんどんと苦しくなってきている
肉棒を鉄格子の隙間から突き出し、その肉棒の先端に秘裂をすり寄せてくる楓を引き寄せる
…鉄格子に楓の柔肌が食い込み、ねっとりとした感触が肉棒に絡みつく
熱くとろける肉壁に肉棒を突き込みながら、純は肉棒を突き上げ。その首筋を甘噛みする
鉄格子越しに抱き寄せる女の肢体、その身体に顔を埋めながら…純は楓の髪を掴み
「…楓…今から俺が言うことを出来るか?」
何も言わぬままにも首を大きく縦に振る楓に笑みを浮かべ唇を塞ぎ…
舌を絡め合いながらその言葉を告げた…
「隠し?」
数日後、皆本の屋敷には多くの人が集まっていた、卜部や希美子まで居る…その中で、楓はこくりと頷き
「純さんが見つけられて、皆さんに伝えて欲しいと」
地下牢に閉じこめられたままの純の名に。卜部や希美子、由里が顔を蹙める
出しても良いのではないか。何度も彼等はそうヒカルに良い…事実、ヒカルや鋼も出すことに抵抗は無い。純は鬼門の臭いを出さず、未だ人も喰らわず、何より…共に戦ったのだから
けれど、純はそれを頑なに拒否する…妹を殺した奴等と同じであるなどと言う可能性が残るなら、自分を…殺してくれと、閉じこめて欲しいと
だからこそ、地下牢に閉じこめたまま何も言わず…恋人である楓を共に在らせることしか許さず
「純さんは、自分が鬼門でないことの確証が欲しいと皆本の家の書物を読み漁っていました」
コクンと頷く…実際、純はここ数日書物に埋もれる毎日を過ごし
「そして、その中で…違和感を感じ、一冊の本の表紙を分解したんです、他の本とは違う何かを感じて…そして、そこに書かれていた一文が、これです」
血…だろう、赤黒い何かで綴られたそれは一種異様な気配を発し
『鬼門の長 魂呪にて封ずる 我が御霊は渡部に託す』
「魂呪?」
血文字で綴られたその言葉……楓が学友の血を用いて可能な限り筆跡を真似て記した物だ、そう簡単にばれる物ではないだろう
後は…鋼に、視線を向け
「…頼光、様…」
渡部が倒れ込む様を満足そうに眺めた
「…鬼門を封じる術を思い出しました…佐藤は、確かに…鬼門かも知れません」
その言葉に満足そうに頷く楓…周りは騒いでいるが、それらを無視する…
「そして、同時に…佐藤は、頼光様の魂を受け継いでいる」
語る、鬼門の長を蘇らせないために千年前。頼光が行った呪詛を
それに縛られ、人と鬼門の間で揺れ動く純のことを…
「じゃぁ……あいつは本当に鬼門なのか?」
「鬼門でもあり、皆本の血筋を継ぐ者でもあると言うことだ…人を喰らわず、自らを地下に閉じこめているのだから人としての血が強いのだろうが…何処かで分かっていたのかも知れないな、自分が鬼門であることを」
そう、分かっていた…だからこそ、純は自らを閉ざされた世界へ縛り付け
「雲雀ヶ丘…そこに頼光様の心臓が祀られている。それに力を注ぎ込めば、佐藤は人として生きることが出来る」
千年の時を経て鬼門の長、酒呑童子はその片鱗を見せた…それを再び封じればまた千年近くの時を、酒呑童子に強いることになるはずで
「最近見つかった遺跡…」
希美子が声を上げる、それに声をかけ…
「…そこに行けば…この忌まわしい記憶から解き放たれるんだな?」
純は全員に声をかける…
「楓に頼んで出して貰った…これは…頼光の魂を受け継いだ…俺の問題だしな」
「…酒呑童子の記憶があるのか?」
「そして、皆本の記憶も…な、まだ皆本の意識が強いが…次の世代では危ういだろう」
鬼門は蘇る、自分が死ねば……数十年後、再びその魂は受け継がれるはずで
……それでも、皆本の魂に封じられている呪縛からは逃れられない
「一緒に行くか?」
「あぁ…過去の呪縛に、この手で引導を渡してやりたい…鈴花をあんな目に遭わせた奴等と一緒になど…なりたくはない」
卜部が良いことを言ってくれる…静かに頷く周りに、鋼やヒカルも首肯し
「行くぜ、雲雀ヶ丘」
…純は楓を伴って歩き出した
口元の笑みは、唯一それを見た楓ですら…禍々しく感じられた